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☆5 鬼だーー!

「おはよう、ルーク」

「お、おう……はよう」


 次の朝、早めに起きて朝ごはんの準備を整えているとルークが起きてきた。寝ぼけ眼でぼーっとしていたが私の姿を見ると、一度目をぱちぱちさせて擦ってからもう一度私を見た。

 まるで幻覚でも見ているかのようだ。


「どうしたの?」

「あ、いや……起きたら良い匂いがして、部屋に入ったら誰かに朝の挨拶をされるってのが……どうも慣れてねぇーから」


 彼はずっと一人で吹きさらしの野外で過ごしていたんだろう。

 朝ごはんの匂いで起きることも、誰かに朝の挨拶をされることもなく、一人で。


「じゃあ、慣れていくわね。これから毎日、こうして朝を迎えるんだから」

「……そうか、うん……そうなんだな。すげぇーな……」


 浮かべた笑顔から涙が零れそうになっているルークの背を軽く叩いて、席に座らせると私も向かいに座った。今日の朝ごはんはパンと目玉焼きとポテトサラダ、そして牛乳である。


「いただきまーす」

「いただきます」


 二人で食事の挨拶を交わし、食べ始める。

 ルークは私の二倍の速さで食べ終わってしまった。


「ルーク、もしかして足りない?」

「ん……いや、十分だ。昨日まで日々の飯もありつけるかわかんねぇー状況だったしありがてぇよ」


 それはつまり足りないという事なんじゃないのか?


「ふむ、これは早急にお金を増やさないとな」

「今のままで十分だって」

「ダメダメ、我慢しないの。メンバーの食事管理や健康状態には常に気をつけないと。メンバーは家族! 家族の心配は当たり前です」

「そ、そうか」


 言い終わるのと同時に彼の腹の虫第二弾が鳴ったので、パンと目玉焼きを追加してあげる。

 彼が食べ終わるのを待って、私はジオからもらった仕事をいくつかルークに見せた。


「さっそく今日から仕事と行きたいんだけど。どれにする? 私のおすすめはスライム退治かなぁ」


 ジオからの仕事は。

 1、薬草の採取

 2、学者の警護

 3、近隣の森のスライム退治


 である。

 これらすべてFランクの仕事なので内容はどれも簡単なものだ。


「思うに、スライム退治が一番この中だと難易度が高くないか? 確実に敵と戦うことになるぞ」

「そう、だからいいの。最初に魔物と戦って経験値を溜めてレベルを上げる。実戦をこなせば、後の二つは楽勝だから」

「先に難しいのを片づけるのか……。でも俺、一応剣は扱えるがすげぇ弱いぞ? 拳での喧嘩の方が得意なくらいだ」

「そう? でも私は剣をおススメするわ。絶対強くなるから」


 Sランクになる武器種だ、絶対にマスターしてもらいたい。

 だがルークは半信半疑だ。


「そう上手くいくわけが……」

「諦めない! 剣の先生はつけるから。大丈夫、ルークは努力の才があるんだから」

「えっと、シアが言うなら……まあ、やるが」


 私が強く押すので少し面食らいながらもルークは頷いてくれた。

 朝食の食器を片づけ、ギルドに鍵をかけて『外出中』のプレートをかけてからまずは王都役場へ行った。

 ルークは王都住民に正規登録していない浮浪者だ。

 だからまずは住民登録してギルドメンバーであるという証、ギルドカードを作らないといけない。

 彼の身の保証は私がすることで、ちょっと審査に時間がかったが無事にカードが発行された。ルークは正規の住民になれたことがすごく嬉しかったらしく泣きそうになっていた。

 そして細々とした用を済ませ意気揚々と近隣の森へ向かった。

 森は木漏れ日が気持ちのいい明るい森だが、少し奥へ行けば魔物であるスライムが出現する。最近、数が増えて浅い場所で出没するようになってしまったらしく、いくらか数を減らして欲しいというのが今回の仕事内容だ。

 ルークは、剣と皮の鎧を纏った装備で準備万端である。

 この装備一式はジオからギルド立ち上げ祝いとしていただいた。ありがたいことだ。

 私の装備は聖女の杖に祈りのローブ。聖女時代の装備と一緒だ。聖女ではもうないから聖女の杖という名称はおかしいのだけどね。


「ルークは、まずスライムがでたら相手を斬って倒すことだけ考えてていいから。シールド、強化、回復なんかの援護はすべて任せて大丈夫よ」

「シアはやっぱ治癒術士(ヒーラー)なのか?」

「まあそんなとこ」


 聖女の奇跡の力使ってますけどね。概ね使用法は一緒なので否定はしない。

 どうやら聖女の奇跡は聖女という名目を失っても発動できるようだ。もしかしたら失われるんじゃないかと思っていたのでありがたい。でもいつ消えてもおかしくはないので自分でも修行はかかさないようにしようと思う。


「ぎぃしゃあああ!」

「おわっ!?」


 さっそくスライムが出現した。


「はい、ルーク斬った斬った! そーれ、テンション!」


 テンションは攻撃力アップの強化魔法である。


「からの、鉄壁シールド!」


 一撃目がかわされて反撃されそうだったのでシールドも展開しておく。これでルークは無傷で戦えるはずだ。何度も剣を振るい、ようやくスライムを倒すころには肩で息をしていたのでヒールをかけてあげる。


「やっぱ、初心者にはスライム相手でもキツイもんだな。でもヒールのおかげで疲れがとれた。すごいな、ヒールって傷の治癒だけじゃなく体力も回復するのか」

「そうねー」


 聖女の奇跡の力入ってるけどねー。


「ちょっと強くなった気がする。剣の振り方も慣れてきたかも」

「うんうん、経験値入ってるからね。じゃー、さくさく行こうか」

「え、まだやんの?」

「当たり前でしょ、数を減らすのが目的なんだから。倒せば倒すほど報酬高くなるのよ。ということで今日の目標は100匹です」

「鬼だーー!」


 衣食住を握られているので逆らえないルークは涙目になりながらも剣を振るって疲弊してはヒールで全回復され、疲弊しては全回復を繰り返し――馬車馬のごとく働かされたのだった。

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