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◇16 道に迷うなよ

「よし、じゃあ出発しましょう!」

『おーー!!』


 ライラさん達のおかげで十分な英気を養えた私達は、後から応援に行くからね! とライラさん達や近所の人達に盛大に見送られ、若干恥ずかしさを感じながらも大会の会場である闘技場へと向かった。

 闘技場は造りや大きな音が出る関係で王都市内から離れた外れの方に建てられている。普段はそちらへ向かう馬車は空いているのだが、やはり今日は多くの人々でごった返していた。事前にジオさんから、そうなるだろうと話は聞いていたので、私達はジオさんのご好意で手配してもらった馬車に乗り会場入りを果たしたのだった。


「選手控室はこちらになります。時間まで待機をお願いしますね。時間になりましたら係の者が伺いますので、時間が近くなりましたら控室にいるようにしてください」


 受付嬢に簡単な説明と案内図を貰って、控室に向かった。闘技場はかなり大きく、地図を持っていても迷いそうだ。幸い控室は入口からそれほど遠くなかったので迷う事はなかったけど……トイレとかに立つ時は気をつけないといけないだろう。


「えーっと、私達の控室は――あ、ここね」


 大きな扉の脇にずらりとここを使うギルドの名が書き連ねられている。会場は大きいが、控室には限りがある。参加ギルドはかなりの数に上るので個室を与えられるのはCランク以上のギルドだ。それでも大広間控室は三つ用意されているようで、それだけで参加ギルドの多さが窺える。

 まあ、この国のギルドは立ち上げるのが簡単だからね。それでもFランクギルドには参加資格がないのでこれでも絞られている方なのだそう。

 私達が緊張しつつ扉を開けて中に入ると、一瞬だけ視線がこちらに集まったがすぐに散っていく。無名だし、私の顔を覚えているような人はいないだろうからこの反応は妥当だ。控室に集まるギルドの人達は、緊張はしているようだが、あまりピリピリとした空気ではなく、どちらかというと和気あいあいとしている部分まである。DランクとEランクは参加自体が知名度を少しでも上げる為の目的であることが多く、どれだけこの大会で顔と名前を知ってもらうかが重要だ。もちろん一番いいのは勝ち上がることだけど、なにか爪痕でも残せたらそれでいい、というギルドも多い。ゆえに、この場は情報交換や他ギルドの交流などが主体になる。だからこその大部屋だ。ガチなのはCランク以上のギルドである。

 私達はガチのつもりだけど。


「リーナとレオルドは空いてる場所を見つけて休んでて」

「ん? マスターはどこ行くんだ?」

「情報収集とギルド交流に行ってくるわ。こういう機会でもないと他ギルドと話す事もあまりないしね」


 ランクが上に行けば行くほど難しい依頼が来ることが多く、たびたび他ギルドとの共闘などもあったりするが下のランクはそういうことがあまりない。だけど横のつながりはあった方がなにかと便利だ。

 場所取りはレオルド達に任せて、私はさっそく持ち前のコミュ力と全力の笑顔でギルド交流を開始した。昔から立場上、人の顔色で感情を読んだりすることが得意なので言葉選びさえ間違えなければ問題ない。あまり面倒そうな人は避けて、気軽に話が出来そうな人を選んで交流していった。


 一通り回って――うん、こんなもんかな。

 何組かのギルドマスターと仲良くなって連絡先も交換できたし、上々だろう。

 リーナ達も場所を確保できたようで、のんびりしている様子だったがリーナの場合は通りがかりの人達に可愛がられてて、私以上のコミュ力で――いや、あれはもはや魅了といってもいいかもしれない……メロメロにしていっている様は見事だった。


「ただいまー」

「おう、お疲れー」

「おつかれさまです」

『のー』


 用意してきた水筒をリーナが荷物からとりだして、私に渡してくれた。


「ありがと、リーナ」

「交流は上手くいったのか?」

「ええ、まあまあね。ちらちら見えてたけどリーナも色んな人に声をかけられてたわね?」

「はい、ちいさいこがめずらしいみたいで」


 いっぱい連絡先貰ってしまいました。と、リーナが出してきた名刺やメモ紙の中には明らかに怪しいのもあったのでそれは抜いてゴミ箱にぽいした。あまりべたべたしてくるような奴はレオルドが追っ払ったらしい。さすが見た目がゴツイだけあって置物番犬としては優秀だ。


「あ、ごめん。またちょっと席を外すわね」

「なんだ、まだなんかあるのか?」

「お花摘みよ」

「ああ、じゃ道に迷うなよ」


 お花摘みで察してくれたレオルドが地図を渡してくれた。


「リーナは大丈夫?」

「りーなもおはなつむです?」

「違う違う、トイレは大丈夫なのかなって」


 ここでリーナはお花摘みの意味が分かったようだ。一人で行かせるわけにもいかないし、私も行くならとそれほどもよおしているわけでもなさそうだったが、ついて行くと頷いた。


「マスター達が帰ってきたら交代で俺も便所行くわ」

「了解。ちょっと待っててね」


 といっても女子のトイレは長いから会場の女子トイレが激混みしてなければいいけど。

 懸念を抱きつつもリーナを右手に地図を左手にして控室を出て女子トイレを探した。

 案の定、女子トイレは混んでいた。ギルドメンバー用のトイレなので観客席側ほどではないにしろ、ギルドに入っている女子は一定数いる。長い列を待ちながら、ようやく用を済ませてほっとトイレから出ると。


 ――うん、どこだろうねここは!


「まよったです?」


 心配そうな顔で見上げられて私はうっと詰まった。

 自分としては方向音痴のつもりはないのだが、会場が広すぎるのだ。迷路みたいに複雑な部分もあって、案内図を見てもどっちがどっちだか。このままだとレオルドの膀胱が――じゃなくて、試合に遅れてしまう。

 どうしたもんかとウロウロしていると。


「迷ったのか?」


 背後から男性の声がかけられて、良かった道が聞けると振り返ると。

 超絶イケメンな銀髪青年と彼にもたれかかるようにして腕を組む金髪妖艶美女が……いた。その光景に思わず私の両目が眇められ、リーナはといえば絶望に出会ったかのように青ざめて涙目になっていた。


「……その、あからさまに引いた顔をするのはよしてくれないか……」


 超絶イケメン銀髪青年が、困った顔だ。


「ああ、ええ、すみません。突然だったもので、おはようございますベルナール様」


 一瞬聞き覚えあるな、と思ったけどいつもならこの時間は仕事中なのでいると思わなかったのだ。しかも美女連れで。


「仕事お休みして観戦デートですか?」

「……そう見えるか?」

「どー見てもそういう風に見えますよぉー」


 ベルナールの問いに答えたのは彼にしなだれかかる美女の方だった。甘ったるい声で、これ見よがしに豊満な胸を彼の腕に押し付けている。

 きぃ! 羨ましい!


 金髪美女さんは、黄金の巻き髪がゴージャスで真っ赤な口紅が良く似合う色香漂う大人の女性だ。ラミィ様とボディラインは似ているが、甘すぎる香水と男性にべたべたした態度をとる所はだいぶ違う。


「はあ……信じてもらえないかもしれないが、断じてデートではないからな」

「ほほう? ではなんです?」

「仕事だ。内容は言えないけどな」


 仕事? 巨乳美女はべらせて行う仕事とは一体。

 意味が分からず、変な顔になっていると。


「隊長ー! 副隊長ー! 配置はこんなんでいいですかねー?」


 小走りでこちらに走って来た青年がいた。


「あー、ランディ君おっそいんだぁー」

「すんません、ミレディア副隊長。道がめちゃくちゃ混んでて」


 金髪美女に叱られて青年は困ったように頭をかいた。彼は私服で普通の平民のような格好しているが体格はがっしりとしていて、一般人の体作りには思えない。そして彼が発した隊長という言葉。ベルナールは一部隊の隊長を務めている。ということは彼は騎士団関係者ということになるのだろう。

 で、ベルナールと一緒に『副隊長』と呼ばれていたこの金髪美女はもしや。


「部下が来てくれた所で、紹介しておこうか。これは俺の補佐、第一部隊副隊長のミレディア・シー・アルフォンテだ。伯爵令嬢でもあるが、剣の腕は確かだぞ」

「よろしくねぇー」


 はちみつみたいな甘い声が響く。甘い香りも相まってくらっとしてしまうが、同性なので踏みとどまった。第一部隊の人は男性しか見たことがなかったから女性がいるとは思わなかった。ベルナールがかなりモテる人なので意図的に女性は入れていないのかと思っていたのだ。そういえば副隊長とは会うのは初めてだ。


「一つ、はっきり言っておく。第一部隊、俺の部下になるには絶対条件が一つある。それは――絶対に俺に靡かない人間であることだ」

「へ? なんですか、それ」

「隊長はねぇ、こんなんだからねー。老若男女問わず、超モテモテでしょぉ? 言葉一つで落ちちゃう子も絶えなくてねぇ。そんなんじゃ仕事にならないじゃなぁい? だから、絶対に隊長にメロメロにならない子じゃないとうちに入れないわけぇ」


 ニコニコとミレディアが補足説明してくれた。

 まあ、確かに誰かれかまわずひっかける所があるのでそのあたりはしょうがないんだろう。だからこそ第一部隊には男しかいないんだと勘違いしていたわけだし。

 ん? ということは、その説明が正しいのだとすると。


「ミレディアさん――は、ベルナール様にまったく落ちないってことですか?」

「そうだ。ミレディアは生粋の『女好き』だからな」

「えぇ!?」


 まさかそう来るとは思わなかったよ!


「ふふ、さっきから思ってたんだけどぉ――あなた可愛いわね! 隊長なんかやめて、私と遊ぼうよぉ。隣りのちっちゃいかわいこちゃんも名前と連絡先教えてぇ」

「うひゃぁあ!?」


 急激にナイスボディと甘い香りが一斉攻撃をしかけてきたので危うく撃沈されそうになった所をベルナールがミレディアの頭をぶっ叩いて止めた。


「げふん!」


 かなり容赦のない打撃だ。ベルナールははからずとも女性に優しい所があるが、これほどの容赦のなさは珍しい。まあ、私にも説教したりとあまり容赦ないが。


「邪魔したな。控室まで案内するからついて来るといい」


 ずるずるとミレディアを引き摺りながらベルナールが歩き出したので、私も放心状態のリーナを連れて歩き出し、部下の男性も慌てて駆け足でついてきた。


 試合が始まる前に、なんか疲れた。





 嵐に遭ったみたいな出来事の後、ベルナール達とは別れ無事控室に帰るとレオルドが心配そうに待っていたが、かくかくしかじかで説明を簡単に終え、最初の予定通り交代でレオルドがトイレへ行った。レオルドも戻りは少し迷ったようだが、彼は無事に帰って来た。方向感覚は強いらしい。


「お待たせいたしました。時間になりましたので、会場入りをお願い致します」


 いよいよ時間だ。

 ざわざわと沸き立つ人々と共に私達も気合を入れ直して、案内人について競技場内に入った。

 上位ギルドは華々しく観客に迎えられながら競技場に入っていくがさすがに無名の私達はぞろぞろと列をなしていくだけだ。それでも私達の姿を見つけられたのか。


「シアちゃーん! リーナちゃーん! レオルドさーん! 頑張ってねー!」


 ライラさんらしき人の声が聞こえた気がした、その方向を見れば。


「お、おう……」


 派手な幕が下がっており、見知ったご近所の人達が気合の入ったおそろいの鉢巻きを頭に巻いて歓声を上げていた。


「え? なに、どこのギルドの応援団?」

「へー、気合入ってるなー」


 上位ギルドの応援団と負けず劣らずの声援にD、Eランクのギルドの人達がざわついた。

 ちょっと恥ずかしい。ここまで応援されて惨敗したら合わせる顔がないので、本腰いれて私達は気合を入れ直した。


 多くのギルドが集い、競技場を埋めると開会式が始まった。

 まずは宣誓からみたいだが、これはAランクギルドの代表が務めるらしい。ギルド大会にはA~Eまでのランクギルドが参加資格を持つ。最上位ランクであるSランクギルドは伝説すぎて通常の試合には出てこない。Aランクギルドも参加資格はあるが今回の出場は一つだけだ。Aランクギルドともなると大会に出て知名度を上げる必要がないのである。賞金は出るけど、正直依頼の数をこなした方が儲かるという部分もある。


「今回の宣誓は『古竜の大爪』か。あそこ上位ギルドだけどいい噂、聞かないよな」

「あたしもあそこの連中嫌い。態度でかいんだもん」


 さすがに有名どころなのか、周囲の人達が宣誓を務めるギルドの話をしている。あまりいい話がないようだけど、ぶっちゃけAランクギルドが出場する意義が薄い以上、そういう所が出てくるのは腕鳴らしや、下位ギルド潰しの目的であることもあるそう。

 そりゃ、行儀の良いAランクギルドは来ないよね。

 さて、そんな悪名高いギルドの代表は一体、どんな奴なのかと壇上にあがった男の姿を見て、私は目を見開いた。彼を知っているのは私だけではなく、会場内すべての人間がざわめいた。


「宣誓! 我々ギルド一同は、日頃の成果を十二分に発揮し、正々堂々、戦うことを誓います! ギルド代表、『古竜の大爪』――クレフト・アシュリー」


 ――勇者!?

 なんでこんなトコに!?


 以前はどこかの上位ギルドに入っていたという話は聞いていたが、まさかパーティーが解散して王都に戻ったのを機にギルドに復帰したのだろうか。だけど、彼は勇者としての使命もあるはずだし……。

 頭が混乱している中、どうやったか知らないが勇者と目が合った。

 彼は、こちらを馬鹿にしたような顔をして、踵を返し壇上を降りて行った。


 いつか、邪魔しに来るだろうとは思ってたけど。

 ……いつ、知ったんだろうか。私がギルドを立ち上げたことを。

 王都にいれば、いずれはどこかで知ることになるんだとしても――タイミングがいやらし過ぎる。これから起きるかもしれない懸念が胸に広がり、一人頭を抱えた。

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