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☆30 しょうがねぇなー

 無我夢中で私達は森を駆けた。

 なにかを守るように、隠すように多くの魔物達が配置されていると頭の良いレオルドが気づき、彼の勘と知恵に従って進んだ。魔物は強化したルークとレオルドが蹴散らし、化け物と瘴気の固まりは私の浄化の光で弱らせてから二人に倒してもらう。


「……村を襲った化け物より弱いな?」


 ルークが呟いた。

 弱い上に形状も悪い。

 倒してみて分かったが、森のあちこちに配置された化け物は倒しても黒い靄となって霧散するだけで子供が出てくることはない。


「たぶん、子供を素体に使ってない出来損ないだろう」


 数にものをいわせるだけのものだ。

 未完成のものをばらまいてまで私達を足止めしたいらしい。

 だが、そんなもので私達の足は止められない。


 リーナ! 絶対に、助けるからね。


 私達の思いは一つだ。

 走り抜けて、聖獣の座する泉も越えさらに奥へ。魔力がある人間だけが感じられる瘴気の風が色濃く混じる場所に辿り着いた。そこに目的地がすぐそこであることを知らせるように大きな熊の化け物が現れた。

 ルークが悔しそうに唇を噛む。

 どうやら、あれがルークを阻んだ化け物のようだ。


「大丈夫、今は一人じゃ無理でも私達がいるんだから」

「ああ! ――頼んだ!」


 ルークは恐れることなく立ち向かった。レオルドが援護し、私もまた後方で支援魔法を発動する。

 折り重なる盾の呪文、風を切る速さの呪文、深く穿つ力の呪文。

 レオルドが、地面を叩き≪地割魔法(アースクラッシュ)≫を発動させ化け物の動きを止めた。それを見逃さず、ルークの剣が化け物を切り裂いた。

 断末魔の声が響き、化け物は倒れ伏す。復活しないように私はすぐさま浄化の呪文を唱えた。光が化け物を包み込み、やがて一人の幼い子供が現れた。

 レオルドが子供を抱き抱え、木陰に横たわらせる。私は子供の周囲に結界魔法を張り、魔物達に襲われないよう施した。


「……ありがとう、シア、おっさん。一つ、胸のつかえがとれた」

「そう、良かった。子供も一人取り戻せたし、上々よ。あとはリーナ達を助けるだけ」


 化け物が立ち塞がっていた後方を私達は見回したが、特に何かあるようには見えない。

 だが、私とレオルドは気が付いた。


「なんか、おかしくないか?」

「ええ、空間が揺らいでるみたいね」


 よく見れば、ぐねぐねと蜃気楼のように歪んで見える部分がある。ルークが首を傾げているから、彼には見えないんだろう。ということは魔術的なものということになる。


「たぶん結界ね。範囲が広いようだから、結界を構成する媒体があるはずよ、探して壊して」


 私達はそれぞれ散って、周囲を探索し草むらに隠された魔石を発見、破壊した。すると今まで見えなかった重厚な建物が現れる。一般的に使われるようなレンガや石造りではなさそうな、とても頑丈そうに見える建物だ。禁忌の魔術といい、この先にいる連中はどうやら文明的にもかなり高度な技術を持っている相手なのだろう。

 私達はより一層、慎重に進もうと――したのだが。


「扉どこー?」


 入口が見つからない。窓はいくつかあったが強力な盾魔法が使われていて破るのに時間がかりそうだ。


「しょうがねえ、ここはおっさんに任せろ」

「どうするの?」

「壁を分解して叩き壊す」

「ええ!?」


 建物の壁は素材不明の固そうなものだ。魔法でも剣でも傷一つつけられなかった。素材の構造さえ理解できれば分解魔法は使えるが……。


「色々試す。なぁに、高度文明にも興味があったからその辺の知識もばっちりだ」


 それにしたって試す項目が多すぎるような気がする。あまり時間はかけれないけど、どうすることもできないので、レオルドを信じて待とう――。


「できた!」


 ズドン! と、レオルドが壁につけていた右手からヒビが入り壁が崩れ落ちた。


「嘘、はやっ!?」


 まだ一分も経ってない。

 ヤマ勘でも当たったのだろうか。


「十秒で百パターン試したからな!」

「おっさんが、化け物だ……」


 唖然とする私とルークに、レオルドは真剣な顔つきで言った。


「おっさんも、本気だすさ。これでも怒ってるからな」


 そこからのレオルドの快進撃はすごかった。壁を破壊しつくし、時折現れる白衣の人間を気絶させた。途中で子供達が閉じ込められている牢を見つけて全員まとめて転送魔法でポラ村に送った。

 その中の一人の少女が、不安な顔で私達に縋るように言った。


「あのね、ちょこのおねーちゃんがね、しろいおにーさんに、つれていかれちゃったの!」


 どうやらこの少女はリーナと一緒にいたらしい。私は少女の頭を優しく撫でて。


「分かった、教えてくれてありがとう。チョコのおねーちゃんは、私達が絶対に助け出すから安心してね!」

「うん! ぜったい、だよ!」


 ルネスの話でも出ていた、真っ白な髪に赤い目のお兄さん。どう考えてもそいつが今回の事件の首謀者だろう。白い髪も、赤い目も珍しいものだ。どちらも持つのはもっと珍しい。重度の魔力症発症者である≪アルベナ≫と呼ばれる人々がそういう色を持つという。身に余る膨大な魔力を持ち、常に重い魔力の中毒症状に苦しむ。身から溢れ出る魔力が強すぎて周囲に悪影響を与える為、彼らは人里離れた場所に隔離されるのだ。


 その男は≪アルベナ≫なのだろうか?

 だとしたら、まともに動ける体ではないはずだけど。


 子供達を救出し、勢いに乗った私達は強い魔力の力を感じ取り、もしかしたらと壁をぶち壊して部屋に転がり込んだ。

 真っ先に目に映ったのは青い風。清らかなその魔力は美しく、うっかり見とれるほどだったが視界に映った探し求めた少女の姿に、私達は目頭が熱くなった。

 ここまでなりふり構わず来たので、体中が傷だらけだったがそんなことはどうでもいい。


『お待たせ!!』


 私達の言葉に、リーナは泣きそうな笑顔で笑った。

 その体を私はぎゅっと抱きしめる。あったかいぬくもりに安堵した。ようやく捉まえられたんだ。


『かんどーのさいかい、ですの。でも、そんなばあいでもないですのー』


 へ?

 足元から可愛い声が聞こえて見てみれば、小さなスライムがいた。

 そ、そんなまさか。


『スライムが喋った!?』


 私達が同時に驚きの声を上げると、リーナはぷちスライムを抱きかかえて微笑んだ。


「ぷちすらいむちゃんと、おともだちになったのです。ぎるどに、つれてかえってもいいです……?」


 不安そうに聞いてくるリーナに、私は真顔で言った。


「天使、ぷちスライム、仔猫……我がギルドの癒しトライアングルが完成した――!! か、かか帰ったら記録魔法士呼ばなくちゃ! 永遠に記録に残さなきゃ!」

「気持ちは分かるが、今は落ち着け」


 ルークとレオルドを見れば、二人とも険しい顔つきで前を見ている。私も急いで心を落ち着かせ、視線を先へ目をやれば。


「楽しい時間が台無しだ……」


 と、がっかりした様子でこちらを見る真っ白な髪に赤い瞳の男がいた。

 見た目は綺麗だ。だが、一目見て分かる――こいつは気味が悪い。不気味、とか得体のしれない、という単語が良く似合う。


「あなたが、誘拐犯ね?」

「そうだね。別に誘拐だけが仕事じゃないけど」


 余罪もたんまりありそうだ。


「王国騎士団より依頼された、聖獣の森の事件解決――あなたを捕えて完遂とさせてもらうわ。覚悟しなさい!」

「威勢のいいお嬢さん、悪いけどまだ私は死ねないから今日は君が死んでね」

『ってか、俺達もいるんだが!』


 ルークとレオルドが同時に突っ込んだ。

 白い男は、明らかに私とリーナしか見ていない。男に興味はなさそうだ。


「あー、はいはい……今日は特別」


 赤い光が男の元へ集っていく。

 色濃く重い魔力の気配に、自然と私達の身に力が入った。

 無数の赤い魔法陣が男の周囲に現れる。一つ一つは小さな魔術だが、これだけの数を同時に操るのは熟練の魔導士でも不可能だ。


「あなた……≪アルベナ≫なの?」


 男は私の台詞に笑った。


「そうでもあるし、そうでもないかな」


 どっちつかずの返答だ。だが、別に構わない男の正体などに興味はない。ボコボコにして、お縄にして、ベルナールに突き出すのが仕事だ。

 赤い魔法陣から無数の魔術が発動し、私達を襲う。

 私は大きなシールドを展開、そしてリーナは驚いたことにぷちスライムを使役しぷにぷにボディで防いだ。どうやらリーナは私でも知り得なかった力『魔物使い』になったようだ。なにがあったかは分からないけど、リーナの決意の強さが伝わって来るかのよう。今も守るべき存在であることに変わりはないが、それだけでは怒られてしまいそうだ。

 男の魔法攻撃が止ったのを見計らい、ルークとレオルドが動く。

 ルークの剣戟、レオルドの拳ファイア、そしてトドメにぷちスライムスタンプが炸裂。轟音が響き渡り、部屋は半分ほどが崩れてしまう。天井からの瓦礫に埋もれないようシールドを展開しつつ、攻撃をまともに受けたはずの男がどうなったのか確かめようとしていると。

 土煙の中から、愉快そうな笑い声が聞こえた。


「ああ――血、血かぁ……久しぶりに自分の血を見たなぁ」


 土煙が晴れると、瓦礫の上に寝転がり全身に傷を負って血を流している男がいた。切れた額から滴る血を指で撫でとって、笑って眺めている。

 ――かなり、痛いはずだけど。

 手加減なんて誰もしていない。その男の様子に背筋がぞわりと震えた。今までに出会った事のないタイプの気味の悪さだ。

 さっさと気絶させて騎士団に引き渡そう。


「眠れ、眠れ、母の――」


 スリープの呪文を唱えている時だった。

 雪崩に襲われたように、赤い魔力の風が押し寄せて私は思わず後ろにひっくり返った。他の三人も耐え切れず床に転がる。

 なにが起こったのか、慌てて上半身を起こす。

 私の目に飛び込んできたのは――。


「あぁ――気分がいい。久しぶりに、この姿で遊べるなんて」


 にんまりと目を細めて笑う男と視線が交差した。

 その目は赤々と怪しく輝き、白髪は長く伸び腰まで達し、白い肌は更に青白く、耳は尖って、鋭い牙も生えていた。


「嘘……でしょ……」


 その姿はもはや人間ではない。

 瘴気と禁忌の魔術による化け物ともおそらく違う。

 私の脳裏に一つの単語が浮かぶ。最悪の単語が。


 ――魔人。


 魔王と共に現れ、魔王と共に世界を滅ぼすモノ。

 人とは違う、強靭な肉体と、強大な魔力を持つとされる恐ろしい種族。

 現在は、魔王領と隣接するクウェイス領くらいでしか目撃例はないが、彼らと一戦を交えた者は皆こう言う。魔人はそれ一人が一騎当千の力を持つ。決して単独で挑んではいけない、と。

 私は勇者パーティー時代、何度か魔人と対峙したことがあった。

 あの時は、魔人に対する特効能力のある聖剣と聖魔法で退けることができた。勇者の人格は置いておいて、聖剣の力は本物である。聖剣の力を聖女の力で増幅させることでなんとかできていたのだ。

 聖剣なしで魔人と戦うには、大人数の数の力が必要になる。

 だが、今はそれがない。


 冗談じゃない。

 Fランクギルドが相手できる敵では決してない。


 運が悪すぎる。魔人はほとんどが魔王領から出ない。クウェイス領には魔人の侵入を防ぐ為の強力な結界があるからだ。稀に通り過ぎようとする者がいてもその結界の力で大怪我じゃすまない傷を負うことになる。だから人間の土地に侵入してきた魔人はすぐにギルドに狩られることになる。

 だがそれすらも掻い潜り、人間の土地で暗躍する者がいるなんて。


 聖剣なし、人海戦術も使えない今、私のとるべき行動は一つだ。

 ちらりと背後の三人の様子を見る。皆、魔力圧に押されて身動きがとれないでいる。私が動けるのはただたんに魔人の力に慣れているからだ。

 そっと、私は三人に転送魔法を施した。三人とも場所が離れているから三人それぞれ一つずつ。三つ同時の転送魔法。同時発動は時間がかかる。

 私は自身に傀儡を使った。魔力の糸で全身を絡め取り、動かせない体を無理矢理動かす術だ。これは支援魔法ではなく、黒魔法系統の術なのだが司教様から、無理やり叩き込まれた。『激闘では、必要になる確率が高い。死んでも守らなきゃいけない事態になった時に使え』と。

 そんな事態になりたくなかったが、まさかこんなに早く来るとは人生分からない。黒魔法系は得意じゃないというかほぼ適性がないから習得する時も死ぬかと思った思い出。出来も悪いから傀儡が使える時間はたったの三分だ。

 三分相手を足止めして、転送魔法を発動し、なんとか魔人を倒す。

 考えただけで無茶だなぁ。

 だがやるしかない。私の命は私のものだけど、私の元に集った家族の命を守る責任は私にある。


 傀儡で立ち上がった私に、男は嬉しそうに声を上げた。


「今までは力を解放すると、皆地べたを這いずり回って泣きわめくだけだったんだ。その中で立ち上がる君の名前、聞いてもいい?」

「相手の名前を聞く前に、まずは名乗りなさいよ」

「ああ、それは失礼。私の名は『ジャック』、盗人のジャックだよ」


 盗人、たしかに盗人だ。子供達を盗んだようなものだ。

 名乗るのは嫌だが、相手が答えたので返した。


「シアよ」

「シア、そうシアか。――今まで出会ってきた女性(ひと)の中で一際運命を感じるよ。心の底からわき上がるようなこの衝動はなんだろう。君の心臓を盗んで検証してみても?」

「いいわけあるか!!」


 なんでも知りたがる子供のような言いぐさで、なんてこと言うのか。

 私は手に剣を握った。

 ルークの剣だ。彼は飛ばされた時、剣を離してしまったらしく地面に転がっていたのを失敬した。私自身に攻撃能力はない。自分に強化魔法をどれだけかけたところで、いきがった不良をノスくらいしかできない。だがそれでいい。注意を自分に向け、転送魔法が発動するまで時間が稼げれば、それで。


 立ち上がったのが私だけだったからなのか、ジャックは私にしか興味を示さなくなった。好都合だ。

 剣を持って立ち向かう私に、玩具で遊ぶかのように相手をしてくる。


 ……一分。


 ……二分。


 傀儡を使っても、重い魔力圧は体を蝕む。無理矢理動かせば動かすほど激痛が走る。それでも剣を持って舞い続けた。滑稽な、道化の舞いだ。それでもいい、彼らが助かるなら。


 ……三分。


 傀儡が切れ、私の膝はがくんと落ちた。

 ルークの剣が手から離れて転がる。地面に倒れた私に、ジャックは息を吐いた。


「楽しい時間は終わりか……もっと君といたいから君を盗って行こう」


 攫われたりするのかと思ったが、ジャックが魔術で召喚したのは魔術の刃だった。どうやら盗むのは私の中身らしい。とんだ悪趣味だ。


 まだか、まだか。

 まだるっこく進む転送魔法に焦りを感じた。

 私が死ぬ前に、発動しないと意味がない。死んだら魔法がキャンセルになってしまう。

 だが、私の必死の願いも虚しくジャックの魔術の刃が私の体を襲う。


 万事休すか。

 固く目を閉じると、いつまでたっても痛みがこない。不思議に思って目を開ければ。


「――ルーク?」


 なぜかルークが私の上に覆いかぶさっていた。そして額に頭突きされる。


「いった!?」

「――馬鹿……」


 とだけ言うと、ルークはぐったりと倒れてしまった。

 馬鹿、って。

 馬鹿、って。

 ルークには言われたくないのだが。

 驚きつつも周囲を確認すれば、ルークよりさらに上にかぶさるようにぷちスライムのぷにぷにボディが展開し、前方にレオルドが立ち塞がっていた。

 考え難いことだが、ルークもレオルドもあの魔力圧の中、立ち上がってここまで来たらしい。

 慣れない体で、私ですら傀儡を使って立っていたのに……。

 根性、としか言いようのない力で彼らはここまで来たのだ。ぷちスライムもそうだ。リーナはさすがにこれなかったのか遠くで倒れている。


 じわりと目が潤む。

 私はルークの言う通り、馬鹿なのかもしれない。

 私が、私が、と。自分でやらなきゃいけないと思っていた。マスターだから、集めたのは私だから。責任とったって、皆が喜ぶわけがない。

 私みたいなのの所に集まったのは、優しい素直な人ばかりだ。


 全員で生き残って、『家に帰らなきゃ意味ない』。


 ジャックは不機嫌そうにこちらを見下ろしていた。

 今にも満身創痍な私達に魔術の刃の雨を降り注がせようとしている。


 私は祈った。

 時に女神への祈りは意味を成す。ことこの聖獣の森では。

 女神に近いとされるこの森は神秘に包まれている。もう神頼みしかないのは滑稽だけど、祈りの声が大きい場所なら届いて欲しい。


 ――皆で無事に家に帰りたい!!


『……しょうがねぇなー』


 とんでもなく面倒くさそうな少年のような声が聞こえた。


『もう、聞き届けないわけにもいかなくなっちまったじゃんかよー』


 ふわりと光が現れ、そこからぴょんと小さな体が飛び出した。

 焦げ茶のふわふわの毛並み、つぶらな黒の瞳に丸いボディ。愛らしい小動物みたいな姿をした何かだった。見たことがない生き物だ。


「な、なに!?」

『知らずに呼んだのかよ、アホな聖女だな。聞いて敬え! オレ様は女神の遣い森の聖獣カピバラ様だあ!』


 ふんす! と、小動物『カピバラ様』は偉そうに名乗った。

 え……。これが、もしかしてこの小動物が私が何度も呼んでも出てこなかったあの聖獣様なの!?


『あー、そこ疑ってんな! 確かにクソ野郎共に力を奪われて小さくなったが、オレ様はできる男だぜ! 心配すんな』


 カピバラ様は鼻息荒くそう言うと、彼の登場は予想外だったのか唖然としていたジャックをカピバラ様は睨みつけた。


『おいそこの超クソ野郎! オレ様が直々に相手してやるよ』

「へぇ? 今まで怯えて出てこなかったのに、どういう風の吹き回し?」

『うっせい!!』


 ゴウッとカピバラ様の体に聖なる光の魔力が集う。

 女神に近い場所とはよく言ったものだ。聖獣にとってもここはホーム、瘴気で穢れているとはいえ力は集めやすい。

 カピバラ様は、槍のように高速でジャックにそのまま突っ込んだ。

 ジャックはまさかそのまま来るとは思わなかったのか、若干慌ててシールドを張ったがカピバラ様はそれを簡単に破った。カピバラ様とジャックがぶつかり、激しい光が迸る。

 思わず目を閉じて、次に目を開いた時には、ジャックの姿はどこにもなかった。


 ひらりと、カピバラ様は地面に着地する。


『相手してやるとは言ったが、倒すとは言ってねぇ!』

「……どういうこと?」

『すんげー遠くに飛ばした。転送魔法だな。いやー、いくらオレ様が強いってもこの森の状態じゃキツイからなぁー』


 トテトテと短い四足でやってくると、『こりゃひでぇーありさまだ』と私達を見て言うと、温かなヒールをかけてくれた。


『長居むよー』


 間延びした遠吠えのような声と共に私達は聖なる光に包まれて。

 気が付いたらポラ村に戻ってきていた。


 子供達との再会に涙して喜ぶ村の人達。それをぼうっと眺めながら私は空を仰ぐ。

 どうしてあんなところに魔人がいたのか。

 結局なにを企んでいたのか。


 ――色々消化不良ではあるが、私達は無事に依頼を終えられたのだった。

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