☆29 お待たせ!!
リーナは男の背を追いかけながら歩いていた。
彼の歩調はリーナにとってはかなり早く、小走りになってしまう。『急いでいる』と言っていたところから、なにか急用があるのだろう。
時折、今までは見なかった彼以外の人間が、パタパタと走って行くのを見かける。その人達は、皆白衣姿でお医者様か研究者のように見えた。しかし前をリーナのことをまったく考えていない歩調で歩く男は、まるで貴族のような立派な白い衣装を纏っていた。
気品は、どことなくあるのかな、とリーナは感じていた。騎士王子様や、彼のお兄さんしか比較対象があいにくいないが、その雰囲気はどこか高貴さも垣間見える。
……ものすごく、怖くて不気味な人であることには変わりはないが。
リーナは、気を抜くと震えが走る体を抑えるために、彼を真っ白で赤い目の『うさぎさん』と思う事にした。
うさぎさん、うさぎさん。このまっしろなおにーさんは、うさぎさん。
ごくんと、手にうさぎの形を描いて呑み込む仕草をした。
これはお呪いだ。シアに教わった、緊張を解く為のものである。
そう恐怖と格闘しているリーナをふと、男は振り返った。ちょっとだけ笑って再び歩き出す。歩調を落とす、なんてことはしてくれない。時折、地響きが聞こえてきて、建物に振動がくる。それを鬱陶しそうに彼は壁を見ていた。
建物はそれほど広いものではないようで、牢から出て三分ほど小走りで行った先に、彼の目的地に辿り着いた。大きくて重厚な他の部屋の扉とはまったく違う黒い異質な扉を男は開け放った。
中は薄暗い。ぼうっとした赤い光の線だけが光源で浮かび上がるかのようにして光っている。
それを見た瞬間、リーナの全身がぞわりと泡立った。
胃の中のものが逆流してきそうな、気分の悪さを感じる。
真っ青になっているリーナを見て、彼は興味深げに首を傾げた。
「分かるの? この部屋にある魔法陣の異質な魔力を」
魔法陣。
言われて、よくよく見れば確かに部屋の中央で淡く光る赤い線は、一つの模様を描き出していた。魔導士が魔法を使う際に描く『魔法陣』だ。レオルドが魔法の練習をしていた時に見たことがある。だが、それよりもその魔法陣はとても大きかった。広い部屋の中央部分をすべて使って描かれている。
それもそれで異質ではあるが、リーナはしっかりと感じ取っていた。
……れおおじさん、と……ちがいます。
レオルドの魔法陣は、もっと力強くて温かい気配があった。それはレオルド自身と似たものである。だから術者と魔力の気配は同じなのかとリーナは思っていた。
だがこれは、すべてを奪い、壊すような冒涜的な気配を感じる。術者は、この男なのかと思ったが魔法陣の気配と男の気配はまったく別である。同じく『恐ろしい』気配ではあるが。
「感じてしまうのは不幸だね。恐ろしさを胸に震えたまま、自分を失わなければいけない。それはどれほど苦しいんだろう」
憐れんでいる様子などまったくない顔で、男は言った。
リーナはどこか腹の近くが熱い気がした。こんな時にお腹が痛くなったのかと思ったが、ただただ熱さを感じるだけで痛みはない。これはなんだろうか。
「じゃあ、お嬢さん。さっさと始めようか。魔法陣の真ん中に大人しく歩いて行って」
そう言いながら男は黒い扉を閉め、辺りは闇と赤い光のみになる。
足元がおぼつかないが、床に何か置いてあるようには見えなかったので、自分の足を踏まないようにだけ気をつけ、魔法陣の真ん中に行った。色々考えたが、逃げ出したり、彼の言う事を聞かなかったら即座に殺されるだけだと思った。現に、ここに来る道中、脇道に行こうかとも思ったが体を捻った瞬間に背に目でもついているのかと疑うほどの早さで彼は振り返ったのだ。
無理だと悟った。
さらに考えた。
どうしたら、シア達にまた会えるのかと。
『うさぎさん』は、言った。リーナを化け物にすると。化け物にしてシア達を襲わせるのも一興だと。ということは、自分は化け物に作り替えられ、意識を奪われるということなのだろう。
だから。
りーなは、さいごまで、あらがいます。
じぶんを、うしなわない。
ぜったいに、おねーさんたちにあって……。
魔法陣の真ん中に立つと、魔法陣の赤が一際明るく輝き出した。
感じる不気味さと恐怖が増す。
しばらくそのまま待っていると、男が奥から一つの小さな檻を手にしてやって来た。それをリーナの前に置く。なんだろうかと、檻の中を覗くと。
「……すらいむ、ちゃん?」
青いぷよぷよした魔物、スライムが入れられていた。だが前にクエストで見た森のスライム達とは違い、このスライムはとても小さい。そしてぐったりと力なく横たわっていた。
「ぷちスライム。スライムの子供だよ……君にはこれと融合してもらう。きっと可愛い化け物になるよ」
楽しい舞台が始まる前のように、男は上機嫌で魔法陣から外に出た。
リーナはしゃがみ込んで、ぷちスライムを覗き込む。スライムはとても見た目が可愛い。つぶらな瞳に猫みたいな口をしている。大人しい子は、ペットとしても人気があるのだという。ただとても弱いので、初心者冒険者の狩りの対象になりやすい魔物でもあった。
「ぷちすらいむちゃん、げんき……ないです?」
リーナの問いかけに、少しだけぷちスライムが反応した。丸い瞳を半分開き、ちらりと見てそして閉じてしまう。元気があるようには見えない。
「お嬢さん、気を楽に。反発すると、すればするだけ苦しいだけだからね」
男の声が響き、魔法陣は眩しいくらいに輝き始めた。いよいよ、始まった。リーナは祈るように手を組み、目を閉じた。赤い光が自身を呑み込み、少しずつ溶かしていくような感覚を感じる。細胞の一つ一つが分解され、バラバラになり……別の何かと溶け合って、また構築されていく。
意識が、どんどんと遠くなる。
消えていく。
混ざっていく。
リーナは必死に抗った。抗えば抗うほど苦しい。けど、ここであきらめたらあの子との約束も守れない。シア達に会えない。
消えそうになる大事な記憶を追いかけるように、リーナの意識は走った。次々と巡っていく、走馬灯のような記憶の景色。その奥の奥、リーナ自身も忘れていた映像に辿り着いた。
優しそうな、銀灰色の髪の男性と少し性格がきつそうな金髪の女性が自分を覗き込んでいる。
『この子の金髪と、大きな青い目は君と同じだね。シーア』
『ええ……。ふふ、この子の目元と、笑った顔はあなた似よ。アレン』
『わあ、良かった。全然似てないかもしれないと思ったから』
『そうかしら? 色は私でもたぶんこの子、性格とかまるっとあなたに似ている気がするわ』
『そう?』
『そう。なんとなくだけど、ものすごーく優しくて、ものすごーく愛らしくて、ものすごーく可愛がられると思う』
『……シーア、君は僕をそんな風に見ていたの?』
『なぜ拗ねるの? 褒めているわ』
仲睦まじそうな男女の優しい会話が降ってくる。愛情が降ってくる。
思い出せるはずもない最初の記憶。母は、こんなにも優しい表情をしていたんだと泣きそうになった。この記憶が奥底にあったから。確かに愛された時代があったからか。どこからともなく泉のように湧く母への思いに納得がいった。
リーナは、どこかで取り戻したかった。
失ったものを。
『大丈夫、君とリーナは僕が守るから』
場面は次へと展開し、闇夜を二人がリーナを抱えて走るところへ来た。
『リーナは人間だ。可愛い普通の女の子だ。ちょっと不思議な力があったって、僕達の可愛い大切な天使だから』
父は、母とリーナを先に逃がし、橋の上で追っ手の前に立ち塞がった。激しい激闘、魔術の光と剣戟の音を背に母はリーナを抱きしめ走った。
そして一度だけ振り返って――。
『――ああっ!!』
父の体を魔術が貫き、その衝撃で彼は荒れ狂う川の中へと落ちていく。
母は震えながら、泣きながら、それでもリーナを抱えて走った。むちゃくちゃに走り通して、奇跡的にギルドの人間に助けられるまで逃げ続けた。
大切な人を失い、困窮した生活を強いられ、またリーナの力を狙った者に狙われる恐怖に母の精神は確実に擦り切れ、蝕まれた。
『お前さえいなければ、お前さえ産まなければ……』
母はいつしか、怨嗟に捕らわれるようになった。
それ以降は、リーナの記憶に残る母の姿となった。
――何が悪かったのだろう。誰が悪かったのだろう。
もう、なにをしたって大切な両親は戻らない。母は罪を重ね、死んでしまった。父は酷い怪我を負い、行方不明。あの状態で父が生きているかなんて分からない。
でも、父を見つけることが母の最後の願いだった。
取り戻せない。それでも、探しに行く。
りーなには、あたらしい『かぞく』がいるから。
今度こそ、失わないように。
りーなは、『まけない』!!。
強く、そう心に決めた――その時、記憶の先で眩い光が見えた。
『――ママ、ママ――』
か細い、誰かの泣き声が聞こえる。
リーナのものではない。子供達のものでもない。
リーナはその光を抱きしめた。すると一つの記憶がリーナの中に流れ込んできた。
陽の光が温かい森の中。
たくさんのスライム達がいて、楽しく暮らしていた。人が踏み入って来ない森の奥で、ひっそりと。でも幸せな日々。
一匹の小さなスライムが、大きなスライムに甘える姿は親子のようだ。
――ぷちすらいむちゃん?
どことなく、さきほど見た元気のないぷちスライムに見えた。
幸せな日々を送るぷちスライム達。しかしその幸せは一瞬にして崩れ去る。
武装をした人間達に、襲われ、狩り尽くされるスライム達。ぷちスライムと母スライムは共に逃げ惑い、そして母スライムは、ぷちスライムを守るために壁となった。
スライムは、とても弱い魔物である。
あっという間に母スライムは斬り倒され、動かなくなった。
それを物陰からぷちスライムは見ていた。震えながら、泣きながら、母を呼んだ。
……奇跡的に、ぷちスライムは襲撃者に見つかることなく難を逃れた。
スライムの村は全滅。この子はひとりぼっちとなった。寂しさに打ちひしがれ、さ迷い歩き、食べ物もろくにありつけず、衰弱していく。
最後に見たのは、白衣を纏った人間達で、冷たい眼差しを向けられ檻に入れられた。
『みんながいないなら。ママがいないなら。アタチがいきている、いみはないノ……』
すべてを諦め、投げ出してしまったぷちスライムにリーナは胸が痛んだ。
スライムは、冒険者にとって最初の戦闘経験値を上げるのにいい相手だと知っている。数が多いから、討伐対象にもなりやすい。だけど、とシアが言っていた。
『スライムに限らず魔物には個体差ってのがあってね。良い子と悪い子がいるの。人間と同じでね。人を襲う個体は危ないから倒さないといけない。だけど大人しく森の奥深くとか人を襲わない個体は殺さない。っていうのが暗黙の了解なの。だけど密猟者とか悪い人は見境なくってね……』
こういうことも時々起こる。と、シアは憤っていた。
『……わるいひとに、うばわれてしまったのですね』
リーナは、ぷちスライムの記憶をぎゅっと抱きしめた。
寂しい、悲しい、辛い。
痛々しいまでの気持ちが伝わってくる。
リーナも同じだった。失って、寂しくて、悲しくて、辛かった。
それを抱きしめてくれたのは、シアだ。肩車をして笑顔にしてくれたのは、ルークだ。膝に乗せて仔猫と一緒に遊んでくれたのは、レオルドだ。
寂しさは、悲しさは、どうしても全部は消えない。
だけど、辛い気持ちはなくなった。ぬくもりの中で、ゆっくりと眠れるようになった。
りーなには、そばに『かぞく』がいる。
でも、ぷちスライムにはいない。こんな狭いところに閉じ込められて、弱って、蹲っている。
ひとりぼっちは、ダメ。
ひとりぼっちでいると、失った思い出ばかり思い出す。前に進めない。止った時間に先はない。
だから。
『ぷちすらいむちゃん。りーなと、いっしょにいきませんか? りーなと、おともだちになって、くれませんか? おともだちになって、かぞくになったら、もれなく――やさしいおねーさんと、かっこいいおにーさんと、ちからもちなおじさんと、かわいいこねこ、ついてきますよ?』
あったかいですよ。
リーナは、初めて勧誘というものをしてみた。
商店街のおじさんのようには、上手にできなかったけれど一生懸命、誘ってみた。
すると、ぽとりと思い出の光から零れるように小さな青い塊が転がり落ちた。
つぶらな瞳がこちらを見つめる。
ぷちスライムだ。あの子が、リーナを見ている。憧れのような、眩しいものを見る様な瞳でじっと、見ている。
リーナはどうするべきか迷った。頭の中で、少し模索してこれしかないと行動した。
リーナはぷちスライムに近づくと、しゃがんでそのぷるぷるな体を抱きしめた。
『いーこ、いーこ』
シアやルーク、レオルドがやってくれるように、優しく。
自分が泣きたくなった時、寂しくなった時、みんながそうしてくれるように。
ぷちスライムは少し驚いたような顔をしたが、すぐにその身をリーナに預けた。瞳を閉じて、互いに温かさを分け合う。
意識が広がっていく感覚がした。
ぷちスライムと溶け合って、だけど分解はされずにそのままの形を保った意識がある。
覚醒していく感覚の中、最後にリーナは幼い子供のような声を聞いた。
『りーなちゃん、おまもりしますのーー!!』
――ハッと瞳を開くと、リーナはそこに立っていた。
薄暗く、不気味な赤の光に包まれていたその部屋は、今は鮮明な青に彩られ眩い光を放っている。魔力の奔流が渦巻き、リーナの長い髪を逆巻く。
なにが起こっているのか、リーナは理解できなかった。
ただ、意識は保っているのだと知り、慌てて自分の体を確かめた。その身が崩れさった様子はない。
ほっとすると、ふと自分の右腕に黄金の腕輪がはまっているのに気が付いた。
六枚の花弁がついた花が一つ彫られた腕輪だ。
こんなものをしていた記憶はない。不思議に思ったが、腕輪からはあったかい感覚がして嫌な気分にはならなかった。
『りーなちゃん! りーなちゃん!』
足元から可愛らしい声がする。
下を見れば、ぷちスライムがぴょんぴょんと軽快に飛び跳ねていた。檻は破られ、ぷちスライムからは溢れんばかりの生命力を感じる。
「ぷち、すらいむちゃん?」
『はいですのー!』
元気になったのは喜ばしいが、それ以上に驚くべきことがある。
……魔物が喋ってる。
上級の知恵の高い魔物が言葉を操ることがあるそうだが、スライムが喋るとは聞いたことがない。
『りーなちゃんの、まりょくのおかげで、げんきもりもりですの! なんかあたまもすっきり、ひとのことばもりかいできますの!』
突然の出来事に、理解が追いつかず目を白黒されていると。
「へぇ……まさか、融合合成の儀式魔術でこんなことが起こるなんてね」
驚いたような様子で、真っ白なお兄さんがこちらを見ていた。青い光を遮るように周囲に防御膜を張っている。彼にとってこの青い光は防がなくてはいけないものらしい。
「君に『魔物使い』の才があったように見えなかったけど……どうやら儀式の影響による後天的覚醒のようだ。面白い」
もんすたーていまー?
その職業についてリーナはよく知らなかったので、首を傾げると彼は機嫌良さそうに答えてくれた。
「魔物と契約し、自在に操ることができる者だよ。契約の証に黄金の腕輪が現れ、六つの花弁の花が咲く。一人、何体の魔物と契約できるかは個人差があるけど」
リーナは現れた黄金の腕輪を見た。
どうやらこれは、ぷちスライムと契約した証だったようだ。
「でも、どうしてです……?」
『りーなちゃん、あったかい! あったかいは、せいぎ!』
ぴょんぴょんと、ぷちスライムが答える。しっかりとした答えではないが、それがこの子にとっての精一杯の答えなんだろう。
『りーなちゃん、かえろう! あったかい『おうち』にかえろう!』
「!!」
ぷちスライムもリーナの記憶を見ていたんだろうか。
胸にこみ上げるものを感じながら、リーナは頷いた。一人と一匹は、キッと成り行きをニコニコと見守っている白い男を睨みつけた。
「ふふ、さあ……お楽しみの時間かな? 強い子は個人的に嫌いじゃない。――お兄さんと少し、遊んで」
男の前方にいくつもの魔法陣が生み出される。
黒い靄が渦巻き、吐き出されるかのようにぼとぼとと物体が床に落ちた。
「――ひっ!」
思わず喉が引くつく。
床にはぬめぬめと鈍く光る鱗を持つ、無数の蛇がうごめいていたからだ。赤く長い舌をちょろちょろ出し、鋭い金の目が獲物を捕らえる。
『だいじょうぶですの! りーなちゃんの、まりょくはすごいんですのーー!!』
ぷちスライムはぴょーんと跳ぶと、すぅーっと周囲の青い光を吸いこんであっという間に巨大化した。そしてそのままドシン! と蛇の群れの上に落ちる。
蛇達は圧力に耐え切れず、ぺちゃんこになって消滅していった。
これには男もさすがに本気で驚いたらしい。
「この青い魔力、君が生みだしたものとはいえ……すごいなぁ――これはもうちょっと力を使っても楽しめるかな?」
男の背後から二つの大きな黒い靄が現れた。
村を襲ってきたものと同じだ。あれから子供が姿を変えられた化け物が出てくる。ルークが太刀打ちできなかった相手。
予想通り、黒い靄からは二つの化け物が現れる。ドロドロとした気持ちの悪い化け物だ。一つは、鹿のような魔物、もう一つは植物系の魔物だ。
「君の両手足をもいで、材料に加えてあげよう。魔力が豊富な子は、とっても強い子になってくれるから」
「――もう、こわくないですよ」
今なら分かる。彼は、リーナのことをわざと怖がらせて楽しんでいる。恐怖に歪む様を見て、笑っている。それを見るたびに、リーナの腹はどこか熱さを感じていた。
その熱さを、リーナは理解する。
――怒りだ。
リーナは、生まれて初めて怒っていた。
怒りはよくない感情だと知っている。だから感じないように、無意識にしていたのかもしれない。
誰かを『許せない』と思ったのも初めてだった。
そんなのは醜い感情だ。思っちゃいけない。だけど、それが必要な時もあるのだと分かった。
怒りも、許せないという感情も、なければ戦えない。
守りたいという真っ直ぐな気持ちと、醜い感情の両立をうまくすることこそが戦うという事。
恐怖が消え、一人の戦士のように立つリーナに、男は初めて表情を不快に歪めた。
「可愛くない子は、殺してしまう。貴重な魔力持ちの材料、きっと殺したら怒られる。でも、私は」
真っ赤な魔力の風が男の全身を覆う。
青と赤がせめぎ合うようにぶつかりあった。
「目覚めたばかりの子に負けるほど、私は弱くないよ。君は可愛くなくなったから、一番苦しい死に方で――」
リーナも、ぷちスライムも、そして男も――気が付いた。
リーナはその背に、眩いほどの光を感じて涙を溜めた青い目で男を真っ直ぐ見た。
「もう、りーなもぷちすらいむちゃんも――――ひとりじゃないのです!!」
リーナの背後の壁が一気に崩れ落ちた。
そこから転がるように、三つの影が部屋に飛び込んでくる。
真っ白なローブを纏った黒髪の少女、背の高い赤い髪の青年、魔導士ローブがきつそうな筋肉質のおじさん。
シア、ルーク、レオルドはあちこち擦り傷だらけのその顔で、リーナを見つけると泣きそうな顔で笑った。
『お待たせ!!』