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□46 起こしてきたぞ!

「やはり、聖剣でなければ傷一つつけられんか!」


 イヴァース副団長の苦し気な声が響く。

 必死の形相で抵抗するのは、イヴァース副団長をはじめ前線に立ったおじいさま、ペルソナおばあさま、レオルド、アギ君。その後ろに中衛としてリゼが戦斧を構えている。


「しかし、彼に偽の聖剣を使わせたくはありません。本物でも彼は御免被るでしょう」


 遅れて加勢してくれたのは、アルヴェライトさんと予想外にもキング、ハート、ジョーカーも加わり……個人的に一番腰を抜かしたのは。


「口よりも手を動かしなさい。気を一瞬でも緩めたらイケメン騎士様に葬り去られるわよ」

「めんどくさいなぁ」


 副団長と協力して動いていることは知っていたが、ラミィ様本人が直々に帝国にやってきてこちらに手をかしてくれるとは思わなかった。魔女と呼ばれるだけあってラミィ様の魔力は強大なものだ。レオルドの苦手とする結界魔法もアギ君のものの倍は質がいい。彼女の結界がなければ私達の命はすでになかっただろう。ソラさんに至ってはなんでここにいるのかわからない。色々とかかわっているとはいえ、超自由人なのだ根っからの。だから本当に驚いた。


「……ルーク」

「だいじょうぶです、おねーさん。おにーさんは、きしおーじさまをきゅうしゅつにいったのです」


 気を失って倒れているルークを私は支えていた。助けられたあの瞬間、絶望が視界を染め上げたがリーナの叫びとルークの思いが共鳴しあうかのように赤い光に満ち、私達は守られていた。ルークが昔から持っていたらしい赤い宝石とリーナが深淵の魔女から母シーアより贈られた不思議な魔宝石。同種の力が感じられたその赤い光は魔王と化したベルナール様を遠ざけたのだった。

 そのすきにより副団長達は陣形を整え、再び動き出したベルナール様と対峙した。


 現状はそんな感じ。なにひとつ状況は好転していないが、最悪に転がっていないのは奇跡に近い。リーナはルークの手を握り、祈るように赤い魔宝石の力を発動していた。


「これのつかいかた、りーなはわからなかったですけど……。こえがきこえたんです、おかーさんの。だからだいじょうぶ」


 リーナの力強い言葉が、今にも折れそうな私の心をしっかりと支えてくれている。


「クソがあぁぁあ! あのヒネクレ性悪騎士の鼻っ柱折る絶好の機会だってのに剣が届かねぇ!」

「やはり魔王という性質上、女神の加護のある聖剣に類するような武器でないと戦うのは難しいのでしょうね。そうだジョーカー、元勇者なのですから君が偽聖剣使ってみては?」

「ふざけろぉぉぉ! ぜってぇ使わねぇーからな! 二度と使うかあのクソアマ武器ぃ!」

「ジョーカーは元気ダナ。あとハーツは無意識に地雷を踏むんじゃナイ……」


 ジョーカーはホントうるさい。人間だった時より活力がある、ありすぎる。押されてはいるがベルナール様と対峙することに高揚しているようで、キングやハーツの援助を受け縦横無尽に走り回っている。勇者一行の旅立ちの夜に行われた試合でベルナール様にビビり散らかしていたあの彼とは思えなかった。

 彼が独断と偏見で選んだ旅の同行者だった彼女達はそれなりに腕があったはずだが、勇者の支えとなるにはいささか不十分で、彼もそれは理解していたはずだ。

 だからこそ、十分な力を発揮できる『仲間』が本当は彼には必要だったのだろう。それが魔人とはなんともいえないことではあるが。


「なんという体たらく! 聖剣を扱いし者が我らの聖剣を拒み、真っ先に倒れるとは。勇者が聖剣で魔王の心臓を貫いたときこそ、世界を変える力が得られるのだ。それをなぜ拒む」


 理解できぬとローブの老人はうなった。それをおじいさまが苦い顔で見つめた。


「皇帝陛下を愚弄したあげく、あまたの命を弄び、多くの運命を狂わせた者。お前がなにを言おうが、その行いに理はない」

「理? はっ! 永劫続く牢獄のような女神の世界からの脱却はいずれ必ず必要になるのだ。一の犠牲か、多の犠牲かを選ばなくてはならぬ世界に未来はない。我らの創造せし新たな女神こそが真の幸福と自由へと導く。賢者がその意思を手放しても、数百年続く我らが悲願は止められぬ――ぐっ」


 老人の口をふさぐようにラミィ様が魔力の糸で老人を拘束した。


「悲願は誰しもが持つ重い願い。だけど、それを認められないのもまた誰かの悲願よ。……ごめんなさいね」

「ぐぅっ、お、おまえ……は」


 老人はラミィ様を見てなにかを訴えかけたが彼女の強い拘束により言葉はかき消えた。


「それは遠き願いダ、我モ、捨てなくてはいけないのだろウ。今の者に渡すためにモ」

「……キング?」


 その様子を密かに見ていたキングが零したつぶやきにハーツは首を傾げたが、答えが返ってくることはなかった。


「ルークの目は、覚めないか!?」

「まだですっ」

「どちらにせよ、ルークがこの場のカギを握っているのは確かだよなっ」

「さすがに俺達には資格なさそうだしねっ」


 前線で踏ん張る彼らの限界は近い。なにせ相手の体力は無尽蔵だ。


「リーナ」

「もうすこし、です。おにーさんが……――!!」


 リーナの顔にも焦燥がのぞいていたが、その表情が一変してぱあっと明るい顔になった。


「おにーさんが、きしおーじさまにかちましたっ!!」

「――え?」


 その言葉の意味を知る前に、私の目の前が輝き、まぶしさで目がくらんだ。


「な、なに!?」


 ルークになにかあったのかと思い、視界の聞かない中で手を伸ばすとその手はしっかりと握られた。ごつごつとした手は、出会った時よりずっとたくましい。


「ルーク?」

「シア! ベルナール様、起こしてきたぞ!」


 光がおさまったその先で私の手を握り返してくれた頼りになる仲間は、今すぐその辺を走り回りたそうにしている大型犬みたいな笑顔でそう言った。

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