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□36 最悪な使い道

「リーナ! シア! よかった、心配してたんだ!」


 アルヴェライトの空間異動でおじいさまの元まで跳んだ私達は、ほっとした顔のルークに出迎えられた。ギルドで一番心配症で泣き虫なレオルドは珍しくこちらまで力強過ぎるハグをしに来なかった。それだけ状況は切迫している。


「侵入経路は?」

「わしが昔使った地下通路がある。それは今でも残っているはずだ……」


 古そうな地図を広げ、おじいさま、副団長、レオルドが中心になって作戦会議が繰り広げられていた。サラさんは子供達の面倒と出立の準備、周囲の警護など忙しく歩き回っている。ヴェルスさんはサラさんを手伝う形で、アギ君は作戦会議の補助をしている。


「……ヒース、どうせ経路も把握しているんだろう。お前はこっちだ」

「ひぃっ、そんな睨まないでください……」


 こっそり副団長の視界から消えようとしていたヒース様だったが、あっさりと見つかってこわもて三人衆の元へ連れていかれた。彼も色々と調べていたようだし、城の図面くらいは確かに知っていそうではある。


「シア、リーナ、どこに行ってたんだ? 副団長が心配ないって言ってたから大丈夫なんだろうとは思ってたが」

「時間がないとかでヒース様に個別に色々と話をね。衝撃的な話だったけど――」


 気になっているルークには悪いが、今にもこの部屋を出て作戦行動を開始しなくてはいけない空気だ。おじいさま達がいたのは見知らぬ家の部屋の中で、副団長が確保していた隠れ家の一つらしい。屋敷がある区画からはそれなりに離れており、襲撃されたさいにここへ逃げこんだようだ。


「じいさんから聞いたけど、襲撃者の目的はベルナール様だったらしいな?」

「ええ、そうみたい。ヒース様から話しは聞いたけど、私もベルナール様が連れていかれた細かい理由はよくわからなくて……」


 リーナならわかる。人造女神を造るために必要になるはずだから、でもベルナール様は? 彼が他の人と違う特殊は部分としては、血にアルベナを宿しているということくらいだが。


「シア」


 私もみんなと準備を整えていると、話し合いを終えたおじいさまがやってきた。


「おじいさま」

「わしも突然のことで状況を正確に把握できているわけではない。だが……あの騎士の青年、守れずすまなかった」


 私は首を振った。


「おじいさまのせいではないです。私も混乱していますし、まさかベルナール様が狙われるとは思ってもいなくて」


 人造女神の話を聞いた後でも、疑問に思える急な襲撃だ。私が知らなかっただけで皇帝は私と会った前後からすでに事態が動いていた可能性もあるけど……。

 私を姉と慕うあの皇帝の姿からはこの強行が想像できなくて違和感があるのだ。


 もしかしたら皇帝自らというよりは外部からの接触かなにかがったのだろうか。それを知るためにもどちらにせよ乗り込むしかない。


「いやーー! なんでーー!」


 おじいさまと話しているとシャーリーちゃんの叫び声が聞こえて驚いて振り返ると、全力でレオルドの胸板を叩いていた。


「なんでシャーリーだけここでお留守番なの!?」


 なんとなく察しておじいさまを見た。


「シャーリーとシンは置いていくことになった。さすがにシャーリーは火の王という精霊に訓練をつけてもらっているとはいえ実戦には程遠い。シンは戦うすべがなにもない。本当ならリーナも置いていきたいが狙われている以上、置いていく方が危険だろう」


 それはそうだ。ただシャーリーは子供らしく癇癪を起すこともあるが、危険だとわかりきっているところには行かないし、わきまえることもできる。なのに今回は駄々をこねているのが珍しいなと思った。


「シャーリー、あなただけじゃなくシン君や私とヴェルスも残るから」


 子供二人だけでは心配なのでサラさんとヴェルスさん、夫人も残ることになっているようだ。


「あ、あの、おばさんシャーリーは――いっ!」


 なにか言いかけたシンが顔をしかめた。よく足元を見るとシャーリーちゃんに踏まれている。


「いい! ……ごめんなさい、ママ。シャーリーちゃんとお留守番する」

「? そう、ありがとう」


 サラさんは場がおさまったと思ったようで安堵した顔でシャーリーちゃんを撫でている。子供達は子供達でなにか思うところもあるんだろう。子供な見た目だがしっかりご長寿魔王なペルソナおばあさまは豪快な準備運動をしている。鎌を振り回すのはいかがなものか。


「シアよ、クレメンテの若造が連れ去られたということは、アルベナに関する者も狙われる危険が高いのではと思う。わしも気を付けておくがリゼからも目は離さんようにな」

「あ、そうですよね! わかりました」


 自分も狙われている対象だが、確かにリゼも狙われる可能性もある。


「しかし、わしはとても嫌な予感がするよ。お主らよりもっともっとな」

「おばあさま?」

「わしが探していたあの心臓……結局見つからなかったが、もしそれがすでに皇帝の手の中なのだとすれば、そしてそれの最悪な使い道を知っているとしたら」


 ペルソナおばあさまがヨコハマで悪徳商人の屋敷を襲撃した一番の目的だったもの、ルート的に皇帝家が代々人造女神の研究指揮をとっていたのなら、可能性は高まる。


「ベルナール・クレメンテを討つ覚悟、決めておいた方がよいかもしれん」


 その言葉に、息が止まった。

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