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□25 自分探し

「ぎぃやああぁぁぁ!!」

「……うるさ」


 巫女様の試練から戻ってきて開口一番悲鳴って、こいつは本当に失礼だな。

 一緒にいたはずのジャックは、巫女様の社には戻らなかった。私が戻ったときにはルークと、そしてクレフト……いやもう魔人ジョーカーと呼んだ方がいいのか、彼ら二人がちょうど戻ってきたところだった。そしてジョーカーはなぜか私の顔を見るなり悲鳴をあげたのだ。

 なんでだよ。なにもやってないじゃん、まだ。


「うーん、勝ちはしたけどぼっこぼこにはされたからなぁ。主にクレフトが」

「いつまでもネチネチチクチクしやがって! だからお前はブスなんだよ、永遠のまな板ブス!」

「あぁ? よくわからんが喧嘩か? かうが?」

「もう、おねーさんたちけんかしないのー!」


 大人げなく喧嘩腰の私をシャーリーちゃんが止めた。口だけはぺらぺら罵詈雑言を放つ男だが私が好戦的な姿勢をとると、すっとルークの後ろに隠れた。どうも試練で出会った私がかなり怖かったらしい。


「シャーリーちゃん、ずっとリーナの傍にいてくれてたの?」

「うん、いろいろとあるけどね……シャーリーもちゃんとおとなになってかないとなぁって」

「うん?」


 子供の中であの喧嘩はそれなりにけじめがついているらしい。ほうっておいても大丈夫は本当だった。


「リーナ、ゆめのなかでとてもうれしそうなの。あいたいひとに、あえたのかな?」


 シャーリーちゃんの言葉に私はちらりと眠るリーナの顔を見た。健やかで穏やかで、シャーリーちゃんの言う通り嬉しそうな寝顔をしていた。おばあさま達もリーナを連れていったのは悪いものじゃないと言っていたから、リーナの方は本当に大丈夫なんだろう。

 でも、リーナの会いたい人って?


「レオルド達はまだみたいね。そういえばアギ君とシン君は?」

「だんしはおそとで、ぼうけんのおはなししてるー」


 ちょっとむくれた顔でシャーリーちゃんが教えてくれた。


「ちょっときいちゃったけど、しょーらいふたりでだいぼうけんしにいくんだって。おとこのこはいいよねー。シャーリーはパパにおねがいしたら、ぜったいダメっていわれるもん」


 あー、レオルドはなぁ。言いそうだ。それにレオルドが言っていたが、シャーリーちゃんは体が丈夫じゃないそうだ。火の王の加護でこれからだいぶよくなっていくだろうとは言っていたけど……。


「いつかシャーリーちゃんも大冒険に行けたらいいね」

「うん! いっぱいしゅぎょーして、つよくなったら……リーナといくの。そういうの、リーナがおきたらいっぱいおはなしするんだ」


 そっか、と自然と笑顔がほころんだ。

 この世界はいろいろと難しくて複雑だ。だけど子供たちの夢にそんなことは無粋なのである。世界は冒険に満ちている、それでいい。


「ふふふ、子供はかわゆいの~」

「あ、おばあさま」

「三人は無事に戻ってきたか。あとは……まぁ、あやつらは少し時間がかかるだろうな」


 あやつらは、レオルド達のことだろうか。


「あのこらの問題は難しすぎる。自我を持ったわしだが、まったく正解がわからんからな。だからこそ、当人達がどう思い、なにを決断するのか。それが重要だと思っているよ」


 複雑そうな顔をしながらも、おばあさまは私の頭を優しくなでてくれた。


「よしよし。よう試練を越えてきたの~。いい顔になってきたぞ。とはいえ、お前のことだからたやすく迷うのだろうが」

「……まぁ、それは性格なので。でも、導が輝いている場所に気づきましたから」

「うんうん。お前が本当は何者であるかなど、わしにはどーでもいいことじゃ。それはグウェンも、そしてシリウスもそうじゃろ」


 己の中にある、なぞの恐ろしいほどの力。めぐみさんの力と合わさったことでそれは広がりをみせている気がする。


「おねーさん、じぶんさがし?」

「そうそう、いまだに見つからなくてねぇ」


 人生がそもそも自分探しみたいなもんではあると思うが、私はまた違って意味で己の生きる意味を問いかける。シャーリーちゃんがじっと私を見上げて。


「シャーリーね、ひのおうにいわれたの。これからさき、シャーリーはとってもたいへんなんだって」


 そのふいの言葉に、私の背筋は緊張した。


「ふつうのひとより、いっぱいいっぱいたいへんなんだって。シャーリーのからだがよわいのも、そのいちぶなんだって。でもね、おそとでいっぱいあそべなくても、からだじゅうがあつくていたくてもね、シャーリーはがまんできるんだ。だからひのおうにいったの、シャーリーはいっぱいしゅぎょうして、さいきょーのまほうつかいになるので、ごしんぱいなく!」


 シャーリーちゃんは、もう未来の自分が見えているんだ。えっへんと胸を張る彼女は、私なんぞよりよほど大人に見えた。あまたの障害がわかっていないだけだ、と言ってしまえば簡単だけど夢見る姿があるのは一番生きる上では必要なことだと思う。


「シャーリーはひとよりいっぱいたいへんでうまれたけど、そのぶんいっぱいしあわせ。しょうらいのだんなさまのため、すてきなじぶんをさがしにいくのよー」

「よい自分探しじゃのう!」


 ペルソナおばあさまはそう言って笑うとシャーリーちゃんごと私をぎゅーっと抱きしめた。

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