□13 アウトだろうが!
「反省してください」
「……ごめんなさい」
私は混乱しているかもしれない。
いや、している。正気だったら、いくら昔の……巫女さんが作り出した試練の空間内だとしても司教様を正座させて説教などできない。だが私は気がつけばイヴァース副団長(少年)とセラさん(麗しの美少女)をかばい、レヴィオスを吹っ飛ばしていた。とはいえ彼も私ごときにやられるたまではない。しっかり防御をとって怪我はなにもなさそうだった。私が前に出たうえに、仕事を邪魔されるとは思っていなかったのか、彼はしかめっ面だったが、私も今更引けない。この場は絶対に話し合いが必要なはずである。レヴィオスは独断でしなくてもいい戦闘をしているのだから。
セラさんを守る、という点においては双方目的は一緒なはずなのだ。
私対レヴィオスなら彼に軍配があがるだろうが、私を味方だと判断したイヴァースとセラ、ここはもう同年代みたいなものなので呼び捨てさせてもらおう、が援護をしてくれたおかげでレヴィオスがおされることになった。
そしてレヴィオスの相棒である義弟のシリウスさんは……。
「はい、大人しくしていてね」
「くそっ!」
銃口がぴったりとシリウスさんの頭にロックオンされていて、彼は動けない状態にされていた。いつの間にかもう一人、この争いに参加していたのだ。大人びた風貌の人だったが、年はイヴァース少年達とかわらないだろう。落ち着いた雰囲気とシリウスさんに殺気の満ちた眼光で睨まれても動じない度胸といい、場慣れしている感じで、この中の誰よりも年上に見えてしまう。
「若干17歳で個人の探偵事務所を開き、その才覚であらゆる事件を解決に導く……巷ではその美しい容姿から黒曜の君とも呼ばれるそうですね。しかしその裏稼業はそこそこディープな闇ギルド、限りなくアウトよりのグレーなようですが……どうしましょうね?」
どうしましょうね、と言う彼は穏やかな笑顔を浮かべている。
めちゃくちゃ怖い。背筋が寒くなってくる。
「こっちはともかく、そっちは厄介そうだな」
レヴィオスは渋い顔だ。こっちとはイヴァースのことでそっちとは新たな参入者の方だ。
「はあ!? 闇ギルドだと!? アウトよりのじゃなくてアウトだろうが!!」
イヴァースはますますやる気になったが、レヴィオスはイヴァースの方には視線をやらなかった。あちらから外す方がまずいという判断だろう。
「俺の事よく調べてんじゃん。初対面だよな?」
「初対面ですよ。ですが、この街に入ることが決まってすぐにあらかた情報は集めましたので」
とはいえレヴィオスは表向きは普通の探偵事務所である。そこから闇ギルドまでの経歴を調べられるのはかなりの情報に通じたやり手でなければ無理だ。
「何者だ、お前」
「これは失礼しました。私は王国騎士団の一つ、地方騎士のジオです」
ジオさん!?
よく見たら確かに面影はある。あの天馬ギルドの長を務めている姿からはほっそりとしているが、ジオさんを少年にしたらこうなるであろう、納得の顔。ギルドに所属しているところしか知らなかったため、元騎士だったのは少々驚きだ。
でもイヴァース副団長にコネがあったところを考えたら、関係者だったというのは気がつかなかった私が鈍い。
「地方騎士、ねぇ。それにしちゃあ……まぁいいや」
ジオさんの所属の発言になにか引っ掛かりがあったのか、レヴィオスは眉をひそめたがそのまま溜息をついた。
「はいはい、参った! 参りましたよ~」
そう言って座ったので、ようやく話し合いをしてくれるのかなと期待した……私はバカだった。油断したイヴァース達をレヴィオスの魔剣が襲ったのだ。無詠唱でくりだされる魔剣の雨。あまりにも殺傷力のありすぎる攻撃に。
「いい加減にしなさーーい!」
私の防御魔法がさく裂した。シールドと回復特化のヒーラーをなめるなよ。今は聖女としての力はないが、得意な能力が潜んでいる。メグミさんの影響もあるし、この点のみでいえばレヴィオスの攻撃をしのぐのだ。
相殺された魔剣に驚愕するレヴィオスに私は勢いで説教をはじめてしまった。そして冒頭である。
結果、レヴィオス達の探偵事務所にみんなで集まって話し合うことになった。イヴァースは地方騎士になったばかりで相方に同年代で一年早く地方騎士になったジオと組んで今回の仕事、セラを無事に王国へ送り届けるために動いていた。そもそもイヴァースはセラとは昔に知り合っており、約束もあって無理を言って来ているらしい。王国の騎士が帝国入りできたのは、ここがそもそも国境の街であり、この街の中だけならばそれほど滞在も難しくはないからだ。審査はかなり厳しいが、騎士ならばそれなりに国が身分を保証してくれているので一般人よりは通りやすいのだ。ただし、期限付きの滞在となるが。
「で、なんとかセラを国境の街まで護衛できたのはよかったが……」
思いがけずこの街で足止めをくらっていた。そのあたりの裏事情は闇ギルドに通じるレヴィオスの方が詳しい。
「貴重な悪魔サンプルだ、そりゃ一部の人間は逃がしたくないよなぁ」
そもそもセラが住んでいた集落は、悪魔病患者の隔離施設で慈善団体をうたっておきながらその実態は非道な実験場だった。悪魔病患者はほとんどが二十歳を越えることができないが、その間になにがあっても外部にその情報がもれることはないし、忌避される存在である彼らを心配するような者も少ない。
胸糞悪い話である。
「それで、話し合いをしろと言われたが……清廉潔白な王国の騎士様は闇ギルドの手なんかかりていいんですかね?」
わざと煽るように言うレヴィオスにイヴァースは唇を噛んだ。悔しい感情がにじみ出るが、己の実力不足は理解しているだろう。明らかに戦力差がある。ジオが来なければイヴァースはなにもできずにセラをレヴィオスに引き渡す羽目になっていたはずだ。
「清廉潔白な我々は、もちろん闇ギルドなどの手を借りることはできません。ですが、『一介の探偵事務所』の手を借りるのは別に問題ないでしょう」
ジオがにっこりと言った。
手段と任務達成ともろもろ天秤にかけて、うまくバランスをとるのはさすがジオさんである。思わずさんづけになってしまう。
「ジオ!」
「正道で進めるのならそうしますが、世の中そんなにうまくはいきません。真っすぐさがあなたの美徳ですが、それでは難しい場面もこれからいくらでもありますよ」
私はいつまでもあなたのケツを拭ってなどあげませんからね。と鋭い言葉も飛び、イヴァースは黙ってしまった。副団長が今のあの副団長になるには、やっぱり色々と理不尽な経験なども経てのことだろう。昔の副団長も青いが『らしい』なと思った。




