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□1 それだけでいいんじゃないかな

「助言を! 助言をお願いしますっ!」

「娘が同年代の子と喧嘩するのははじめてで俺もどうしたらいいか!」

「こういう場合は、親としてどう接するのがよいのでしょうか!?」


 私とレオルド、サラさんの三人で必死に頭を下げているのは帝国最新鋭だという通信機器としても使用できるパソコンの画面だった。そこに映し出されているのは、王国にいるはずのアギ君が所属するギルド、蒼天の刃のマスター、エルフレドさんだ。

 アギ君達が買い物から帰ってきて、アギ君とシン君に相談されたのはリーナとシャーリーちゃんの喧嘩? だった。正確には喧嘩にまで発展してるわけじゃなく、リーナの態度にシャーリーちゃんがモヤっているというか拗ねているという感じらしい。リーナは周囲に迷惑をかけないようにいつも気をはらっているところがあり、シャーリーちゃんは年相応に感受性も豊かだ。正反対といえば正反対の二人で、だからこそ前に行きにくいリーナをシャーリーちゃんが明るい笑顔で引っ張っていく部分もあり、噛みあうと高い相乗効果を生み出す組み合わせでもある。

 だが一回こじれると大変かもしれない。シャーリーちゃんが真っすぐぶつかろうとしてもリーナは衝突をさけようとしてうやむやなままにかわしそうで……。思い切り傷つけあうこともないが、わかりあうことも永遠にない。そんな長く付き合ううえで致命的な問題になりそうな予感がする。シャーリーちゃんには両親がそろっているし、リーナの方は私やルークが親身になって相談にのる……ってこともできるだろうけれど、なんというか今回の問題の根源には親が大きな割合を占めている。リーナに歩み寄るには、恵まれた家庭に育ったシャーリーちゃんでは難しく、子供の喧嘩に親がでしゃばるのもよくないと聞く。ならば私とルークが! もしくはリゼが、となるが。

 私とルークは親がいない。リゼの場合は、呪いの影響もあって関係が薄い。しいていえばリゼがリーナと一番近い環境ではあるが、リーナの相談相手になるにはリゼには重いと彼女は不安げだった。リゼ自身もまだ自分と親の感情の整理がついていない状態なのだろう。

 難しい、難しすぎて頭を悩ませすぎているとアギ君が「提案なんだけど」と切り出した先で出てきた人物がエルフレドさんだったのだ。


「え、えーっと……」


 今回私達が帝国を回るうえでイヴァース副団長とラミィ様がまとめてくれたというギルドとの協力関係。アギ君がこちらにサポートにきてくれたということは蒼天の刃がそれを受け入れているということだ。だからエルフレドさんに通信をつなげることは容易ではあったのだが、急にそんな相談をされるとは思ってもみなかったであろう。案の定、エルフレドさんが面食らいながらこちらもこちらの話を聞いてくれた。


「話をまとめると、リーナちゃんとシャーリーちゃんが喧嘩……とまではいかなくても少しぎこちない状態であるってことですね?」

「「「そうです!」」」


 三人の声がはもる。


「こういってはなんですけど……二人の場合、俺は放っておいてもいいと思いますね」

「「「えーー!!?」」」


 なにかアドバイスをもらえるものと思ってしまっていた私達は驚きの声をあげた。放っておいて大丈夫なのあれ!?


「リーナちゃんもシャーリーちゃんも、よくうちでアギが勉強を見ている関係で接する機会も多のであの子達の性格はなんとなく察せられます。シャーリーちゃんは真っすぐぶつかる熱血タイプで、リーナちゃんは争いを回避する大人タイプです」


 それはもちろん私達にはきちんと理解できている。だからこそリーナの回避能力になあなあになりそうで怖いと思ってしまうのだ。


「そうですね、懸念はもちろんわかりますが……あれでリーナちゃんって実は芯の部分で熱血タイプだと思います」

「え……? そうですか?」


 一度決めたことは曲げない強い意思のある子だが、熱血タイプと思ったことはなかった。


「もしかしたらあの子の癖なのかもしれませんね。無意識に周囲の感情の気配を察して、よく見えるように行動してしまうんじゃないかなと」


 息が……つまった。


「アギの前でも、他のギルドメンバーの前でもすごくいい子な大人タイプを発揮していますが、俺だけの前だとたまに無言で膝にのったりしてきますよ」


 あんだってーー!?


「仕事の書類がテーブルに置いてあって、明らかに仕事中ですって感じなのに無言で乗ります。猫みたいだなぁーって思ってました」

「え、え? そ、そそそんなことうちではやりませんが!?」

「といっても本当にたまーにですが。俺の前でも普段は良い子なので、仕事の邪魔になるようなことはしませんが、なぜかふいにそんなことをしたりするんです。だから薄々、リーナちゃんは感情を抑制しすぎているんじゃないかと。あまりにも長くそうしすぎたせいで、あの子自身気づかぬうちに良い子のふりが、ふりでなくなってしまったんじゃないか……そう思えてしまって」


 シアさんはなんとなくわかるのでは? と、穏やかな顔で言われてしまった。

 そうだ、私もそう。いや、リーナみたいに純粋ではないが周囲の大人達の顔色をうかがってその人にとっての良い子をずっと演じていた。良い子は身につかなかったが、処世術を身につけた。だからこそギリギリまで売り飛ばされずにすんだ。リーナはどうだ? 母親に愛されたくて必死だったあの子はずっと良い子でいようとした。

 リーナの……特殊能力は――オーラの可視化。人の感情が色として見える。だからこそ感情に誰よりも敏感だったはず。


「だからこそ、シャーリーちゃんからぶつかられたらあの子は逃げられないと思いますよ。大喧嘩になるかもしれません。それで大嫌いな他人になってしまったら、それはそれで一つの結末です。人間関係はそういうものでは?」


 意外に少し冷たくも感じたが、実質エルフレドさんの言っていることは間違ってはいないと思った。レオルドとサラさんも深く考えながら、エルフレドさんにお礼を言っていた。助言はもらった、あとどうするかはこちらの動き次第だ。

 通信を切る前に、もう一つエルフレドさんが私に対して言葉を残した。


「そうだ、シアさんに一つ言っておきたくなりました」

「なんでしょう?」

「自分はその人のことを理解できないから、ちゃんと相談に乗ってあげられない。解決してあげられないと思っていないかな?」

「それは……」


 大切な人が増えるほど私は悩む。だって、私には理解できないことが多いから、もっていないものが多すぎるから。どうしたらいいかとたたらを踏む場面が多くなりつつあるのは事実だ。自分が何者かもわからなくて、私が話を聞いても意味あるのかなって。


「シアさん、この世界に同じ人間はいないよ。同じ環境や境遇でも受け取る人間が違えば、感情も少しずつ違ってくる。同一なんてない。なのに、同じ体験をしていない、同じ思いを抱けない、同じじゃないなら理解できないなら、この世の誰とも交われない。違ってもいいと俺は思うし、違って当たり前だとも思う。大切なのはその人に寄り添いたいと思う気持ち一つじゃないのかな」

「エルフレドさん……」

「俺はシアさんのこと、わかんないよ。でも、その顔を見た時にね……できるかぎりの言葉を尽くしたいと思った。本来、それだけでいいじゃないかな……ね?」


 子供をあやすような口調で言われてしまった。

 今、すごく泣きそう。

 胸がいっぱいになっている、この現状がエルフレドさんの言葉の意味を証明してくれていた。成人してぐずるなんて恥ずかしすぎて必死にこらえながら、お礼を言って通信を切って。

 その足で、早足で向かったのは……ペルソナおばあさまのところだった。

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