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■38 もっと仲良くなってもいい

「あら、可愛い子達ね。どうしたの?」


 ホテルにとんぼ返りすることになった私達をサラさんが首をかしげて出迎えて、見知らぬ少年少女がいることに気がつくと自然な動きで二人と目線を合わせて微笑んだ。


「おお! 主にも覚えがあるのう。あれじゃ、そなたノーラじゃな! 精霊王と姫巫女の血を受け継ぐ世界渡りの子じゃ」

「……え?」


 少女の言葉にサラさんは驚いた様子で口を開けた。


「せかいわたり――って、それをあなたどこで……」

「サラさん?」


 私にはわからない単語だったが、サラさんには覚えがあるのかその言葉に意味を聞き返そうとして。


「あ、うん……いいの。こんな小さな子じゃありえないわよね? お帰りなさい、事情は中でね」


 自分のせいで私達がドアの前で立ち往生になっていることに気がついてサラさんが慌てて中へと戻り、なんだか上機嫌な少女と疲れた様子の少年を伴って部屋の中へと入った。


「あれー? おねーさんたち、おかえりなさーい」

「おかえりなさい」

「の~」


 子供達は帝国の地図を開いて、地名を覚えつつ卓上旅行のような遊びをしている最中のようだった。思った以上に早く帰ってきた私達を不思議そうに見ながらも出迎えの挨拶をしてくれた。


「ぬあああぁぁぁーーーー!!」

「うわっ!?」


 ただいま~と子供達に返そうとしたが、少女が雄たけびにも似た叫びを発してしまって思わず耳を塞いだ。可愛い声なのになぜか雄々しさを感じた。


「ノーラ!? こちらの小さき娘の方がノーラではないか!? どういうことじゃ!? あれ、どうしてこれがこう……? いや、そのようなもの些細なこと! おぉ、ノーラよ会いたかったぞっ」

「ふえっ!? なにこのちいさいおねーさん――ぐえぇ……」

「しゃ、しゃーりーちゃん!」


 サラさんに対しても少女は、ノーラと言っていたがシャーリーちゃんに対してもそう反応した。しかしサラさんと違って対応がさらに過激だった。力いっぱいシャーリーちゃんを抱きしめているのか、シャーリーちゃんからかえるがつぶれたような悲惨な声があがる。


「ああ、これこそいとし子の息吹……。あの時のノーラではなくとも、確かに紡がれ繋がっている命の尊さがある。だから、だからこそ……わしは、わしはぁ」


 腕の中のいとし子がいままさに白目をむこうかという中、少女の方はというと感極まって泣いてしまっていた。

 もうなにがなんだか。







 ---------------------------------




「申し遅れた。わしの名は……そうじゃの、仮にペルソナとでも呼ぶがよい。真名ではないが、呼び名がなくてはいかんだろう」

「……僕のときは教えなかったくせに」


 隣の少年が少し不満そうに呟いたが、ペルソナと名乗った少女は気に留めなかった。

 ペルソナは気持ちを落ち着けると、ようやくシャーリーちゃんを離して自分の事について説明をはじめてくれた。


「ペルソナ・リフィーノ。人として動くにあたって、呼ばれるための名である」

「リフィーノ、って」


 私が呟くとみんなが私に視線を向けた。

 リフィーノの由来は教えてもらっている。孤独ゆえに、孤独を紛らわせるためのかりそめの家族としてどこかでつながるための家名。

 おじいさまからシリウスさんへ、そしてシリウスさんから私へとつながる家名。

 孤独のよりどころであるこの家名を持つのが、私達だけとは限らないとは思っていたが彼女もまた同じようなものらしい。


「こっちの少年は、シン・リフィーノ。縁あってわしの養子となっている」

「「「養子!?」」」


 思いもしない関係に目が丸くなった。


「ほほほ、愉快な反応よ。お主達、どうやらわしを幼子のように思っているようだが、まるで違うぞ。それこそこの中の誰よりも年寄りよ」


 なにを隠そうわしは……そう、大仰な雰囲気でなにかを言おうとした瞬間、パタンと扉が開く音がした。つられてそちらの方へ視線をむけると。


「あ……え……?」


 おかしなものでも見るかのように、もしくは恐ろしいものを見るかのようにリゼが顔を強張らせて立ちすくんでいた。視線の先にはペルソナがいる。


「なん、なんで……ここに……」


 そういえばリゼは部屋の奥で休んでいて、こちらには呼んでいなかった。あまりの動揺振りにどうしたのだろうと不思議に思ったが、顔があまりにも白くなっていたので部屋の奥に行かせようと立ち上がったが。


「――アルベナっ、この子、アルベナよお姉様! 間違いない、間違えようがないっ」


 引きつった悲鳴をもらしながらも、リゼは必死に傍に寄った私の腕を掴んだ。

 アルベナという名に、ぞわりと背筋が寒くなった。探してはいた。いたが、こんなにも予想外の形で招くようなことになるとは、あまりにもの展開に全身が凍り付く思いだった。

 全員が咄嗟に身構えたが……。


「なんじゃよってたかって年寄りをいじめるつもりか? わし、悪いことなどなーんもしとらん……いや、ちょっと仕置きはした覚えはあるがぁ~えーっと、主らに危害をくわることはないぞ?」


 およよ、とわざとらしすぎる泣きまねをするので気がそがれた。確かにペルソナからは悪意を感じないし、隣の少年はそれこそ無関係そうな人間の子供のように感じられる。


「確認するけど、ペルソナ……あなたはアルベナなの?」

「うむ。シア、そなたは知っているであろう? アルベナの生体を。アルベナは今を栄える人間とは違って分裂することによって個体を増やす種じゃ。分裂体はアルベナと同一でありながら同一ではないというそなたらにとっては不可思議すぎる個であるだろうの。わしもまたアルベナから分かれた個体であり、アルベナと同一でありながら個として別の心、精神をもった存在じゃ。そなたの父、シリウスと同じようにな」

「……シリウスさんと同じ」


 ああ、だからかな……懐かしいと思うのは。

 シリウスさんもまたアルベナから分かれ、個を持った存在だ。だからその説明で私はすんなり受け入れられる。みんなも理解は難しくても受け入れようと話に耳を傾けていた。


「というかの? わしとしてはシア、お主とはもうちっと親密になりたい心境なのじゃ。なんせわし……シリウスの分裂元だからの!」


 …………へ?


「――えぇぇぇ!?」


 一瞬思考停止したが、急激に浮上した。


「ぶ、分裂元!? シリウスさんの? でも、シリウスさんは分裂元は死んだみたいって」

「わし、アルベナの分裂個体の中でも別格でな。己を分裂体とはまた違った形で肉体をちぎることができての~。そのちぎった肉片はある程度の知能と能力を持って行動する、そこからなぜかわしも意図しなかった分裂が起き、生まれたのが後にシリウスと名付けられる個よ」


 開いた口がパクパク動いて、だが声に出ない。

 それは一応、つまるところ。


「のう? わしらはもっと仲良くなってもいいじゃないかのう、孫よ!」


 頭の中がぐるぐるしている。

 えーっと。

 えーっと。


 私の……家族が、増えました……?

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