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☆21 待っています

「兎にも角にも、問題なのはレオルドさんの抱える借金ですね」

「そ、そうだな……」


 ギルドに戻り、席に座り直した私達は面と向かって面接を再開した。

 レオルドは、ちらりと扉の外を気にしており、まだ消えた彼らの安否を慮っているようだ。

 彼らのような強引で暴力的な取り立ては国の法律で禁じられている。騎士団に突き出すには人手と手間がかかるので奥の手を使い、彼らにはキツイお灸をすえさせてもらったが、命に別状はないはずだ。昔はともかく現在は司教様として慈悲深き女神に仕える身なのだから。……たぶん。


 こちらとしては今一番問題なのは、レオルドさんが五千万Gという想像もつかないような金額の借金を負ってしまっているという事実。困っているなら助けてあげたいとは思うが、我がギルドはまだまだできたばかりのFランクギルド、弱小も弱小――小さなことで簡単に潰れてしまうようなギルドである。ギルドランクA以上、それこそ伝説とも謳われるSランクギルドにでもなれば借金返済も夢ではないけれど……。


「聞いたお話をまとめると。レオルドさんは、貴族の屋敷の警護をしていて誤って高価な壺を割ってしまった。屋敷の貴族はレオルドさんに百万Gすぐに払わなければ帰さないと言われ、慌てたあなたは貴族の方の言う通りに別のところからお金を借りてしまった。そして色々難癖をつけられ、気が付いたら借金は五千万Gとなってしまっていた……と」


 大きな体を縮こまらせて、申し訳なさそうにレオルドは頷いた。

 うーん、大変に困った事態だ。

 その貴族は、どう考えても金を巻き上げようと考えている極悪人だ。詐欺を働いている証拠さえつかめればいいのだが、それには密偵を雇ったり、法に詳しい人物の助言を仰いだりしなければならない。

 はっきり言って、うちはまだまだ貧乏である。とてもじゃないが資金が足りない。


「……一つ、提案があります」


 できれば使いたくない手ではあるけれど。


「提案?」

「はい……うちがギルド銀行から、とりあえず百万G借ります。それで借金取りの方を黙らせましょう。彼らはもう来ないでしょうけど、別の人が来ても困りますので」

「だが、それだと……」


 そう、又借りだ。

 借金の借金。だけど、強引な手を取る悪徳借金取りから連日犯罪紛いの取り立てをされずにすむ。ただ、一度借りたら、期日内にきっちり返済できないと社会的信用を無くす。もうお金を借りることができず、貸付金も組めない。これから良い建物にギルドを移そうという時、困るかもしれないのだ。


「ギルド銀行の返済期日は、金額にもよりますけどこのくらいなら五年というところでしょう。――大丈夫、問題ありません」


 五年以内には、ギルドランクAを達成していなければならない。

 司教様と約束をしたのだ。魔王を倒すための力を整えるのにそう時間はかけられないと。しっかりと期限を設けられたわけではないけれど、おそらく三年が限度のように思える。魔王の進攻は今はまだ大人しい方だが、年々勢いを増しているのは目に見えている。たぶんだが、目覚めてから徐々に力を取り戻しているからなんじゃないかと思われた。

 三年以内に、高ランクギルドに……B、もしくはAになって活躍すれば百万G返済は可能なはずなのだ。

 私のギルド、暁の獅子のメンバーは粒ぞろいだ。ルークは、順調に最強剣士としての道を歩み出したし、リーナの人のオーラを見られる力は貴重である。私も聖女の力が消えなければ、高い補助戦力として役立つはずだ。他に仲間も集まれば、叶えられない目標ではない。


「残りの四千九百万Gは、徹底的にその貴族の方を調査して詐欺の摘発を試みます。正当な額が提示できたら、その金額を頑張って働いて返済する……と、こんな方針でどうでしょうか?」

「そ、そりゃあそれができるならありがたい話ではあるが。――正直、お前達に利点がないだろう?」


 それはそうだ。

 一人のドジッ子なおっさんの為に、多額の借金を肩代わりするなんて普通は受けない。

 でも……ね。


「なあー」

「なうー」


 白と黒の仔猫達がレオルドの足元にやってきて寛ぎ始めた。リーナも追いかけるようにしてやってきて、笑顔でレオルドの顔を見上げる。そんなリーナを、彼は太陽のような温かなまなざしを向けて頭を撫でてやるのだ。まるで本物の親子のような光景に、ふんわりとその場が和む。


「……レオルドさんは、ご家族がいるんですよね?」

「ん? ああ、まあ……いた、だけどな今は」


 妻と子供には関わるな、と彼は言っていた。すでに離縁しているのだとも。


「離縁した理由はやはり……」

「ああ、借金の取り立てが厳しくてな。二人とも『大丈夫だ』『一緒に借金を返していく』と言ってくれたんだが……俺がな、耐えられなかった。日に日に弱っていく二人を見ていられなかった」


 レオルドはポツリ、ポツリと語ってくれた。

 どんなことになっても家族として一緒にいて借金を返済していく。そう強い気持ちを持っていたという奥さん。お父さんと離れたくないと泣いた娘さん。

 でもレオルドは決断した。二人と離縁して、借金はすべて自分一人が負うことを。

 被害が二人に及ばないよう、彼はすぐに彼女達を故郷の田舎に送ることにした。故郷には、奥さんのご両親がいるから二人が安心して暮らせるだろうという判断だった。

 レオルドとの別れの時、泣きつかれて眠った娘を背負って奥さんはこう言った。


『待っています。貴方が迎えに来てくれる日を……いつかまた一緒に笑い合える日を』


 瞳に涙を溜めながらも、懸命に笑いながらそう告げた奥さんに、レオルドも泣きそうな笑顔で約束した。


『必ず迎えに行く』


 と。


 それから沢山のギルドの門を叩いては門前払いされる日々だった。それでも働き口を懸命に探し続け、最後に辿り着いたのができたばかりの私達のギルド。

 小さなギルドだ、迷惑にしかならない、大した稼ぎにもならない。でも藁にもすがる気持ちでレオルドは私達を待ち続けた。


「――ぐすっ」


 ソファから鼻水をすする音が聞こえる。

 寝そべりながらもルークはしっかり話を聞いていたんだろう。案外涙もろい性質のようだ。という私も鼻水垂れそうだが。


「良い話だなー、で丸め込むつもりはない。俺の失敗が原因でこうなったのも事実で、それでギルドを潰してしまう可能性があるのも事実だ。でも俺は、それでも諦めきれない」


 家族との再会、か。

 ちらりと、ルークを見た。彼は私と目が合うと、こくりと頷いた。

 リーナを見た。リーナはぎゅっとレオルドの太い腕に抱きついた。


 それを確認して、私は一度息を吐く。

 情にだけ流されて、ギルドに入れるのは良くはないと思う。でもレオルドはとても温かい人物だ。リーナの反応を見ても明らかだし、ルークもそして自分自身もそう感じられる。

 うちのギルドの方針はなんだ。


「レオルドさん、あなたは家族同然となるギルドメンバーを大切にすると誓いますか?」

「え?」

「ギルドに入会する為の条件です。もう一度聞きます――誓いますか?」

「ち、誓う!」


 大仰に頷きながらレオルドが誓うと、私はパンッと手を鳴らした。


「これでレオルドさんはうちのギルドメンバーの一人ですね! ということで、敬語は外しても?」

「かまわない! だが、本当にいいのか?」

「レオルドの入会に反対な人ー」

『いませーん』


 ルークとリーナの声が重なった。


「だそうよ?」

「――うっ、ぐ……ありがとう、本当にありがとう」

「泣いてる場合じゃないわよ、これからバリバリ働いて貰って借金返済しないといけないんだから!」

「おう! 任せてくれ!」


 気合十分なレオルドを見て頷くと、私は彼の能力を見てみることにした。

 そして驚愕の事実を知る。


 剣の才 F→D

 斧の才 D→C

 槍の才 F→D

 拳の才 C→A

 弓の才 F→F

 杖の才 F→E

 魔法の才 F→S


 人柄 S


 ふむ、戦士の割に武器類の才能があまり良くないな。斧は頑張って訓練したあとが見えるけど伸び悩んでいる。拳の方は、さすがに体躯もいいだけあってセンスは良さそうだ。

 これは戦士というよりは、格闘家として育てていった方が才能を発揮するんじゃ――――。


 ん?


 あれ?


 え? ちょっと待って。


 一度見して、ありえない数値が見えた気がしたので目を擦ってから二度見して、やっぱり数値が変わらないので確かめるように三度見した。


 だが数値は変わらず同じ値を示している。


 筋骨隆々のマッチョなおっさんなのに――――魔法の才がS!?


 おっさんは、とんだ見た目詐欺だった。

12/12 おっさんの体型を修正。ガチムチ→筋骨隆々のマッチョ。ガチムチ体型を勘違いしていました。申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拳で殴るタイプの魔法使いってロマンありますよね
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