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■37 アイスくらいで泣かないで

「ご、ごめんね!」


 少女にぶつかってしまった、という認識はあった。なので体勢を崩して尻餅をついたがすぐに立ち上がって少女へ謝罪の言葉を言った。

 少女はというと私とぶつかった衝撃で私と同じく尻餅をつきそうになったようだが隣の男の子に咄嗟に支えられて転倒はまぬがれたようだ。怪我がなさそうでよかった。

 だが……。


「わしのアイスがぁーー!!」


 少女が嬉しそうに持っていたどぎつい色のアイスは、べったりと少女の服に零れ、コーンだけが虚しく手元に残った。


「本当にごめんね! 新しいの買い直すから……えっと、なにか拭くもの」


 可愛らしい黒と白のワンピースを汚してしまったので、クリーニング代も渡さなければと、私がワタワタしている中、レオルドは私が拭ったアイス跡を軽く乾かしてくれて、ルークはアイスが台無しになって半べそかいている少女ではなく隣の少年の方に声をかけた。


「悪いな、前見てなくて。お詫びしたいんだが、今大丈夫か?」


 少年は少し考えた後、ベソベソしている少女を肘でツンツンした。


「子供じゃないんでしょう? ならアイスくらいで泣かないで」

「年寄りじゃって楽しみにしてたアイス台無しになったら泣くわいっ!」


 と、少し冷たい対応をとった少年の薄い胸倉にむかって少女はバカバカと軽い拳で叩いた。

 うーむ、ぶつかっておいてなんだが可愛らしいコンビだ。見た目がぜんぜん違うので兄妹ではないと思うが、友人というのもなんだか違和感がある。

 少年は帝国人らしい黒髪に琥珀の瞳をしたアギ君と同じくらいの十二、三歳くらいの年頃かと思われる。目立つような容姿ではなく、私のような平均的な地味で素朴な印象の子だった。それは感情があまり顔にあらわれていないせいもあるかもしれない。

 対する少女の方は、薄灰色の長い髪に紫の瞳の少年と同じくらいの年恰好で、喜怒哀楽がはっきりとした見た目も愛くるしく性格も愛嬌がありそうな子だ。


 ……二人が並んでじゃれている光景は、なんだか私の胸の奥をじんわりと熱くさせた。

 なぜだろうか?

 少し考えて、合点がいく。


 少年の方は司教様に、少女の方は……シリウスさんに似ていると思ったからだ。私がおじいさまの屋敷で使わせてもらっていた部屋はシリウスさんが子供の頃に過ごした部屋。物は少なかったが、思い出の品はそこそこ置いてあって、おじいさまもとても大事に保管していた。その中に二人の昔の写真もあって、並ぶとそれとなく似ている気がしてしまったのだ。シリウスさんは昔は女の子みたいな見た目だったし、二人の髪、そして目の色がピースがはまるみたいにぴったりで。

 まるで在りし日の二人がそこにいるような気がしてしまったのだ。

 ちゃんと見れば別人なんだけどね。少年は色は同じような感じだが、司教様はかなり目立つ美少年だった。少女の方もぜんぜんちが…………。


「…………」


 違う。そう確かめるために思わず少女の顔を見つめてしまった。

 逆に、違うところはどこだ?

 性別くらいしか……。


「なんじゃぁ、わしのアイス弁償してくれるんじゃろ? 二段重ねを要求させてもらうからのぉ!」


 ぷりぷりと怒る少女だったが、私が目を丸めてじっと見てくるからか首を傾げつつも見返してきて。


「ん? ――あぁ!?」


 少女が先に大きな声をあげた。


「娘、そなたもしかしてリフィーノか?」

「え? あ、うん。そうだけど」


 ぼうっとしてしまったが、なぜ少女からリフィーノの姓がとびだしたのかわからない。


「ふむふむ、そうかそうか!」


 少女は嬉しそうに私の周りをぐるりと回った。


「遠くアルベナの眼を通してでしか見ることが叶わんかったが……」


 私を見上げる少女の紫の瞳が、愛おしそうに私の顔を映した。自分よりも年下の少女なのに、なぜこんなにも包まれたような温かな気持ちになるのだろう。母親の腕の中も知らないのに。


「よし、決めた! これも運命と受け入れようぞ」


 誰もが置いてけぼりな中、少女はひとり決意を固めた強い眼差しで私達を見回した。


「そなたら、わしの世界混沌計画に加担せよ!」


 ……ん? ごっこ遊びかな。


「アイスはもうよい! それよりも大事なことがあるからの。主らは今夜、わしと共にこの地に巣食う悪を滅するのじゃ!」

「えーっと、それってそれに付き合ったら許してくれるってこと……かな?」

「うむ!」


 それはまぁ、それでもいいか。

 子供の遊びに付き合うのも悪くはない。というか、悪いのは私だしそれで許してもらえるなら付き合おう。


「では今夜十時にここに集合じゃ! よいな」

「夜十時? 親御さんに叱られない?」

「おやご……? んなものはおらんから大丈夫じゃ!」


 え!? と衝撃の言葉を聞いて私は少年と視線を合わせると少年はなんだか言いづらそうに視線を外した。それで放っておいてはいけないセンサーが反応した。


「保護」

「保護かな」

「保護しよう」


 私、ルーク、レオルドの意見は一致し、さらばじゃーをしそうになっている少女と少年を連れ、予定を変更してホテルへ戻ることになった。

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