■32 自慢の痛車
「君達の目的を簡潔にいうとしたら、帝国のことがもっと知りた~い。ってことでいいのかな?」
ピンク髪ツインテールの可愛いコスプレメイド、ももさんの案内で私達はあちこち移動中である。移動は彼女の所有する車だったのだが、そのカラーリングに我々は絶句した。
皇都トーキョウでは見かけなかったイラストがプリントされたデザインで、可愛い女の子のキャラクターが大きくのっていた。ツインテールのピング髪で、ももさんはこのキャラクターの大ファンらしい。
「私の最推し、永遠音ミカの自慢の痛車よ! 素敵でしょうっ」
どや顔されたが、私達は反応できない。こういうイラストにも慣れていないし、ましてやそれを背負って人目をはばからず公道を走るなんてちょっと恥ずかしい。だが、道を走る車の多くが彼女の言うような痛車ばかりなのでこれが普通なのかもしれないと脳がマヒしてくる。
ルークが運転してきた車は、アキバで活動するための仮拠点である宿の駐車場に置いてもらっている。ももさんの車はカードパスが内蔵されていて、身分証がいるような場所でもいちいち停車確認の必要がなく便利なんだそう。私達はジャックの転移で入国したいわゆる密入国者である、そんな私達に身分証明などできるわけもないので、ももさんの協力が必要不可欠になるわけだ。ももさんに迷惑がかからないよう、私達も慎重に捕まるような悪手はとらないようにしないといけない。魔人側が帝国になんらかの働きかけをしているようで、今までそれなりに動いてもなにもないが、気を付けるにこしたことはない。
車の見た目はすごいが、中はわりと普通なので周囲が痛車だらけなこともあり、ちょっとすれば慣れはした。
「アキバの特徴としては、目につきやすいから一番面食らっただろうけど、こういう萌え事業が幅をきかせてるわね。他にもアイルドル系とか、大陸一の規模を誇る漫画市とかかな。キャラクターになりきるコスプレ文化も熱いし、なんといっても他の場所だとひかれるような趣味を外に出してても、そんなに迷惑にならない。棲み分けがしっかりされてるってことかな。ほら、アキバでも色々区画が分かれてるでしょ?」
ももさんの解説を聞きながら、マップを手渡された。かなり色々と細かく区画が分かれている。大きく東西南北で壁が作られ、そこからもこまごまと門みたいなので区切られているのが分かった。
「北区の一番奥にあるのはいわゆる大人だけしか入れないピンク区画だから、今回はスルーね」
未成年が三人いるので、それは絶対に近づけない。他メンバーは自己責任。
「と、一番に目につくのはこんな感じだと思うけど、実はアキバが帝国一番を誇るのはまた別にあってね。それが電子機器、端末とか機械類の開発、販売が盛んってところね。東区画のほとんどが開発企業のオフィスビルで埋まってるから、他の区画と比べると異質に見えるかな? アニメの制作会社とか、神曲が生まれる聖地としてオタク観光としては評判だけど」
「えーっと、アニメって……?」
「ああ、帝国の外の人はアニメって知らないよね。ほら、あれ見て、絵が動いているでしょ? 声もついてる。ああいうのが簡単に言うとアニメかな」
機械の開発が盛んという話からも察せられたが、この街にはいたるところにモニターがある。そこには実在の人ではなく、絵からおこされたキャラクターが動いたりしていた。
なるほど、あれがアニメか。
「子供向けもいっぱいあるわよ。後ろの子供達は暇でしょうし、横に備え付けてある端末から好きなアニメ見ていいわよ。あ、地雷には気をつけてね」
地雷ってどうやって見分けりゃいいのだろうか。
サラさんが操作に手間取りながらアニメを検索し、子供達が興味を示したビジュアルのアニメを試しに視聴しはじめた。
子供達大絶賛。
若干シャーリーちゃんなんかは、うとうとしていたので車移動でのアニメ視聴はありがたい。リゼは車酔いしてしまうので残念ながら移動中の視聴はダメだった。
「せかいのへーわをまもるため!」
「あいとまごころでたたかうの!」
「ど、どどど、どんな敵でもいちころよっ」
「「せーの!」」
「じょうねつのほのお、めらめらぷりてぃるびー!」
「なないろのきらめき、きらきらぷりてぃれいんぼー!」
「ぎ、銀の守護者、かちかちプリティオーロラ!」
ここに参上!!
「ぎゃあぁぁぁ! かわいいぃあぁぁぁっ!」
私の手元のカメラの連射がうなる。
ついでに私の奇声も響く。
アニメ視聴をはじめた三時間後、子供達はすっかり女児向けアニメにはまってしまい、コスプレコーナーで衣装を買って、撮影用ステージで遊んでしまっていた。
くっそ可愛いが。
十七になったリゼにも付き合わせる形になってしまっているが、美少女だからなんの問題もない。恥ずかしがりながらも子供達に付き合うのだから面倒見がいい子である。
「いやーいいね。やっぱり布教して沼に落とした瞬間は、最高だー! お姉さんも全面協力しちゃうからね」
いいカメラで記念を残してくれるももさんは手慣れている。
サラさんも最高の笑顔で声をあげて応援しているし、男どもはセットを裏からがんばって支えていた。
「お、俺も見たいっ!」
「娘達の可愛い姿がみたいっ」
だがしかし、安いセットなので誰かが支えていないと、がんばってくれ可愛い子供達の姿は私の目でしっかりと焼きつけ、写真もとってるんで。
ひとしきり楽しんでしまうと、夜がせまる頃合いに最後にももさんが連れてきてくれたのは地下のライブ施設だった。
人気のあるアイドルはもっと空の下の広いステージを使ったり、大きな会場を抑えられるがほとんどのアイドル達は地下の小さなライブ施設で地道に活動をしているそうだ。大きなステージもいいが、こういうのも楽しめるぞと、ももさん一押しのグループのコンサートに入れてくれた。人気グループのチケットは別にとるそうで、後日見に行けるみたい。
「そうそう、大手だと禁止されてるところも多いんだけど、ここのグループはしっかり迷惑になりにくい場所に枠をとってるから、アレが見られるわよ」
「あれ?」
ニコニコとしたももさんに連れられて、会場に入るとそこにはそれなりの人が詰まった熱気のあるステージがあった。まだアイドル達は登場していないが、アイドルのファンである観客達がすでに盛り上がりはじめていた。中でも目立つのが。
「め、めっちゃ踊ってますね……」
様々な色に輝く棒を持った人達が、激しいダンスを踊っていた。
「あれがオタ芸ってやつ。ファンのアイドルへの応援として生まれたんだけど、邪魔になることが多くてやれる場所は限られてるんだけど、マナーとルル―を守ったオタ芸プレイヤーは好きよ」
なかなかキレッキレのダンスで、動きが激しい。薄暗いライブ会場ではカラフルなライトが舞っているようにも見えた。これもひとつのアートとも感じる。
ひととおり終わると、会場から拍手がわき起こった。私も思わず拍手してしまっていて、踊り切った彼らは額に汗を光らせながらも満足そうである。
「……ん?」
あれ、気のせいかな……あのオタ芸プレイヤーの中に知った顔が混じっているような。
いやいや、まさかありえないから。見間違いだ。
「芸も終わったみたいね。実はシアちゃん達をここに連れてきたのはもう一つ大きな理由があってね。合わせたい人がいるの、もう一人の協力者よ。おーーい!」
ももさんがぶんぶんと手を振る。
見覚えが……ある人が……反応してしまった。
見間違いだってば!
そうじゃなきゃおかしい!
間違いであってくださいお願いしま――。
「やあシアちゃん達、いらっしゃい」
ああぁぁぁーー!!
声も、顔も、笑顔も! ごまかしがきかないくらい覚えしかない。
黒に近い髪色に、差し色の白いアッシュが混じる独特な髪色。どこの誰が見ても王子様みたいと言われる綺麗な顔立ち。
この色と顔は、とある王家の特徴でしかありえなく。
「フェルディナンド殿下あぁぁーー!!」
思わず自分で叫んでしまっていた。




