■31 世を忍ぶ仮の姿
「お帰りなさいませ、ご主人様~」
ピンクと白フリルがふんだんにあしらわれたデザインのとても可愛いメイド服に身を包んだ少女たちがにこやかに接客する。
ここは≪メイド喫茶どりーむえでん≫。
帝国旅行をはじめた私達の目的の一つでもある情報収集だが、一番最初に訪れるのはここ地方都市アキバがいいとイヴァース副団長にすすめられて、つい先ほどルークの運転する車で到着したばかりだ。副団長の伝手でこの店に協力者がいるということで入店したのだが。
「もえもえ きゅんきゅん♪ は~とたっぷり 召し上がれ」
正直、気が狂いそうな空間なのだがー。
ルークとレオルドとリゼが石像になってるんだがー。
「もえもえ~」
「きゅんきゅん~」
「はーとびーむぅ!」
リーナ、シャーリーちゃん、サラさんは最初は戸惑っていたが今は楽しんでいる様子だ。メイド衣装の店員さんと意味不明なやりとりをしている。見た目は普通のオムライスだが、もえとかきゅんとかはーとをよくわからん振り付けで提供するとおいしくなるらしい。
もぐもぐ。
うん、わからん。
まあ、なんというかそういうコンセプトのお店らしい。
王国にはない、萌え文化というものがあるというのはエリー姫の話から若干知識としてはあったが、ここまでのものは想像できなかった。異文化交流は積極的にやるべきかなとは思うが、自分の認識と大きく離れたところにあるものとの対峙はなかなかに難しいものである。
文句は言わない。ただ、頭も体もついていかなくて石像組よりはマシとはいえ、サラさん達のような切り替えもできなかった。
メイド服、とはいっても貴族の屋敷で働いているような感じではなく、かなり可愛いによっていて機能性は低いと思われる。あんなのパンツ見える。見えそうでたまにのぞくように体が傾ぐ、これは変態的行動ではない、見そうで見えないは自然とこうなるんだよ。男連中はわきまえているが、私は自然に体が傾いだ。結局パンツは見えない構造、絶対領域になってたから「騎士さまこっちです」案件にはならなかった。
「本当にここに協力者がいるのだろうか……」
萌え萌えメイドお姉さんか、楽しんでいる男性客くらいしか見当たらない。私としてはなんか肩身が狭い気分なので早めに店を出たい。
協力者の特徴を副団長から聞いているけど、その協力者はエリー姫様のヲタ友らしく……。
「メイドは世を忍ぶ仮の姿、真の正体は帝国を悪の組織ラメラーゼ教の魔の手から救う正義の使者、魔法少女ブリリアントもも……」
さすがにキャラが濃い予感しかしない。そして色んな意味で危ない設定ではなかろうか。帝国だからこの意味深な悪の組織名が許されているのかもしれない。口にして妙な気分になった。
「シア……メニューもそうだが、ここは俺には重い。先に出てもいいか……?」
ルークが消え入りそうな声で呻くように言った。なんでかルークがさっきから色んなメイドさんにからまれている。テーブルにつくとお客さん対応をするメイドさんがランダムに決まるらしく、ご指名もありそうだがフリーな私達はメイドさんが取り合っているような雰囲気があった。
面倒なお客さんではないと明らかにわかるし、なんていうかまぁ。
「ねえ、ねえ、けっこうカッコよくない?」
「うんうん、なんとなく推しにも似てるし!」
「あ、それわかる!」
「「「リーク様だ!!」」」
接客マナーとしてはどうなんだろうと思うが、女子のきゃっきゃする姿はそれはそれで可愛い。そういえば、エリー姫様も言っていたっけ、ルークはおとぎ話の英雄リークに似てるって。帝国の方がそういう物語が深く浸透しているらしく、推し文化もあるゆえにルークが彼女達の中で人気になっているようだ。
だが、ルーク当人はすでに限界突破である。
可哀そうなので彼女達には悪いが、彼を外に逃がしてあげようと立ち上がると。
「お嬢様、ご主人様、顔色がよろしくないご様子。このメイドになにかできることはありますか?」
今にも萌えはーとが飛び出そうな笑顔とポーズなひと際目立つピンク髪の愛らしいメイドさんが慣れた身のこなしで進み出た。きゃあきゃあしていた他の女子メイドがすぅーっとはける。
なるほど、彼女はこの店のリーダー的な人のようだ。
「ダイヤモンドのようにきらめく解決策をご用意いたしますよ」
にっこりとした彼女はネームプレートをちょいちょいした。
そこには「メイドリーダー、もも」と書かれている。
な、なるほど……わかりやすい。
「お、オーダー。闇の中でも高潔な我々は、正義の心を求めます」
「おまかせください。お嬢様!」
こぉーーーっぱずかしいなぁ!!
合言葉を伝えられたときは、目が滑ったが副団長が一番ダメージ受けていたのでなにもいわずに記憶に刻んだけども。
こうして私達は、帝国旅行一番目の目的地、地方都市アキバでの行動をブリリアントももなる人の案内で巡ることになったのだった。




