☆2 地獄に堕ちろ!
町から王都はそう遠くない。
二日ほどで辿り着くと、私はさっそく王都役場へ向かった。
王都役場は平日昼間でも混んでいて、順番待ちをしなければいけない。番号札を持って地道に待って、受付へと辿り着く。
「ギルドの立ち上げをしたいのですが」
「ギルドの立ち上げですね。ではこちらに必要事項をご記入ください」
受付嬢に渡された紙を受け取って書き始める。
私がやりたかったのはギルド作り。
元々孤児で家族もなく、育てられた孤児院も冷たい雰囲気で辛かった。だから温かい家族に憧れていた。なので聖女になって勇者パーティーの一員になれたことは当初はとても嬉しかったのだ。
素敵な仲間ができた。
そう思った。
だけど蓋を開けて見れば、あれだ。
夢と現実の差の大きさに衝撃を受けた。
実は勇者を見出したのは私でもある。聖女の力を使って彼の才能を見たのだ。彼はありあまる才を持っていた。聖剣を扱う為の剣能力はAランクだったのである。他にも軒並みB以上の数値を叩き出し、彼こそが聖剣を振るうに相応しい人物だと判断した。
正直失敗だった。
人は才能だけじゃない。
人柄も見るべきだったんだって、今では激しく反省している。
だから私は決めたのだ。
人柄を優先に、努力する才を持つ者達を集めたアットホームなギルドを作ることを。
あと、あの勇者パーティーじゃ早々に全滅しそうだからいつかは私のギルドから高ランク者を出して魔王を退治に行こうと思う。聖女は解雇されたけど、一応元聖女として後始末くらいはしないとね。これは世界の問題でもあるんだから。
用紙に書き込み終わり、受付嬢に提出すると数分後。
「それではこちらのカードをお受け取りください。くれぐれも失くさないよう注意してくださいね。再発行が大変ですので」
「わかりました」
渡されたのはギルドカードだ。
私のギルドのカード。
この国ではギルドは簡単に作れる。犯罪歴でもない限りは維持費毎月1000Gも払えば文句は言われない。だからあちこちに大小様々なギルドが連なっている。その分、冒険者は自分に合ったギルドを探して入会できるのだ。
私のギルドカードの内容はこうだ。
ギルド名は『暁の獅子』。
職はギルドマスター。
ギルドランクはF。
ギルドメンバーは一人。
こんな感じにカードに記載されている。
ギルドランクはギルドとして仕事をこなせばポイントが溜まり、ギルド協会に認定されればランクアップできる。仕事の内容も幅広くなるから、ランクアップは必須項目だ。
さてと、ギルドカードも作って無事にギルドを立ち上げたので、次は拠点だ。
今の持ち金では家は買えないので賃貸でどこかを借りるしかない。
不動産屋で探して、適当に安いところを見つける。どうせ仮宿だ、のちのち引っ越すので立地を考える必要もない。
運のいいことに最近引き払われた元小ギルドを運営していたところを見つけた。
五階建ての建物の、二階部分だ。他には別の店舗が入っている。
ギルド兼自宅にできそうなのでそこに決めた。契約金と家賃300Gを支払う。
いい感じの拠点も出来た。
次に仕事を仕入れなければいけない。
いくつか仕事を持っていないと、ギルドメンバーを集められないのだ。
なので私は仕事を仲介してくれる仲介ギルド『空を駆ける天馬』を訪れた。運のいいことにそこのギルドマスターとは顔見知りだ。以前怪我したところを私がヒールをかけて助けたことがあるのだ。
彼は私が訪ねてきたと知ると自ら顔を出して出迎えてくれた。
「やあ、シア。久しぶりだね……勇者と共に旅に出ていたと思っていたが?」
「ええ、実は先日聖女をクビになりまして」
「――ええ!?」
詳しく内容を話すと天馬のマスター、ジオが怒り心頭でテーブルを叩いた。
「あのクズ勇者が! 地獄に堕ちろ!」
「落ち着いてジオさん。あいつは確実に堕ちるから。それで相談なのだけど、いくつか天馬から仕事をうちに回してもらえないかしら?」
「ああ、いいとも! 恩人からの頼みだ、無下にはしないさ。ただ、うちも商売だ。あまり渡した仕事が反故にされるようならこちらも仕事を渡せなくなってしまうから気をつけてね」
「わかっています」
いくつか注意事項を聞き、契約書を交わして天馬の質の良い仕事をもらう。
まだギルドランクがFだからFランクの仕事しかもらえないが、ギルドのランクが上がればもっといい仕事がもらえるようになるだろう。頑張らないと。
ジオに見送られ、天馬ギルドを出るとさっそくメインのメンバー探しへと足を中心街へ向けた。一応、天馬から新ギルド立ち上げとメンバー募集のちらしを張ってもらえたが恐らく来る人は少ないだろう。
知名度がなさすぎる。
だから最初はどこもマスターが自らの足で動き勧誘するものなのだ。
って、ギルドの立ち上げ方という本に書いてあった。
とりあえずは人の多い中心街へ。
そこで聖女の力を使って、才を見る。
人柄に問題のない、努力の才を持つ良い人はいないかなー。