*4 第一回緊急ギルド会議開催!!
「リーナ、おかしはいれた!?」
「はいです!」
「パジャマは!?」
「おきにいりの、なんちゃくか!」
「はやりの、しょうじょしょうせつは!?」
「ひぞうのいっさつ、おさめてます!」
どうしたもんかとギルドへレオルドと共に難しい顔をしつつ戻ると、一気に癒された。
いやいや、そうじゃない。うちのかわい子ちゃん達はいったいなにをやっているんだ。
「シアちゃん達が話を聞きに行っている間に、待ちきれなくなっちゃったみたいでね。騎士王子様救出し隊が結成されちゃったのよ」
サラさん苦笑。
……可愛い小隊だな。
リーナ、シャーリーちゃん、のんちゃん、なぜかカピバラ様、ラムとリリも参加している。カピバラ様は保護者気分かもしれないし、ラムとリリは精霊ということなので力はあるだろう。
いやー、それにしても面子が可愛い。
「ただいまー……あ、シアお帰り。って、リーナ達はどうしたんだ?」
ルークは外に出ていたようで、驚いた顔をしている。
「なに、リュックサック背負って。ピクニックに行くには日没が近いよ?」
ルークの後ろからアギ君が顔をのぞかせた。ルークと一緒だったのか、それとも仕事の話をしにギルドへ来たのだろうか?
「アギ君、いらっしゃい。どうしたの?」
「うちのマスターから依頼の共有を打診してこいって言われた。なんでもちょっと面倒そうなのがあるみたいで、ぜひ暁の獅子の力を借りたいとか」
ほほう、それはありがたいお話だ。蒼天の刃とは懇意にさせてもらっているが、マスターエルフレドさんは、優しそうな見た目と穏やかな性格を裏切らない人ではあるが、マスターとして冷静な判断もできる人である。そんな人に信頼されていると思うと下積みが無駄でなくて良かったと思える。
「アギおにーさんいいところに! アギおにーさんが、きしおーじさまきゅうしゅちゅしたいに、はいってくれればひゃくまんりきね!」
救出し隊がかみかみのシャーリーちゃん、鼻血が出そうです。
百人力じゃなくて百万力なの、アギ君の評価がめっちゃ高い。
「え? なに? なんの話?」
アギ君はベルナール様が聖教会に捕縛されたことを知らないようだ。騎士団もまだ公には発表していないから、アギ君が知らなくても無理はない。騎士団としてもベルナール様の処遇が聖教会から正式に出されるまでは静観するつもりなのだろう。
アギ君には話してもいいだろう。口はかたい子だし、興味本位で突っ込んでくるような無遠慮な子でもない。クレメンテ子爵からの依頼の件など詳しいことは伏せて、ベルナール様が聖教会に捕縛されたという話を簡潔にした。
「なにそれ。あの人、なんか大変なことでもしでかしたの?」
曖昧に笑えば、アギ君はそれ以上突っ込んではいけないことだと悟ってくれた。
「シャーリー、悪いけど今回俺は下手にできなさそうだし、うちのギルドも忙しいから」
「むぅ、ざんねん……」
しょぼんなシャーリーちゃん。そういえば、シャーリーちゃんの好みはパパで、アギ君はありよりのありだと言ってたな。いつかはその辺で嵐があったりするんだろうか、私はニヤニヤしてていいだろうか。
「ルークはどっか行ってたの?」
「ああ、郵便所に」
郵便所とは手紙や届け物を出すと指定の住所に運んでくれる運び屋さんだ。お金をかければ王都の外、地方にも手紙や荷物を届けてくれる。ルークはなにか届けて欲しいものがあったらしい。
「へぇ、誰かに荷物?」
浮浪者で孤独の身だったルークがギルドメンバー以外の誰かになにかを届けるような相手が想像できなかった。この一年で交友関係も広がったのだろうか。ルークは自ら友達をじゃんじゃん作りにいくようなタイプではないけど、一回喋ればいい人であることはわかるから友人ができないってことはないだろう。だけど友達と遊んでいるところを今まで見たことがなかった。
ずーーっと鍛練か仕事、騎士団で試合、ゲンさんのところで鍛えてもらうのどれかだ。正直、休日くらい遊んでいいと思うのだが、外に行ったと思ったら走り込みしてた……という事実。
遊び方がわからないのかなぁ、と思うが私は女子だし二十歳そこそこの男性のよろしい遊び方はあまり知らない。ベルナール様は親しい成人男性筆頭ではあるが、あの人も遊ばない人だし、ルークとも四つほど上なのもあってルーク的にも友達というよりお兄さんなんだろう。
「荷物じゃなくて手紙……かな」
「手紙!?」
その可能性をあまり考えてなくて声が裏返った。教育を受けられなかったルークは、字を読むことはなんとかできても書きはまだまだ不慣れのはずだ。
「成長は遅いが、ルークも徐々に字の読み書きは上達してるぞ。簡単な文章なら一人で書けるはずだ」
誇らしげに言うのはレオルドだ。レオルドがうちの家庭教師みたいなもので、ギルドメンバーは色々と授業を受けている。リーナの成長速度に舌を巻いてはいたが、ルークはノータッチだった。そうか、普通に文通できるようになったのか。
「では相手は誰かね? 私の知ってる人?」
「……ニヤニヤすんな。変なもんじゃねぇよ……えっと、ファンレターっつーやつ」
「ファンレター?」
「俺の読み書きの参考にもしてる漫画家のだ。いいだろ、人がどんな趣味してても」
確かに、掃除のときにちらちら見えてたな漫画。ルークのように小説を読むのが苦手な人にもとっつきやすい漫画は、楽しむには絶好のものだろう。
でもまさかルークが漫画家さんへファンレターを送るほどとは。
「だから、ニヤニヤするな! 文章を誰かに書いて送るのも立派な勉強だってレオルドにも言われたんだよ!」
うんうん、誰かに読んでもらうためのものは、がんばって色々考えて書くよね。いい勉強になるだろう。なによりも、そういう相手がいるのを喜ばしく思う。できればいい同性の友人ができればとも思うけど。
「それよりも、ちょうどうちに手紙が届いてたから受け取ってきたぞ」
私の生温かい目がこそばゆいのか、少々乱暴に手紙を渡してきた。手紙といっても便箋だけではなく箱に入っていた。なんだろうかと箱を開けて中に入っていた手紙を検める。宛先は……私? ギルドじゃなくて個人宛?
私も人のことが言えないくらいギルド以外に手紙などをやりとりする相手はいない。知名度があがってきている今ならギルド宛てにくることは多いが、個人宛は珍しかった。
差出人は?
「――え?」
息が止まった。
便箋の高貴な感じから、只者からではないかもしれないと予感はしていたが、これは予想外だった。
「シア?」
青ざめた私を心配して、ルークが覗き込んでくる。
「差出人は誰――――はあ!?」
まあ、素っ頓狂な声がでちゃうよね。
「なんでだ!? なんでシア宛てに――『教皇様』から手紙がくるんだよ!?」
『教皇様!?』
その場の全員が、その名に騒然とした。
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『聖女シア様へ。
春のおだやかな陽気も過ぎ去り、若葉がみずみずしく育つ季節となりました。
きたる初夏、聖教会総本山ガリオン大聖堂にて女神ラメラスを祀る≪降臨祭≫が
催されます。その神聖な祭りにぜひとも、聖女シア様をお招きしたいと考えております。
先のギルド大会にて、勇者クレフトが英雄の資格を失いました。そして現在も新たな勇者は選ばれてはおりません。聖女としての任も宙にぶらさがったまま。しかし魔王は着実に力をつけ、領土を広げているのです。聖教会の主として、わたくしは一度直に聖女と対話がしたいのです。
どうぞ、この招待をお受けくださいますようお願い申し上げます。
聖教会総本山ガリオン大聖堂・教皇アリスティア』
まさか、教皇様自らのご招待とは。
アギ君はお呼びじゃないと手紙を読む前にギルドを出た。賢い子だ。
「これって……」
誰もが思うだろう。この絶妙なタイミングでのご招待。
「ベルナール様を取り戻したかったら、ガリオン大聖堂まで来い……ってことか?」
「……はぁ、とんだ挑戦状ね」
頭を抱えたい。
文面はそれらしいことを書いているが、ならなんで今まで一度も私と接触してこなかったんだよと言いたい。
……脳裏に嫌でも思いだされるのはシリウスさんの言葉。
『シアの引き取り先は、聖教会の総本山。教皇様の娘として迎え入れられるはずだったんだ』
『それを知った兄さんが、直前で止めた。≪山を越えるには厄介な暴徒がいるから危険だ≫として。まさか私が暴徒役やるとは思わなかったけどね』
『本当なら問題ないはずだし、シアにとってはとてもいい話だ。表向きは』
『教皇は、女神ラメラスの使徒。僕に過ぎない。その下にある聖騎士団もね。女神は万人に優しい存在じゃない。目的のためには手段を選ばない。それは兄さんが証明している』
四年……いや、今ではもう五年前になるか、あのとき本当は私が行くはずだった場所。私はシリウスさんの養女ではなく、教皇様の養女となるはずだった。けれどそれを司教様は無理やり止めた。私を教皇様に渡すことで司教様にとってよくないことが起きるかもしれなかったからだろう。その詳しい理由を私は知る由もないけれど。
嫌な予感だけは、すごくする。
「シア、クレメンテ子爵の依頼の件……どうする?」
レオルドが静かに問いかける。
難しい問題だ、だからギルドに持ち帰ってきた。けれど周囲をみれば誰も彼も騎士王子様を助けに行く準備が万端なのだ。リスクは話しておくけれど、それでもブレーキはかからない気がする。うちってそういう人が集まるんだろうか。
「第一回緊急ギルド会議開催!!」
こうなったらもうテーブルを囲んでとことん話し合うしかない。
私にとってもギルドにとっても、色々と越えるべき山が来た、そんな感じがした。
さすがの引きこもりリゼも会議には参加した。




