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〇42 足が長くてな

「さあて、今宵はテンション最高潮でいこうか! ステージは慣れたものだけど、これだけの演者が揃うのは久しぶりだからね」


 ソラさんのセリフと共に鼓膜を揺さぶる轟音が響き渡った。放浪している通常時にいつも携えているトレードマークみたいなリュートはどこへいったのか、彼の手の中で曲を奏でるのはいつの間にかギターになっている。音からしてクラシックギターみたいな気品のあるものではなく、大衆音楽というか一部に熱狂的なファンがいるというロックと呼ばれる音楽ジャンルだ。ロックは異世界日本から伝わったものらしく、王都にも一区画ある日本街の店でよく聞くことができるのだが、私はやかましいという感想しか残念ながら抱けなかったのでロックはたしなんでいない。

 けど、ソラさんは天性の才能か、どのような曲調や音楽ジャンルでも弾きこなし即興ですらスタンディングオベーションされるほどである。どうでもいいがスタンディングオベーションって言いづらいよね。なんでか、きちんと言えるまでソラさんにりぴーとあふたみーされた地獄の記憶がある。ロックの歌詞は耳障りのいいものではないのがほとんどらしく、ロックの曲はすべて異世界語で歌われており、我々大陸の人間には理解できないようになっている。異世界人、とりわけ日本人が転移者に多い大陸ではあるが、この異世界語は日本人転移者でもわからない人が多い。それは日本語ではなく、英語とよばれる別の異世界語だからという話だ。

 もちろん英語がわかる日本異世界人もいるけどね。

 なのでソラさんがどんな意味の歌詞を歌っているかはわからないが、ロックの良さがまるで理解できない私でも全身がびりびりするような心臓が震えるような感覚に包まれる。


≪Give enthusiasm.If you dance crazy, you will be able to fall into the hell of pleasure without knowing your limits!≫


 曲の歌詞、というよりは曲の間の合いの手のようなものだろうか? ソラさんが理解できない言葉でそう叫ぶと、世界が様変わりした。聖堂だった場所は、彼の音楽に飲み込まれるかのように広いダンスホールへと変わり、炎のような旋律が視覚できる形で周囲を巡っている。


「うわぁ、ソラさんってフィールド魔法も使えるんだ……」


 思わず驚きを声に出してしまった。

 ソラさんが魔法を使えることは知っていた。基本的に彼は、自分で仕事しないタイプのニート人間なので、支援魔法に特化している。自分が好きなこと以外、動きたくないあまりにそちら方面に長めの半生を捧げた結果、究極支援魔法タイプになったそうだ。

 彼の使用する魔法タイプは『調律魔法』である。聖魔法とか、そういう属性魔法とはまたまったく違ったタイプの魔法で、レオルドの筋肉魔法のように一昔前までは認知されていなかった魔法である。調律魔法は才が必要で、使える人間はとても限られるが体得すると奏でる音楽そのものが魔法になるという。この音楽の才は、後天的に使えるようになる者もいるのでもしかしたら修行次第では、多くの人に可能性があるのかもしれない。

 ソラさんいわく、そもそも音楽は人の心を動かせるものである時点で禁忌に近い魔法のようなものなのだと言っていた。旋律には、人を人為的に操作しうる組み合わせがあるのだそうで、そういう悪質な組み合わせは知識さえあれば、誰でも使用できてしまうため、そういう事件もあったのだとか。


 病は気から、とはよく言ったもので、気持ち次第で状況が一変することもある。

 ソラさんの調律魔法は、そういう感情に訴えかけ揺さぶることで飛躍的に能力を向上させる力を持つ。聖魔法による支援魔法より効果は強力だが、反動として効果がきれると数日間、地獄の筋肉痛を味わうことになるので、強敵以外には使用されないものだ。調律魔導士も数がほとんどいないしね。

 ソラさんが使ったフィールド魔法は、他の属性魔法でもできないことはないが、調律魔導士ならではの効果魔法であるといえよう。旋律を響かせることで、一帯のフィールドを自身の都合のいいように作り変える魔法だ。この中にいる限り、ソラさんは自身の力を最大限に引き出すことができる。

 まさに彼の独壇場である。


「ダンスの相手は選ばせて欲しいものね」


 いささか不満げなメリルさん、魔人クイーンがため息を吐いた。彼女のダンス相手、というか剣を向けるのはベルナール様とルークなので、一般的にどちらも悪くはないと思うが、クイーンの好みではないらしい。


「エスコートの仕方がなってないわね! やり直し」

「うわっ!?」


 先にルークが革のような黒いしなった鞭でしばかれた。許してやって欲しい、彼に上流階級の知識などない。ダンスなんて躍らせたら、阿波踊りになってしまう。ちなみに阿波踊りも日本文化です。王都の下町では、ダンスといったら阿波踊りかマイムマイムなんです。よくよく考えると、王国の独自文化というものがほとんどないなぁと思う。建国時から異世界人(日本)と隣同士のように付き合ってきた国だからか、異世界日本文化イコール王国文化みたいになっている。まあ、本場と違ってしまっているようなものも多いんだろうけども。

 そういえば、この間ニュースでタコ焼き機なるものが空から降ってきて、タコ焼きとはいかなる料理か!? という特集を大々的にやってたな。タコってたしか、かなり気持ち悪い化け物みたいな海洋生物だった気がする。あれ、食べるん? 正気? って特集の反響になってた。でも意外と食べるとおいしいらしい。私はゲテモノ類平気な生き物なのでいつかは食べてみたい。


「ルーク、ステップがさっきからずれてる。ソラさんのダンスタイミング外すと痛いぞ」

「逆にやりづれーんですけど!」


 音感持ち合わせてなさそうなルークは、どうしてもリズムにのれない模様。逆にベルナール様はさすがの動きです。もはや戦いというより華麗な剣舞。


「でも、お貴族様ダンス定番のワルツよりよっぽど激しいわよね!?」


 ひょいひょいとルークよりはリズムがしっかりとれているサラさんが文句を言いつつも攻撃の手はとめていない。


「ロックダンスですね。ロック用のダンスはないので、リズムにあわせて自由に振り付けるのが王国風ですが」


 上級から下流まで網羅するベルナール様の対応力は、神がかり。

 見栄え良し、ダンス上手うまし、エスコートはさすがに様になる。だが。


「女心がぜんぜんわかってない。ポンコツ、やり直し」


 クイーンによる容赦ないダメ出しに、ベルナール様痛恨の鞭一撃ヒット。これは反論できないやつ。

 会話や戦い方がシュールなので、真剣みに欠けるが実際は命をかけた決戦中である。ダンスやらなんやら言ってるが、もちろん普通に華麗にダンスしてるわけじゃない。旋律のフィールド魔法効果によってリズミカルに動かないといけない強制力が敵味方関係なく働いているがゆえである。

 クイーンは、さすがに元お嬢様だけあってダンスはたしなんでいる様子。動きが洗練されている。


「うっし、俺達も援護しねぇとな」

「レオおじさん、動くならリズムとらないとフィールド効果ではじき出されるよ」

「り、りーな……まいむまいむしかおどれないです」

「俺も同じようなもんだな。リズム感も自信ないが、マイムマイムと阿波踊りでなんとかなるだろ!」


 レオルドのどこからでているのかわからない謎の自信。

 何度も言うが、ソラさんが使っているのはロックである。激しい曲調でスピードも速い。リズムをとりやすくするために身近な踊りをとりいれるのはいいアイデアかもしれないが、高速でマイムマイムとか踊れるか? あとマイムマイムは円になるやつだから、複数人で踊らないといけないんだけど。

 一般市民にダンスバトルは難易度が高すぎる。


「隊長はすっこんでてぇ~、美少女とダンスするのは私できまりでしょぉ~」


 のんきな口調だが、動きはキレッキレのダンスで文字通り踊りでたのはミレディアさんだった。彼女はいままで裏方援護にあたってもらっていたが、本職は騎士で身分は伯爵令嬢である。しかも恰好がセクシー系ご令嬢ドレスなので、ダンスの見栄えばっちりである。


「ワルツ、タンゴ、サンバ、マンボ、フラメンコ、タップダンス、様々な形式を習得している私に、死角はないわ!」


 クイーンの前に剣を持って舞い降りるミレディアさんは、本当に美しい演者だった。あまりにも自然に旋律にとけこんで舞うので、さすがのダメ出しクイーンもなにひとつ文句がなかった。


「ギルド大会以来ね、美しい魔人のお嬢さん」

「ええ、そうね。綺麗な騎士のお姉さん。あの時は、あなたの輝きはあまり感じられなかったのだけど……今はよく≪見える≫わ」

「そうそうよく見て頂戴ねぇ。私は常に美しくあることを惜しまない美の探究者にしてかわい子ちゃん狩人(ハンター)なんだからぁ。汚名は返上させて--ぎゃふんっ!」


 華麗な舞を踊る長い足が、ミレディアさんの腰あたりを蹴った。


「悪い、あたった。足が長くてな」

「べぇるくぅーん!!」


 ベルナール様は、負けず嫌いです。

 ぎゃーぎゃー言い合いながらもコンビ力は高い二人。ペアダンスみたいにペア剣舞を踊りながらフィールド効果を見事に使いこなす。サラさんも動きがよくなってきているし、最初戸惑っていたルークもだんだん慣れてきたようだ。

 あとは多勢に無勢だが、フィールド強制効果は受けながらも強化効果は受けられないクイーンは圧倒的に不利なはずだが、ここまでしてようやくこちらがまともに戦える土俵になっただけだ。

 私もフィールド強制にさえ従えられれば戦力になるはず。シリウスさんの残滓から力を得られているし、ソラさんのフィールド魔法は強力だ。でも心配なのは、あちらではなく……。


 ちらりと横を見れば不安そうな顔のリーゼロッテがいた。彼女はじっと戦いの様子を見ていたが、その視線はずっとクイーンを追っている。時折こぼれる、『メリル、どうして』という嘆きにも似た声音が聞こえた。

 メリルさんは、リーゼロッテを友人のように言っていた。彼女の生まれはもっと前だが、あの姿でリーゼロッテと交流を持っていたのだろう。なにも知らなかったリーゼロッテにとっては、普通の友人だったに違いない。


「リーゼロッテ、メリルさんとは……その」

「……親戚、っていう話だったわ。伯爵に連れられて、ね。今から考えれば、あんなの伯爵と手を組んでいた魔人の計略の一つだったんでしょうけど」


 楽しかったのだと、リーゼロッテはぽつりぽつりと語った。

 目の見えない盲目の友人。自分が目になることで自分もまた価値のある人間のようにも思えたと。互いにできないことは、互いに支え合えばいいのだと、語り合って本当に友人のように感じていたという。


「でも、いなくなった。伯爵が来て、塔へ閉じ込めて、メリルは来なくなったわ。やっぱり、怪物は怪物でしかないんだと思ったの。怪物に友達なんてできるわけないと思った」


 だから最後の希望も捨てて、孤独を選んだ。

 そして今更ながらに、魔人として現れたメリルにリーゼロッテは戸惑っていた。


「でもね、一回だけ手紙が届いたの。一言だけ、『私は真なるあなたの理解者』って」

「それはどういう……?」


 聞こうとしたがそれはできなかった。ソラさんのロック以外の轟音が響き、瓦礫が飛び散る。それはリーナがのんちゃんでガードしてくれた。


「ああ、ダンスは素敵だけれど色々と面倒になってきたわ。私、本来はまわりくどいのは苦手なの。欲しいものは奪い取って帰ればいいと、あなたもそう思わない?」


 なぜか個別に聞かれたベルナール様は返事をしなかった。


「あら、無言? あなた、私の大嫌いな匂いがするの。なんでかしら? 反吐がでるくらい大嫌いなあいつに似てるような気がするから? でも、逆に私の大事な騎士にも似ている気がするのに」


 首を傾げる様は、可愛らしい少女だ。

 立ち姿も気配も異様すぎるけれども。


「ねえ、いつまで一人でこのダンスホールで踊ればいいの? 私だって相手が欲しいわ。傍にある、仲間が欲しいわ」

【----シカタ ナイ カ】


 強力なはずのソラさんのフィールドに一閃の亀裂が入ると、その中からにじみ出るように黒い鎧の騎士が現れた。全身を鎧で覆った姿は今時珍しい。古い伝承にありそうな、騎士の姿をしていた。だが、清廉なイメージのある騎士とは真逆でその騎士は禍々しい黒を纏っていた。


「黒騎士」


 誰かが言った。おそらくベルナール様だろう。この中で唯一、面識があるはずだ。


「エース、遅いわ。私の守護騎士様なら、ピンチじゃなくても助けなさいよ」

「ワガママ ヲ イワナイデ ホシイ。ソレニオレ ハ イママデ クイーン ガ ショクシタイト ショモウスル オルド ノ キイチゴ パフェ ヲ ツクルタメ 二 ノヤマヲ ワケイッテ イタノダガ」

「はあ? あなたまさか、食材から探しにいったの?」

「--ミセハ ニネンマチダッタ ノデ。レシピ ハ ケイジ シテモラエタノダ。ミセノ アジハ ゲンセンサレタ ショクザイ ト ショクニン ノ ウデ ラシイノデ」

「あなた料理できたかしら?」

「イッカゲツ シュギョウシタ。メンキョ カイデン シタ」

「……器用ね」


 異様ないで立ちの二人から、なんとものんきな会話が交わされる。

 黒騎士の伝承はベルナール様から教えてもらったことがある。元々は正義感の強い騎士だったが、あまりにも正義に固執した結果、己が咎人になっているのに気づかず、独りよがりな正義を振りかざし続け、最後は自身が最大の悪となっていることに気づいて自ら命を絶ったというお話。

 王都あたりでは、親が子供に『悪いことをすると黒騎士がくるぞ』と脅すのが定番らしい。

 全身を黒い鎧で覆うこの騎士が、黒騎士の伝承にある姿そのものということでこの鎧の魔人と対峙した騎士団は黒騎士と呼称しているのだ。


「エース、パフェ作りはあとでいいから私の願いを叶えて」

「--オオセノ ママニ。レディ」


 黒騎士が大剣を携えた。漆黒の剣だ。その剣から強い魔力と瘴気の気配がする。圧倒的な力に心臓が潰されそうな感覚に陥る。ソラさんのフィールド魔法のおかげで魔人の圧力に抵抗できていたが、二人の魔人相手では、それも弱まってしまう。


「エース、ダンスはお得意?」

「ソウ ミエル ダロウカ」

「ぜんぜん!」


 ぶんっと黒騎士が大剣を振るうと、ソラさんのフィールド魔法が真っ二つに切り裂かれた。そこからガラガラと空間が壊れていく。


「あー、やれやれ。さすがに誓いの騎士たる黒騎士に、フィールド魔法維持は難しいかぁ」


 演奏に集中していたソラさんは、術が破られたことでこちらに意識を戻してきた。


「誓いの、騎士?」

「シアちゃんはさぁ、どーして隊長がいつまでたっても副団長に勝てないと思う?」

「え? それは、たんに鍛練の差では?」


 ミレディアさんが、少々口を尖らせながら返してきたので、なんともなしに私も思ったことを返した。


「実はねぇ、実力的にいったらもうとっくに隊長は副団長を越えてるんだよねぇ」

「え!?」

「驚くよね、そりゃあねぇ。でも騎士って実力と同じくらい、別の要素も力として得てるんだよ。王国の騎士は、誓いをたててこそ、真の力を発揮するってねぇ」


 ちらりとベルナール様を見れば、彼はばつが悪そうに視線を反らした。

英語の部分がありますが、著者は英語ができませんのでぐーぐる先生にお頼みしました。日本語→英語にしてコピペなので変なところがあったら流してください。

ぐーぐる先生にお願いしたあと、もう一回、英語→日本語にしたら草生えた。さすがぐーぐる先生や。(´・ω・`)

英語の部分の翻訳『熱狂を与えよう。狂い踊れば、己の限界を知ることなく快楽の地獄に落ちるだろう』って感じです

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