〇26 昨日の友は
聖教会、司教様からの依頼ではじまった王国各地で発生している、眠ったまま起きない奇病。瘴気の可能性を感じ、浄化の力を持つ私に調査の依頼が来た。王都の方でも不穏な動きがあるらしく王国騎士団は王都の防衛に務めることになった。緊急性の高い依頼になる為、他の依頼をジオさん、アギ君達やバルザンさん達のギルドにも協力してもらって片付け、急いで奇病が多発しているというラミリス伯爵領へ向かうことに。
しかし、大聖堂からギルドに戻ってきた私が見たのは、泣きじゃくる見知らぬ女の子と途方に暮れるルーク、アギ君リーナの姿。女の子の名前はシャーリー、レオルドの娘さんだった。どうやらレオルドと復縁予定だった母親のサラさんが無理やり再婚の危機らしい。それを知ったレオルドが一人飛び出して行ってしまった。
シャーリーちゃんと一緒に王都へ来ていたレオルドの母親エティシャさんの二人を騎士団にお任せし、私達は急遽アギ君に応援を頼んで共にラミリス伯爵領へと出発した。
ルークが気づいたが、どうやらシャーリーちゃん達に謎の監視がついていた。二人いるようだが、片方が私達をつけてきている。実害がないので適当に泳がせておいて、適当な時に処理しようと考えていたが、レオルドの故郷、アレハンドル村にてレオルドと無事再会後に異世界人ハーフであるソラさんと再会。相変わらず失礼極まりない呼び方と話の通じない人だったが、彼が北北東へ向かった際に私達をつけていた監視が失踪した。真相は闇に葬られたのだろうか? 謎。
アレハンドル村でも奇病は発生しており、レオルドの幼馴染であるベックさんが倒れていた。奇病の原因、そしてサラさん救出の為、黒以外ありえないくらい怪しすぎるラミリス伯爵の城へ潜入することに。丁度メイドさん募集をしていたので、私はちょっとした変装(偽胸あり)をし、アギ君はばっちり可愛く女装した。アギ君は泣いていた。
領主城で仕事をこなし、メイド長の覚えもめでたくなりはじめた頃、塔の化け物の話を聞く。そこで出会ったのは私の目には、美しい少女として映るリーゼロッテという令嬢だった。しかしアギ君の目には、恐ろしいゴーストに見えていたらしい。リーゼロッテさんも若くして『私、大陸一の最強引きこもりになるの』と宣言し(語弊あり)塔の牢獄から出る気はないようだ。
リーゼロッテさんといえば、塔の前で出会ったメリル嬢のことも欠かせない。盲目のご令嬢、メリル・サフィリス。リーゼロッテさんの友人だったという彼女。かなり曰くありげだ。
私達と同じく領主城に潜入していたベルナール様達から受け取った情報と調査依頼。結局私達はちょっとしたミスで領主城を出て、そちらの依頼をすることになったのだが、そこがアレハンドル村近くの森。大昔から呪われた地として伝承されている場所で、道中も色んな見えない先住民さんがウロウロしていた。なんにも感じないルークがうらやま憎らしい。
そんな曰くつきの森で現れたお屋敷。そこはレオルドが子供の頃に訪れたことのあるサフィリス伯爵の別荘だった。そこで出会ったサフィリス伯爵夫人サンドリナさん。彼女は年を取ることなく、永遠のループを繰り返す歪んだ空間の中に閉じ込められていた。バラバラの時間軸の中、サフィリス伯爵が調べていたこの土地の呪いについて。
……色々と書いてはあったが、情報が多すぎるのと知識がなさすぎるので解析は後だけど、やはり村長の話や森にあった壊れた石碑、そしてルークが作った女神像の不自然な雷での破壊。呪いというのは大抵が眉唾ものだけど、その中にはほんの少し本物が混じる。
これはどう考えても本物だ。
この土地の呪い。詳しく言えば、それは人に狂気をもたらすものらしい。その心に重く淀んだものがあれば本人ですら気づかぬうちに狂気はうまれ蝕んでいく。
この流れから察するにラミリス伯爵の背後になにかがあることは確かで、伯爵自身も狂気に蝕まれている可能性があるということだろう。
司教様から依頼を受けて王都からここまでたどり着く間に得た情報が多すぎて、ここいらでちょっと整理してみました。
「うわー! 嬢ちゃん、勘弁してくれー!」
「ははははは! まだまだぁ!」
ちゅどーん!
くけけけけけ!
遊んじゃうぞ! 遊んじゃうぞ!
「ひぃーーーー!」
私は今、そんな情報整理をしながら愉快に遊んで--じゃなかった攪乱作戦を実行中である。村の包囲はほとんどが素体人形だが、人形達はなにもヴェルス一人が操っているわけではないようで、人形数体の集団を一人の兵士が指示を出している感じだった。しかしこの私兵はほぼほぼ素人なので、ちょっとでも集中が切れれば与えられた魔道具がいくら性能が良くても人形は操作できなくなる。
なので私兵のお兄さん、おじさん達と遊んで--じゃない、攪乱しているわけです。
「なんなんだよ、あれは!」
「お嬢ちゃん、俺達友達だろー!」
「昨日の友は今日の遊び相手~」
「間違ってはいない!」
私兵達と鬼ごっこ。鬼はもちろん私なわけですが、私一人で大勢を追いかけているわけじゃない。
「リーナ! ルーク!」
「みぎほうこうに、おいつめてくださーい」
「ったく、投擲はそんな得意じゃないんだぞっ」
ルークとリーナは高い位置にいる。のんちゃんの飛行モードでパタパタ飛んでいる感じ。
「のー、重いのー」
リーナはともかくルークは重いだろうなぁ。しかしここは頑張りどころだ。ヴェルスの位置を確認しながら、素人丸出しの私兵達を何組かのグループに分けて攪乱。村の包囲を崩すと同時に、レオルド達潜入チームの抜け道を作る。
私は地上で、リーナの指示を聞きながら愉快に走り回っている。私の膝くらいまでしかない小さな土人形達も一緒に。
えー、この子達は通称、土人形と言いまして魔力を込めた札に動けと書いて土人形の背に貼り付けると簡易的な行動ができるようになる魔法です。系統としては土魔法にあたるんだけど、小型で少ない魔力、操作簡単ということで土魔法属性が低くてもできるお手軽なやつだ。色々とイタズラの仕込みにも使えるので重宝している。
「わー来るなー!」
「怖いよ! かあちゃーん!!」
でもなんで皆、そんな怪物が追いかけているような反応なんだろうね? 追いかけてるのは私と私のお手製の可愛い土人形なのにね?
私はちらちらと腕時計で時間を確認する。時間をお手軽に見られるものだが、なかなかお高い魔道具なので今回はアギ君に借りている。低コストでの制作に成功したらお安く売ってくれるそうなので将来に期待したい。
レオルドとの作戦では、攪乱は一時間もできれば十分のはずだ。そこから徐々に引いていって私達は若干遠回りで領主城へ行くことになる。
「んー……リーナ!」
「はいですっ」
「ヴェルスはどこにいる?」
奇襲とはいえ、こちらが上手く行き過ぎている。彼のことはまだよく知らないが、抜かりなく賢そうなのは子供の頃の……軸はずれているかもしれないが、あの時の様子を見るとそう思える。だから簡単にはいかないだろうと覚悟していたのだが。
なーんか、あっさりしてるのよねぇ。
「とおくにいるです!」
「どっち?」
「あっちです!」
リーナが差した方角は、領主城の方でもレオルド達が走り抜けているであろう方向とも違った。
考えすぎ?
若干、引っ掛かりを感じながらも私達は作戦通り、一時間の攪乱時間を無事に越えてレオルド達と合流するべく方向を悟られないように慎重に領主城へと向かった。
私達が領主城へ辿り着く頃には、すでに陽は沈み夜になっていた。しかし領主城は眩いほど明るく、騒がしい。詳しく言うと、危険を知らせる鐘の音と人々の怒号と悲鳴だ。あちこちから火の手が上がり煙がのぼっているが、あれは他には燃え移らないようになっている。アギ君が設置した脅かし用の火事だ。しかしそれだけでは終われないほどの混乱が城では起きている。
「なんかシアがいっぱいいるんだが!?」
「みゅー、おねーさんどこですかー!?」
「私はここよー、ここここ~」
さあ、私はどこでしょうゲームが自然と勃発してしまう事態。まあ、それは私が最後にこの城に仕掛けてきた種も仕掛けもあるイタズラなんだけども。
「あ、お前が本物だ」
「正解ルーク。ちなみにどこで私だと判断した? ん?」
「……黙秘」
あちこちに私と姿形そっくりの人達が行きかっている。彼らは普通にしゃべり、慌て、混乱している。なぜならば彼らは普通にこの城で務めている使用人達だからだ。種は簡単。記憶草を使う。記憶草を種から自室で育て、自分以外の人間を見せないように育てる。そして成長したこいつを城のあちこちに植えておく。たったのそれだけ。魔力を過剰供給した瞬間、記憶草は破裂して胞子を飛ばすのだがその時にその胞子に触れた人間を記憶した人間の姿に変えるという不思議な特性があるのだ。
これは魔道具でもなんでもないので、城に仕掛けられている魔力探知に引っ掛からない。アギ君に頼んで潜入してすぐに城中に魔力を行き渡らせるようにしてもらった。潜入する時点で探知には引っ掛かるだろうし、ならばこの仕掛けを発動した方が人目をごまかせる。
でも記憶草には弱点もあって、記憶した人の姿を映せるが体型までは完璧に映せないので背の高さとか色々と違いがでてくるんだけど混乱させるのが目的だから、それほど重要でもない。
レオルド達はどこまで行ったかな。ベルナール様達とも合流したいけど、ここまで騒ぎを大きくしてるし本当に伯爵側の非を掴まないとギルドとしてもダメージ受けそうではある。だからといってサラさん救出を渋ったりなんかしないけど、こっちでも探索はするべきだろう。混乱に乗じた今こそ好機だ。こそこそがダメなら堂々とやりゃあいいんだよ。異世界の勇者は、一般市民のタンスとか漁るらしいしね!
「ルーク! リーナ! 離れないでね」
「分かった。けど油断すると見失いそうになるな……」
「おねーさん、おててつないでもいいです?」
「いいですよー。ルーク君もお手て繋ぐ?」
「ケッコウデス」
やんわり拒否られながら、私達は伯爵の裏を探る為に。
「地下に行こう!」
悪人は、地下で悪事を働くもんだからね。
のんちゃんの掘削モードで、快適に地面に穴をあけていった。
いやぁ、今言うのもアレだけどのんちゃんのモードいつの間にか増えてるよね? 便利だけど。




