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〇23 ママが暴れていいって!

「うおおおーー! 止めてくれるなあぁぁぁ!」

「ぐおぉぉーー! おっさん、落ち着け!」


 体格のいいレオルドを唯一力で止められるルークを筆頭に大きなカブを抜くような体勢で、みんなが暴走寸前のレオルドを止めにかかる。

 大変だ、村長宅が破壊されてしまう。ついでに村長の頭皮が荒野になってしまう。誰か、村長に潤いを!

 問題山積みの中で、さらなる緊急事態が発生してしまった。せわしない様子で飛んできたふくろう便が持ってきたのはラミリス伯爵の城で潜入捜査を続けているはずのベルナール様からだったのだが……。


『ダミアンとサラさんの結婚式の日取りが決まった。強行甚だしいが、明日に行われるようだ。俺の調査依頼対象だった場所になにがあったか、俺が知ることはできないがどうも伯爵側に急がなければならない事態が発生したと思われる。君達の足止めに伯爵私兵の部隊が村を包囲する計画らしいが、この手紙が届くころにはすでに展開しているかもしれないな。こちらは最後まで証拠探しを続行するが、あいにくサラさんまで手が回らない。ここまでするには伯爵側も相応の覚悟はあるだろうが、全部金で解決できる程度にとどまってしまうだろう。一時的に捕縛されても、保釈金ですぐに帳消しだ。腹立たしいが、貴族社会とはそういうものだ。だがまあ、時間が足りなすぎるわけだが騎士団(こちら)としてもただで転ぶわけにはいかないんでな、シア--存分に暴れていいぞ。俺が許可する。そして責任は全部俺が負う。あのクソ狐狸(こり)野郎の尻尾、踏み潰すぞ』


 ……ベルナール様、最後あたりから素が出てるな。相当、ストレス溜まっていると思われる。

 でも! でもでも!

 あのベルナール様から、暴れていいという珍しい許可が下りた! いつもは大人しくしていろだの、慎重にしろだのお弁当の中身の野菜の少なさを指摘するくらいお母さんなのに!


「よっしゃあああ!!」

「え? どうした、シア?」

「ママから遊んでいいって言われた!」


 全員がぽかーんだ。

 あ、嬉しさのあまり少し間違えちゃった。


「ママが暴れていいって!」

「……誰だよ、ママ」


 間違えたと思う部分が間違っている。

 ベルナール様からの全文を伝えると、ようやくレオルドが落ち着きを取り戻してくれた。


「考えろ、考えろ俺。このまま突撃して暴れても意味はない」

「そうそう、作戦立案の肝はレオルドが考えてくれないとね。私は今、聖魔法も支援補助もできないけど、抜群のイタズラアイデアは浮かぶから!」

「……うわぁ、シアがすごく活き活きしてて嫌な予感しかしねぇ……」


 ルークがなぜかげんなりしている。


「姉ちゃんって、実は聖魔法とかメジャーなやつより、マイナーよりの使いどころが不明な魔法の方がより厄介な気がするよね」

「りーな、しってます。それキテレツっていうのです」

「お、よく覚えてたなぁリーナ。テストにはたぶん出ないけど、教えたのを覚えてるのはいいことだぞ。えらいえらい」

「わーい、アギおにーさんにほめられたです」


 子供達がほのぼのしている。

 私達は、膝を突き合わせ作戦を練った。中心になるのは一番の知識人であるレオルド、そして兵法にもそこそこ知識がある将来有望ハイスペック、アギ君だ。ルークは頭が悪いので組み立てられていく作戦を覚えるので頭が爆発しそうになっている。二人の組み立てていく作戦にちょいちょい私の希望を突っ込んで、なんとか夜がふけるまでに作戦は形になった。


「重要なのはチーム割りだ」

「そうね」


 組み上がった作戦は、目的ごとに二チームに分かれる必要がある。


「おおざっぱに言えば、攪乱(かくらん)(おとり)のチーム、そして城に潜入してサラを救出するチームだ」

「サラさん救出は、たぶんベルナール様達もそこそこ手伝ってくれると思うの。騎士団としては伯爵の証拠掴みと流行り病の正体を突き止めることにあると思うけど、全部こっち無視はしないはず」


 ベルナール様って騎士として厳格に任務を遂行するときはするけど、柔軟性もあるからちゃちゃっと援護はしてくれるだろう。あの人の顔以外のハイスペックさが輝くのはこういうときなんだし、全面的に頼りまくろう。


「おっさんは、もちろんサラさん救出チームだよな」

「いや、ここは戦力的にマスターが適任だろうと思ってる。マスターはトリッキーだし、体も小柄だから潜入向きだ。逆に俺、でけぇから目立つんだよ」

「なに言ってんの! 救出班に白馬の王子が留守とかありえんわ!」

「え? はくばのなんだって?」


 サラさんは言ってたんだぞ、たまにはお姫様になって助けられたいと!


「そうだよね~、ここはレオががんばって決めないと」

「そうよそうよ! レオ、乗馬で白塗りになってマントをはためかせなさい!」


 キャリーさんが興奮の為、意味の分からない発言になっていることをお許しください。


「私は攪乱チームに行くわよ! 私のトリッキーさが際立つのはまさにこっちでしょ!」

「俺は……シアが心配だから攪乱チーム」

「あん? 誰が心配だと? 聖魔法が使えない聖女だろうが、私はやってやるわよ」

「お前の目が据わってて、発言数が多いときはロクなことが起こらない」

「そんな感じするよね。じゃあ、兄ちゃんは姉ちゃんの手綱係でいいんじゃない」

「まあ、それもそうか。じゃあルーク、しっかりマスターの手綱持ってろよ!」

「任せておけ」


 おい、ちょっと待て。なんで私は暴れ馬のような扱いをされているんだ?


「潜入チームに、城の内部をそこそこ知ってるやつがいた方がいいよな? 姉ちゃんが攪乱チームなら俺は潜入チームの方がいいと思う」

「そうだな。アギは小さいし小回りも知恵も実力も申し分ない」

「そりゃどうも。でもレオおじさん--小さいって言うな。これからめっちゃ伸びる予定なんだからな」


 アギ君がでかいレオルドとルークを見上げながら悔しそうに歯ぎしりした。

 成長期だろうし、希望はあるだろう。さすがにレオルドは無理かもしれないが、ルークはがんばればいけるかもしれない。といってもルークは、成人男性の平均身長を軽く抜かしているので大変だと思うけど。背の高めなベルナール様や司教様より実は高いからなぁ。

 視線を合わせようとすると、首が痛くなるの困るよね。

 でも希望ってやつはいつまででも捨ててはいけないと思う。私もまだ(成長期終了、成人済み)バストサイズアップを諦めてないからなあ!!


「りーなは……」


 ちらっとリーナは私を見て、またちらっとアギ君を見た。話の流れから小さい方が潜入向きだと思っているのだろう。だが、私についていきたい気持ちもあるようで決められない様子だ。


「リーナは私と一緒の攪乱チームでいいわよね?」

「んー、そうだな。連携において慣れた相手が多い方がやりやすいだろう。攪乱チームはマスター、ルーク、リーナで、救出班は、俺とアギ、それとベックとキャリーでいける」


 レオルドがベックさんとキャリーさんを見ると二人は頼もしい顔つきで頷いてくれた。

 ちょっと驚いたが、ベックさんもキャリーさんも戦いの心得があるらしい。ベックさんはふらふらと旅するのが好きな人だし、キャリーさんは元々野生児のような人なので戦闘能力は高いとレオルドの評価が下っている。


「攪乱チームの人数が少ないのが少し心配ではあるが」

「まあ、そこは臨機応変にいきましょう。なにもヴェルスさんや私兵、人形と正面からドンパチしに行くわけじゃないんだから。ヒットアンドトラップアウェイよ」

「タダじゃアウェイしないマスター、頼りになる」


 任せておきたまえよ。


「こっちから仕掛けるのはいいとして、タイミングは間違えないようにしないとな。ヴェルス達が村に危害を加えないようにしねぇと」

「それは俺に任せといてよ。とっておきの魔道具用意してある。突貫補強もできるし、作戦行動中の一日だけなら発動しっぱなしできる」

「さすがアギ。だが、魔道具を発動している間は、他の魔法は使えないんじゃないのか?」

「心配無用。俺、同時に三つくらいまでなら魔法同時発動可能だから」

「え? マジか?」

「魔力大量消費するような高位魔法じゃない限りは、いけるいける」


 レオルドはアギ君のハイスペックさに驚き感嘆しながらも、ちょっとシュンと肩を落としてしまった。上には上がいると分かっているだろうが、ちょっと落ち込んだらしい。そういえば、アギ君って体を空中に浮かせながら風魔法使ってたもんね。あれでもうすでに二つ魔法同時発動だったんだよな。

 私も重ね掛けで、二つ以上同時発動可能ではある。女神の加護あってこそだけど。


「なんかレオおじさん落ち込んでるけど、おじさん……一回三つ同時発動したことあんじゃん」

「え?」


 覚えがない。本人も覚えがないらしく、ぽかんとしている。


「ギルド大会で、バルザンおじさんと戦ったとき。よくわかんない筋肉魔法と火の魔法と、あと空間系の魔法使ってたよ」

「空間系ぃ!?」


 あの時は確かに、レオルドから異常なまでの魔力を感じだけど。前に調べたとき、レオルドには空間系魔法の素養はあった。あったけど、習得はしていなかったはずだ。


「たぶん、魔力供給にどっかからか空間を繋げてもってきてたと思うんだけど……」

「いやいや、俺空間系魔法覚えてねぇーし!?」

「そうなの? だって、決勝でリーナを助けたときも空間移動したよね?」

「あ!」


 そうだ。リーナがチュリーによって害されそうになったとき、なぜかレオルドが間に合っていたのだ。間に合うはずもない距離があったはずなのに。

 あれは無意識に素養のあった空間魔法が発動したからだったのか?


「俺、あのときは裏で色々動いてたけどリーナとチュリーの試合は気になったから見てたんだ。レオおじさんってやっぱり不思議だよね。魔力回路がはっきりしないっていうか、どっから魔力が流れて回ってるのかわかんないんだよね」


 天才魔導士の好奇心が別方向に動き出しそうだったので、ひとまず私は手を打った。


「それはそれ、これはこれ! 今は、作戦に集中しましょう」


 みんなの視線が私に集まる。

 決行は、早い方がいい。はじまりの合図は、私の一声に託された。


「やるわよ、みんな! かっこよくお姫様奪還といきましょう!」

「「「おおーーーー!!」」」


 待っていろ狐狸伯爵。その尻尾、ベルナール様達と一緒に踏みにいってやるわ!

 以前に仕掛けたアレやコレがいよいよ活躍してくれるときがきたわぁ。

 --あー、楽しみぃ。


「……シア、ステイ」


 なぜか、背後からルークに肩を掴まれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベルナールの被害想定内にリミッター解除シアさんが収まるとは思えんのですが。 ルークもじゃじゃ馬シアのお蔭で騎乗スキル爆上げしそうな予感。
2020/04/01 00:58 退会済み
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