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☆10 おうごんのきれいなきらきら

「ふくだんちょーさんは、おそろしいひとではないのです?」


 王宮を出て再び馬車に乗るとリーナがそんなことを聞いてきた。


「恐ろしくはないわよ? 見た目は怖いし厳しい人ではあるけど実は可愛いもの好きの優しい人だから」

「そうなのですか……リーナはずっときしはおばけのようにおそろしいひとたちなんだとおもっていました。おかーさんが、いつもちかづくな、つかまったらころされてしまうからって」


 リーナの言葉に私は不思議に思う。

 騎士は人を捕まえてすぐさま殺してしまうようなことはほぼないはずだ。魔物退治ならともかく確認作業をせずにそのまま処断して殺すのは国の法律的になしである。それに処刑は処刑人の仕事だから、罪人だったとしてもまず騎士は人を殺さない。人的被害が及ぶ場合はありえなくもないけど……。

 リーナのお母さんが、リーナを騎士に近寄らせないようにわざと怖いことを言っていたのだろうか。


 リーナはじっと自分の膝を見詰めている。


「おねーさんは、いいひと……おにーさんもいいひと……ふくだんちょーさんもいいひと……じゃあ、おかーさんは……?」


 ぶつぶつと呟くリーナに首を傾げた。


「どうしたの?」

「おねーさんたちはおうごんのきれいなきらきらで、でもおかーさんはまっくろなどろどろなのです」


 ごめん、意味が分からない。

 突然のリーナの比喩的な言葉にどう返していいか分からず悩む。そんな私に、リーナは手をそっと握って来た。


「おねーさん、うまさんのはこをおりてもいいですか?」

「いいけど、ここからお母さんを探し始めるの?」


 リーナは首を振った。


「いいえ、でもおねーさんならきっとわかります」

「え?」


 よく分からなかったが、リーナの目が真剣だったので馬車を途中で降りると人混みを避けて住宅の影に身を滑り込ませた。

 リーナは通りの人達をじぃっと観察している。

 そして、そっと指先を人に向けた。


「あのおじさんは、どろどろ。あっちのおばさんはきらきら」


 指さされた場所にはおじさんとおばさんが立ってて、それぞれ誰かを待っているようだった。リーナのいうようなドロドロっぽいところもきらきらっぽいところもはた目からは見受けられないが。

 でもなんとなく聖女としての勘が表向きの姿のことではないのだと感じた。

 だから私は見てみることにしたのだ。


 まずはおじさん。


 剣の才 F→F

 拳の才 D→C

 弓の才 F→F

 魔法の才 F→F


 人柄 E


 これは……見るべきなのは低い才ではなく、人柄だ。人柄は良い人でSSSから一番低くてFであらわされる。これは下から二番目。かなり内面の柄が悪い。

 じゃあ、おばさんは?


 剣の才 F→F

 拳の才 F→F

 弓の才 D→C

 魔法の才 F→F


 人柄 S


 ……とてもいい人だ。遅れてきた待ち人にも嫌な顔ひとつせず笑顔で対応している。

 そうか、そういうことか。


「リーナ、あなたには人の内面のオーラが見えるのね?」


 霊的能力のある人間はたまに人のオーラと呼ばれる気が見えることがあるらしい。リーナはこくりと頷いた。


「おねーさんたちとおかーさんのいろはまったくちがいます。だから、おかーさんはわるいひとなのかもしれません」


 気落ちしたように悄然と肩を落とすリーナを私はぎゅっと抱きしめた。


「おねーさん?」

「大丈夫よ、リーナ。お母さんを探しましょう……見つけたら言いたいことを言わなくちゃ。でないとリーナも納得できないよね?」

「いいたいことを……いう……」


 リーナはこちりと体を固めた。

 母親に向かって口答えをしたことがないのかもしれない。そうだ、リーナには母親から受けたのだと思われる無数の痣があるのだ。よくぶたれていたようだし、なおさら無理かもしれない。

 そう思ったのか、ルークはリーナの頭を優しく撫でた。


「俺達がついてる」

「そうよ、リーナ。なんなら私がばーんと言ってやってもいいんだから」

「おねーさん、おにーさん……いいえ、これはわたしのもんだいなので、でもありがとうございます。リーナは、おかーさんをみつけたらがんばっていうことにします。わるいことをしているならきしだんへいこうって」


 幼いながらにリーナも気が付いているのかもしれない。

 母親の悪事は、もしかしたら処刑されるくらいの重罪かもしれないと。常々母親が言っていた通り、彼女は殺されるのかもしれない。

 だからリーナは母親の為にずっと騎士を避けてきた。

 そして母親のどす黒いオーラも見て見ぬふりをしてきたのだろう。

 気が付かないふりをしていたのだろう。

 もしかしたら騎士こそが悪者で、ずっとその色を悪い色だと思い込んでいたのかもしれない。

 でも今日、リーナは知ってしまった。

 黄金のキラキラは、優しい色なのだということを。

 気が付いたのなら、もう誤魔化せない。


 リーナの瞳には確かな強い光が宿っていた。

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