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巨神装戦記 ~巨大人型兵器になった僕のパイロットは小人の美少女でした~  作者: たまり
◆Ⅱ章 縮小世界/リダクション・ワールド
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秘密基地・エリア58

 ◇


 遠矢はゴツゴツと乗り心地の悪いトレーラの荷台でじっと座っていた。


 ――おしりが痛い。


 暗闇に紛れ森の中を進んでいると、途中からオモチャのような装甲車が合流し、更に進むこと一時間。やがて岩が剥き出しの山の麓に辿りついた。


 緩やかに湾曲した小高い山の岩肌が、左右どちらを見ても延々と続いている。まるでそそり立つ「岩の壁」のようだ。


「ここは直径十キロもある、巨大クレータの壁の外周なんだってさ」


 珠希がそっと教えてくれた。話によると、遥か太古に落下した隕石が造ったものらしい。

 岩肌に偽装されていた鉄製の扉が重々しく開くと、トンネルが口を開けた。


「おぉ……! すごい、本物の秘密基地みたいだ!」


 遠矢は無邪気に声をあげた。二人が辿りついたのは、山麓に造られた『秘密基地』の入り口らしかった。


 先導する装甲車の兵士が、来い! と手を振る。

 一瞬ためらうが、珠希の落ち着きを見て覚悟を決める。遠矢は自らの足でトンネルの奥へと進みはじめた。


 ギシュン、ギシュン、と機械的な歩行音が、コンクリートで補強された洞窟の壁に反響する。秘密の地下通路のようなトンネルを進むと、やがて目の前に広大な地下空間が広がった。


 そこはまさに地下秘密基地と言った風景が広がっていた。


 鉄骨で補強された洞窟の天井は高く、クレーンや機械類が所狭しと並んでいる。最初に目を覚ました格納庫のような施設に比べれば、何十倍もの広さがある広大な空間だ。


「あっ……!」

 遠矢は息を飲んだ。

 忙しそうに動き回っているのは、大勢の小人達だった。見た目や服装は軍服や作業着で、自分の居た世界と変わらない、けれど手のひらに乗せられる程度の小さな人々だった。


 壁面には作業用の足場や階段状のタラップが幾重にも設けられ、その上で作業着姿の小人達が働いていた。

 小人たちは皆一様に驚きの表情を浮かべ、遠矢をもの珍しそうに眺めた。


 中には拳を突き上げて歓声を上げる者や拍手するものさえいる。

 途中、遠矢は飛び出した整備員を踏みつけそうになり、おっ! と寸前で避けた。


「あ、すみません!」

 バランスを崩すこともなくごく自然に体勢を立て直す遠矢に、見ていた小人達から歓声まじりのどよめきがおこった。


「なんだか、歩くだけでえらい注目のされようなんだけど……」

「そりゃまぁ、こうして伝説の巨神が歩いているんだもの」

 珠希が少し誇らしそうに微笑んだ。


 何よりも遠矢の目を引いたのは、左右に並んだ十数機の『機械人形』だった。


 先ほど戦った「ゾマット」とは形状が異なっている。ずんぐりとしたゴリラのような低重心の機体。分厚い装甲、両肩に戦車のような砲身の重火器を載せている機体が多い。


「珠希、これって?」

「私たちエゾス軍の機械人形、量産開始されたばかりの『デクゥ』よ。敵の『ゾマット』を参考(・・)に、似せて造ったものらしいけど……」


 珠希はそこで声をひそめた。


「性能はてんでダメダメみたい。動く的とか、棺桶って言われてる」

 並んだ機体は、遠矢の目から見ても高性能だとは思えなかった。


 どの機体もかなり損傷し、先刻まで戦闘を行っていたらしい。作業着姿の小人たちが、忙しそうに破壊された腕の交換作業を行っている。

 色は軍用車両特有のダークグリーンで塗られている。デザインも正直、ゾマットと呼ばれていた敵のほうが洗練されていてカッコイイとさえ思える。


「……劣化コピー、みたいなものか」

「たぶんね。ゾマットより動きが鈍いんだって」

 珠希が小声でささやいた。

 遠矢はヘルメット状の頭部装甲を外した状態なので、情報表示のウィンドゥは目の前に浮かんではこない。

 珠希の声はコックピットに仕込まれたマイクが拾い、遠矢の首筋から耳までを覆うコルセット状の部分に仕込まれたスピーカを通じて聞こえてくるらしい。


 遠矢は、ずらりと並ぶエゾスの量産型機械人形を横目に、一番奥の整備台へと辿りついた。


 そこに現れたのは白衣を着た小さな少女――にみえる博士だった。


 菜々香博士が拡声器をもって指示を出し、遠矢を誘導する。


『トーヤくん、もう少し右に来て……壁面から突き出た整備エリアに背中を付けて』

「こ、これでいいですか?」

 くるりと半回転して二歩バック。

『そうよ、そこ、あぁ……んっ! そこ!』

「変な声出さないで下さい……」


 遠矢が呆れ顔で菜々香に訴えると同時に、背中の装甲がガゴン、と音を立てた。

 壁面から伸びる拘束装置が、遠矢の身体を整備用の台座に固定する。

 『巨神』の一挙手一投足に、その場にいた整備スタッフ達が、驚きつつも熱心に様子を見守っていた。


「珠希、どうやら着いたみたいだね」

 遠矢は目線を下げ、胸のコックピットでちんまりと座る珠希に声をかける。

「う、うん。そうだね」


 珠希はコックピットに座ったまま、幾分緊張した面持ちで周囲を伺っている。


 遠矢を囲うように、肩、胸、腰の位置にそれぞれ整備用の足場がせり出し、遠矢はメンテナンスを受ける巨大ロボットさながらに壁面に固定された。


 遠矢の胸の高さにせり出した足場に、菜々香博士がぴょこりと歩み出た。


 白衣と赤いフレームの眼鏡、そして印象的な長く艶やかな黒髪。


「ようこそ! エゾス軍、独立実証技術開発本部へ! まぁ、技本でいいわ。ちなみにここは秘密基地エリア58よ」


 菜々香が髪をふわりと払いながら、遠矢を見上げ目を細めた。

「技本……? あ……初めまして。遠矢です」


「あらためて見るとトーヤ君って、なかなか可愛い顔をしてるのねぇ」


 まじまじと真剣な顔で見上げてそんなことを言う。

 あはは、と乾いた笑いを浮かべる巨神と、小さな白衣の博士が挨拶を交わす。


 普通に人語を話す遠矢に、周囲の作業員がまたもや「おぉ……」とざわめく。


「僕の寝顔なんて見ていたんじゃないですか?」

 と遠矢は訝しげな視線を送る。


「三年間、寝顔しかみてないのよ。こうして起きて動いてくれると、印象違うわよー」


 そう言いながら菜々香は、遠矢の胸のコックピットへと歩み寄ると、珠希に手を差し伸べて降りるように促した。


 珠希は開いたキャノピーからひらりと足場へと飛び移った。


 高校の制服姿のままスカートを翻しバランスよく着地する。珠希と菜々香が整備足場の上で向かい合うと、珠希の方が幾分背が高かった。

 遠矢の眼からみればどちらも十センチそこそこの小人なのだが。


「珠希ちゃん、よく頑張ったね。まさか……あの状況でトーヤくんを覚醒させられるなんて、思ってもみなかったわ」


 菜々香は笑顔で珠希に話しかけた。珠希は何故か緊張した面持ちで身を固くしたままだ。


「たまたま……です」

「乙女の涙、女の子の叫びで覚醒するなんて、主役メカみたいよねっ!」

 菜々香がぐっと両こぶしを握り締め、目を輝かせる。

「……主役メカて」

 遠矢はやや呆れ顔で菜々香と珠希のやり取りを眺める。


「初の実戦でゾマットを二機も撃破――! 凄い戦果よ。これなら軍の上層部もトーヤ君と計画(・・)を認めざるを得ないわ」


 何やらぶつぶつ言いながら、眼鏡を光らせて頷く。


「遠矢は……これでもう、破棄(・・)されたりしませんよね!?」

 珠希がそこまで言いかけて、ハッと口をつぐんだ。

「は……破棄?」

 重苦しい沈黙が一瞬あたりをつつむ。


 ――破棄? 俺を……破棄? どういう……意味だ?


「大丈夫……珠希ちゃん。私がなんとかするわ。軍の上層部を説得する手筈は、つけてあるから」


「ホントですか!?」

「えぇ。こうして起動出来た今、トーヤ君を脳改造するなんて……私がさせないわ」

 遠矢を見上げる菜々香の瞳には、強い決意が浮かんでいた。

「ちょっ、ちょっとまてよ! 俺を……破棄とか、どういう?」


「ごめんなさい。トーヤ君には後で話すわ。今はまずメンテナンスさせて頂戴ね」


「いや、まてよ!」

 遠矢が言いかけた時、

「あの! みんなは……園のみんなは無事なんですか!?」


 珠希が菜々香にすがるような瞳で訴えた。

 園? 施設みたいなものだろうか? 遠矢は珠希の横顔を見つめた。


「無事よ、子供たちも、みんな大丈夫よ」

 その言葉に、珠希が心底ほっとしたように、その場にへたり込んだ。


「珠希ちゃんがトーヤくんを動かしてくれたおかげで、市街地から敵が引き付けられたのよ」

「そ、そうですか。……よかった」

 珠希は安心した様子で、気抜けした笑顔で微笑んでいる。


「あ……、珠希ちゃんはね施設で暮らしてるの。戦災孤児や事情で親元で暮らせない子供たちを集めた施設なんだけど」

 菜々香が遠矢に、そっと囁いた。

「珠希……」

「なによ! 同情とか、変な目で見ないでよ!」

「い、いや別に何も俺は――」

「私の髪とか瞳だって、変だと思ってるでしょ?」

 珠希は顔を赤くして早口にまくしたてると遠矢をキッと睨みつけた。くせのないストレートの赤毛に、紅色の瞳は確かにちょっと個性的だ。

 それに、ここに居る多くの小人たちと明らかに色合いが違っていた。菜々香を含め殆どの小人たちは黒髪で黒い瞳をしている。


「別に何も言ってないじゃん。僕は全然、そんなこと気にしてない」

 赤毛だって、むしろ可愛いとさえ思う。


「…………トーヤは、何とも思わないの?」


 珠希は目を瞬かせて、困惑と戸惑いの表情で遠矢を見上げた。

「髪の色とかがどうしたのさ? 少しの色の違いなんて、別にめずらしくないだろ」


 遠矢は不遜な面持ちで首を傾げた。なぜそこまで拘るのか理解できなかった。

「そ、そっか……」

 珠希は拍子抜け、といった顔。


「トーヤ君が暮らしていた巨神の世界は……、きっと寛容だったのね。羨ましいわ。この国はちょっと出自とか血縁にうるさいところがあってね、珠希ちゃんもそれで学校でちょっと苦労してるのよね」

「べ、別に苦労なんて……あんな連中なんとも思ってないわ」


 珠希は吐き捨てる様に言った。

 あんな連中、とはクラスメイトの事だろうか。

 外見が少し違えば、どこの世界でも排斥のターゲットにされてしまうのは、想像できるけれど……。

 遠矢は難しい顔をして黙り込んだ。

 何よりも、この世界では自分自身が異端なのだ。

「トーヤ君、そういうわけだから、珠希ちゃんと仲良くしてあげてねっ!」

 ぺちん、と菜々香が遠矢の金属ボディを叩いた。

「な、何で私がこんな巨神と!」

 珠希が大きな瞳を白黒させて、あわあわと手をばたつかせたとき――


「全員動くな!」


 氷のように冷たい声に、誰もがビクリと動きを止めた。

 菜々香と珠希の立っていた足場の両側から、黒スーツの男達が一斉に現れた。サングラスで視線を隠し表情は窺えない。

 黒服の男達は全部で十人ほど。狭い足場の上で、珠希と菜々香を左右からあっというまに取り囲んだ。

「なんだ……!?」

「きゃ!」


(つづく!)

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