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轟中尉、たった一人の出撃


 ――くそ……待つしかないのか。


 遠矢は拳を握りしめる。

 数多くの敵を相手に、轟中尉一人で耐えられるのだろうか?


 コックピットの上では珠希が難しい顔で充電マークを睨みつけている。


「菜々香さん、ここに来る敵って、僕と珠希が倒したゾマットの仲間なんですか?」

『威力偵察に後方からの奇襲、おそらく同じ連中よ。正体は、ヤマト皇国の特殊潜入破壊工作部隊、通称オロチね』

「オロチ?」

八岐大蛇ヤマタノオロチ、八本の首を持つ蛇の名を冠する特殊部隊ね』


 そのおどろおどろしい名に、遠矢と珠希は緊張の色を浮かべる。

「知ってる、神話の蛇だ」

『あら? 同じなのね。彼らは……あらゆる手段で後方撹乱をするわ。それだけじゃなく、新型兵器の情報収集と奪取を目的にしているとも噂されているの』


「奪取……って」

『トーヤを……』

 遠矢と珠希は不安げな視線を交す。


『トーヤくん。連中の目的は間違いなく新型(・・)機械人形(マシンドール)、つまり君よ。昨日派手に二機も吹き飛ばしちゃったしね……。連中も手ぶらじゃ本国に帰れないでしょ』


 菜々香博士はウィンドゥの向こうで肩をすくめた。

『もし、捕まったらどうなるんですか?』


『タマちゃんは捕虜ね。正直……考えたくはないけれどね。トーヤ君は生体解剖(・・・・)かしら』

「かっ、勘弁してよ!?」

 生体解剖なんて冗談じゃない、それに珠希だって敵の捕虜になれば、何をされるかなんて考えたくもなかった。

 握り締めた拳の間で、金属の甲冑がギシと音を立てた。


『トーヤ……』

 少し不安げな声に、胸のコックピットに座る珠希に視線を向ける。

「大丈夫。僕は決めたんだ」

『何を?』

「君を守るって」

『……っ! ちょ、もう……!』

 珠希が顔を赤くしながら微笑む。


 今は戦うしかない。敵を退けて自分も珠希も生き残らなければ、先に進むことは出来ないのだから。


「必ず……海に行こう。この戦いが終わったら必ずだ」

『うん……!』


 二人の声は、前線に向け移動を開始した轟のデグゥの重苦しい機動音にかき消された。


 両肩に二門、砲身の短い重火器を背負っている。山裾に向かって歩いてゆく機体以外、僚機は一機も見当たらない。


 遠矢の充電完了までの時間を稼ぐ為に、たった一人で迎撃するつもりなのだ。

 デグゥは目の前を通り過ぎる時、――死ぬなよ小僧、と通信を残し軽く右腕を振った。


「轟さん……たった一人で」

 遠矢も慣れない敬礼で返す。


『轟中尉が単機突出で時間を稼ぐわ。トーヤ君とタマちゃんは、敵が射程に入ったらレールガンで狙撃して。相手の火器より射程はこちらの方が長いわ。ただし……スペアの弾丸は無いわ。だから残弾数には気を付けてね』


「『はい!』」

 菜々香の声に二人は素直な返事を返す。


『私は本部から増援を呼んでみる……そうだわ! もしかしたらアレが使えるかもしれない……!』


 菜々香は思い付いたようにウィンドゥの向こうでバタバタと走って行った。


「アレってなんだろ?」

『轟さんのピンクの家?』

「なわけあるか!」

 遠矢はツッコミをいれながら、地面に放っていた顔の装甲マスクを持ち上げ頭にすぽりと被った。そして、傍らに置いてあったレールガンを掴んで持ち上げ、構えてみる。

 即座に銃機とデータリンクした巨神装機が情報を表示する。

 残弾は――24発。

 これを撃ち尽くせば、あとは近接戦闘(・・・・)、つまり格闘戦しかない。


 珠希が落ち着かない様子で計器を確認する。充電のゲージは49%、先ほどから僅か3%増えただけだ。

 HUD表示の視界に、珠希の不安げな横顔が浮かんだ。


「怖い?」

『そりゃ……少しは怖いわよ。だけどトーヤは最強の巨神だもの。ぜったい負けないって信じてるからね! 負けたら許さないわよ』

 珠希が真っ直ぐに遠矢を見つめ、親指をたてた。

「まかせとけ」

 遠矢は鉄面の中で、ぎこちない笑みを浮かべるとマスクをロックした。

 プシュン、と気密が保たれる音と同時に、更に細かな情報が視界に浮かぶ。


 -――システムオンライン、機体制御OSデータリンク。各部機関異常なし。

 ――内蔵キャパシスタ、充電続行中。


 正面の一段と大きい状況表示パネルに、地形の3D映像が浮かび上がった。


 中央には青い点が灯っていて、それが遠矢自身を表していた。

 東の方角には同じ青色の四角いシンボルがあり、ゆっくりと遠ざかっている。表示された機体情報からして、轟中尉の乗るデグゥ・改だ。


 と――進行方向に突如、多数の光点が浮かび上がった。赤い三角形のシンボルは次々と数を増し、Z1、Z2、Z3……と識別番号が自動で振られてゆく。


 ≪警告:敵勢総数11≫


『トーヤ、これ全部……敵よ』

「わかってる。十一機もいるのか……!」


 遠矢は息をのんだ。一定の間隔を置いたその赤い輝点は、遠矢と轟中尉を取り囲むように、大きな鶴翼かくよくの陣形を取りつつあった。


 最短の位置にいる敵を示す赤い輝点までの距離はおよそ三キロ。


 珠希の基準なら三キロ先だが、遠矢にとっては僅か三百メートル足らずの距離だ。

 遠矢は赤い輝点の方向に視線を向けた。光学モニターが自動的にズームするものの、敵らしい姿は視認は出来なかった。


 広いクレーター盆地とはいっても完全に平坦ではない。中央を流れる川が削った地形に紛れて、敵は潜んでいる。小高い丘や起伏を利用しながら散開し、演習場を包囲しつつあるらしい。


『包囲しようとしているわ!』

「逃げ場無しってことか……」


 遠矢はぎっと眉を寄せた。充電ゲージは51%、一分がとてつもなく長く感じる。


 その時、唯一の僚機を示す青い四角が、猛然と移動速度を上げた。一つの赤い三角マークへ急接近する。


 ≪僚機:会敵(エンゲージ)! 交戦中……!≫


 青い四角い輝点が、(ゾマット)を示す赤の輝点と交差し明滅する。


「轟さんが……!」

『仕掛けた!』


 ◇

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