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射撃手(ガンナー)と超電磁銃(レールガン)

 ◇


 時刻は朝――8:00。


 空は青く澄み渡り雲一つない。


 目の前には荒涼としたクレーター盆地が広がっている。この場所は、基地のある「壁面」の内側、クレーターの窪地に当たる、直径数キロにも及ぶ広大な土地だ。

 見渡す限りの荒涼とした土と砂の大地は、川が流れている周囲だけ僅かに緑があり、低い木々が生い茂っている。山脈のようなクレーターの壁に沿って、軍事基地らしい建物がいくつか見える以外は、何もないと言っていいだろう。


『と、いうわけで絶好の訓練日和ね!』

「は、はぁ……」

 遠矢は巨神装機を装着し、珠希はコックピットに乗り込み操縦桿を握っている。朝日を浴びて、装甲が青く輝いている。


 ここは通称エリア58。広大な敷地は兵器の開発と実験を行う場所らしい。破壊された戦闘車両の残骸や、爆破による穴がいくつも見えた。


 目の前にポップアップ表示された地図を拡大してみると、ここの直径はおよそ10キロ近い円形で窪地になっているようだ。遠矢の身体を基準(・・)とした広さに換算すると「直径500メートルの競技場」みたいな形状ということだろう。


 周囲は立ち入り禁止エリアらしく人影は見当たらない。

 後方に施設された『仮設陣地』は物々しい警備兵の姿が目についた。軍のお偉いさんが遠矢を見学に来た、という菜々香の説明を思い出す。


『えー、二人とも準備はいいかしら?』


 遠矢の視界の片隅にウィンドゥが浮かび、菜々香博士の顔が映し出された。


 菜々香は後方に施設された仮設陣地からその姿を眺めていた。その後ろでは、技術開発部のスタッフが計測機器を並べ、『巨神装機』の姿を見つめている。


「……はい」

「はーい。こっちはOKです」

 珠希が返事を返す。視界の左側には珠希の姿が映っている。制服ではなく身体にフィットするパイロットスーツ――耐Gスーツを着用している。

 急造品らしく全体的に不格好だが軍用グリーンの色合いに、赤毛のツインテールがアクセントになっている。


『うーん? トーヤ君は冴えない声ね、体調が悪いのかしら?』

 眼鏡を光らせながら、菜々香が心配そうに首を傾げる。

「いえ、そういうわけじゃないです」

『珠希ちゃんの産まれたままの姿も見たはずなのに……ゴミ箱の中からサンプル回収できなかったし、男の子として大丈夫?』

「まて! サンプルって何だよ!?」

『うふふ、それはヒミツ……』


 笑みを浮かべた菜々香が残念、という風に肩をすくめて見せた。


「……菜々香さん、夕べ変態巨人が風呂に潜んでいたので対策をお願いします」

 珠希が片頬を膨らませ、冷たい声で言う。


「だから、あれは管理上の手違いだろ」

「べーだ!」と珠希が舌を小さく突き出す。


『まぁまぁ二人とも機嫌直して。お風呂の男女別工事は今日中に終わらせておくから』

「どう間違えば混浴になるんだよまったく……」

 遠矢がジト目で菜々香を眺めた。


『さ、さてっ! 訓練を始めるわよ。今日は二人の息を合わせることが大事だから、仲よくね!』

 ぱちん、と菜々香が片目をつぶる。


「……仕方ないわね。トーヤ、ちゃんと動いてよ」

「うるさいな。ちゃんとやるってば」


 やらねばならないことは判っていた。

 互いの大きさも、胸に秘める想いも確かに違う。けれど今は協力し戦い抜かねばならない。

 遠矢は鉄面の奥でぐっ、と奥歯をかみしめた。


『さて、まずはおさらい。昨日の初陣は見事だったわ。けれど、最初に珠希ちゃんが操縦した時、動きが鈍かったでしょ?』


「えぇ。トーヤが全然動かなくて。死ぬかと思いました」

 珠希が眉根を寄せて口をとがらせた。

「ガンガン殴られり銃で撃たれたり、酷い目にあったのは僕だろ」


『あはは、珠希ちゃんが最初に動かしたモードはね、銃撃手ガンナーが緊急時に強制的にトーヤ君の体を操縦できる、強制介入操縦モードだったのよ』

「強制介入……操縦モード?」


『そ。本来はトーヤ君が自分で考えて動いて走って跳ぶ。装機はその動きを筋肉の電位差から予測して、強力にサポートするの。それが巨神装機の設計コンセプトよ』


「つまり僕用に造られた、パワードスーツってことだよね?」

『そういう事ね、飲み込みが早いわ』

「でも、それじゃ私は何をすれば?」

 珠希の大きな瞳がぱちくりと瞬く。


銃撃手ガンナー。つまり武器の取り扱いと射撃、その他装備品(・・・)のオペレーターを担当してもらうわ』

「はい……!」


 すぐに大型のトレーラーが土煙を上げながらやって来て、トーヤの足元に停車する。

 荷台には一目で『銃』とわかる金属製の武器が括り付けられていた。


「これを……撃つの?」

 遠矢が表情を曇らせた。

 身を屈め、腕を伸ばして銃を掴む。持ち上げてみると腕部のパワーアシストが働き、重さは殆ど感じなかった。


 形は直線を基調にしたドイツのG36KVアサルトライフルに似ていた。

 ただ、銃口部分が四角く通常の銃とは幾分感じが違っている。


『それはね、対・機械人形(マシンドール)用に開発した、中距離戦用の超電磁銃レールガンよ』


「レ、レールガン!?」

 遠矢の指先にあるデータリンクバスが武器と自動リンクを開始し、FCS(火器管制システム)が新しい武装の認識を告げる。

 遠矢と珠希の視界にはポップアップで武器の情報が表示された。


 ≪武装認識リンク完了――UMD-LGX01:総弾数32≫


 遠矢と珠希の顔に緊張が漂った。

『超強力な磁界で高硬度の金属体を加速させ射出、純粋な運動エネルギーで目標を貫通、破壊するの』


「それ知ってる……でもこれ、俺の居た世界じゃ、SFで……まだ実用化されてなかったはずだ」

 レールガンと言えばゲームやアニメではおなじみだ。

 アニメでも大活躍していし、遠矢も原理は知ってはいる。けれどこうして武器として形になっているものは初めてだった。


『もちろん普通の機械人形じゃ運用できないわ。これはトーヤ君専用。トーヤ君自身が動いてくれるお陰で、巨神装機はそれをアシストするだけ。つまり僅かな電力消費で済むのよ。その余剰電力をレールガンに回す、という仕組みね』


「……うーん、よくわからないけど、撃って当てればいいんでしょ」

「珠希、簡単に言うけどな、これ当たったら死ぬんだぞ」

 遠矢の声がわずかに低まる。


「殺られる前に撃つ。先手必勝、ファーストルック、ファーストショット。学校でも最初に習う基本でしょ?」

 事も無げに珠希が笑う。

 撃つ、殺す。平然と口にする珠希に、遠矢は言葉を継げなかった。

 引き金を引くことを珠希は――この同い年の少女は躊躇っていない。


『トーヤ君は運動性能を生かして敵をかく乱。珠希ちゃんが狙いをつけ敵を撃つ。複座機(タンデム)ならではの戦闘スタイルね』


 複座というのは、戦闘ヘリ等で前席が射撃担当、後席が操縦担当、と別れている機体の事だ。高度に自動化された戦闘機では単座が基本のはずだ。

 巨神装機は遠矢の自動操縦+珠希の射撃手という、独特のスタイルと言っていい。


「僕が動いて……珠希が撃つ?」

『そう。トーヤ君、正面の山の中腹に見える目標に向かって構えて。珠希ちゃんは目の前の照準にカーソルを合わせて、ロックしたらトリガーを引く。細かい補正は装機がやってくれるわ』


 遠矢の沈黙を肯定と受け取った菜々香が、明るい声で指示を出す。

 山の中腹に目を転じると、ゾマットを模した金属製のカカシが立っていた。

 目線を合わせると瞬時に映像が拡大され、十字マークの光点がフラフラと重なる。

 とにかく的に狙いをつける恰好をしてみる。


 ≪目標捕捉――距離2000≫


 それは、遠矢の目から見れば百メートルほどの距離だ。


 校庭の端から端を見ている感覚に近い。『距離2000』という表示は、小人たちとの身長差を考えれば、二十分の一程度と解釈して良さそうだ。

 遠矢は慣れない手つきで銃を構える。と、腕が自動的に細かく上下左右に動き、銃口の向きが補正された。


「こ、こんな感じ?」

「うりゃっ!」

 殆ど間をおかず、珠希が叫ぶ。同時にガンッ! という固い衝撃音が全身を貫いた。


 煙も何も無く、衝撃と光だけが手元で炸裂し、反動で銃全体が上に跳ねる。

 気が付くと山の中腹にあったはずのゾマットの上半身は、跡形もなくなっていた。

「おまっ! いきなり撃ったのか!?」

「そうよ。なかなかのもんでしょ」


 えへ、と珠希が得意げに菜々香に目線を送る。

『凄いじゃない! 早撃ち珠希ちゃん。センスあるわー』

 おぉ、と背後で小人軍人のお偉いさんや、研究班の面々のどよめきが沸き起こる。

 珠希の早撃ちもさることながら、弾速が異常だった。


 昨日見たゾマットの機銃は高速ではあったが、肉眼でロケット花火を真正面から見ているかのように光の軌跡を捉えることができた。だが――、このレールガンから射出された金属の弾丸は、発射とほぼ同時に目標に着弾したように見えた。

 感覚的にはレーザービーム、光の速さといってもいい。


 ≪主武装(メインアーム)――LMXG01:弾数31≫


 弾数が一つ減じる。


「凄い。連射はできないんですか?」珠希が目を輝かせる。


『出来るけど、一秒もかからないで全弾撃ちつくしちゃうからダメね。電力も足りないわ。でもトーヤ君用の増強ユニットを付ければ、連射できるようになるわ』

「ぞ、増強ユニット?」


『明日にでもテストできればいいなーと思ってたの。ターボザックリフターって言う物だけど』

「た、たーぼざっく……?」


 額から汗が一粒流れた。嫌な予感しかしない。


<つづく>


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