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巨神装戦記 ~巨大人型兵器になった僕のパイロットは小人の美少女でした~  作者: たまり
◆Ⅱ章 縮小世界/リダクション・ワールド
11/45

轟(とどろき)中尉 VS 珠希


「せ、正規パイロット!?」


 一体どういう事? じゃぁ……珠希は?

 

 ――使い捨ての実験素体。


 黒服たちは珠希をそう呼んでいた。

 遠矢は言葉に詰まり、(とどき)中尉という軍人に視線を向ける。


 酷薄そうな三白眼に意志の強そうな太い眉、短く刈り込まれたアーミースタイルの髪。全身が筋肉で来ているといった風で、生れた時から軍人だといっても誰も疑わないだろう。


「彼はトーヤくんを操縦するために特別な訓練を重ねてきたの。巨神装機システムの制御コアたる巨神、トーヤくんが目覚めてさえくれれば、あとは彼が本来の力を十二分に発揮してくれるわ」


「そ、そんな……」

 遠矢は目を泳がせる。

 確かに冷静になって考えれば、ここは軍隊の一組織だ。戦闘機でも戦車でも、普通は訓練されたパイロットが操縦するのが当たり前とも言える。


 それは遠矢自身ともいえる巨神装機でも同じこと……。

 

 ――でも、あんなむさ苦しい筋肉質の軍人が僕に「乗る」だなんて……嫌だ。

 

「トーヤを目覚めさせたのは私よ!」

 珠希が身を乗り出して抗議を口にする。


 そうだ、その調子だ! と遠矢は心の中で応援する。しかし、轟がギロリと珠希を睨む。


「フン……小娘。予備パイロットとしての訓練を数時間受けただけ。本来、君は民間人で、精神感応による覚醒実験の適合者として、ここに来たに過ぎなかったのではないか?」


「それは、そうですけど。なんだかトーヤをほっとけないのよ!」

「私情で軍務規定は動かぬ」


 遠矢の目の前では、大男の軍人と、ツインテールの少女がバチバチと火花を散らしている。

 菜々香が眉間を押さえながら、うーん、と唸る。


「それに、力のない小娘では巨神は言うことを聞かないだろう。強靭な肉体、冷静な判断力、戦いをくぐり抜けてきた実戦経験。どれか一つでも、お前にあるのか?」


「うぐぐっ……! 無いけど、無いですけど……」

 ぐぬぬ顔の珠希は、顔を真っ赤にして涙目だ。理詰めされると珠希に勝機は無さそうだ。


 やがて、菜々香は何かを思いついたように元気よく立ち上がると、遠矢を見上げ、高らかに声を上げた。


「ここは公平に! トーヤ君に決めてもらいましょっ! ね、トーヤ君……パイロットのご希望は?」


「ぬっ!? そんな馬鹿な話がありますか博士! 兵器に意思など……」


「あるよ。僕は……珠希! 一択で」


 即答だった。


「やった! ありがとトーヤ!」


 ぴょんぴょん跳び上がる珠希とは正反対に、轟中尉の額にもりっと青筋が浮かびあがり、眉間に深く皺が寄る。


「決まりね。巨神の意思は、最大限に尊重するわ。私たちに協力してくれる限り……ね」


「協力って……。また戦えってことですか?」

「そうね。いい? トーヤくんは他に行くあてもないんでしょう? ここがどこで、何がどうなっているかもわからない。なら、お互いに協力しましょうよ。別に、悪い話じゃないでしょう?」


 菜々香博士が口元に蛇のような笑みを浮かべ、メガネを光らせる。


「うーん。まぁ、確かに」


 渋々だが、頷く遠矢。


「そうよ! そのほうが私も……嬉しいし」

「珠希……」


 嬉しそうな珠希を尻目に、轟中尉は表情ひとつ変えずに、手を後ろでに組み立っている。


「轟中尉、ゴメンなさいね。貴方は交代要員として第二種警戒待機、いいかしら?」


 菜々香が申し訳なさそうな表情で轟中尉にウィンクを送る。


「はッ! しかし、例の『巨神同棲計画(・・・・・・)』の件は?」


 聞き間違えだろうか? 今、同棲(どうせい)と聞こえた気がする。


「あぁ……、そうだったわね。でも今はトーヤくん自身の意思を尊重するしかないわ。ここは珠希ちゃんをメインに据えてやってみるわ」


「……了解しました」


 不動の姿勢を貫いていた轟中尉は一瞬だけ珠希を睨みつけると、深々と敬礼をした。そして踵を返すと、入ってきた時と同じ扉に向かい歩いて行く。


 それは軍人は命令に絶対忠実、という事を体現していた。

 言いたいことはあるだろうが、一言も文句も反論も言わす、命令を受け入れたのだ。


 黒服の凶弾から救ってもらった礼も言いそびれていたことに気が付き、遠矢は後ろから声をかけた。


「轟……さん! その、さっきは……ありがとうございました」


 カッ、と軍靴の音が止まる。

 

 くるりとその場で回れ右、敬礼をする。その口元は真一文字に結ばれたまま。けれど1ミリほどの満足げな笑みが浮かんでいるように見えた。


「……では」


 ――なんか、申し訳なかったな。


 成り行きを見守っていた作業員たちも、ほっとした様子で胸をなでおろす。


 気が付くと、パチパチ――と、遠矢の足もとで拍手が沸き起こった。


 その輪は次第に大きくなる。


「珠希ちゃんがパイロットだ!」と叫ぶ声が聞こえた。整備担当らしいヒゲのおっさんと、その部下たちだ。組織内で珠希は決して孤立してはいないようだ。


 珠希は戸惑いながらも口元を緩めた。


「あ……ありがとうございます」


 珠希はペコリと頭を下げ、遠矢を見上げ照れくさそうに微笑んだ。


 ◇


「これで……よしっと」

 遠矢は自分が壊した足場を、ギシギシと手で直した。


 曲がった手すりも、指先で器用に元に戻してやる。多少ボコボコと歪んでいるけれど、これで大丈夫だろう。


 やがて遠矢の『巨神装機』をメンテナンスと再調整のために、分離パージする作業が開始された。

 顔の部分は遠矢自身がここに来るときに外しているので、それ以外の全身を覆うメタリックな装甲服を取り外す作業が行われる。

 手順と順序は菜々香博士が説明した。


「トーヤくん。本当は君について、拘束開放(・・・・)の許可はおりていないの。けれど今は君が目覚めたという3年越しの奇跡的な瞬間よ。それに敵襲という緊急事態でもある。そこで、現場責任者たる私の権限で、巨神装機をメンテナンスと微調整のため、巨神装機を一時解除します」


「は、はい」

「いい? 施設内からは出ないこと、暴れたりしないこと。お願いだから…‥いい子にしてほしいの」

「わかってますよ。大丈夫です」


 遠矢の落ち着いた受け答えに菜々香博士は満足したようで、部下たちに作業の指示を出した。


 小人達の操る大型のクレーンやアーム状の重機が、慎重に全身を覆う装甲を釣り上げながら外してゆく。遠矢の全身を覆うパーツは、特殊なコマンドでロックが外れ、意外にも簡単に外れる構造のようだ。どのパーツも前後に分割できる構造になっていて、判ってしまえば遠矢自身でも着脱はできそうだった。

 けれど、胸を覆うコックピットブロックだけは別で、留め金を緩め、僅かに広がった隙間から身を屈めて首ごと抜け出すような恰好で、ようやく自由の身となった。


 全身を包んでいた鎧から解放された遠矢が身に着けているのは、黒いジャージのような下着アンダーウェアだけとなった。


「慣れれば、自分でも脱げるんじゃないの、これ……」


 遠矢は抜け殻となった外骨格をしげしげと眺めながら、こきこきと、自由になった手足を動かし首を回し、うんっ! と伸びをした。

 その身体は意外なほど華奢で、細身に見えた。


 小人達から見れば巨神だが、その様子はどこにでもいそうな普通の少年だ。伸びをした腕が天井にぶつかるので、遠矢は身を屈めながら体操する。


「っていうか、お腹すいた……」


 ぐぅ、と遠矢の腹がなる。

 

 鎧を脱いだ途端、ドッと疲労感が押し寄せてきた。休みたい。それに、飲み物や食べ物がほしい、と思い始めていた。


「でかいな……信じられん」

「嘘だろ……これが、巨神族か!」

「でも、ウチのボウズぐらいの歳に見えるんだがな」


 作業員達が作業用のタラップにもたれ掛りながら、遠矢の様子を珍しそうに眺めては、口々に感想を述べあっている。


「トーヤ! こっち!」


 と、元気な珠希の声が聞こえた。


「あ、珠希」

 遠矢が振り向くと、胸の高さほどの壁面、そこから突き出た足場の上に珠希の姿があった。珠希の基準なら床から15メートルの高さにある足場だ。隣には白衣の菜々香も居た。


 珠希が指さす先の壁が、ゴゥン……と開き始めた。


 機械的な音と共に金属の壁面がゆっくりと口を開け、やがて遠矢が通れるほどの通路が現れた。覗きこむと照明が奥に向かって灯っていた。


「ここに入れって? 奥に何があるの?」


「行ってみてのお楽しみ。国家プロジェクト級の計画よっ」


 菜々香が拡声器を片手に叫んだ。


「……計画?」


 さっき轟中尉がチラリと言っていた計画だ。一抹の不安が頭をよぎる。


「私も珠希ちゃんも一緒に行くから大丈夫」

「あ、はい。あの……飲み物とか、何かありますか? のどが渇いたし、お腹もペコペコで」


「もちろんあるわよ! 協力関係なんだから、衣食住を提供するわ」


 一瞬遅れて、菜々香の言葉の意味を理解する。


「寝るところと……ごはん!?」

「そういうこと。わかったらほら、こっちに、腕よこして!」

 遠矢はゆっくりと二人が立っている足場に近づくと、右手と左手を差し出した。乗り移り易いように、手のひらを水平に保ちながら二人の前で停止させる。


「これでいい?」

 珠希と菜々香は顔を見合わせると、にこりと笑みを浮かべて遠矢の手にえいっと跳びのった。

 ぽすん、という生き物の重みが手のひらで感じられた。


 柔らかく温かい感触がこそばゆい。


「……これが小人の体重? 意外と重……」

「失礼ね、レディに体重がどうとか言わないの」

「すみません」


 遠矢は頭を下げながらも、小学生の頃飼っていたハムスターを思い出した。


「うわ、なんか……手のひら柔らかい」

「トーヤ君は体温が高めねぇ」


 二人はそれぞれ勝手な歓声をあげる。


「あ、あはは、あんまり動かないで、くすぐったい……」


 思わず肩をすくめる。

 手の上で温かいハムスターが二匹動いているようだった。

 掴りやすいように親指を立ててみると、珠希が遠矢の親指を両手でしっかりと掴む。


「指も大きい! わ、すごく太い」

「いや、だから珠希、あのね、その……」


 指先に抱きついてみたり撫でてみたり。珠希は楽しそうだ。

 手の中に収まるほどの制服姿の女の子は温かくて柔らかかった。


「じゃ……いきますよ」


 遠矢は両手に二人を乗せたまま、通路の奥へと進みはじめた。


 ◇


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