『クラスの人気者をアキバで見かけたので追っかけてみた結果』
調整はしたのですが、本来縦書き様に書いた物ですので、一部見づらい個所があるかもしれません。
ご理解頂けますと幸いです。
――――キーンコーンカーンコーン……。
「きりーつ。きょーつけー。れー」
「「ありがとーございましたー」」
授業が終わると同時に、教室の中は会話で溢れかえる。
他愛も無い世間話……女の子大好きゴシップトーク……。
ゲームやアニメ等のサブカル話……小説や映画の談議……。
男子高校生らしい軽口合戦……女子高校生らしいお悩み相談会……。
そして、高校生ならではの課題宿題に対する嘆き…………えとせとら。
時計の針は十二時を示している――つまりそう、昼休み。昼食タイムだ。
各々弁当や菓子を片手に――またそれが無ければ食堂や購買部に駆け込み――各々が友とする人と、青春を謳歌している。
良いじゃないか。とても素晴らしい事だ。若者ならでは――もとい、若者でないと経験出来ない、掛け替えの無い一時だ。
勿論だが、俺も同じく高校生だ。
同級生に囲まれ、共に飯を食い、共に掛け替えの無い時間を共有している真っ最中だ――
――――独りで!
(ハァ……どこで間違えたんだ……俺は……)
教室の片隅、窓際最後尾の一角で俺は、片手に飯|(焼きそばパン)を、片手に本を――という無駄に両手が塞がった状態で、中々どうしてか空しい一時を過ごしていた。
(何がいけなかったんだ……俺が何をしたと!? 何がいけんかったと!? 親父言うとったで「漢はな……どっしり構えときゃ良いんだよ……!」って!)
無駄なエセ方言を交えつつも心の中で嘆き、心の中で涙する。
しかし現実は……いや、現実が非常なのか親父が時代遅れだったのか(考えるまでも無く恐らく後者だろうが)その“どっしり”と構えた結果が、このザマである。
男は謙虚であれ――男はがっついちゃいかん――男は優しく……紳士に立ち振る舞えとッ!! 親父の言葉に従い続け早数年――っっ。
俺、『伊上 計』……現在高校一年生。独り暮らし。
友達彼女共に無し。そもそも話し相手すらも無し。
元喧嘩番長・親父の遺伝故か無駄に外見がイカツイ……らしく、中々人が寄り付かない。それこそ偶然誰かとちょっと肩がぶつかろうものならば即座に「ひっ……」という小さな悲鳴が、俺の良心を痛めつけてくれるくらいだ。
髪型も親父仕込みの乱雑オールバック。ガタイも親父仕込みの喧嘩上等ボディと来たもんだ。というか俺でもそんな奴見かけたら少しビビるわ!
そんな外見のお蔭で、どんな事をしようとも必ず相手と俺との間に『警戒』という名の|心の壁(ATフィールド)が形成されてしまい、結果は裏目に出てしまう。
ならばッ! こちらから出向かわずに“どっしり”とッ! 「あれ? この人見た目は怖いけど結構良い人かも!」とか思ってもらい! 人畜無害な人間だという事を周りに知らしめ今度こそ夢のスクールライフをッッ――――
――と思い高校デビューしたが最後。いよいよ周囲との交流が『無』と化してしまった次第である。
(……いや真面目な話。俺本当に喧嘩趣味無いから! 平和主義のラブ&ピースいぇーい! って感じだから!! 皆と同じくアニメもゲームも趣味だからってか今読んでるコレもただのラノベっスから全然インドア勢ですから!!)
……誰か僕に一言――「ツラくね?」と言ってみてくれ。
さすれば直ちに破顔のち滝が如く涙を放出し、寛大なる心で私を御救い給うた慈悲深き我が唯一神の前に跪き、母なる大地を抱きしめんがばかりに両手を地に突き、絶対の忠誠を誓わんが如く形相でこう答えよう――――「ツラいです」と――――ッ!!
そんなこんなで高校生活もかれこれ半年に差し掛かり、何の出会いもエピソードも無いまま、平々凡々とした日々を送っている訳なのだが――ここで一つ。せめてもの「男子高校生」トークをば、させてはくれないだろうか……っ。
時を遡る事ほんのひと月とちょいくらい前――このクラスに、一風変わった『転校生』がやって来た――――。
●
「――から、来ました……『榎本 奈央』……です」
そう、か細い声で、一言一言呟く様に、紹介を終えた転校生の女の子。
前髪は不揃いながらも目を隠さんばかりに長く、後ろは腰まで伸びている。その佇まいと言えば、まるで制服を着た『貞子』とでも言うべきだろうか。
しかしその貞子の様な威圧感や不気味さといった物は全く感じず、寧ろちょっと押せばすぐ倒れてしまいそうな、そんな弱々しさ、儚さに近しい物を感じた。
「榎本さんはここら辺に来たばっかりで分からない事だらけだから、是非色々紹介してあげてくだ~さいっ」
担任の教師がそう緩く皆に促すと、榎本さんは恐る恐る、小さくコクッ と会釈をした。
それと共に、ぽつぽつとざわめきが――主に女子から――起こり始める。
「それじゃー榎本さん、あっこの席空いてるから~そこに座って」
榎本さんは再度軽く会釈をすると、教師に差された――窓際、一番前の席におどおどしつつも座った。
「それじゃっHRお終い! 号令係さんお願いしまーす」
「きりーつ!」
「ぇ、あっ……!」
ガタンッ! ……と、音の出どころは直ぐに分かった。
榎本さんはその音と同時にビクゥッ ……っと体が固まり、ギギギと固まりながらも周囲からの視線を認識して、
「あ、あ……ごめんなさい…………」
榎本さんが慌てて頭を深々と下げる。
しかし一方、どっ と一斉に笑いが起こる。
「ははは! ごめんごめん、号令ですぐ立つのに座らせちゃって」
「あ、い、いぇ、すいません……」
「あぁそんな、謝る事無いって頭上げてって」
「ぃえいえこ、こちらこそ……」
「きょーつけー!」
無駄な茶番をさせまいと言わんばかりの号令に、二人は一瞬小さく肩を跳ねらせ急いで姿勢を正す。
「れー!」
「「ありがとーございましたー!」」
こうして、転入生『榎本 奈央』の学校生活が始まった訳なのだが――。
その暗い容姿、弱々しい言動、控えめで大人しい性格……それらが影響してか……榎本さんは……いじ…………
……イジられまくった。それはもう。
……そしてそのまま、人気者となった。
「ねーねー榎本さん! 友達になってよ!」
「え、えっ……?」
「あーもう榎本さん一々反応が可愛い!」
「か、かわっ……!?」
「天然ドジっ娘さんなの!? 益々ポイント高い!」
「ぽ、ぽいん、と……??」
「もーホラ! 榎本さん困ってるじゃんホラ下がって!」
「えー待って私も喋りたーいー!」
「榎本さーん部活どうするか決めてるー?!」
「あ、ちょ、ずるい! 榎本さん! 是非部活ならテニス部に――」
「榎本さんに運動系は似合わないよー! 是非、文芸部n」
「いいやここは是非新聞部に!」
「パパラッチはスッ込んでろ! あんなのより私と手芸b」
「どっせぇぇぇい!!! 榎本ちゃん。是非我が部に咲く一輪の華として、コンピューター研きゅ」
「長いわーい!!!! 奈央ちゃんここは冷静に部活よりまず委員会を――」
「「土俵変えるな卑怯者ォ!!」」
……当の本人お構い無しに、様々な勧誘の波状攻撃が榎本さんを襲う。
教室の一角、俺の丁度正面ピンポイントに酷い人だかりが出来、その騒ぎを聞きつけた他クラスの生徒が覗きに……何ならもう入ってきている。
「まぁったぁそっちが土俵変えんならアタシだってメイク研究同好会に」
「あ、あのっ!!」
一気に雪崩れ込んだ人の数に目を回していた榎本さんが、なんとか踏ん張って大きく一声――――しかし、
「あ、あ……の……」
一気に向けられる視線。それまで聞く耳持たずだった人たちに急に聞く耳を持たれ、次に出す言葉を絶対に聞き漏らすまいとする鬼気迫った表情に、榎本さんはそっ……と自分の顔をノートで隠し、
「ぉ……お気持ちは嬉し、い……のです、けど……もう少し、ゆっくり考え……たい、と……いいますか…………えっと…………その…………」
髪で隠れていても分かる程に顔を赤らめ、そのまま縮こまる様に頭を下げる。
ノートは自然と頭の上に。しかしその握る手は小刻みに震え、まるでライオンの群れに囲まれたウサギの様だった。
「ぁ…………ぁあのっ……………えと…………」
“ウサギ”を取り囲むその“ライオン”達はそのか細く震える声を聴き我に返ったのか、
「あー……そうだよね。ごめんねこんな一気に来ちゃって」
「私もごめん。ついその、舞い上がっちゃってさ」
「榎本ちゃんごめん! お詫びに何か奢るから!」
「ちょっと地味に食事誘ってんじゃ……あぁいえごめんなさい榎本さん!」
と、次々に謝り始めた。
「はーい授業始め……な、なんじゃこりゃ?」
「あ、ほら先生来たよ! 皆解散!」
「よ、よく分からんがそうだぞぉ! 皆の者、散れぃ!」
それまで一時的ではあるが恐らく校内一人口密度が高かった窓際最前列は、教師の一声で瞬く間に普段通りの密度に戻された。
榎本さんも、半ば覗き込む様に頭を上げるも、あっという間に集まり、あっという間に解散されたこの状況の整理に頭のキャパシティをフル活用しているのか、時折フリーズ…………、
「きりーつ!」
「…………っ」
の声にはっ と我に返り起立する……も、
((震えてる…………))
その足は、震えたままだった。
●
――斯くして、そんなこんなで今に至る訳だが、榎本さんは少しずつ周りの環境に慣れていき、周りも周りで榎本さんを驚かせない様に気を遣う様に。
(……とはいえ)
未だに隙あらば人だかりは出来る。もはや取り巻き、側近、シークレットサービス、ボディーガードのソレに思える節さえある。それこそ噂では早速ファンクラブが出来たとか。
(もはや『お姫様』だな……当のお姫様本人はどう感じているんだか)
今の所、榎本さん関連のトラブルはあまり起こってはいない。あるとすれば、『榎本さんのドコが可愛いか』について言い合った奴らの件くらいだ。(尚、榎本さんはその事を知らない様)
さて、ここまで長々とこのクラスに転入してきた一人の女子生徒『榎本 奈央』さんについての事を事細かに話した訳だが――こっからが「男子高校生」トーク。
皆の衆、是非心してお聞き願いたい――――。
俺、『伊上 計』は……『榎本 奈央』の事が――
――気になっている……!
え、し、知ってた? 好きなんだろ? い、いや、いやいやいや、決して、けっっして〝好き〟では無い! 苦しい言い訳に聞こえるがいいや事実だ。
俺は、俺と同じ様に『受動的』であるにも関わらず、こうまでも人気の差が生まれているのは何故ゆえなのか、それについて疑問を持ち、彼女を……ええと……観察? ま、まぁ要は『人間観察』を行ってみている訳だッ!!
要するに例えるならば、『伊上 計』という商品に無くて、『榎本 奈央』という商品にあるセールスポイントの違いとは何か――それについて見極め、考察し、俺も同じ様にモテ……ゴホン。“人気者になりたい”という訳である。まぁとはいえ正確に言うとそこまで量は要らないので『誰かと友達になりたい』というのが狙いだろうか。
故に、『人間観察』をしている訳であって、『榎本 奈央』さんが“気になっている”訳である。それ以上でも以下でも無い! 以上、|証明完了(Q.E.D.)ッ!
――――キーンコーンカーンコーン……。
(……ま、こんな俺が仮に、仮の話として彼女の事を好きになったって、どうしようも無いんだよなぁ……。周囲のガードも高けりゃ、相性も合う気がしない。それこそ、たぶん俺より他の奴の方が彼女に合うかもしれないだろうし、例え彼女と付き合う事が出来たとしても、その後うまく続けてやる事が出来るか? と言われたら、答えられる自信も無い……というかそもそもこの見てくれの時点でほぼ詰みというかなんというか…………)
「はぁ……というか、何考えてんだろ俺は…………」
鐘も鳴った事だし、伊上計の憂鬱はここまでに――と気持ちを切り替えて、本や飯の入っていた袋を仕舞い、皆と同じ様に次の授業の準備をした。
そしてふと前を見ると――――
「――あ、奈央っちどこに行ってたのー?」
クラスの女子が、遅れて教室に入ってきた榎本さんに声を掛ける。
「ご、ごめん……ね? 先生に、その、呼ばれちゃっ、て………」
「またぁ? もー授業始まっちゃうよー」
「う、うん……」
とととっ と榎本さんは自分の席へと急ぎ座り、自分の鞄から次に必要な教科書等を用意――しようとするが、
「……? …………??」
榎本さんは、頭上にハテナマークを浮かべ、必死に鞄を探るだけしか出来ていなかった。
「あれ、エノちゃんまた時間割間違えたの!?」
すると榎本さんの|(羨ましい事に)隣席である女の子が、榎本さんに詰め寄っていた。
「えと、その……ご、ごめんっ……最近、その、曜日感覚が……ちょっと……」
ペコペコと頭を下げ、半ば上目遣いをしているような姿勢に。羨ましい。その距離で榎本さんを拝めるだけでもとても羨ましい。
その隣の席の子は、自分の鞄から教科書とノートを取り出しながら、
「んー寝不足な感じぃ? もーエノちゃんちゃんと寝ないと、おっぱい育たないぞぉ~??」
「お、おっぱ……!?」
そう言って、席と椅子を――ずぃっと一気に寄せて、
「ぁホレ」
――がしぃっ……!
「ひゃぅッ」
榎本さんの肩がビクンと跳ねる。慌てて手を振り払おうとするも、力が入らないのかそもそも力が無いのか、ただただ力なく相手の腕を……こう……ペチペチと。|(可愛い)
「どぉれぇ~私がいっちょ揉み解して、ぁバストアップをして進ぜよぉ~う」
――もにゅ、もにゅ。
「ちょ、やっ、やめ――――!」
――もみゅ、もみゅ。
「さわりす、ぎぃっ…………!」
――むにゅ、むにゅ。
「んん……んぁあっ……!」
――たわわん、たわわん。ぱふんぱふん。
教室内に小さく――しかし確実に、榎本さんの嬌声が響き、それに混じり「むふふ」「おほほ」「ここがええんか? お?」と煽る隣席の嗤い。
「オイそこォ! 何うらやm――ゲフンゲフン。けしからん事をやってんだ!!」
「そうだそうだ!! 周りの視線もとい〝男の子の気持ち〟を考えろ!!」
――Boo!! Boo!!
目のやり場に困る男子勢、堪らず抗議とブーイングの嵐を巻き起こす。
しかしそれに対し彼女は怯み臆す事無く――寧ろ声高らかに――、
「羨ましかろう男子諸君……! 歯痒かろう男子諸君よ……! そう! ぁこれがッ! ぁおにゃのこに生まれたッッ!! ぁ特権よォッッッ!!!」
オーッホッホッホ――と、正に悪役と言わんばかりの高笑いを轟かせた。
だがしかし、悪が在りし所に正義が在る様に――扉の開く音と共に、一筋の光が……ッ!
「はーい授業始めますよー号令係さーん」
教師の声を聞くや否や彼女はサッ と何事も無かった様に手を引き小声で、
「おぉっとぅ今日はこのくらいにしといてやろう……」
「はぁっ……え、えぇぇ…………?」
そしてくぃっ と榎本さんの腕を引き――
「ふーっ」
「――――――!!」
――ガタガタンッ!
「おぉどーした榎本。口押えてるけど具合でも悪いのか?」
「……っ! ……っ!」
榎本さんは顔を真っ赤にして隣の席の子と先生を交互に見、目で何かを強く訴える。
しかし、何かを堪える様に口だけ押え続け、黙して訴えるのみとなっている榎本さんに、
「すいませぇん私教科書忘れちゃってぇ。エノちゃんが教科書見せてくれるってぇ」
「お、そうかそうか。次はちゃんと持って来いよ。榎本も、大丈夫そうか?」
……榎本さんは、プルプルと震わせながらも口を押えていた手を下に置き、
「だい……大丈夫、です……っ」
一瞬声が裏返りかけつつも、というか明らかに震えた声で、そう返した。
(なるほど耳が弱点か……今ので覚えた|(裏声)。てかそんな事より気づかなかったんスか先生!? 鈍感過ぎない!? めっちゃ震えてんじゃん榎本さん耳までぜってー赤くなってる奴だよコレ?!)
と、心の中で抗議するも言い出す事が出来ず――というかその実、割と榎本さんに対するセクハラはちょくちょくあるというか、他の女の子同士でもそういう事があるというか、故にまぁ、うん、女の子特有のスキンシップとして捉えるべきなのか否かよく分からないのが本音だ。決して僕自身、人に物を言う事が怖いとか、実は対人スキルあんまり無いとか、そういう訳では無い。たぶん。おそらく。きっと。メイビー。
「そうかあ。何かあったらすぐ言うんだぞ。じゃ号令係さんお願いしまーす」
「きりーつ。きょーつけー。れー。」
「「おねがいしまーす」」
こうしていつも榎本さんは、鐘が鳴っても気が抜けない、まるで台風の様な休み時間を過ごし、授業が始まると同時にボサボサに崩れた髪|(と、乱れた呼吸)を整えつつ、授業に戻るのであった――――。
――――完。
って違う違う!
まだだ、まだ終わってない!
そう、今回――もとい、これから起こる出来事で、この日常は終わりを告げる事となる。
具体的には、ここから大体二日くらい先に時を進めた――――
――ある“日曜日”の事だった……。
●
――電車に揺られ早数十分。午前十時ちょっと前。
俺、『伊上 計』……趣味、誰かと遊ぶ事も稀だったので、インドア系で割と色々。アニメや漫画を嗜めば、映画や海外ドラマも。ゲームは特に。しかし最近は小説や、特に“ライトノベル”を読むことにハマっている。
そしてそう、その“ライトノベル”についてだが――――
――現在、『秋葉原』駅、電気街口南、なう。
敢えてラノベネタで表現するならばそう、かの有名な「あーきはーばらー!」の場所に、俺は立っていた――――!
――黒に薄く銀の紋章が描かれたシャツに、黒いズボンという、上下暗色という組み合わせに、持ち前のガッチリ武闘派ヤンキー体形が合わさり中々どうしてか視線を(主に怖いという理由で)集める格好で。加え、上着で親父から押し付けられる様に譲り受けた学ランを持ってきた……が、熱いので手で持って肩に掛けている。てか自分コスプレっぽい格好嫌ですし。おすし。
(まぁ何はともあれ、今日は今俺が読んでいるライトノベル『遊戯無くして人生無し!』の新刊発売日ッ! プラァッッス、その作者さんのサイン会が行われる日ッッッなんだけどッッッッ)
……人気作家故の抽選形式により、基本運に恵まれない俺氏、無事当選ならず。
(なのでそれは置いて置き…………ぁお目当てはッ、その店舗のみで買える特典付き版ッッ! と、スピンオフ作の予約ッッッとソレに付随する予約特典ッッッッ!! そしてちょっとだけ関連グッツを買ってみたいッッッッ!!!)
無駄にハイテンションだなって? そりゃあそうだ自分にとって好きな作家の作品だぁテンションくらい上がらずしてどうするってんだ! それこそ、その人の某『青い鳥のSNS』いっっつもチェックしてるし!! あの人ラノベ書く割には大分博学だしさぁ!!! トークも軽快で面白いしさぁ!!!! そもそも作品自体駆け引きという名の揚げ足取り合戦ですっげぇ面白いし!!!! あとは……えっと……さぁ!!!!!
(いや「さぁ!」って何だよ自分! まぁ確かに最近出たばかりの人らしいからあんまり情報上がって無いしね! 性別も歳も知らんし!! ……若手っつってたからお兄さんお姉さん辺りなのか? まぁ情報を待つか、実際に“会ってみる”まで分からんな!!!)
脳内で正に『orz』の姿勢をとり、再び落選した悲しみが込み上げてきてしまう。
(……頑張ろうな自分。せめてな、空気感だけでもな、味わって帰ろうな。うん)
悲しきかな、自分で自分を鼓舞し――――
――さぁ、と。
(いざ赴かん、秋葉ノ原へ――!)
足早に、(出る所北側だった☆)とUターン。建物の中を通り抜け、目的の場所へと急いだ――――。
●
『秋葉原駅』より歩く事五分未満。
中央通り右手側に構えるお店の一つが、今日の目的地だ。
さて、前方右手側に見えて参りました〝青色の看板〟が特徴のアニメ専門店―――
―――『オニメイド』!
店先には様々なアニメやラノベ等のポスターが張られ、店内入りましてすぐ正面に新作漫画やライトノベルがズラリと並び、右には様々な雑誌、左には関連グッツ――横幅には決して広くはない店内だが、それ故か目に入るサブカルチャー系商品の多さに、初見で思わず「こんなに嬉しい事は無い……!」と感涙した事をついぞ思い出してしま……
……ん? 何だって? 『オニメイド』が? 実際の名前と違う? いいやこれで合っているじゃあ無いか。どこぞの『アニメ』で『メイト』な所と、この『オニメイド』は、よぉーっく似てはいるが全くの別物だ。詳しくは『大人の事情』で、検索検索ぅ!|(裏声)
さて気を取り直して…………そんな『オニメイド』に到着した俺は、針の穴を通す様に人と人との間をすり抜け迷う事無く店内入って右手沿いに少し進み中央最新商品のコーナーに置いてある『【オニメイド限定版】遊戯無くして人生無し!』を正確且つ足を止めずに回収そのまま正面進んで左斜め前のレジへ並び会計を済ませそのまま左向け左で『オニメイド』出口へ――――。
――この間僅か“二分未満”ッ! オニメイド・タイムアタックのランキングがあればトップ10入り間違い無しッ!
……いや、正直人混み苦手なだけッス。はい。見知らぬ人間に囲まれるのスゲー怖えーッス。えぇ。こんな見てくれなのに小心者でスミマセン。ハイ。
(……って、さっきから俺は誰に話してんんだ!? 誰に謝ってんだ俺?!)
きっと日頃の疲れが溜まり独り言が多くなっているのか、はたまた長年に亘るぼっち生活により話し相手を求めあろうことか『第四の壁』を無意識のうちに破ろうとしているのか……。
(どちらにせよ、早く帰るに越した事は無いな……)
『オニメイド』を出、進路を南南東――つまり秋葉原駅へ。
途中交差点で信号待ちしつつ、ふと辺りの風景を見渡しながら、
(ありがとう秋葉原。さらば秋葉原。またいつか会いましょう。そしてただいま愛しい我が家!)
戦利品の入った袋を気持ち少し握りしめ、信号が青に変わる。
帰ってゆっくり読む事を考えながらも横断歩道を渡る――――と。
(……ん?!)
渡り切った所で、思わずすれ違った人の正体を確かめようと振り返ってしまう。
何故ならば――滅多に一人で居る所を見かけず、且つ性格的にもここに来る様な子だと、思ってもみなかったからだ。
「…………」
(え、榎本……さん!? 何故ここに!?)
視線の先、ついぞ渡り切ってしまった人らの合間に、向こうは気づいていない様だが確かに榎本さんが居た。
しかも、長い髪を珍しく後ろにある程度持って行き、しかもそれらを結んでいる――つまりポニーテールでは無いか!?
服装も、いつもの制服では無く私服……なのだが、そこまで派手だとか、可愛らしいだとか、大人っぽいだとかで無く、なんというか、こう…………地味、な格好をしていた。まぁそれでも何だか可愛く見えてしまうのは、榎本さんの立ち振る舞い故なのだろうか。
(え、え、取り巻きや親に連れられてって訳じゃなさそう……というか一人で買い物っすか榎本さん!? 全くそんなイメージ湧かないというか現にここでこうしている以上これが今後のイメージ像になる訳だけどえぇうっそマジですか!?)
何道端で芸能人見つけちゃった的なリアクションしてんだ、と言われれば「仕方ないじゃない好きな人なんだもん!」と答えよう。僕にとっては、芸能人やTVスターのソレと、ぁ同義なのだよォッ!
(って感極まって『好き』言っちゃったよ俺!? ちちちげーし別に俺そんなんじゃねーし!)
とにかく、珍しい光景を観たという事だ。うん。一旦それに落ち着こう。
しかしそれに落ち着いた所で、俺は視界の隅で点滅する『青色のランプ』を見て、再度焦りを募らせる。
(え、え、ちょ、どーするよ俺!?)
(ってどーするも何も帰るんだよ俺?!)
(いやでも……正直もうちょっと見ていたい……かなぁ~って!?)
(だからその、ついてこうかなぁ~って だろ!? それはマズいだろ!!)
(でも! やるなら!! まだ渡れる!!! 今しかない!!!!)
(だァァァァ!! どうかバレませんよぉにぃぃぃッッッッ!!!)
振り返った顔そのままに体を同じ方向に持って行き、(あ、そういえばアレ買い忘れてたな~)的な雰囲気を作り、赤に変わるギリギリに突発的且つ瞬間的な全速力で半ば滑り込む様に、横断歩道を引き返した。
榎本さんは人の合間合間でチラチラと確認出来る。
なので上手い事榎本さんを捉えられ、且つ歩きやすい道路側に移動し榎本さんを右正面に捉え追従――――。
(はぁ……コレ、完全にストーカー……)
…………。
(…………)
「…………」
――――ホンットにバレませんよーに!
さて。うん。色々思う事はあるが気を取り直して。
ここに、つまり秋葉原に榎本さんが居る。という事は、十中八九買い物に来た可能性が高い。秋葉原といえば、古くはジャンク品や電化製品の聖地。今ではアニメ・マンガ・ラノベ等の聖地だ。そういった物を売っている所はこの町に幾らでもある。逆に観光や食事で来るような所だとは中々思いづらい。旅行客ならまだしも、榎本さんは学校から近い場所に住んでいるらしいので、必然的に俺と最寄駅はほぼ同じの筈だ。小旅行なんて距離では無いのでその線は無い。やはり確実に買い物目的。と、いう事はまさか――――?
歩く事そうもしないうちに榎本さんは…………
……先ほどまで俺が居た『オニメイド』に入っていった。
――榎本さんは……“オタク”だった!?
い、いや、何も珍しい話では無いじゃないか。近頃の若者つまり俺含め、アニメや漫画等の俗に言うオタク趣味に寛容的、なんなら俺・私も好きでーす勢が多くなっているじゃないか。クラスにも多いらしいし。きっと話題合わせとか、友達に勧められて~だろう。たぶん。
さ、榎本さんは店内に入っていった。どうする伊上計・童貞十六歳。
(……いや流石に店内はバレるでしょ!? ってか童貞かんけーし!?)
いやそのネタこそ関係無いもとい細かすぎて伝わらないだろ、と。
という事でとりあえず榎本さんがもし出たとしたら駅・もしくは他の目ぼしい店がある『オニメイド』から出て左を見る可能性が高いので、その逆の『オニメイド』から出て右手側――『オニメイド』を右斜め前に捉えられる位置で、スマホ片手に(待ち合わせてる人来ないなー)的な雰囲気を纏い(つもり)で、榎本さんが出るのを待った。
(……我ながら馬鹿だよなー……態々ついてって、炎天下の中勝手に待ってるって)
――それこそ、この『オニメイド』、案外知られてなかったりするが、裏手側にも出口がある。仮に榎本さんがそれを知っていて、そっちから出た場合は感知不能。それまで待ったのが水の泡と化す――――いや逆にそれで留まるから良いのか?
(……まぁとにかく、三十分待とう。それで出て来なかったら、一時の気の迷い……って事で)
ため息を一つ。しかしチラチラと視線だけは外さずに待つ事――――
――――三十分後。
(……時間だ。喉も乾いたし、諦めて帰る、か)
額からは既に汗が大分前より流れている。
加えずっと立ちっぱなしなので、流石に少し疲れて来た。動いているならまだしも、ただただ立ち続けているだけなのは何故か動くよりも疲れを感じてしまう。
何度か出し入れを繰り返したスマホを、いよいよポケットへ仕舞い込み、最後に少しだけ……と、『オニメイド』の出口を見ていると――、
(……ん、あれは)
榎本さんが出て来た――――
「…………♪」
――――紙袋片手に。
(えっ、ちょ、榎本サンどんだけ買ったんスか?! 中見てないから何ともだけど、いやちょっと持ち手がピーンッ ってなってますよ!?)
榎本さんは重そうな紙袋片手に、何やら足取り軽やかに俺とは反対方向――つまり駅方面へと歩き出した。
(か、帰るのかっ? とりあえずついて行k――――えっ?)
と、思いきや、『オニメイド』の直ぐ隣――
――『とらのあね』に入っていった――――。
(え、榎本さんまだ買うんスか……!? と、とりあえず待つ……か?)
ハタからすれば「何あの人さっきからソワソワしてるかと思えば急に待ち合わせ場所ちょい変更とかどーいう事?」って思われ……ってそこまで逆に見てる人なんか居ないよね。そうだよね。そんなストーカーまがいの事する人居る訳無いよなーアハハハハ…………ハハ。
(――居るんだよなぁぁココに!)
……本当に、馬鹿な事やってるよなぁ~……と。
でも、さっきチラっと、榎本さんの顔が見えた――もといそもそも、榎本さんの私服姿や普段と違う髪型、予想外な買い物量で、何故か俺はその場を離れられずに居た。
(……いよいよストーカーの始まり…………い、いや、まだバレて無いからセー……いややっぱマズいよなぁ……)
そう少しずつ罪悪感が湧いてくる――が、どうしてもそれ以上に、榎本さんに対する興味が、俺には湧いてしまっていた。
良く無い事をしている。でもそれでも――と、好奇心が、僕を留まらせていた。
水も飲まず、相変わらず(待ち合わせの奴コネーなぁー)的な風貌を|(気持ちだけ)漂わせ、 待つ事また三十分程度。
(お、出て来――いや、えぇ?!)
榎本さんは出て来た。
「…………♡」
幸せそうに袋を計“二つ”程、左右一個ずつ持って。
(……え、榎本サンの家って、お金持ちさんなの、かな?)
新しく増えた紙袋もまた、持ち手がピーンと張っていた。
流石に袋一杯……とは考え“たくない”ので、ある程度の本若しくはグッツなどが入っていると予想。というかそんな本買うんなら一店舗で一気に買っちゃえば良いんじゃ……? もしかして特典目当て? 『観賞用・布教用・保存用』とかいう奴? そうならそういう人初めて見ましたよ榎本サン!?
そうこう考える内に肝心の榎本さんは『とらのあね』出て左、駅の方面へと歩いて行った。
(よ、よぉし流石にもう帰るでしょ。うん。女の子が持つにはソレ割と重そうですよ? 何なら持ってあげたいけどバレたらマズいし……だぁーっ)
手を貸したいが貸せないこの歯痒さ、誰か分かってはくれまいだろうか……。
いや、ストーカーしてる時点で共感出来ないっすわ……――と、全米が黙って首を振る程度の事を考えながらも、その事を知ってか否か榎本さんは駅方面ではる正面横断歩道――――――では無く“右の”横断歩道を、渡っていた。
(ん? お、え? 待って榎本サン? そっち違いますよ? まさかまだ買うんスか?)
いやいやまさか。恐らくこっから右、つまり北上し、ちょっと歩いた所にある『末広町駅』から帰るんだろう。一応そっからも帰れなくは無かった気がする。確か。うん。きっとそうだ。
という願いを聴き入れてか否か、榎本さんは何ら迷う事無く“真左”の横断歩道で、信号が変わるのを待っていた。
(いや、いやいやいや榎本サン! マズイって! まずいッスって!)
そっち側にある目ぼしい店といえば、片や模型やプラモ・フィギュア等のグッツを販売している場所、そしてもう片方は一応先ほどと同じ本を売っている場所……なのだが、
(頼む。前者であってくれ。前者のがまだ平和だって。前者のがまだ幸せなままだって。お願い。そっちはアカン)
ただただそのまま“直進”しないでくれ――と心の中で懇願するばかりなのだが、肝心の榎本さんは――
――――直進。直進。更に直進。
例の“後者”が目と鼻の先にある所、二手に分かれている場所。右には路地があり、そこを進めば前者に辿り着き、曲がらず直進すれば後者に辿り着く――という運命の分かれ道に立ち…………
……あっちかなー……こっちかなー……どっちかなー…………と。
(いや確かに両方緑の看板だけどさッ。お願いだからそこで右折しよ!? 内容は段違ってモンだからさ?!)
果たして榎本さんの下した決断や如何に――!?
…………こっち。|(直進コース)
(ノオオォォォォォォォォォォゥ…………)
観客・視聴者全俺が、その瞬間、頭を抱え……地に伏した。
榎本さんは奈央……いや尚、軽やかに進む。
榎本さんが恐らく目的地にしているであろう場所は、他の店とは違いゲームセンターの地下で1フロアだけ本当に小さく構えている店である。
しかしその店にはいつも多くの客が出入りし、多店舗とはまた違った賑わいを見せている。
その店の名は――『マロンブックス』……!
……榎本さんが、その『マロンブックス』に通ずる階段へと向かって行った事を見届け、僕は頭を抱えたい気持ちを押し殺し、(あ~ちょっと疲れたし休憩がてら電話しよっかな~)と…………
(……いやもう普通に待とうよ。うん。適度にスマホ見ながら立ってるだけでも怪しく無いって。演技考えてそれやってる度になんだか自分が惨めに思えてくるよ。うん。もういいって。十分頑張った。頑張らなくて良い事というか頑張っちゃイケナイ事だけどもうしゃーないって。頑張った。うんうん)
もはや自分で自分を慰め初めてしまう程の事をしていると自覚するが、それ以上に心のどこかで、このお店に榎本さんが入る意外性と、出て来た時の反応見たさが、「それでも」と、帰らない理由となっていた。
さて、いよいよ榎本さんが踏み入れてしまった『マロンブックス』。
何故これほどまでに俺が|(行っちゃアカン)と思っているのか、ワケを話そうじゃないか。
この『マロンブックス』では、他の店舗と同じように本を売っている。
漫画やラノベ。雑誌や画集。レパートリーも大体一緒。とはいえ多少の差異は他の店も同様当然あるが。
まぁここまでは普通だ。では何故、人で賑わうのか? 理由は主に二つある。
一つは、他と違い『同人誌』も委託販売しているからだ。
プロ・アマ問わずに、各同人系イベントで販売されたユーザー制作の比較的薄い『本』だ(中には厚い物もあるが)
主に客はコレ目的で来ていると言っても過言では無いだろう。通常の本、つまり『商業誌』には無い、ユーザーならではの表現や作りをしている作品にはそれだけの“独自性”や“個性”、キャラクターの公式で取り扱われていない部分や既存の話からの発展、「もしも~」な物語を様々なユーザーがそれぞれの解釈で表現するという“面白さ”が、この同人誌には詰まっている。
加え中には、完全オリジナルの作品を同人誌にて出している所もある。それもまた、ライトな物からハードな物、商業誌には無いコアな物まで幅広くあり、どれも興味深いと言えよう。
――しかし、その『多様性』と『商業誌には無い』という要素が、この店に入る客への注意点――失礼。正しくは――――
――この店に入る、〝未成年〟への注意点。
この店、『マロンブックス』。実はR-18、18禁、呼び方はどちらでもいいが要するに………………『えっちな本』も売っている。
……いや、コレ自体は何も問題ない。今時そういった『えっちなコーナー』なんて割と近場に、それこそDVDやCD、ブルーレイといった物のレンタルショップでも「十八歳未満 立ち入り禁止」のコーナーが地味ぃ~に設けられている。
それなら良い。それなら全然問題ない……のだが。
(あ、榎本さん。お早い帰還です……ね……?)
榎本さんは、比較的小さいがそれでもよく詰まった紙袋を一つ増やして出て来た。
しかし……、
「…………っ」
……榎本さんは俯き、重さ以外の要因で腕をプルプルと震えさせ、ぎごちない歩き方で足早にその場を立ち去った。
(……やっぱ、そーなりますよねー…………)
このお店の最大の|(大人は除く)欠点が…………
『レジの列に並ぶ為に『えっちなコーナー』へ入らねばならない』という事だ――――ッ!
それこそ、時として数分以上並ぶ事も珍しく無いので、必然的に俺ら『未成年者』は周囲に「あは~ん♡」で「うふ~ん♡」の「いや~ん♡」な絵に囲まれながらも、順番を待たねばならない、という事だ。
男の子ならまぁ、主に己が封印されし聖剣の共鳴を鎮めれは良いだけの話。
どうしても向いてしまう自分の視線に嫌気と背徳感を覚えてしまうのもまた然り。仕方ないじゃない、入場は全年齢で会計は十八歳以上からなんて通る筈が無いもの。ましてや手にしているは全年齢対象の作品。「えっちぃの♡」では無い。しっかりルールを守っている。購入する過程で致し方なく「えっちなところ♡」を通っているだけで、視界に入ってしまうのは単なる不可抗力で、限りなくアウトに近いだろうがセーフだ。少なくともこの『マロンブックス』ではまかり通るのだよ! 意義は認めんッ!! 俺らの桃源郷だッッ!!
という男の子としての言い訳もとい詭弁を垂れ流す一方――――
――だがしかし、女の子の場合はとなると…………今の榎本さんの様な具合になったりする。いや正直今時の女の子事情が分からないので案外そうでもなかったりするのだろう……か? 少なくとも榎本さんは、あぁなった。
榎本さんの様なリアクションが、というか特に榎本さんは、そのリアクションで合っている。女の子として然るべき姿だと思う。夢見るなとか言わないの。そして逆にそういう「えっち♡」なのを好き好んで見ている榎本さんは……想像したく無い。……いや逆にその方がリアルなのか? いやいや少なくとも今は夢を見させてくださいな。折角の夢を壊してしまうのは、無粋というモノでしょうよ。えぇ。詭弁です。今だけ言わせて下さいな。
何はともあれ、薄々予想していたリアクションのど真ん中を貫かれてしまった以上、男としてこう思うしか無かろう。
(榎本サン……やっぱり可愛いです……ッ!)
反論は認めない。あの様に羞恥心に顔を赤らめる女の子の様子というものは非常に良い物では無いか。内心拳をグッと握り、脳内4コマにて全俺外人がスタンディングオベーションをしている図が心の中で浮かぶ。
(にしても榎本さん大分早かったけど、全然買う本の量減らないっスね……)
……そして、ふと『マロンブックス』から出た時間と、紙袋の膨れ・張り具合から、明らかに毎分数枚以上は必ず取っている事が解る。
あらかじめ買う物を決めているのか、はたまた直感で手早く選んでいるのか、まぁどちらにせよ、縁があれば是非その買い物姿を近くで見たい……そう……縁が、あれば………………。
(……あれ……何だろう。目から汗が出て来たな……疲れたのかな、俺……)
既にもう望めなくなったモノを憂い、しかしそれ以上考えるのをやめ、一先ず足早に去ってしまう榎本さんを追いかけようと、早々にも慣れてしまった足取りで、俺は榎本さんの後を追った。
歩く事数十メートル、秋葉原駅に続く高架下の横断歩道で、右斜め前方に榎本さん捉え続ける伊上計。
このまま真っ直ぐ行けば、そのまま秋葉原駅なのだが、この調子だと確実に横断歩道を渡って右に曲がり、次の角を左に曲がり、数歩歩いた先にあるお店へと入る筈だ。賭けても良い。今なら榎本さんの動向がスポーツ実況の要領で読める気がしてきた。
さぁ注目の榎本さん。早速ですが今まさに信号が青に変わった。
こちらも対岸も等しい数の人々が中央通りのさらに中央で激突!
榎本さん、少しまごつきながらも何とか合間を縫って脱出ッ、無事この横断歩道を渡り切ります。
さてここからが本番です。渡り切った先の道を左折すれば高確率で秋葉原駅、右折すれば高確率で例のお店へと辿り着いてしまうッ。注目の榎本さんの決断はッ……“右”だッッ!
まず一つ目の伊上選手の予想が当たりました。解説の伊上さん、これをどう見ますか?
(はい。やはりこれまでの行動パターンから確実に榎本さんは『本屋巡り』をしていると言えましょう。それを的確に見抜いた計選手、これは良いプレーです)
なるほど。さて榎本さんは先ほどの横断歩道を左折、そのまま直進、ここからは榎本さんに二つの選択肢が与えられます。
(はい。一つは、正面に構えます大型の模型・フィギュア・プラモ等を扱う別名ホビー天国――『バークス 秋葉原ホビー天国』。しかしこの可能性は薄いと言えましょう)
と、言いますと?
(先ほど『マロンブックス』ともう一方で迷っていましたよね、あそこで『マロンブックス』を選んでしまっているので、「模型に興味はあるけども……んー今度でいいや」的な思考が働いている可能性が高いです。当初の目的である『本を買い漁る』という事にフォーカスすれば、自然と行動が掴める筈です。秋葉原では、違う種類の店舗を回るよりかは、似た様な店舗を回りその差異を楽しむのが、一つの流行りですからね)
なるほどお。あぁっと榎本さん正に今の解説を聞いていたかの様にスムーズに左折ッ。その先に待ち受ける店とは果たしてッ。解説の伊上さん!
(はい。この先に待ち受けてますのが、独断と偏見による秋葉原三大本屋さん『オニメイド』『とらのあね』に並びますもう一店舗『ゲーマーダ』です。先ほどの『オニメイド』はアニメ傾向、正式名称『コミック とらのあね』はコミック傾向、当店『ゲーマーダ』はゲーム雑誌傾向が、それぞれ強いですね。基本的にはどれも近い品揃えをしていたりもしますが、やはりその傾向によって多少の違いはありますし、なにより同じ商品でもこの三店舗間で特典が全く違うなんて当然ある事です。お金のある人、その作品に愛を注ぐ人は、敢えて三店舗周り、特典を集めたりもするものです)
詳しい解説、有難う御座いました。
今まさに、言った事が現実となる様な順調さで、榎本さんが『ゲーマーダ』へご入店!
さぁここから注目していきたい要点が三つ程あります。
一つが、また紙袋が増えるのか。
(これは榎本さん自身の体力にも関わりますね。出来る事ならば助け船を出してあげたい所なのですが、こちらはストーカーしてしまっている身分なので手が出せません。歯痒いでしょうが、陰ながら、応援するばかりです)
そして二つ目が、続けるのか、もう帰るのか。
(これは帰る可能性が高く見受けられますね。流石に女性の体、ましてや運動している訳では無い身体なのでそこまで力は続かない筈。店内で置く機会が無かったとしたら既に榎本さんの体力は限界を迎えています。早急な休息が必要なのは、正に一目瞭然です)
そうですねぇ。そして最後の三つめが――――
――このノリ、いつまで続けるのか!
……ストーカーって、大分大変な事なのね、と。
いよいよ日に当たり過ぎた故かそれとも最初からかは定かでは無いが思考が定まらなくなってきていた。
黙々とついて行き、ただただ待ち続けるという行いが如何に無意味かをようやく見出し始めた俺だが、やはりそれでもと、好奇心はまだ収まらない。
(というかここまで来たら好奇心よりも『心配』のが強いよ!? 大丈夫なの榎本さん?!)
何もしてやれない。というか何かしたらマズイ状況に立ってしまったが故のムズ痒さ。決して誰も共感出来ない、いや、共感したくない感覚に心が少し折れそうになる。
しかし、無駄に打たれ強くなってしまった俺の心は、いよいよまだまだと榎本さんが出るまでの三十分間を乗り越えてしまった。
「…………」
榎本さんはまた、紙袋を一つ増やし、今度こそ純粋に『重い』という理由で腕を振るわせ、物理的に重々しい足取りで、進路を榎本さんから見て左、つまりようやくの『秋葉原駅』へと歩み出してくれた…………!
(はぁ~……ようやくドキドキハラハラのストーカー大作戦が終わってくれるというもんだ…………)
あとはまっすぐ進み、左手側の改札、俺が最初秋葉原から出た所に行けば、感動のゴールというもんだよ……よく頑張った俺。よく頑張った榎本さん。本当にすいませんでした榎本さん……っ!
さぁ、感動のラストラン。榎本さんはその気持ちに答えてか真っ直ぐ進み――――
――――真っ直ぐ進み――――――――
――更に――――真っ直ぐ進み――――
――左手側に見える改札へ――――――
――――――は入らずに!?
そのまま真っ直ぐ進んじゃい――――!?
その先にある『東西自由通路』へ突入…………してどうするのさ榎本さん。
ん? おもむろに? 壁の前に荷物を置き? 財布を? 出してからの?
…………いや待て、あれは壁じゃない! まさか、榎本さん――――
――奥義【コインロッカー】発動ですか――――ッ!?
……まさかーの……第二ラーウン……。
……ファイっ……?
体力的には当然圧倒的に上の筈の俺が、もう汗水垂らし足腰悲鳴を上げているにも関わらず、榎本さんは荷物を仕舞い、解す為に腕や手を一振り、適度にもみもみ……と。そして紙袋からまたおもむろに取り出したるは――――
「……み、水っ……!」
そう思わず声が出てしまう程、今正に俺が例え倍の値段だろうが欲してしまっているもの即ち――『水』!
時計を見ればもうそろそろ正午――昼飯時だ。
それなのに俺は何が悲しくてなのか、飲まず食わずでこうして一人の女の子を追いかけている。もうね、馬鹿かと、阿呆かと。こんな奴逮捕されちまえよ、と。
だけど肝心の俺はというと、いよいよ熱や脱水ででやられたのか……
(コレが! バレるまでッ!! ツケるのをッ!!! ヤメないッッッ!!!!)
とか思い始めている次第である。
一方、榎本さんはというと、いつの間にか……というか元からしていたのであろうマスクを外し、とても涼しい顔でくぴくぴと水を飲んでいた。
(良い表情してるなぁ……水が飲みたくなる…………ん、表情だとっ!?)
慌てて近くのコインロッカーを弄る素振り――というか普通に上着が邪魔だったので上着を仕舞う……というのに付随して(ポッケ何も入って無いよな~?)的な動作で時間を稼ぎ横目で榎本さんをちょいちょい捉える。
(今、表情……というか、顔が、全体的に、見えた、よ……な……?)
水を飲む際に、当然としてまずマスクを外し、中の水を口へと向かわせるために必然的に顔が上向きになる。
この時榎本さんはいつもより髪がまとまった状態でいて、まずマスクにより髪が少し顔から取り除かれ、それが上向きになる事によりイコール髪は重力に従いサラッ……と横に落ちるor顔が見えずらい程の髪は顔に残らない。そうとどのつまり――
今正に、その事象を、俺は、観測できた。
クラスの『榎本さんファンクラブ』? 的な所の男子が時折「でも榎本さんの素顔ちゃんとは見た事無いんだよなぁ……」とボヤいていたのを覚えている。
つまり今、俺は、そういった「榎本さんの素顔見れてない」勢よりも一歩先を行った訳だ。
……え、マジで!? 榎本さんの素顔見れちゃったの俺!?
今度は本当に、なるべくロッカーの陰で、グッ……と握りこぶしを作り、ここまでやって来れて良かったと、喜びを噛みしめた。
(いやぁ~一部のガツガツ行く系の女子は既に無理矢理知っているだろうけど、それ以外の榎本さん取り巻き勢やファンクラブ勢の、少なくともそれら男子の中で一番珍しい情報を俺は知っているという事か!)
やっている事はそのガツガツ行く系の~よりもヒドい事かもしれないがうん。プライベートの時に偶然見かけたんだ~という、事で、ね、うん。
(……ホンット俺何やってんだろ…………)
……もう、これ以上考えるの、ホンットにやめとこ?
そう自分に言って聞かせ、遠目に榎本さんが一息つき終わったのを確認し、こっちも長―いポケット確認を終えて、少し間を空け追従を再開した。
(……やめれば良いのにね。 でもここで甲斐が出来ちゃうと今回も引くに引けなく…………)
……“次”で止めよう。
次、何かで見失うか、一段落付くかでさっさと帰ろう。
そう自分の中でルールを作り、気を取り直す。
まるで、ようやく運が回ってきたと“思い込んでいる”――――
――無謀な賭けに挑み続ける“ギャンブラー”の様に。
●
ギャンブル、賭け事というものは、“手持ちの金が増えて”ゲームを終了するから儲かるのである。
最初の手持ちから少しずつ賭け、小さく儲け、大きく賭けれるようになれば、中くらいで賭け、ちょっと大きめに儲ける。
結果的に、小さく賭けても大きな儲けを出すことがセオリ――――
――なのだが、時としてそのセオリーを考えず、無謀にも全額での勝負に挑みたがる勝負師が出てくる。
勝てば、たったの一手で大金を得る事が出来る。
しかし負ければ、たった一手で全てを『失う』事になる。
正に『ALL OR NOTHING』。全てを得るか無に帰すかの世界だ。
負けて全てを失えば、次のゲームも出来なければ、ここでの居場所すらなくなってしまう。何も残らない。
だがその時の勝負師の頭には、勝負に勝ち、延々とゲームし続け、ここに入り浸る光景が浮かんでしまっていた…………。
人は時として、気付かずに欲に溺れ――――
――また、気付いていても、抗えず欲に溺れる生き物なのだ。
●
榎本さん追いかけ早数分。
さて、この先といえば、コマーシャルでおなじみ、みんなの『ヤツハシカメラ』。
なんだか、雲行きが怪しくなってきているが、榎本さんはあの荷物で帰れるのだろうか……見たところ、傘を持ってきている様には見えなかった。
それこそ俺も、天気予報なんざ知るか! と窓から外を一目みただけで来てしまったので、少し不安が残る……が、今はそれよりも、だ。
このまま行けば榎本さんは確実に『ヤツハシカメラ』八階の本屋さんへと向かう筈だ。これまで全てサブカルチャー系の本で占めて来たので、最後は普通の、文庫本や参考書などがより多く置いてある方で、という算段だろう。うん。
しかし、そこまで付いて行くには一つ問題がある。
まず初めに、八階までの移動手段が『エスカレーター』か『エレベーター』しか無いという事だ。
前者ならまだ大丈夫だが、後者は一時的に急接近。それこそ顔がお互いはっきりと確認できる距離になってしまう。バレる可能性が高い。
しかもそれに加え、長く歩きっぱなしの重い物持ちっぱなしで疲れている人間が、態々エスカレーターを選ぶだろうか? 否。同じ立って待つのならば断然エレベーターの方が楽だと思う筈。
ならば、逆に俺が先回りし、榎本さんが真っ直ぐ乗るであろうエレベーターの見える適当な店で待機。
榎本さんの到着を確認し次第、本屋の中では追いかけず、本屋の外――――確かあそこには、丁度隣に本屋からの持ち込み可能な喫茶店があった筈だ。
流石にもう立って待つなんてしたくは無い。それこそ、本屋からレジまでには一度通路を跨ぐ瞬間がある。その瞬間さえ見れればいつ頃榎本さんが出るのかが掴める筈だ。ここまで来たのだから、なるべくリスクは回避して、自分で言うのも何だがこの馬鹿げた一連の出来事を終わらせよう。
もう、止めた方が良い事は分かっている。
だけど、それでも、榎本さんが今度はどんな本を、それこそ今度は店内から覗けるので、どうしても気になってしまった。
大丈夫。もし会ったとしてもこれまでの素振りから気取られた様子は無い。上手い事偶然を装えば、見逃してもらえる筈。
(……じゃ、思い立ったら即行動……かな)
榎本さんを左斜め前に捉えつつ、本日何度目かの信号待ち。
青に変わり、小鳥の鳴き声鳴る横断歩道を榎本さんは中央、俺は右側を――と渡る。
正面に『ヤツハシカメラ』の入り口が見えるので、そっとタイミングをずらしお互いに入店。
榎本さんはそのまま直進し、エレベーター前まで行く筈なので、その手前――エスカレーター前で一度俺が分かれる。
八階目掛けてなるべく早くしかし違和感なく自然に振る舞い急ぎエスカレーターを駆け上がり、到着し次第適当なお店――こういう所なんていうのか知らないが凄いオシャレな服とか売ってる所――に入り商品の品定め……のフリでエレベーターの到着を待つ。
……いや、にしてもこういったお店あんまり来ることが無いのだけど、普通に格好良い服ばっかりで良いな。ちょっと今度買に来たいかも。あんなんでも地味に親父のがファッションべらぼうに上手いからなぁ~……何か、ファッション選びのコツでも……聞きながら……、
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「えっ? ……あ、いえ、その~何か、『良い服』とか『ズボン』とかが欲しいので、ここら辺のお店を見て回ろうかな~、と。ハハハ……」
今はお呼びで無いんスよ店員さん! とは言えないので、上手い事それっぽい事を言って場を濁してみた。
「左様で御座いますか。なにがございましたら、お気軽に近くの店員まお声がけくださいませ」
「あ、はい。こちらこそご丁寧にどうも」
軽く頭を下げ、そんな事はいいから――と、エレベーターの方を見ると、
(……やっべもう人降りてたじゃん!? 榎本さんも降りたかな……?)
肝心な所におけるイレギュラー……というか何故にこの手の店の人はこうも微妙なタイミングで声かけるかなぁ仕事だからしかたないですけどっ。
(ええいでも恐らくこのタイミングだから榎本さんが乗ってたであろうエレベーターなんだよな……あーもう『恐らく降りた』と断定して、俺はとりあえず喫茶店だ! もう疲れた! というかここで見失ったのならそれはそれでもうこんあの止めだ止め!)
何だか、地味でぬるっと終わってしまいがっくりと肩を落とすが、これまでに得た物を考えれば十分じゃあ無いかと。自分の中で踏ん切りをつけ、しかし内心もしかしたら喫茶店から榎本さんの姿が見えるかも……と、思ってしまっていた。
少し歩き、本屋のすぐ目の前、既に何人かの客が座って本を読んでいる喫茶店があった。
何度か横目で見た事はあったが、実際に使うとなると(どういう系式なのだろう)と、戸惑ってしまう。
ふと、先に入る客が本(チラっと見た看板通りなら購入前の)を片手にレジへ並び、注文をし、注文した物を受け取り、適当な席に座った。
なるほどそうすればいいのか。と…………この行動、皆も一度はやった事あるよね? 俺は今まさにやろうとしている――名付けて、
『先に行った人の真似してそれっぽく装う』作戦――ッ!
……特に駅回りによくある『スノーバックス』でも、訳解らん商品名に混乱してとりあえず他と同じように注文してみたら店員にキョトンとされるような事、あると思います。
まぁそのような作戦を発動するが為に、とりあえず本屋の店先に並んでいる本を――――大分SFやIT系の参考書が多いが、何かピンと来るもの……ん、これは確か劇場アニメ化するらしいあれか。良いだろう――一つ手に取り、喫茶店側のレジへ。
プレーンドッグとコーヒーを注文。
思いの外少し高めの値段だったが、逆に他と違い『購入前の本』を持ち込めるのだ、席代と思えば安い値段か。
木目調のお洒落なお盆に乗ったプレーンドッグとコーヒーを受け取り、適当に本屋からレジまでのルートを覗ける位置、通路側の位置に腰掛け、ふとスマホで時間を確認する。
今日榎本さんは、入店してから退店するまでの時間をなるべくきっちりとしていた。つまり、なんらかの法則に従い行動しているという事だ。何かの予定があるのか、計画的な性格なのか。どちらにせよ、これまでのパターンで行くと今からおよそ十五分か三十分経過する時に、本屋からレジへのルートを覗き込めば高確率で榎本さんを確認出来る――という算段だ。
(逆にもし出て来た所でバッタリと合っても、偶然~とか言ってごまかしが利くしな。と、いう事でようやくの休憩だぁぁぁ……)
雰囲気の良い喫茶店で、いつもと少し違う趣向の小説を読む……その洒落た空気感に、俺も俺で、何だか気分が良くなっていた。
コーヒーの香りを楽しみ、ドッグを一口。
お洒落な空気と、軽い空腹が良い調味料となり、不思議とプレーンドッグがとても美味しい物に感じた。
さて、先ほど持ち込んだ本を少し読んでみる事にしよう。
タイトル……『殺戮器官』。
日本のSF作家が書いた作品らしいのだが……ふむ。様々な賞を受賞している作家さんなのか。本のカバーそでに様々な賞についてが書いてあった。
お、しかもゲーム『マシーンギアソリッド4』のノベライズもやっていたのか。
中々、決してつまらないなんて事は無さそうな作品だったので、早速読み始めた――――。
――暫くして。
「……あっ」
待て、今何分だ?
時計を見ると、入店してから少なくとも四五分が経っていた事が分かった。
辺りの客も出たり入ったり入れ替わりを繰り返し、入店時より少し席が埋まった状態になっていた。
(かぁ~っ、つい読み過ぎちゃったかぁ)
実際、それだけこの本は確かに面白かった。
作者特有の書き方や情報量の多さ、それでいてシーンが分からなくなるという事は無く、そこから生まれる灰色がかった雰囲気が読者を引き込む。
元々、ミリタリーが好きなのもあってか、そういった表現や描写が多々あり、物好きが見ても大分楽しめる。
(……と、『殺戮器官』については一旦これで置いといて)
流石に今覗いても……とは思ったが、ダメ元で本屋からレジへの通り道をちょいちょい覗いてみる。
(まぁここに入ってから榎本さん、全く見かけてないし……もしかしたら、もうとっくに帰った後か、お目当ては他の階だったのか…………)
「はぁ……」
ため息を吐く。まぁでも、結局バレずに終われたのだから本当は「良かった」と思うべき……なのだが。
(もう少し……見たかったなぁ…………)
数分覗いてはみたが、やはり現れない榎本さんの姿にがっくりと肩を下ろし、そろそろ帰るべきかとスマホを開く。
時刻――十二時四三分。突発的且つ馬鹿な行動だったとはいえ、何だかんだ濃厚な二時間半を過ごせたのでは無いだろうか。
数分前に親父から「いつ帰ってくる? 飯は?」とのメールが入っていたから、いよいよ――本来二時間半前にそうするべきだった――『帰宅』せねばならないだろうと、残ったコーヒーに片を付けようと啜る――――と。
「ぁ、あの、かふぇお、れ? と、チーズケーキ……お願いします……」
――微かに、しかし確かに聞き覚えのある声が。
…………とりあえず、何事も無かった様にスマホを置き、もう一度本を開き、何気ない動作に紛れて声の方向を確認――声の正体を確かめる。
レジ前……特徴的な長く伸びきった髪。しかしいつもと違い今日は後ろに束ねるポニーテール姿。いつもの制服とは違う、しかし地味めな私服姿。やはり何かを一杯買ったのか紙袋片手に……ってデカっ!?
その紙袋に片手を塞がれながらも、もう片方の手で受け取ったお盆の上には、カフェオレとチーズケーキ、そして…………、
(あ……同じ本……)
小説『殺戮器官』が、お盆の上に同じくして置いてあった。
(はぇ~榎本さんこういうのも読むんだ……なんか珍しいというか……)
女の子が読みそうに無い物を読んでいる、俗に言うギャップ効果? の様な物を感じ、少しずつ見とれてしまいそうになる…………。
(……って、マズイ気取られちゃうじゃん!? と、とりあえずここに居る事は分かったんだからええとー…………)
…………と、とりあえず俺も読んでおくか。
と、一旦視線を本にそらし、榎本さんがどこかに座るのを待ってみる事にした。
(はぁ~よかっ……たあぁ…………!)
榎本さんがまだ居た。それだけで何故か飛び上がる程嬉しかった。
既に色々買っている様だったが、それでも本を持ち込み読む……という事は、休憩がてらなのか、買うのを迷っているのか……かなぁ、と。
(どちらにせよ、買い物の様子どころか、一人で読書している姿を拝めるとは…………って、あれっ?)
ふと、自分の座っている位置のすぐ“右”から、人の気配が。
「……っこいしょ、と…………」
紙袋がそっと隣の椅子の下辺りに置かれる。
「ふぅ………………っと」
次に机に、先ほど見かけたレパートリーと全く同じ物が乗ったお盆が置かれ、重かったのか隣に来たお客さんは手を少し振り解してから、椅子に座る。
(え、えー……とー……?)
マスクを外してポケットに仕舞い、カップを手に取り――――、
「……ふーっ……ふーっ…………あっ、つ…………」
(熱って。「あつっ」って言った。猫舌なんすか――――榎本さん!?)
まさかの……そう“まさかの”である。
今、まさかの、隣の席に、榎本さんが、座って……いる――――ッ!!
(え、え、えぇ、え˝ぇっ!? うそんマジですか榎本サン――――!?)
そーっと辺りを見渡す。
確かに、人が上手い事点々と座っており、どこに座ろうが誰かの隣になる配置ではあった。
しかし榎本さんは、何を思ったのか|(いや適当だろうけど)、俺の、隣の席を、選んだというのだ!?
(い、いやいや待て待て落ち着けもちつけ冷静になれ冷静に)
胸の鼓動が自分でも分かる程、一気に高まる。
全国男子諸君、若しくは女子諸君。
自分の好きな人・気になっている人が隣に居る……正に手が届く距離に居るとしたら、きっと俺と同じような現象が起こる又は起こっただろう。
心臓の鼓動が早まり、緊張で体が少しずつ固まり、目を逸らしたくても少しずつ目を奪われてしまいそうになる感覚。
平然を装い本のページをめくるが、内容が一気に入って来なくなっていた。
隣で榎本さんがカフェオレを冷ましつつ、少しずつ啜る音が左耳をこそばゆく刺激する。
チーズケーキを一口。
「……ふふっ」
美味しかったのか、榎本さんは小さく笑う。
更にもう一口。そしてカフェオレを少し啜る。やはり左耳がこそばゆい。
そして…………、
(……あ)
一度、髪を束ねたヘアゴムを外し……前髪も、ちゃんと顔が出る様に髪を退かし、しっかりとしたポニーテールを作った。つまり――――
(…………綺麗だ)
白くツヤのある、肌触りの良さそうな滑らかな肌。
あどけなさを少し残した、しかし大人になりつつある整った顔。
小さな耳、小さな鼻、口、ほっぺた――まゆげやまつげに至るまで、顔の全てが、近くで、はっきりと、見る事が出来た。
そして本を眺める優しい目つきと――――なにより気を惹かれたのが、
(目……“青色”だ…………)
青色――ブルーアイ――確か、ヨーロッパ辺りの人に多い目の色だ。
明るく綺麗な瞳だった。そしてその不思議さに、より惹かれてしまう。
(榎本さんって……ハーフなのかな……綺麗だ)
もしそうなら、何となく肌の色が白いのも納得できる気がした。
榎本さんは本を手に取り、表紙、裏表紙、をじっくりと眺める。
その本を持つ腕は、肉が多少付いてはいれどやはりか細く――――、
その本を持つ手は、思わず握りたくなる様な柔らかさを醸し出していて、傷一つ無ければ爪も綺麗に手入れされていた。
うなじ――首元――鎖骨――――どれを取っても見惚れてしまえる魅力を感じていた。
……このまま、時が止まってしまえば……というのは、少々ドラマ的過ぎるだろうか。
しかし今の心の中は、正にそう言えてしまえる程、ずっと榎本さんを眺めていたい気持ちだった。
(……なんだろう……やっぱり、俺……榎本さんの事が………………)
そう想いを募らせる伊上計――――――。
――しかし、想いを募らせ過ぎるが故、不意に足元をすくわれるのである。
気づくと、何も隠す素振り無く、ただ真っ直ぐ、榎本さんを見てしまっていた伊上計。
榎本奈央は、隣から感じる視線にやはり気づいてしまい――その先へ、目を向けてしまった。
「え――――」
「あ…………ぐ、偶然……だね?」
「…………っ!」
「あ、ちょっと!」
顔を合わせるや否や、伊上計は用意した口実を口にするも、榎本さんは顔を真っ青にし、読もうとしていた本や下に置いた紙袋をほっぽり、半ば飛び出す様に店を飛び出した。
「あぶねっ……ちょ、榎本さん!」
その際に椅子を倒しかけるも、構わず駆けて行く榎本奈央。
伊上計は倒れかける椅子をなんとか押し留めさせ、一瞬迷ってしまったが、同じく本等を置いて榎本奈央を追いかけた。
「待って、榎本さん! 謝るから!」
「はぁっ、はぁっ……はぁっ……!」
追いかけるのが少し遅れたという事もあり、榎本さんにすぐには追いつけなかった。
榎本さんは真っ直ぐエレベーターの方向へ。……運が良いのか悪いのか、丁度エレベーターが上がってきてしまい、榎本さんは出てくる客の合間に潜り込むようにしてエレベーターに入り込んでしまう。
「マズ、榎本さん待って! 榎本さん!」
「ごめんなさいっ。ごめんなさいっ!」
肝心な時に、体格の良さが仇となる。伊上計は人混みを無理に押し分けてしまう訳にもいかず通るのに時間を取られ、ついぞ抜ける頃には、扉はほぼ閉まりかけていた。
「くっ、間に合え――ッ!」
全力で扉の合間に手を伸ばそうとする――が、届く時にはもう扉は閉まってしまい、大きなぶつかる音と右手から強い痛みを感じただけになった。
「いッ…………頼むッ」
しかしそこで諦めず、エレベーター呼び出しボタンを押し、階をまだ出ていなければ扉が開いてくれる仕組みが働くのを願う――――――――が、
「――――駄目かッ」
扉は、開かず。エレベーターのある階を示すランプは六……五……と下がっていっていた。
(今から追いかけて、あの人混みの中もう一度探すのは困難。逆に外でもう一度見つけた所で、下手に追いかけっこしてしまい事故でも起こしたらもっとマズい)
「……終わった……なぁ…………」
…………伊上計は悟る。学校生活の終焉を。
これまでの学校生活での思い出が走馬灯の様によみがえ…………る事は無かった。思い返せば、思い出といえるような出来事は一つも無かった。
伊上計は思わずその場で崩れ落ちそうになるが、よろりと何とか持ちこたえ、俯きとぼとぼと喫茶店へ、元の席へと戻り、頭を両手で抱えた。
(あの時、あの時止めていれば……あの時に帰っていれば……)
これまでの事を思い返し、あの時にああしてればと後悔を募らせる。
しかしそもそも、と――――
(……こんな事、するんじゃなかった)
例え、バレなければといえど――――、
例え、好奇心の為といえど――――、
例え、気になる……いいや、好きな人だからといえど――――、
(因果応報……か、神さまが居るなら天罰か、な)
『情けは人の為ならず』……では無いが、良い行いも悪い行いも、いずれ巡り巡って自分に帰ってくるものだ。
「……はぁぁぁぁぁ………………」
どうしようか。どうすればいいだろうか。全く分からなかった。
というより、心の中をそのまま喪失感や後悔等といった感情が支配していて、頭の中に何も考えが浮かばなかった。
目の前には、空っぽのカップと皿、本が乗ったお盆。
左には、食べかけのチーズケーキと、飲みかけのカフェオレが乗ったお盆。読まずして置いて行かれた、先ほどのと同じ本が放り出されていた。
「……とりあえず…………なのかな……」
一先ず、本を除いたそれらのお盆を返却口へ返した。ほとんど手付かずの状態で返すのは申し訳ないのだが、俺が食べる訳にもいかないだろう。
そして、残った二冊の本は…………
「……これもとりあえず、かなぁ…………」
このまま返すのも何だか申し訳無いし、俺自身買うつもりだったので二冊とも買っておく事に。
なのでレジへ行く――――前に……、
「この袋は………………」
どうしたものか。学校で渡せる様に持ち帰るべきだろうか。いやしかしこの量、親父が見たらとやかく言われそうで怖い。しかし置いて帰る訳にもいかないし………………仕方ない。
とりあえず、その紙袋を持ちレジへ向かい、その本二冊を購入。
もう特に見る物も無ければそんな気分では無いのでさっさと、気持ち重々しい足取りではあるが『ヤツハシカメラ』を出、ここに来るまでの道のりを少し引き返した『東西自由通路』へ。
「……たしか、ここら辺だったかな?」
榎本さんが預けた辺りの空いたロッカーにその紙袋を入れ、コインを投入。
(コレ一応日を跨いで使えるけど、お金がなぁ~……)
特段家が貧乏……という訳では無いが、働いていない身でお金を使い過ぎるのには流石に抵抗がある。ただでさえ今日は本来の量より倍以上掛かってしまっているのだから尚更だ。
ロッカーのカギを掛け、閉まっている事を確認したら、早々に秋葉原を発った。
電車に揺られ、うつらうつらと薄れゆく意識の中、頭の中ではずっと一つの事について考えていた。
(……明日、もう学校なんだよな…………どんな顔して行けばいいんだ…………)
学校の人気者の身に起こった出来事なんて、一日二日と要らずあっという間に周知の出来事と化す。
それこそ、最悪の場合――――――、
「ねぇねぇ、榎本さんストーカーされたってさ」
「えぇーウソー! 誰がやったの?」
「それがさー、この学校の生徒らしいんだよねー」
「私知ってるよ。そこの隅に座ってる――『伊上 計』って奴だよ」
「えぇーサイテー! 榎本さんかわいそう!」
「ヤンキーで陰キャラの癖に、気持ち悪―い」
「榎本さんつけまわすなんて、変態!」
「そもそもよく学校に来れたよね。帰れば?」
「そうよそうよ。かーえーれ! かーえーれ!」
「「かーえーれ! かーえーれ!」」
「「かーえーれ! かーえーれ!」」
「「かーえーれ! かーえーれ!」」
……あの時の榎本さん、凄く怯えた顔してたなぁ。
さっきから脳裏に何度も過る、あの青ざめた榎本さんの表情。
その表情が、強く、深く、俺の心に突き刺さっていた。
電車に揺られ、ゆっくり歩く事数十分、段々と重みが増す体を引きずる様にして帰宅した俺は、電気も点けずに自室へ。帰ってから読む筈だったラノベを机に置いて、そのままベッドに倒れ込んだ。
長い様で、しかしあっという間の帰宅で。
楽しかった様で、辛かった様で。
なんだか、どっと疲れてしまった。気力が湧かない。
明日の事が不安だし、榎本さんが今どうしているのかが心配だ。
(心配……いや、自業自得なんだけどな…………)
ため息。寝返り、天井を眺める。
あんなに楽しく、今までで一番心躍る一時を過ごせたというのに、たった一つ、たった一手を間違えるだけで、全部儚く散って、何も無くなってしまった様だった。
……今度は本当に、目が滲んできた。
何故泣こうとしているのだろうか。寧ろ泣くのは榎本さんの方だろうに。
俺は間違いを犯した。ただそれだけだ。泣くなんて、卑怯だろ。
「…………どうすりゃいいんだろ、な……」
答えは一向に浮かばない。
浮かぶのは、あの榎本さんの顔だけだ。
一体どうすれば……一体……どう……――――。
●
――――キーンコーンカーンコーン……。
「きりーつ。きょーつけー。れー」
「「ありがとーございましたー」」
授業が終わると同時に、教室の中は会話で溢れかえる。
しかし今日は、少し話題の内容が違っていた。
「ねぇねぇ榎本さん知らなーい?」
「榎本さん、今日は休みみたい」
「おーい榎本さん居るー?」
「今日は榎本さん見ないなー」
「エノちゃん……具合悪いのかな……」
「誰かエノっちのメアド知らなーい?」
……エトセトラ。
昨日は、もう何も手を付けられず、食べては寝てを繰り返し一日を過ごしてしまった。
親父に起こされ昼食を摂れば、すぐに自室のベッドへ。
また親父に起こされれば、夜食を食べ自室のベッドへ。
ベッドの上ではずっと、榎本さんの事を考えていた。
どうしているのか。どう思っているのか。どうすればいいのか。
しかし、ついぞ何も浮かばないまま、俺はいつの間にか眠りについてしまっていた。
そして今。時計の針が四を指し示す夕方にて。
榎本さんは、ついぞ姿を現さなかった。
それに連動して、それまで榎本さんを囲んでいた生徒らは、こぞって榎本さんの捜索及び連絡手段の確保に励んでいた。
俺は何故か、誰に咎められる事無く、いつも通りここに座ってしまっている。
しかしそれも時間の問題か。明日か、今か、とにかく榎本さんと誰かが連絡をとれた時点で、確実に俺は終わる。正に時間の問題だった。そう思うと、冷や汗を掻いてきてしまうが……
……とはいえ、この榎本さんに関する話題尽きない教室の中には、とても居づらい。ホントに。心が蜂の巣にならんばかりに。
なので俺は、最期の晩餐よろしく、昨日読めなかった“ライトノベル”と、同じく少し読んだだけの“小説”を、ブレザーのポケットに仕舞いこの教室を出た。
そしてそのまま今いる本館も抜け出して歩く事数分。
俺は西館の、行きつけの場所へと向かった。
●
「……そういえば、最近は来てなかったな」
階段を上りつつ、ふと思い返す――――。
――西館。四階に上がって左側。手前から一番目の、唯一鍵が掛かって無い空き教室が、俺がたまに訪れる教室だ。
この部屋は、空調完備、縦長の部屋は適度に狭ければ、人もここに入る事はおろか、訪れる事も少ない。少なくともこの昼休み中は。
そしてこの教室にある物といえば……ホワイトボード、隙間なく(何なら本棚の上にも積まれるくらい)詰まった本棚、長机二つが合わせて中央に並び、パイプ椅子が4個。その他もろもろ。よく分からん雑貨の詰まった段ボールが数個とか……だ。
俺はいつもここに訪れては電気を点けず、ほんのり赤みがかった薄明るい部屋の正面――窓辺に向かい、窓を開き、外を眺めている。
着ているブレザーは適当にほっぽり、あらかじめ下で買った缶コーヒーを片手に、静かな一時を過ごす。これが、それなりに心を落ち着かせてくれる。
のどかな住宅街を眺め、ゆっくりと深く呼吸をし、頭の中を空っぽにする。少々今日は気温が高く少し熱く感じるだろうが、風通しも良いので程良く涼め、そこまで熱く無い、ほどよい快適な時間を過ごせる。
そんな空間で、ぼーっと外を眺めるも良し、持ち寄った本を静かに読んでいるも良し、体操着袋を枕替わりに地べたへ寝転び仮眠をとるも良し――だ。
そんな一時へのちょっとした味付けとして、その空気感と共に缶コーヒーを啜るのだ。そして冷たいほろ苦さをよく味わい、その静かな一時を堪能する――。
――こんな感じで、時折放課後を過ごしていたりする。
普段は変に理由があって来ている訳では無いのだが、今回は……理由は言わずもがな、とにかく静かな所で過ごしたくて来ることにした。
「はぁ……ホントどうしたもんかなぁ……」
登り切り、その空き教室に到着した。
いつもの様に扉を開け、少し重みのあるブレザーを脱ぎ、半ば滑らせる様に机の上にほっぽり、そのまま窓辺に向かう。
窓を開け、入ってくる風を顔に感じ、ふぅ、と一息。
そして、カシュッ という景気の良い音を立て、缶コーヒーを開く。匂いを少し吸い込んでから一口、その美味しさに「はぁ……」と少し声が出てしまうが大丈夫。何故ならここには俺一人、静かな一時を満喫しているのだから。なんだか少し気分が落ち着き良くなってきたので、もう一口コーヒーを飲みつつ窓辺に寄りかかる姿勢になろうと振り返る――――――と。
「………………あ」
「………………?!」
入ってきた扉の横、本棚の手前に――――何かが、佇んでいた。
目を凝らしよく見るとそこには…………
……不揃いな黒い髪を、目が見えぬ程長く生やした………………色白で、制服姿の女の子が。
こちらをじっ……と見ていた――――――!
――で、出たあぁぁぁぁぁぁ!
と俺は思わず飛び上がりそうになる――――
――が、いやちょっと待てよと。
……よく見ると違うぞ。というか大分間違えたの失礼だけどこれ――――――
――『貞子』じゃなくて『榎本さん』だ――!?
「あっ……あ…………」
「………………ん˝ぐっ!?」
俺は飲んでいたコーヒーが思わず気管に入ってしまい、その場で激しくむせ返ってしまった。
「げえ˝っほ、げほっ、えほっ、げほっ…………」
咄嗟に持っていたコーヒーを机に置き、そのまま机にもたれ掛かり気管のコーヒーを出そうと胸をドンドンと叩く。
「えぇっ、あ、え、あのっ……だい、じょうぶ……ですか?」
榎本さんがこちらに駆け寄り――まさかの、俺の心配をしてくれた。
……ってかそれもそうかそうだよ目の前に今にも死ぬんじゃないかって勢いでむせ返る人が居たら誰だって「大丈夫ですか?! 死ぬんですか?!」って声掛けるわ! 俺でも流石に声掛けるわ!
という一人突っ込みはさておきまずはその言葉に一言「大丈夫だよ」と返そうとする……が、
「だっ、だはっ、だいじょ……げほっ、ぶ、げほっえほっ、だよっ?!」
「え、えぇぇ?」
余計悪化して、説得力皆無どころか何言っているのか解読不能と言われんばかりの声しか出なかった。
榎本さんは(全然大丈夫そうに見えないですよ――!?)と思ってそうな顔をしているが大丈夫。俺も今まさに命の危機を感じているから! ってダメじゃん!!
「げほっ、げほっ……はぁ……はぁ…………」
ようやく咳が止まってくれた所で、ゆっくりと状態を起こし、自分が置かれた状況を確認する。
まず初めに、俺は普段の様にこの部屋に来た。西館に来て、階段上って、いつものように部屋に入った――――よし、そこまでは大丈夫だな。
すると次に、後ろに何故か榎本さんがいた。部屋入ってすぐ左手側に置かれた本棚の前で、めっちゃこっち見てた――――いやぁアレはマジで“出た”って思った。うん。
そしたら最後に、俺がむせ返って死にかけた――なるほど。事の真相が分かったぞ。つまりこれは――――
榎本さんが仕掛けた巧妙な『密室殺人』だッ!
(な、なんだってー!? ってちげぇよ普通に考えて! とにかく一体何が起こっているんだコレは!?)
要約、今この身に何が起こっているのか、コレガワカラナイ。全く解らない。
冗談はともかく、何故また俺はこうして榎本さんと会う機会を得てしまったのだろうか。――――まさかコレは『ご都合主義』みたいな存在による『運命』的な『赤い糸』の様なものが作用してこうして……ってそれは流石にロマンチスト又は陰謀論者過ぎて性に合わない。ここで合ったのはほんとうに偶然――の筈だ。俺もこの状況を予期していなかったし、榎本さんも余程の役者でない限り同じく予期していない筈だ。
(運が良いんだか悪いんだか……というかそもそも皆探してたけど本当に榎本さんなんでここに? まさかの榎本さん“サボり”です?! え、もしかして榎本さんって思ったよりワル……?)
「あ、あのー…………」
榎本さんがおっかなびっくりに話そうとするのを聞いて、(いやいやそんなワケ無いっスよねハイ)と考えを改める。
「え、あ、はい?」
そして俺も俺で、榎本さんとのまたと無い会話のチャンスなので――といっても昨日の一件もあり異常に緊張しつつも――なるべく話題を逸らし上手い事誤魔化してあわよくば無かった事にする勢いで――話に応じる。
「えと、その、どうどうして……ここに……?」
「ど、どうしてってそりゃ……よく来るから?」
「えぇっ、え、な、なんで知ってるんですか?!」
そう榎本さんは何故か驚き、バックステッポばりの勢いで飛び退くが、
「いやいや知ってるってなんの事さ?! 前からここに“俺は”よく来てたって話で…………え、榎本さんも、ここによく?」
「へっ?! あ、えぇとっ、いや、その…………」
「その…………?」
「…………っ」
……こ、くっ? と、曖昧な会釈で返す榎本さん。悔しいけど、可愛い……っ! ってそれどころじゃないだろ俺……っ!
なるほど。近頃俺がこの部屋に来なかった間、すれ違いで榎本さんはこの教室を知り、俺と似た様に時折訪れていた――という事か。
ならば、と慎重且つ自然な言葉を考え、
「……まぁここ、あんまり人来ないしな。俺もそれ目当てでよくここを使ってた」
「そ、そうなんだ……」
「あぁだからといって別にここの所有権を主張する訳じゃないんだけど……というか榎本さん、朝から見かけなかったけどいつ来たの? それとも……もしかしてサボりっすか?」
と、冗談っぽく軽い笑いを作りつつも探りを入れてみる。
「え、と……いや、その……」
榎本さんは言葉に詰まり目線を逸らす。その反応からして、何か後ろめたい事がある……とすれば、やはりサボりなのか?
だとすれば、そこを突いて上手い事警戒させない様に――――
「大丈夫。誰にどう言うって訳じゃないから。実は俺も何度かここでサボった事あるし!」
と、敢えてサボった事があると嘘を吐いて共感アピール。そして同じ場所で同じ事をしたという共通点を作り仲間意識を――――
「だからその、それはちょっと、違う……というか」
「……え?」
と話の主導権を握ろうと思案している所を珍しく、榎本さんは会話を遮るように口を開いた。
単なる読み違いの指摘・訂正に留まって欲しい――のだが、嫌な予感がする。
どうか都合の悪い話題が来ない様祈るが……榎本さんは少し顔を伏せ、どうしてか、拳を少し震わせ、恐る恐る目だけは合わせずに――
「あ、アナタ、の……せい……というか…………」
「……お、俺の?」
つまり、昨日の、例の、アレ、ッスよね。ハイ。早速ピンチデス。ハイ。
……いやでも、それでここに居るくらいなら寧ろ教室に向かって、周りを味方に……それこそ先生を味方に付ければ良い話なんじゃ――って俺は何故自分で自分を貶める様な事を考えるんだ! 待て待て落ち着け諦めんなよ!
俺のせいで、教室に行けなくなったという榎本さん。
昨日の一件で俺と会うのが怖くなったのか――いや、それならば榎本さんは俺がこの部屋に入った瞬間逃げ出すか悲鳴を上げるか、少なくともさっきの様に心配して俺に近づくなんて事をするとは考えづらい。
ならば何故――もしかして榎本さん「私の寛大な心で貴方の言い分を聞いて差し上げましょう……」という事ですかね――!?
と、榎本さんの言葉の意味を無駄に深く考えていると、
「だ、だから…………みんなに言っ……て…………ない、の?」
「……え? 言ってって……何を?」
それはどちらかと言えばこっちの台詞ですよ? それこそ榎本さんこそ「伊上君にストーカーされたぁ|(涙目涙声)」みたいな事言ってたりして無いんですか? それとも逆に「私、伊上計は、榎本奈央をストーキングしました」って自白して来いと? と思っているや否や、
「だ、だからぁっ!」
「――っ」
急に叫ばれ、今度は俺の方が肩を跳ねあがらせてしまう。
というか――本当に失礼な話、その見た目で鬼気迫られると『貞子』に襲われている様な感覚で本当に怖いというかなんというか何でもないですハイ。
「……ともだち……とかに…………私が、秋葉原に居た……って……言ってない、の……?」
その時――――グサッ、と。何かが俺の心に刺さる。
「は、ハハ、ハハハー榎本サーンナイスジョークネー……俺に、いや僕なんかに、友達が居るとか、冗談、きついっスよ…………」
あれ――また何故か目から汗が――――っ。
と、思わぬ方向からの遠慮ない一撃に心をKOされかける。ぼっちに向けて「友達いるでしょ?」と言うのは、単純だが一番よく効く皮肉である。全国のリア充そして非ぼっち勢共、絶対に試すんじゃないぞ、と。
榎本さんはそれに対し、何やら「前言撤回します」と言わんばかりの申し訳なさ漂わせ神妙そうな面持ちで、
「……ごめん、なさい…………元気、出して?」
と、謝罪と、励ましの言葉を言ってくれた。
「ありがとう榎本さん……僕、頑張る……!」
「うんっ……! ふぁい、とっ……!」
榎本さんに励まされ、しかも応援までされ、心を全快どころかオーバーヒールした俺は、榎本さんの応援に答えるべく、そして新たな学校生活の為に、本館の自分の教室へ向けて『友達作り』をしに駆け出――――
「――さないよ!? いや俺の事は一旦どうでも……良いとは本当は言いたくないけどッッ! とりあえずさておきッッ」
輝かしいキャンパスライフへ――と見当無しに駆け出そうとしていた俺の体をずぃっ と元の位置へ戻し、
「いや、『秋葉原』に居たかどうかなんて、なんでそんなに気にしてるのさ? イマドキ誰が秋葉に居ようとおかしくないでしょ?」
(未だに残る謎の秋葉原やオタク趣味に対する偏見……是非どうかその偏見を捨ててもらいたい所だ。それ故にこうして一人の女の子が困ってしまっているでは無いかッ! それで良いのか人間よッ! 無粋な事をしているとは思わないのかッ! 女子を泣かす鬼畜の所業――恥を知るが良いッッッッ!)
なので『秋葉原に居ようが居まいが気にしない』勢として、仮に偶然俺が榎本さんの近くに居ても、店を巡る順番が同じでも、何も不思議じゃ無いじゃない事である――ッ! と、内心詭弁を垂れつつ、榎本さんに聞き返す。
「えっ? ……だ、だって……ヘン、じゃない……? わたし……なんかが」
榎本さんは、何やら両手を合わせモジモジとそう更に聞き返す。
「変? ……別に? それ言ったらお前、俺なんかこんな見てくれで秋葉原に居たんだぞ? どこの『虎が如く』ですかーっての!」
榎本さんが思っている程、少なくとも今の時代はもう、そこまで気にする必要は無くなったんだぞ――――という意味も含めて、敢えて自虐して笑って見せると、榎本さんも、
「……そ、そう、かな……?」
と、少し嬉しそうに笑ってくれた。
「な? 大丈夫大丈夫。何をしようが榎本さんの勝手なんだからさ」
「ほ、ほんと、に……?」
「そうそう。 ……あ、それであんな血相変えて逃げ出しちゃったんだ?」
「あっ……その……あれは……えぇと……」
榎本さんは更にもじもじと言葉を詰まらせ、結果正直に言おうと思ったのか――、
「……わ、忘れて……欲しい、な……?」
(愚問――何処に断る理由が有るのかッ。榎本さんがそう願うのならば1秒と言わずその刹那に叶えて見せようぞ――そう何故ならば!)
……そう、何故ならばこの言葉により、一つの事実が浮かび上がる――――。
昨日の一件――――俺が、榎本さんをストーキングしてしまった事。
榎本さん――――
――――“気づいていない”!
昨日今日俺の心を蝕み続けた罪の意識は、今現時点をもって『感知されず』という確たる事実に基づき満場一致で無罪判決――――。
これにて、一時の気の迷いによって引き起こされた――長きに亘る全俺最高議会による最高裁は、『無罪放免』という歴史的逆転大勝利を記録するに至った……。
(はぁぁよかったぁぁぁぁぁ…………これで心置きなく、学校に居れる……っ!)
心から喜びを噛みしめる。僕にはまだ帰れる場所がある、と。こんなに嬉しい事は無い、と。
(それこそ、榎本さんと心置きなく会話できる――ッ! というかさっきもさっきで大分ノリよく喋っちゃったけど!)
つまりあの件をやってくれた時点でこの勝負、実は既に決していたという事だ。それに気づいてさえいれば、ここまで気を張り詰めなくとも良かったんだ――と、勝利を踏まえた故に生まれる心の余裕を実感する。
(さてさて「忘れてほしい」だって? 勿論忘れよう。でも最後に――――)
と、目の前で困り顔をし、身長差故に生まれる自然な上目遣いに少々――悪戯心を働かせ、一言。
「ん~忘れても良いけど、あの“本と紙袋”も一緒に忘れた方が良いかなぁ」
「あっ……そ、それは……ダメっ…………」
榎本さんは更に困り顔を浮かべ、こちらに詰め寄る。
「駄目? ならしょうがない。これは大事に、大事に覚えておく事にしよう」
「ち、違うっ……返してっ……!」
更に詰め寄り、半ば見上げるような姿勢になった榎本さん。
少し怒り気味、しかし主導権を握られ強く言えないその困る様子――――、
そしてそれに気を取られ、〝顔が見えてしまっている〟という事に気付かない榎本さん。
またしても、榎本さんの素顔を拝む事が出来るとは、俺はなんて幸せ者なのだろう――――と、つい口元が緩んでしまうのを堪えつつ、というか半ば誤魔化す様に敢えて、
「……っぷ、あっはっはっはっはっ! 冗談に決まってるでしょ!」
と、笑って見せた。
「じょう、え……? ……も、もう…………っ」
榎本さんはとんっ と突き放す様に俺の胸を押し、いじける様にそっぽを向いてしまった。
――拗ねた榎本さんも、可愛い…………っ!。
と、やはりさっきから気を抜いた瞬間緩んでしまいかねない口元を意識しつつも――というか最早緩んでいるかどうか分からない程までに来ているのでなるべく顔を逸らしつつ――、しかし更に、もっと色んな榎本さんが見たい――――!
そう思っているや否や、今度は榎本さんが先に口を開いた。
「で、でも…………“アレ”だけは、その、忘れて……下さい……」
「……? アレって何だ?」
急に代名詞を用いられても一体何の事だか。
しかし榎本さんは少し深刻そうな表情で、こう続けた。
「……か、顔……見た、でしょ……」
「ま……まぁ、な」
「き……気持ち、悪かった……よね…………」
「は?」
「えっ?」
思わず、間の抜けた声で返事をしてしまう。
「いや、いやいや、榎本さん何言ってるの。気持ち悪いだなんてとんでもない。逆だよ逆。それこそ榎本さんくらいだよここまで顔がきれ…………」
「……きれ?」
……どうした。何故言葉に詰まった伊上計・童貞十六歳――って“童貞”は余計だコラ! この年は童貞で普通なんだよ!!
ともあれ何故『綺麗』の言葉一つ面と向かって言えないんだ! どんだけ気にしちゃってるんだよ! 恥ずかしがり屋か! オトメか!
「え、えーっと、だから、その…………」
「……?」
(いやいやいやいやどーすんのこれ! めっちゃ榎本さん首傾げてるじゃんってか近いって! 榎本さん近いって! 早く顔見えてる事気付いてってか気付かないの!? 顔見えるの気にしてんじゃないのってか目が見えるくらい近いってばさ! ファァァ髪の合間から榎本さんの目がこっちを――――って、あれ?)
……ふと、榎本さんの目に違和感を感じる。
具体的には、先日見た榎本さんの目のソレとは違う色について、強く違和感を感じた。
「……榎本さん、もしかして『カラコン』付けてる?」
「――――!」
榎本さんの目の色が、昨日とは違う“茶色”……つまり、日本人のソレと同じ目をしている事に気づいた。
「あ、ああ……いや、その、別に、つけてなん、か…………」
図星かッ! と言わんばかりに榎本さんは急に離れあたふたと言い訳をするので、
「いや、別にとやかく言うつもりは無いんだけど」
「えぇっ、あ、え、ほ、ホント……?」
と言い、なんとか落ち着かせる。
「で、どっちが、本当の色なのさ」
すると榎本さんは再度顔を伏せ、恥ずかしそうに、呟く様に……、
「……ぁ…………ぉ…………です…………」
そして呟いた途端、震えながら手で顔を隠してしまった。
「い、いや、そこまで恥じる必要無くない?!」
別に目の色一つや二つ、恥じる事無いのに――――と思う反面、
(ッカーなんじゃい今の声ぇ! クッソ可愛いじゃないのぉ!)
と、こっちもこっちでその反応に顔を赤くしているので、榎本さんが顔を隠してくれた事に感謝した。
「いやでも、それこそ実際俺は凄く綺麗に思ったしそこまで隠さずとも…………あっ」
「……き、きれ、き…………!?」
――思わず言っちゃったぁぁぁぁ……!!
自分の顔がみるみる熱くなっていくのをハッキリと、顔だけでなく耳まで感じる。加え心臓が高鳴り、ついぞ榎本さんを見てられなくなる程になるまで、そう掛からなかった。
「きき、キレ、イ…………!?」
榎本さんも、その言葉に何か衝撃を受けたのか、頭に湯気が出んばかりに真っ赤になり、わけも分からず頭を掻きまくった後に、こう――
Why Japanese people?
――の小さい版みたいな手振りをしたかと思えば、 そのまま頭を抱えしゃがみ込んでしまった。
「……と、とにかく! ど、どうしてそこまで気にしてるのさ!」
このままでは気まずい空気になってしまう――と、半ば一旦うやむやにしようと俺は無理矢理話を進める事にした。
「へぇっ?! な、なん、でか?! で、すっ?!」
榎本さんはもう思いっきり取り乱した様子で訳の分からん身振り手振りをしまくりだしてしまっていた。
「や、ちょ、落ち着いてください榎本さん!?」
「は、はいぃっ、ごめ、ご、ごめんなさい?!」
そう言ってその場でへたり込み流れる様に女の子座りからの土下座――――って榎本さん大分アクティブっすね?! っていやそんなこと考えてる場合じゃなくって、
「ああもう落ち着けてないって! はい深呼吸! 息吸ってー!」
「ふぇあッ、え、あ、す、すぅーー…………っ」
「はい吐いてー!」
「ふ、ふぅーー…………っ」
「……落ち着いた?」
俺もしゃがみ、目線の高さを同じにして話すと、
「…………原因、が……それ、言う…………?」
じとぉっ と、榎本さんに睨まれた。
「す、すみませんでしたぁっ…………!」
「……ふふっ。じょー、だんっ……」
クスリと、榎本さんは片手を口の前に持って行き、嘲る様に笑った。
……一度に、榎本さんに睨まれたり、笑われたりって……俺、もしかして明日死ぬのかな…………。
それ程に、今のこのやり取りに俺は満足感を、幸福を感じていた。
(……やっぱり俺……榎本さんの事が……好き、なんだな…………)
最初は、気になるだけだと自分を誤魔化し――、
次には、偶然さと好奇心でうやむやにし――――、
そして、今こうして初めて話してみてようやく、自分の気持ちを確認した。
そう――榎本さんと初めて会った時から俺は、榎本さんに“一目惚れ”をしていたんだ、と。
「……あ、あの……こ、こっち、見す、ぎ……」
「…………あ、いや、その……わ、悪い……」
いつの間にか榎本さんを見つめてしまっていた俺は、そう指摘され慌てて二歩分程離れてから、榎本さんと同じく床に座り込んだ。
「……で、どうしてなんだ? カラコンって一応、校則違反だぞ」
「……まえ、にね……この目が原因で……色々……」
榎本さんが、今度は真剣に、訴える様に話し始めたので、俺は黙って聞く事にした。
「い、今はもう……気にする必要無い……よね。分かってる……けど……やっぱり……怖く、て………」
「は、肌が白い、とか……腕、細い……とか……そ、それで…………いろ、いろ…………いわ、れたり……され、たり……」
「ま、前の話だから、今はもう……えと……乗り越え、なきゃ……なんだけど…………」
俯き、顔が見えなくなってしまったが、その声は震え、少し涙ぐんでるように聞こえた。
「やっ、ぱり……人が、怖い……というか…………かこ、まれる……のが、嫌……という、か……」
「で、でも、みんなが、その……仲良く、してくれようと、してるのは……分かる……から、その……」
「……だから皆、に……が、頑張って応え、るし……みんなに合わせる、し……ガマンする、し……」
「……トラウマ……克服の、為……というか…………でも……どうして、も……ストレス……という、か……」
「……と、とに、かくっ…………わ、わたしの事……とか……昨日の、事……とか…………ぜんぶ……内緒、に……して……ください」
そう振り絞る様に言い切った所で、榎本さんはまるで許しを請う様に頭を下げた。
今度は、今度こそは本当に、心の底から表れている様な震えを、しかしそれを堪える様にしているのが、伝わってきた。
「……いいよ。さっきも言った様に、言う相手すら居ないからな! ははは! ……はぁ」
……わざと、もう一度ふざけて見せた。
つまり要約すると榎本さんは、
『過去のトラウマで外見等の要因を強く気にしている』
『それと同時に人と付き合うのが苦手、苦となっている』
『それでも直そうと頑張っているから、昨日・今日の事は秘密にしてくれ』
という事を言っていた。
榎本 奈央、という学年の人気者の秘密や過去、苦労を、今俺は知ってしまった。それも、本人の口から直接。
「……なぁ。でも何で、俺にこの話をしたんだ? 今日初めて話した相手に、何故?」
そう素直に思ったので、榎本さんに聞いてみた。
何を根拠に、何を理由に、俺に話したのか。
すると榎本さんは急にピタりと止まり、何やら熟考をし……意を決したのか
「……わ、笑わないで、聞いてくれ、る?」
「…………」
生唾を飲む。
何故かそれだけ重要な事を言われるような気がした。
そして榎本さんは一旦、呼吸を落ち着かせた後に――それを言った。
「じ、実は私――前から、君の事が…………」
(――え、え、ちょ、は、うそ、うそぉ!?)
「き、君の……事が……」
――――す、好きでした、ってか!?
と、その時点で既に俺の幸福度が有頂天になりかけ暫く収まる事を知らなそうなくらいになる――が、
「き、君の事が……!」
(き、君の事が……?)
「……気になってました!」
「ズコーッ」
――お、おぉっとぉまさかの微妙なライン……。
「ん、んーそれは、えっと、どういった意味で……かな?」
「そ、その……ず、ずっと……“独りで居る”所が」
「ゴフッ」
「そ、それで……どうやったら、あんなに……独りになれるの、かなぁ……って」
「……あ、あの、榎本さん、笑うどころか、フルボッコなんスけど……っ」
これが、人気者故の破壊力というものか。というより、榎本さんが案外鬼畜なだけなのか。ぼっちへ向けて「どうしたらそんなにぼっちになれるの?」は死ねる。氏ねるでは無くて死ねる。
――とどのつまり、『好意』では無く『興味』と。
(……ま、まぁ、唯一ぼっち勢が、人気者勢筆頭榎本さんに興味を持たれる事自体、有り難いもの……と考えたらいよいよ俺惨めじゃない……??)
「え、えと、その……説明、するね? だ、だから、生き、てっ……!」
榎本さんは|(精神的に)死にかける俺に対し慌ててそう言うが、
「どうかこれ以上死体蹴りしない程度に――オネガイジマズ」
床を舐めるかの様に、俺はすっかり傷心し俯せる様に、地面に横たわっていた。
「あ、あのっ……私、さっきも言った様に人が……苦手で……」
「ハイ」
「でも、皆私の方になんでか、来ちゃうから……」
「ソッスネ」
「だから、その、き、君はいつも独りでいる……から……」
「ウッ」
「し、死なないで……?」
「コロサナイデ」
「ご、ごめん……」
「ソレデ?」
「そ、それで、きき、君から何か、独りになる秘訣……とか……な、仲良くなれば……独りにして、くれる……かなー、って」
「…………」
「あ……あのー……」
「…………」
「……お、起きてっ。生き返ってっ……!」
そう榎本さんは折れの|(誤字では無い)背中を揺する――――え?
――え、え、待って榎本さんが折れに“触れている”だとッ!?
(ちょっ――それは逆に“起きたくない”っすよ榎本さん!)
と、堪能できるならば幾らでも堪能したい――――と寝続けていると、
「……あ、あの、ほんとに……起きてって……」
「あ、はいすいません起きます」
手が疲れたのか榎本さんからマジのトーンで催促された。
起き上がり、再度榎本さんの前にあぐらで座り、話を戻す。
「……え、じゃつまり、俺に色々話したのって」
「つ、つまり……ね?」
と、榎本さんは……めっちゃ気まずそう、というか、恥ずかしそうに顔を逸らす。
……って、え、待った。俺に対し『自分の秘密』を話し、俺が『気になっていた』と言い、つまり…… と言葉に言いよどむ。と、いう事は――――
――お、俺と、友達になりたい……ってか!?
【ねんがんの ともだちを てにいれた!】
ってか!?
ままままさかの『ぼっち脱却』だけで無く『好きな人と友達になる』権利を得られるとは……お、俺はあれか。明日死ぬのか。それとも今日帰り道で死ぬのか!?
「つ、つ、つま……り?」
夢の“非ぼっちライフ”が待ちきれず、動揺を隠せてないがその続きを聞く。
「つ、つまり……その……わ、私“の”……」
“の”!? え、“の”って何!? 私のともだちに~……いや、まさか、ひょっとして――――『私の彼氏になって』ですかッ!?
「の、の……??」
思わず前のめりに再度聞く。
いやだってしょうがないじゃない! 男の子だもん! 念願の彼女だもん!
「わ、私の…………」
嗚呼、生きとし生ける物全てに感謝を。
父さん、母さん、俺は幸せに……なるよ――――っ!
さぁ榎本さん、その言葉の続きを――――
「……“人除け”になってくださいっ!」
「えぇ勿論でs――はい?」
「ですから、人避けに」
「聞こえない」
「人避けに」
「聞き取れない」
「ひt」
「聞きたくない」
「……ぐすっ」
「やりますなります務めさせて頂きまぁすっ!!」
男に女の涙は反則技だぞ――――と。
榎本さんに無理矢理その……『人除け』? とやらに合意させられてしまった。
……ってか『人除け』って何さ『虫除け』みたいな感じに言うけどさ!!
「待って待って待って嘘だよね冗談だよね!?」
そう今度は俺が榎本さんに泣き縋る構図になる――が、榎本さん。何やら満足げに、
「……ふふん。言質、とった……♪」
「ち、ちょ、榎本さん急になんか人が――」
「しら、ないっ♪」
そう言い榎本さんはおもむろに立ち上がり、出口へと向かう。
「いや、待って榎本さん! 俺の沽券は!?」
「それも……しら、ないっ♪」
「チョットォ?!」
――やだ、知らない! こんな榎本さん知らないっ!
たかだか『人除けになる』という事に不本意ながら合意させられただけで、榎本さんは人をガラリと変え、いつもの弱気・内気な性格とは明らかに違う様子を見せた。
「ちょ、チョマテヨ。榎本チョマテヨォ!」
俺はその場で立ち上がり呼び止めようとする……が、
「待ちまー、せんっ……♪」
榎本さんはとてもとても軽やかに楽しそうに優雅に部屋を出て行こうとする――――
「いやマジで待――――」
――――ので、反則技には反則技をと、我ながら卑怯な言葉を吐くに至った。
「い、良いのか! 榎本さんが秋葉原に~とか、本当は目が青くて~とか、い、言うぞ! 先生にもカラコンについて言うぞ!」
「言えるなら……どー、ぞっ……♪」
しかし努力空しくたった一言で一蹴されてしまう。
「……それ、こそ」
と、榎本さんはくるりと一回転。俺の方を向いてじりじりと詰め寄る。
そして俺の目の前まで来るや否や――――、
「……わたしも……言っちゃう、よ……? “すとーかー”さんっ」
――――なん……だと……。
榎本さんの口からまさかの言葉を聞いて、俺は言葉を失う。
……つまり俺は、今まで踊らされていたのか?
……つまり榎本さんは、今まで演技をしていたのか?
……あの“表情”は……嘘?
榎本さんは悪戯っぽく「ふふん」と嗤い、
「……せつめー…………する?」
と、俺の顔を覗き込んで、悪戯の様に、囁く様にそう言った。
「……いつから、だよ」
俺は恐る恐る聞いた。本来こうして聞くのは榎本さんの方だったのに、今ではまるで、立場が逆転した様だった。
「さいしょ、からっ……♪ だって……分かりやすい、見た目……してる、もんっ……♪」
つまり、あの横断歩道ですれ違った時から、榎本さんは俺に気づいていたという事だ。
「俺が外で待ってたのも……」
「とー、ぜんっ……♪ でも、最初のは……ちょっと、びっくり」
「喫茶店で俺の隣に座ったのも」
「ここまで頑張った…………さー、びすっ……♪」
「――――ウソデショ」
「信じなくても……いー、よっ……♪」
「……はぁぁぁぁぁ………………」
深くため息を吐き、その場で――横文字で表すところの『orz』の姿勢。いや、だって……俺馬鹿みたいじゃん!? というかこんな話あるのかよ! ねぇよ! 詐欺もペテンもあったもんじゃねぇよ!
とどのつまり、榎本さんは最初から気づいていて、敢えて気づいてないフリをし、その……つまり、楽しんでいた、と。
「……じゃあ、何か。あの後逃げたのも、異様にアキバとか目とか気にしてたのも、トラウマについても、全部…………」
「あ、それはホントに、ホント……だよ?」
「はー……?」
「それ、こそ…………わたし嘘……吐かない、もんっ……!」
「この人の変わり様を見せ付けておいて信じられるかァいッ!」
散々おちょくられ、いよいよ自分が本当に惨めになってきたのか涙を浮かべそう反論する。
しかし榎本さんは、また改まった様に――とはいえ地に伏した俺の前にしゃがみ上からの目線で――話し出す。
「わたしは……ちょっと、他の人……より……裏表が激しい、の……」
「でも……普段の私、も……今の私、も…………どっちも、ほん、と……」
「いろいろ……原因、あった……けど…………つまり、そーいう……疾患?」
「で……人に……弱い、から……普段、あぁなってる…………だけ」
「つま、り……まんつーまん? なら……へー、き」
「……つまり、一対一で話してるから、こうも……“強気”なんだと?」
――それなら最初この部屋に入った時からこうなってる筈だ――と言おうとすると、
「あ……でも……“リラックス”して話せてる……のも、ある……かも?」
「それって『心を開いている』の意味じゃなくて『自分より下に見ている』という意味ですかね…………」
俺は呆れ気味に顔を上げるが、榎本さんはいつの間にか――――
「さー……どっち、かなっ……♪」
――と、後ろを向いて立ち上がっていた。
薄明るい部屋に、西からの夕日が差し込む。
それに照らされて、榎本さんの後ろ姿はどこか麗しさがあって――綺麗だった。
その後ろ姿に、ふと思い返す。
たった数日前まで、俺の知っている榎本さんは『転校生』『クラスメイト』『人気者』程度で。
昨日は、『買い物を一杯する』や『本が好き』というのもあるが、『色んな表情』をして、『目が青色』で、『綺麗な顔』をしている――という事を知った。
そして今日は…………あまりにも多くを、俺は知った。
それでいて尚――榎本さんは分からない事だらけで、読めない事ばかりで、とても不思議で、意表を突かれてばかりで…………。
……やはり、俺は榎本さんに、増々惹かれていっていた。
「……なぁ、その……俺がお前を『ストーカー』した事って……それだけで、良いのか?」
立ち上がって、そう榎本さんに投げ掛ける。
俺は、俺が犯した罪が、こんなあっさり流されて良いのかと、寧ろ罪悪感が湧いてきていた。
「……んー?」
しかし榎本さんは、ようやく振り返ったかと思えば、少し首を傾げただけだった。
「いや、だから、その……嫌に思わないのか? 気持ち悪いとか、変態とか……」
「……そう、言われたい……の?」
「いや別に言われたくは無いケドさ! ……そう言われても仕方ない事をしたのに、それでいいのかって」
「……じゃあ、理由……しだ、い?」
「じゃあ、ってそれで――――」
と、言いかけた所で突然、榎本さんは一気にこちらへ詰め寄り――俺は窓際へと追いやられた。
そしてそのまま、密着する寸前まで体を寄せて、おもむろに俺のネクタイを掴み、ゆっくりと、顔を近付かせる様に引く。
「……どうして……『ストーカー』した、の?」
榎本さんの囁き声が、頭の中に響く。
それ以前に――心構えをさせる暇も与えないで、吐息すらも聞こえんばかりに近付かれ……俺は息を詰まらせる程に鼓動が早まり、早速頭の中が真っ白になっていた。
榎本さんの目が俺の目を捉えて離さず、俺も一度目を合わせたが最後。榎本さんと目を合わせ逸らす事が出来なくなっていた。
なんでこんな大胆な事をするのか。そんな事すらも考えれなくなっていた俺は、ただただその問いに、偽り無く答えた。
「……榎本さんの事が……好きだから。榎本さんの事がもっと……知りたかった。好きになった所で彼女どころか、友達にすらなれるかも分からなかったから、せめて他の人が知らない……榎本さんの一面が、見たかった」
「…………」
「でも、ごめん……ホントに悪い事したって思ってる。もう二度としない。榎本さんが望むなら、それこそもう、二度と関わらない。本当に……ごめん、な」
黙って聞いてくれた榎本さんに、俺は込み上げるものを堪えつつ、思いの丈を赤裸々に吐き出した。
榎本さんは、掴んでいたネクタイを放し――――不意に再度グィッ と掴んで引っ張り、
「……ばーかっ」
と、右耳に囁いて、突き放した。
「……嫌だった、ら……とっ。に、チクってる……♪」
「え……じゃあ」
「つまり……とにかく許す、って……だけっ♪」
榎本さんは顔を伏せつつ、出口へ振り返り歩き出す。
「私は……人に囲まれるの、キライっ……」
俺は、離れていく榎本さんを半ば無意識に追う。
それを知ってか否か、榎本さんはこう続ける。
「貴方は……私の事、が…………すき……なんだからっ」
トンッ と靴を鳴らし俺の方へ振り向き、
「お互い、仲良くしましょっ……て事……♪」
……髪に隠れてはいるが、しかし確かに、一瞬その隙間から覗けた顔は、少し赤みを帯びていた。
「……てゆーかー、利害一致? ……みたい、なっ♪」
榎本奈央は照れ隠しなのか敢えてアニメキャラの真似をし、伊上計を一目見てから、再度扉の方へ向く。
「……ありがとう。榎本さん――――!」
伊上計は、ようやく許された喜びと、榎本奈央よりかけられた言葉に感動を覚えながら、部屋を出ようと歩き出す榎本奈央を真っ直ぐ追う。
そう、こうして伊上計の“いままでの”日常は、榎本奈央の日常と共に終わりを迎えた。
そしてこの先に、この扉の先から、“伊上計と榎本奈央”の日常が始まる――――。
その大きな希望と、期待を胸に、二人はその扉の向こうへと、歩み出すのであった。
【完】
「――『さん』は要らないよっ……えーと……何君だっけ?」
「……え、嘘でしょ?」
「だ、だってその……一度も、聞いた事……無いん、だもん……」
「出席とる時真っ先に呼ばれてるのに!?」
「あー……地味で気付か――――ご、ごめんねっ……生きてっ……!」
「父さん母さん先立つ不孝をどうかお許し下さい」
「だめっ……これから行くトコ、あるのにっ……強く生きてっ……!」
「どうか来世はラノベの主人公みたいなハーレム人生が送れますよう――ん? 行くところ?」
「その、秋葉原、の……」
「……あぁ! 『コインロッカー』!」
「こう、してるうち、に……どんどん、高く……っ」
「それこそ榎本さんあの量一人で持ち帰れるの!?」
「……ほ、ほん、き……出せば……」
「嘘こけぇ! いいよそんくらい持ってやるよ!」
「そ、そう……? ふふっ。ありが、とっ……♪」
「……こっちこそ。榎本さんの……ためなら」
「くすっ……だー、からっ」
「『さん』は要らないよっ――伊上君っ♪」
【ほんとに完】
本当はもう少し後半の展開違くて、ちゃんとばら撒いたフラグを回収したかったのですが、何分これを書く際に設けられた納期に間に合わず、且つ規模感も大きくなり過ぎてしまったので不完全燃焼のままむりくりオチへ……;
しかしまぁ、いつも書く物とは全く違う物、つまり典型的なライトノベルを意識して半ば挑戦として書いた割に大分頑張って書けたと思うので供養――――じゃないですよ記念です。記念に上げる事にしました(震え声)
ここまで読んで頂き、誠に有難う御座いました!