推敲なしでどんなのが書けるかな? ちなみにタイトルは『My future』だ
これは作者の後悔の物語
小学生の頃は、楽しかった。
無邪気に笑って遊んでいた。
田舎だから店は少ないけど、駄菓子屋くらいならある。
そこで遊んだり、ゲームをしたり。
本当に楽しかった。
中学生の頃、引きこもった。
ここで人生の全てが狂ってしまった。
毎日毎日パソコンでネット。
将来の事など、どうでもよかった。
今を生きられれば、死んでも構わないと思っていた。
卒業後、通信制の高校に入った。
引きこもりや成績が悪い子供を中心に入学させているらしい。
卒業率は97%という触れ込み。
それが本当なのかはわからないが、残り3%に入らないように勉強した。
大学に進学せず就職した。
入社三ヶ月会社が倒産した。
金を持ち逃げされたらしい。
ニート街道まっしぐらた。
これからどうしよう。
ネットでやれることはたかがしれてる。
学歴も良くない。
好きなことで生きていけるのは一握りの人間だけだというが、その通りだ。
とりあえずだけど、就職活動を続けた。
不況で雇ってくれない。
既に枠が埋まっている。
アルバイトも同様。
ああ、これが人生か。
中学でちゃんと勉強しとけばこんなことにならなかったのかもな。
勉強できれば、将来大抵のことは出来る。
気づくのが遅かった。
知っていればやったのかと聞かれると、解らない。
昔の俺はそこまで頭がよくなかった。
人生がやり直せればいいな。
『人生』『やり直し』で検索してみる。
剣と魔法の異世界? 異世界転生? 異世界トリップ?
現実見ろよ異世界好きども。
そんなことあるわけないんだよ。
仮にあるとしても剣は重くて振れないし、魔法は才能がなくて使えないだろう。
魔力、魔術、魔法。
魔法はお決まりの単語を使えば理解されやすいもんな。
こんなジャンルが流行っているのか。
なぜだ?
なぜ人気になったんだ?
それも調べてみると、中学生から30代の男性が現実逃避のために読むそうだ。
本当は違うかもしれないけど。
なんだ、簡単じゃないか。
金を稼ぎたいなら生産すればいい。
道具なら揃っている。
パソコン、キーボード、ルーター。
これだけでも可能だ。
異世界が好きな子供や大人たち。
見せてやるよ、俺の異世界の現実をな!
───
「どこだここ」
現役高校生の俺、天生友沙は突然見知らぬ森の中にいた。
富士の樹海? アマゾン?
マジでどこだここ。
「だれかいませんかー」
叫ぶ。
助けを求めるのが一番だ。
人に頼れば助けてくれる、日本っていい国だよね!
日本じゃないかもしれないけどね(涙)。
「キキッ」
周りの木の二回りは大きい大木の枝に、猿がいた。
動物園でしか見たことねえぞ。
「え? マジで?」
どんどん猿たちが顔を出していく。
「うわ」
100を超える猿が、俺めがけて何かをシュート!
凄く……エキサイティングです…………。
プロ野球選手ほどの速度を出して迫ったそれは、当たった瞬間に何か判明した。
ヤシの実の、外側の堅い殻だ。
的確に急所を捉えたそのシュートは、音をおきざりにして俺の命を奪った。
───
一話はこれでいいだろう。
次はループさせて人が住んでいるところに連れて行って奴隷買わせてハーレムでも作らせればいい。
そんでオリジナリティを盛り込む。
テンプレ+オリジナル要素=読者が好むもの。
誰だか知らんが、ブログの管理人に感謝だな。
人気を穫るための常識が書かれた記事は、素人の俺でもわかりやすかった。
なので、まだ投稿しない。
初期ブーストと呼ばれている手段を使う。
一日二回投稿をして、文字数は毎話最低3000字。
これで人気になればスカウトがきて、書籍化だろ?
万が一のために、コンテストに応募するキーワードを付けて予約投稿だ。
投稿は四ヶ月後の月末。
書き溜めるんだ。
そして俺は少しでも金を得るんだ。
それまではニートしながらバイト探すか。
今は五月だから、夏にはバイト募集が増える。
資料となる名作を買うための資金を集めないとな。
───
投稿初日にキングクリムゾン。
これまで何度も推敲を重ね、三桁にまで及ぶ回数をこなしてきた。
人気になってきた新作も少し目を通して、内容も他と被らないようにしている。
さあ、全100話ジャストの俺の自信作を定期一日二話更新。
朝と夜の二回に分けて投稿。
全話予約投稿が済んだ。
単純計算では50日しかもたないので、アクセス数が減るとされる月曜と金曜は投稿しない。
これで俺も書籍化作家間違いなしだ。
印税で暮らせるほどではないだろうが、多少楽になるだろう。
───
「早速お気に入り登録10件……」
まだまだだ。
こんなもんじゃない。
───
「ッシャきた100! ポイント評価両方500!」
この調子だ。
いいぞいいぞ。
───
30話まで投稿した頃。
「なろうコン?」
ある広告を目にした。
「面白そうだな……」
俺は迷わずキーワードを設定した。
───
おかしい。
なぜこんなに感想が少なく、レビューも少ないんだ?
ポイントも伸びないし、日刊ランキングに少し入っただけで落ちていった。
こんなはずじゃなかったのに。
いや、まだこれからだ。
主人公が未来の自分と戦うあのシーンには、特に力を入れた。
あれを読んでくれさえすれば…………!
───
なぜだ。
なぜこんなにも失敗した。
ポイントは以前の半分。
感想は批判の山。
返信する気すら失せた。
なんだよ。
なんでこんなことになったんだよ。
キッカケは、あるネタが原因だった。
どうやら著作権があった単語を使用してしまっていたようなのだ。
これはマズい。
これからだったのに、勢いが削がれた。
ネットではこれが限界か……。
そう思って、ログアウトするためにホームを開いた。
メッセージが届いていた。
送り主は……運営から!?
まさかスカウト? 慌てて本文を開いた。
終わった。
こんな気持ちは、小学生の頃のぼうけんしょが消えてしまった時以来だ。
問題となっている作品の削除要請。
決められた日までに修正しなければ、利用規約に則って問答無用で削除するようだ。
無理だよ。
この単語はこの後の展開に必要な、重要なキーになっている。
全て書き直しになってしまう。
頭が真っ白になった。
───
「ああ、なんでだよ」
沈んだ。
なにもかもが終わった。
俺は所詮、何も持っていない人間だったんだ。
だから何も出来ない。
「死ぬか」
もうこの命には意味はない。
生命保険には中学の頃入らされた。
自殺だと降りないそうだが、関係ない。
死ねればいいのだ。
そう思って、首に縄をかけようとした瞬間。
誰もいないはずの俺の部屋から。
聞き慣れた声がした。
「死ぬの?」
俺の声だ。
振り向いても誰もいない。
これもしかして、耳に直接響いている?
「作品を完成させないまま死ぬの?」
中途半端だけど、しょうがないじゃないか。
どうしようもない。
「いい方法を教えてやろう」
なんだよ。
「完結させてあるものを、今すぐ全て投稿するんだ。削除される前にな。で、最終回にでも『消されます』とか書いとけばいい」
確かにそうだが、ファンは少ないんだぞ?
今更読まれるとは思えないな。
「まあ、出来ることはやっておけよ。今までのことが無駄になるぜ?」
……そう言われてみてよく考えると、書いてあるのに投稿しないのはおかしいよな。
「早くやれよ。時間がないぞ」
やってやるよ。
誰だか知らないがな。
「じゃあ、後は頑張れ。過去の俺に宜しくな」
了解。
───
簡潔に説明しよう。
俺は成功した。
小説ではないがな。
今では立派なボウリング場を経営している。
紆余曲折あったのは、言うまでもない。
結局作品は消されてしまった。
しかし、伝説に残ったのだ。
『この最終回は予想できなかった』『これ他サイトで投稿してください! まだ読みたいです!』『あのときは批判したけど、続きを読んで考えを変えました。まさかこんなラストが……』『俺氏史上最高の名作』『続編希望!』『内容変えてまた投稿してほしいなぁ』
投稿するつもりはない。
ログインだけしている。
もう満足したのだ。
決して、経営か忙しくて書けないということではない。
書くつもりがないのだ。
伝説は伝説のままに。
変に続編など出すと、ハードルが上がる。
これで良かったんだ。
───
「オーナー、このサイトのことで質問があるんですけど」
「俺がこの前教えた、無料で小説を投稿出来るサイトだろ?」
「ここの人気作品は殆ど読んだんですけどね、まだ読めていないのがあるんすよ」
「それはなんて名前の作品なんだ?」
「それがわからないんすよ。なんでも異世界ジャンル全盛期の『伝説』とだけしか解らないっす」
「…………」
「昔規約に触れたとかで削除されたらしいんですが、される前に全話執筆して投稿したそうなんですよ。40話くらいから100話ま一気に投稿して、人気が爆発した時に丁度削除されたとか。
不思議なことに、誰もコピーしてなかったんすよ。転載すらされなかったそうです」
「…………俺、それ読んだことあるぞ」
「えっ、マジっすか! どんなタイトルなんすか!?」
オーナーと呼ばれた男性は、穏やかな表情で青年にこう告げた。
どこか寂しげで、どこか感慨深そうな顔だった。
「『My future』直訳で私の未来、だよ。
明日になったら、そのサイトで検索してみなさい。きっとそこにあるからね」
そのときオーナーは『帰ったらリメイク頑張るか』という決意をして、青年にあらすじを語り始めた。
作者「こんな展開、現実ならばありえない。だからフィクションなのです」
↑読者「なにいってんだこいつ」




