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終わりなき回廊で発狂する男。

比喩ではない。


床から天井までの壁面は、すべて陰影のない朱色に染められている。50年ほど経過したと思われる色褪せの様子から、男の焦りをより強めることとなった。


5mほどの感覚で両脇に添えられた御影石の円柱はそれほど広くない回廊に不自然なほどに大きく、充分に大人の男が隠れることができるだろう。


地球の果てまで続いていそうな奥行きと、4tトラックがフルアクセルで躊躇なく進めそうな広さの廊下は、どれだけ慎重に歩いても、革靴のソールが男の耳に不気味にまとわりついた。


古く湿った空気と回廊の無機質な薄明かりは、日本の文化を象徴するものではなく、むしろ古代中国のそれに近いように感じた。




男は一人だった。背には壁があった。スタート地点なのかもしれない。あるいはここが終わりなのかもしれない。何れにせよ、男に与えられた選択肢は前進しかなかった。リュックに詰めた清涼飲料水のペットボトルはもうなくなった。食べ物はない。


男は体力の消費を抑えるために、できるだけ軽やかに歩くように務めた。気張って周りの様子を伺いながら、慎重に前に進むときっと3時間と持たないだろう。


どれほどの時間が立っただろうか。

体内時計が48時間を越えたあたりから、彼のポリシーである飽くなき冷静さが消えた。アスファルトに空いた窪みへ足を踏み外したときの衝撃のように、自然と口の奥からまるで女のように甲高い音質の悲鳴が聞こえた。


ここへ来るまで連れ立ってきた友人がそばにいないことから、男は惜しみなく絶叫することができた。

腹の底を腹筋ですくい上げ、鉄製の熊手で喉を掻きむしるように声を出すと、非現実な世界に来た現実を忘れることができた。


もうこれ以上、一歩も踏み出せない。


視線が定まらず、絶叫に僅かな快感を見い出し始める中、男の片側の脳みその端っこで、精神が破綻するとはこのことか、と感じた。



「よう、兄ちゃん。まだまだ先は長いで。そんなとこで寝とったら、永遠にこここから出られへんで。文字通り永遠になっ。」


驚いて回廊に突っ伏していた身体を持ち上げ、声のする方に目をやるとかなりショッキングな黄緑色をした小さな龍がいた。龍は1.5mほどの高さの場所に浮いており、銀色のたてがみはかなりきめ細やかな直毛で、ふわふわと揺れる体に合わせて、なびいていた。


表情は読み取れなかった。


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