「CD-TOM」
トムは朝起きるとCDになっていた。
雑誌やスナックの包装によって散らかった自分の部屋で、彼は一枚のCDとして転がっていた。目覚まし時計が鳴っていたが、誰も止められる者がベッドにいないので、刺激的な電子音がしつこく鳴り続けていてちょっとうるさかった。
耐えかねたのか、となりの部屋で寝ていたトムの妹が、ドアを開けて入ってきた。
「ちょっと兄ぃちゃん? うるさいんだけどー!」
しかしベッドにトムがいないので、妹は目覚ましをぺちゃんこに叩き潰す勢いで右手でプレスし、ついでに電池も抜いていた。よっぽど機嫌を損ねたのだろうか。
(……いちいち電池抜くのヤメテー!)
とトムは叫んだが、CDは声を出せないようで部屋はしんと静かだった。どうやら電池を抜くのは単に、妹の習性のようだった。
「あんにゃろー、どこいったんだろ?」
兄をあんにゃろー呼ばわりして妹が部屋を見渡す。
「きたね~」
うるせーよとトムは思った。そして妹の視線が部屋のある一点で止まった。
「あれ? 変なCDがある」
トムに手を伸ばして持ちあげ、妹がしげしげと朝日にかざして彼を見てくる。
「何のCDか書いてない…」
そして妹はちょっと首を傾げて、CDになったトムを持ったまま自分の部屋に帰っていったのだった。
○
妹の部屋はきれいに片付いていて、トムの部屋とは大違いだった。暖色系でものが統一されていて、部屋にいるとおちつく印象がある。
トムの妹はCDラジカセのコンセントをさっそくつなげて、CDのトムをそれに入れてフタをした。フタは透明で部屋の様子がトムからもよく見えたが、オレンジゼリーのように色がついていたので、部屋が夕日に照らされたように鮮やかだった。
妹はためらいなく再生ボタンを押し、トムのまるい身体はしみょみょみょみょみょ~という音とともにくるくると高速で回転しだした。
………すると自分の中から何か温かいものが―――ずっと昔に忘れていた何か温かいものが―――溢れてくるのを感じた。
それは自分を収めているステレオのスピーカーから音となって発せられて、部屋にそのわくわくするようなメロディを満たしていく。
「へぇ……」
妹もそれに聞き入り、どこか満足そうな、楽しそうな表情になっていた。トムはその顔が自分に似ていて、そして最近ではとんと見せなくなっていた表情だと、ふと気付いてうれしくなった。
(―――これは、いいかもしれないな……………。)
そしてトムはステレオの中でくるくると回りながら(目が回るんじゃないかと思ったが、CDには半器官がないので、気持ち悪くはならないようなのだった)、また眠りに落ちていった………。