グッドバイ
幸せだった。
何の不満もない、ただただ純粋に幸せだった。
今、あの時間を思い出しては、心が軋む。
■グッドバイ
あの日々が幸福というものでないのなら、何が幸福だというのだろう。
すべてが輝かしく、初めて世界に色が付いた。
君と出逢うために生まれてきたのだと、何の迷いもなく心から思っていた。
やっと、生まれた意味を。生きていく理由を。見つけた気がした。
でも、ある日。
僕の中に病魔が見つかった。医者は簡単に、予想される僕の消費期限を告げた。
真っ先に考えたのは、自分の事ではなく、君の事だった。
死は怖くなかった。ただ、君が傷つくのが怖かった。
本当は最期のその時まで、この暖かい世界の中、君の放つ光の中、生きていたかったけれど。
急に恐ろしくなった。
このままではいられない。僕は君と居てはいけない。
この煌めくような世界を教えてくれたのは君だった。それを喪うのは余りにも哀しいことだけれど。
どうしようもなくなってしまった自分の姿を見せたくなかった。
一緒に期限が迫るのを待たせたくなかった。
だから、早く彼女に別れを告げなければ。
早く。早く。
あの日君に投げつけたひと言を今更悔やんでも仕方ないけど。
それでもやはり失うことを承知で告げたその言葉は、思った以上に君を傷つけた。
過ぎ去った時間も零れ落ちた言葉ももう二度と取り戻すことは出来ないけれど。
なんの弁解も許されぬまま遠くへ行ってしまった君を想っては自分の心まで騙しきれずに。
今もまだこの場所を離れられずにいる。
それでも僕はいつまでも同じ場所に留まることは許されない。
そろそろ次の場所へ行かなくては。
ああ。早く君を忘れたいな。けれど永遠に忘れたくはない。
僕はこんな矛盾した心を抱えて何処へ流れつくの。また誰かと出逢うことが出来るの。
自分もいずれそれを構成する一部になるのだろうかと、冬の夜空を見上げ、想う。
こんな風にして、僕らが知ることの出来なかったささやかな幸せはいくつあっただろう。
僕らが見ることが出来たのはこんな別れだけだったね。
けれど思い描いた幸せを手離してしまったこと、後悔はしていない。
それだけが僕の全てだ。
君を幸せにしてあげられるのが僕でないことは本当に残念だけれど。
ただただ、君の幸福を祈っている。何処に居ても心の底から。永遠に。
さよなら。ありがとう。




