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 3 同じような日々を

 今まで秋人は何も考えていなかったし、何も考えたくなかった。それをこの日常は許してくれていた。

 コンビニでのんびりと働き、帰りにビールを飲み、ぐっすり眠る。朝に太陽が昇り、太陽と月が交代をして夜になり、そしてまた朝がくる。

 そんな風に同じような生活が延々繰り返されることを、秋人は望んでいた。

 駄目なら駄目でいい、そんなやる気のない望みでではあったのだけど。


 秋人は一年と少しの間コンビニで働いている。

 給料は安いが貯金もあるし、家賃と酒と少しの食料くらいしかお金をつかうことがないから特に不自由を感じず、仕事も問題なくこなすことができる。不満は何一つなかった。

「おかさん、今日も公園でビールですか」

 引き継ぎを済ませて休憩室に入ると、同じシフトにはいっていた下川が、美味しそうに煙草を吸っていた。秋人はここでおかさんと呼ばれている。

「もちろん」

 そう答えると下川は「そうですか」と何がおかしいのかにこにこ笑う。

 下川は秋人より少し年下の大学三年生。物腰が柔らかく落ち着いていて要領が良い、仕事のしやすい相手だ。

「今度の飲み会には来てくださいよ」

 バイトの飲み会が時々開かれているが、秋人はその誘いをいつも断っていた。今日も「気が向いたら」と気のない返事をする秋人に、下川は屈託のない笑顔を返した。

「わかりました。じゃあ気が向いたら、お願いしますね」

 その笑顔を見て一瞬弟を思い出し、はっとする。

 今まで気づかなかったが、そういえば雰囲気が少し似ている。

 弟とは、秋人が家を出てから一度も会っていない。


 *


「こんばんは……」

 一本目のビールを半分飲んだ頃犬がやってきたが、声にも足取りに力がない。どうやら犬は少し弱っているようだ。

「なんだ、また食べ物見つけられなかったのか。頼りないなあ」

「はい。本当に」

 弱っている犬は秋人の言葉にうなだれた。


 初めに犬が秋人の家でご飯を食べた日、秋人と犬は話をした。

「お前、これからどうするんだ」

 犬のことが何もわからず漠然とした質問になったが、犬はそれに対して真面目に答えた。

「食べ物の調達が出来る方法を考えます。それさえ出来ればあとはどうにかなるでしょう」

 秋人は少し長く黙った。

「食べ物を手に入れるのって難しいのか」

「そうですね」

 犬は考え込むように少し沈黙した。

 まあどう見ても、要領よく手に入れるようには見えないな、と秋人は密かに思った。

「でも、僕ならきっと大丈夫。そのうち、食べ物を調達するコツがつかめると思うんです。だから大丈夫」

 秋人を気にさせないようにという犬の気遣いだったが、それに対して秋人はふっと笑った。

 それから少し考えてまた口を開いた。

「まあ、そんな気にしないでさ、いつでもご飯を食べに来いよ」

 そうは言っても犬は遠慮してしまうだろう、と秋人は考えて、ひとつ提案をした。

「こういうのはどうだろ。ドッグフードのはいったプラスチックの箱を庭に置いておくから、お前の気が向いた時にでも、庭の壁の壊れた部分から出入りしてご飯を食べにくる。俺がいない日は勝手に箱を開けて食べたらいい。簡単に開く箱探しておくからさ」

「でも、そんなお世話になるわけには」

 犬は落ち着きをなくし意味もなくその場をばたばたと回転した。どうしたらいいかわからず慌ててしまっているようだ。

「たいした世話じゃないさ。俺がするのはドッグフードを開けることと、箱に入れること。それだけだ」

 そう言って秋人は笑いながら、犬の頭をなでた。



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