16 はるかと秋人の出会い・2
はるかはカウンターに座り、黙ってカクテルを飲んだ。
他の店員がはるかの対応したので、あの時の店員は姿を目で追うだけで話しをすることなくその日は終わった。しかしカウンターに座っていると中の会話も耳にはいってくる。
店員は「あきと」と周りから呼ばれていた。時々「あきと」は周りとしゃべり、笑う。
見ていると顔が熱くなり、目が合うと動悸がした。
私は、恋に落ちたのだ。
二杯目のカクテルを飲み干したはるかは、自分の気持ちを確認した。
どんな人間かもわからないのに。そう思いながらも、自覚した後はどんどん気持ちがふくらむ。今まで感じたことのないような心の動きにはるかは戸惑った。
はるかは頻繁に「あきと」の働く店に行った。しばらくたつと店の人間に顔や名前を覚えられるようになり、常連の一人になっていた。
「はるかちゃん」
他の人間は気軽にそう呼んでくれるのに、肝心の秋人とはほとんど言葉を交わすことがない。
でも視線の交換はあった。
どちらかが見ているわけでもなく、ふと目が合い、それから目を逸らすことなくお互いを見つめる。
それだけなのに、心の奥深くまで「あきと」は入り込んで、はるかを夢中にさせた。
見つめ合っているなんて気のせいだ、そう考えようとしても期待せずにはいられなかった。
何も知らない「あきと」のことを、店にいない間も毎日毎日考え想いつづけて、店に5カ月ほど通い、ようやく気持ちを告げる決心がついた。