15 はるかと秋人の出会い・1
今日は、誰も買ってくれなかったな。
はるかはパソコンを閉じてため息を吐いた。
雑貨屋で働きながらインターネット上で作品を公開して、販売を行っている。またその他お店に委託したり即売会などのイベントで出展したりと、出来る限りのことはやっているが、どうしたって自分の作った物だけで生活することは不可能だった。
雑貨屋で働くことは勉強になりマイナスだとは考えていないが、自分の作った物だけでは暮らしていけないという事実が、はるかにとっては苦しかった。
しかしそれでめげてはやっていけないとはるかは自分を励まし、制作を続ける。
しっかりしなきゃ。
そう考えながらも、秋人が目に浮かび、気持ちが落ちていく。
三年前の春、はるかは今と同じように雑貨を作っていたが、そこから経済活動に発展させる手段をまだ模索しているところだった。
そんなはるかに対して、イベントや委託先で知り合った作家たちは親切に色々なことを教えてくれた。有益な情報ももちろん得られたが、それよりも収入を得ることの難しさを実感し、自信をなくすことも多かった。
「そろそろ、二軒目に行こうか」
仲間のこういう誘いにも金銭的な問題が頭をかすめて、情けない気持ちになる。しかしほとんどの場合断ることはしなかった。何かつかめるかもしれないという気持ちと、少しの酔いにまかせてついていく。
「はるかちゃんはまだ二十歳でしょう。そんなに焦って考えることないよ、大丈夫」
こういった言葉にも納得が出来ず、曖昧にうなずいてしまう。
確かにはるかは焦っていた。
自分には技術やセンスがどれだけあるのか、もしかしたらもっと他に適した職があるのではないか。
高校生のころからインターネットやイベントに時々出店して、それがきっかけとなってこの道にはいったものの、他の可能性を考えず進んでしまっただけで、実は単に無駄に寄り道をして迷ってしまっているのではないか。
もしも違う仕事に就くのなら、一から始めることになる。それなら早く始めないと、良い機会を逃すことになるのかもしれない。
お店を持つためにお金を貯めているという話を聞いた時、具体的な目標を定めた方がいいのかという考えも生まれたが、自分のなりたい姿がぼんやりして前に進めない。
自分はどうなりたいのか、どうありたいのか。
自分の気持ちや考えが見えず、行き場所を見失ったように焦りだけを募らせていく。
作品を作り続けた先、どうなるんだろう。
迷路に迷い込んでしまったような心境だった。
「おまたせしました」
注文していたカクテルが運ばれてきて、顔をあげたはるかは、店員と目があった。
「スプモーニと、カシスオレンジです」
優しい話し方をする人だという印象と、物憂げな店員の表情は、何故だかはるかの心を強く打った。
店にいる間、はるかが無意識に店員を目で追っていたのか、店員もまたはるかを見ていたのか、もしくはただの偶然か、二人は何度も目を合わせた。
はるかは仲間と一緒だったからほとんど反応しなかったが、店員は時々薄く微笑んで、すっと視線をそらす。その仕草にさえ、はるかは惹きつけられるものを感じた。
家に帰ってからも、はるかは店員のことが頭から離れず、一週間後一人で店を訪れた。