14 太郎の不安
太郎は、ずっと気になっていたことがあった。
それは、自分はいつも昼に何をして過ごしているのか、ということであった。
自分の行動について考えた時、秋人と出会う少し前のことを、太郎は思い出す。
*
太郎は気が付くと、薄い暗闇の中を歩いていた。
月明かりが木々の隙間から差し込み、光の先には花が咲いている、幻想的な場所だった。
「ここは、どこだろう」
見覚えのない場所だ。先を見ても木々が連なっていて、森か山の中にいるらしいとわかるが、しかしどこだかわからない。
戸惑いながら太郎は歩き続けて、混乱が落ち着いた頃、太郎ははっとした。
「僕は……誰だ」
場所だけではなく、自分自身のこともわからないことに気が付く。
立ち止まって考えてみた。
自分が犬であるとか、多少の知識のようなものは頭にあったが、肝心の過去はいくら考えても何も思い出せなかった。
その上。
「あれ、僕、人間の言葉をしゃべってる……?」
試しに鳴こうとしてみたが、吠えることが出来なくなっていた。
わけがわからないまま、太郎はとりあえずここを出ようと歩き回った。
しかし、どれだけ歩いても出口が見つからない。
食事は落ちている木の実や草花でどうにかしのぎ、歩き回った。
時間が経ち、太郎の中にまた一つ疑問が湧いてきた。
「あれから月は満ち欠けを繰り返しているのに、どうしてこれだけ歩いてもここを抜け出せないんだ。それに、僕は昼間何をしているんだ」
眠くなくても月が傾き朝が来るだろう時間になると、太郎の意識は飛び、気が付くと違う場所を歩いている。眠っている場合でも同様だ。目を覚ますとどこか別の場所にいる。
そしてもう一つ不思議なのは、突然長い時間意識が飛ぶことがある、ということだ。意識が戻った時の激しい疲労と空腹から、長く時間が経ったことを推察した。恐らく何も口にしないで歩き回っているのだと考えられる。太郎はそんな出来事を二回経験していて、その理由をずっと考えていた。
ある日いつものように月を見上げた。月以外、時間の経過を表すものが太郎にはなかった為に、何か手がかりをという考えがあって毎日観察していたのだ。
「……もしかして!」
自分の意識と月の存在は関係があるのではないだろうか、と太郎に閃きが降りた。
思い付きではあったが、太郎は月が満ちると共に自分の体に力が満ちるのを感じたし、月が欠けていくと力が抜けていくように感じた。
それらが全てつながり、太郎は確信したのだった。
太郎は数日後、道が開けて抜け出すことができた。
しかし動き回っても食べ物を手に入れられず、弱り切っているところで、秋人に出会ったのだった。
*
今太郎は穏やかな生活を送っているが、やはり昼間気が付くと遠く離れた場所にいることが多く、そのことが太郎を不安にさせた。
そしてやはり考えてしまうのだ。
僕は何故、過去の記憶がないのだろう、過去には何があったのだろう、と……。