Time goes by
「一年後に魔法使いにしてあげる」
仕事帰りの薄暗がりの公園。
木立の中の細い歩道。
重い足を引き摺って、ぼんやりと歩いていた。
目の前のあらわれた黒衣の男が、そう言った。
どこから来たんだろう?
木々の間から?
それとも、最初からいたのか?
「一年後?」
「そうだよ。一年後」
「魔法使いって何?」
「魔法が使えるんだよ。ふふ」
小馬鹿にしたように笑うのが、なんだか腹立たしい。
変だな? フードを被っていて顔なんか見えないのに。
「大雑把すぎてわからないよ」
「そうだね、何でも魔法で解決できるよ。物を動かすのも、作り出すのも、壊すのも」
ありえないだろ?
錬金術とか言われた方がまだマシだ。
「手品って事?」
「違うよ。この世界の物理法則を無視するやり方だね」
ますます馬鹿馬鹿しいな。
「なんで、一年後に、俺を? 魔法使いにしてくれるんだ?」
にぃ、と唇が動いた。
そんな気がする。
「ふふ。猶予、かな。君、っていうのは、そうだな。目についたから」
「なんだよ、それ。猶予? 今すぐでもいいんじゃないの?」
何でも出来るようになるなら、こんな疲れる生活から解放されたいよ。
思いのままに作って、思いのままに壊して。
ああ、でも。
どうなのかな。
どこまでできるんだろうなあ。
「今すぐは駄目。心の準備がいるからね。色々と整理しておいて欲しいな」
それじゃ、と言って男は消えた。
ひと月、ふた月。……半年。
何も変わらない日々が続いた。
職場に足を運ぶ。
同じルーティンワーク。
酒もたばこもやらないし、賭け事もしない。
毎日公園を通ってアパートに帰る。
重い足を引き摺って。
気づけば同じ季節が廻って来た。
黒衣の男が目の前にいた。
「さ、約束の一年後だよ」
「⋯⋯え? もう?」
男はフードを下ろして俺を見た。
胸の痛み。息苦しい。体が傾ぐ。
何も見えなくなった。
頬にザラザラとした感触。
鼻の頭を何かがくすぐった。
目を開ける。
土。背の低い草。
ああ、公園の歩道で倒れたんだ。
身を起こす。
遠景が広がる。
「どこ? ここ」
一面の草むら。
傍らに黒衣の男。
「君はもう魔法使いだよ。念じて御覧? 何でも出来るよ」
「なっ」
言葉が出ない。
「整理しておいてって言ったよね?」
解釈はいかようにでも……。




