婚約者の幼馴染があらわれました。
テンプレものを書いてみました。
「わたくし貴女の婚約者の幼馴染なの」
婚約者と待ち合わせをしているカフェで紅茶を楽しんでいた私の目の前に立った、ふわふわヒラヒラドレスの女は勝ち誇ったようにそう告げた。
私と婚約者の婚約は完全に利益優先だ。
技術が欲しい我が家と原材料と地位が必要な彼の家が、互いに釣り合う年齢の男女を差し出し結ばれた。
婚約者とは『お互い大変だよね』と苦笑しあい『それでもこれも縁だし』と上手くやってきた。
二人で出かけ、誕生日にはプレゼントを贈りあい、夜会にはパートナーとして参加する。
始めは出掛けてもあまり弾まなかった話も一年も経てば好みも分かってきたからそれなりに弾むようになった。
誕生日のプレゼントも少しずつ好みを探り合っていい感じの物を贈ることが出来るようになった。
夜会も差し色に互いの目の色を使って周囲に婚約者だと伝えて、ダンスだって息を合わせて踊れるようになった。
そう。
上手くやって来たの、婚約を結んでから三年間。
だって利益優先の婚約とは言えいずれは結婚しなくてはならないんだもの。
嫌い合うより歩みよって理解し合って人生のパートナーとしてお互いを認められるようになったほうがいいじゃない。
「わたくし貴女の婚約者の幼馴染なのよ」
私が無言でいるのに焦れたのか、目の前の女は繰り返した。
「はい。それで?」
「それで?ですって!?貴女わたくしを馬鹿にしてらっしゃるの!?」
甲高い声で叫ぶから周囲の視線を集めてしまった。
「馬鹿にもなにも、私貴女が彼の幼馴染だとしか聞いてませんし」
「だから!なんで!理解出来ないのかしら!」
「なにをですか」
「わたくしは彼の幼馴染なのよ!彼と結婚するのはわたくしなの!!どうしてわからないのかしら!」
─このひとだいぶ頭がアレみたい。
眉を吊り上げて大声を出すなんて淑女として失格なのではなくて?
しかも私このひとの名前も知らないのに。
どんどん冷めてく私とは逆に目の前の女はヒートアップしていく。
自分は彼とどれだけ思い出があるとか。
彼の好きなものは自分だとか。
彼が自分に捧げる愛は無限大だとか。
何というか。
『何言ってんだこいつ』
としか思えないだけど。
「だから貴女が彼と婚約しているのはおかしいの!さっさと身を引きなさい!!」
目の前の女が更にボリュームをあげて言い放った少しあとに
「アメリア、遅れてすまない……ってサラ?」
私の婚約者リチャードが到着した。
ふぅん、このひとサラって言うのね。ん?サラ?どこかで聞いたような……。
「まあリチャード!わたくしを探しに来てくれたのね!」
「いや、アメリアと待ち合わせしていたんだ」
「いいのよ、リチャード。無理しなくても」
「無理なんてしてないよ。君こんなところにいていいのか?」
「ああ、身の程知らずなこの方に教えてあげていたのよ」
「なにを?」
「わたくしがあなたの幼馴染であなたはわたくしを愛しているのだって」
リチャードはまくし立てるサラさんを睨みつけると低く呟いた。
「……誰がなんだって?」
「あなたがわたくしをあ」
巷で流行ってる小説だと婚約者が幼馴染の肩を持つことがセオリーみたいだけど、現実と創作は違う。
「愛してないよ」
「…………え」
まあ現実はこうなるわよね。
「大体君はもう結婚しているだろう」
「あ、あなたがわたくしにプロポーズしてくれたらいつでも離縁するわ」
「子どももいるのに?」
「あの子たちわたくしにちっとも懐かないんですもの!可愛くない子どもなんていらないわよ!」
予想の斜め上なことを矢継ぎ早に知らされて、さすがに私も動揺してしまった。
だってあんな小さな子が着てそうなふわヒラドレス着てる(しかも似合う)くせに既婚者なのよ!?……違った。既婚者で子持ちなくせにひとの婚約を解消させようとしてたなんて。
ん?サラって名前で2児の母……どこかで何か聞いたような……。
「前から何度も言っていたと思うんだが」
溜息交じりにリチャードが言うと、サラさんは何故かぱあっと顔を輝かせた。
え、今の声のトーンでなんで嬉しそうなの。意味不明よ。
「私は貴女とは結婚しない」
「まあリチャード……優しいのね。いいのよ素直になってわたくしと結ばれたいと言っても」
凄い。
『結婚しない』としか言ってないのに、どう聞いたら『リチャードは優しいから素直にサラと結婚したいと言えない』と曲解出来るのかしら。
「私の言葉は通じないのか?」
怒りを堪えながら発したリチャードの言葉を無視して、サラさんは私を憎々しげに睨む。
「可哀想なリチャード。この方と愛のない結婚を一族から強制されていて身動きとれないのね。なんて女かしら。恥知らずな」
「……恥知らずな方に恥知らずと言われるとは思いませんでしたわ」
「まあ!!」
なにがまあ!だか。
「リチャード!こんな女とはさっさと婚約破棄してわたくしと結婚しましょう!」
苦虫を噛み潰したような顔をしたリチャードは
「いい加減にしろ!!
どうして私がおまえのような不良債権と結婚しなければならないんだ!」
と怒鳴った。
不良債権……。不良債権……。
リチャードの言葉にぽんとわたしは手を打った。
だって点と点がやっと繋がったんだもの。
「不良債権?わたくしが?なあぜ?」
首をこてりと傾げてサラさんが問う。
まあ、パッと見可愛くはあるけど。
「35過ぎの女性がやるにはキッツいポーズだわ……」
「なんですって!」
「いや本気でキツい」
「リチャードまで!!」
分かりやすくショックを受けたサラさん(サラ・ダクワーズ子爵夫人36歳2児の母)は、最近の社交界に出回る噂の中心にいる。
勿論悪い意味での。
「ご主人が何度注意してもだいぶ年下の自称幼馴染たちにコナかけまくってらっしゃるって本当だったのね……」
ぽつりと呟いたわたしにリチャードは頷いた。
「彼女の実家の領地は保養地で、夏の避暑地に最適だと私が幼い頃流行っていたんだ。家族と共に訪れていたものが私の年代は多いんだ」
「そうよ!幼い貴方たちを優しく導いた年上の美しい憧れの人だったでしょ?わたくしは!」
リチャードの顔を見るかぎり優しく導いてはなさそうだし、憧れの人でもなさそう。
「自分たちが遊んでると勝手に輪に入ってくるヘンなオバサン、だと思ってたよ」
「お、おばさん!?」
サラさんはわざとらしく椅子に倒れ込み、背もたれに寄りかかると涙を浮かべてリチャードを上目遣いで睨んだ。
「ひどいわひどいわ。いくらわたくしのことが他のこたちよりも好きだからってそんな貶すような言い方!」
「な、ヘンなオバサンだろう?昔からこの調子なんだ」
「ご実家に苦情は入れなかったの?」
「入れたんだが当時の当主夫妻が全く取り合わなくてね」
「困ったおうちなのね」
「本当に。暴力に訴えたくなったよ」
「やめてね」
「やらないよ。君にも家にもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない」
はあ〜と二人揃って溜息を吐く。
この方なにを言っても『リチャードは自分を好き』だと変換するのだもの。
じゃあわたしが暴力に訴えてみようかしら。
「アメリア」
「なに」
「やめてね」
「あら残念」
「警備隊を呼んでもらったからそろそろ到着する頃だよ」
「一番穏便な解決方法ね」
「言っても聞かないのだから公権力に頼るしかないんだ」
まだ暴言を吐き続けるサラさんに呆れながらわたし達は警備隊の到着を待った。
結局。
婚家で子爵夫人としての仕事を全くやらず散財ばかりしていたことを腹に据えかねていたダクワーズ子爵が、人目のあるカフェでわたしやリチャードに対する暴言妄言を繰り返したことと、幼馴染(厳密には違う)の令息たちに既婚者でありながら自分との婚姻を求めたことを理由にサラさんと離縁した。
離縁されたサラさんは、『やっとわたくしが幸せになれる相手に嫁げるわ!』と大喜びだったらしいけど勿論誰も相手にせず苦情を受けた実家の当主である弟さんがいい年してみっともないと激怒して彼女を戒律の厳しい修道院へぶちこんだ、らしい。
もっと早くにぶち込むべきだったとわたしは思うのだけど、リチャード曰く『あのオバサンにとって一番嫌なタイミングでぶち込まれた』のですって。
リチャードたち幼馴染は集まって祝杯をあげたと言うのだから、サラさんが彼らにどう思われていたのかは推して知るべしってところかしら。




