第二十話 喜助と小太刀
(グラグラグラ)
「地震…いや、爆発音だな。鉄腕のヤツ何をやらかしたんだ?」
「案外、僕の助っ人がやったのかもしれないけどね。」
「ほぅ…そんなにお前の助っ人とやらは強いのか?」
「さぁね。そんな気がしただけだよ。」
向かい合う僕と田神は対峙する。
「俺が戦うのも久しぶりになるな…」
「お前が…?てっきり鉄腕みたいなのが他にいると思っていたんだけど。」
「勘違いしてないか?俺はヤツを造ったから従えているのではない…」
田神が構える。
「俺がヤツより強いからだ。」
構えた田神には独特の雰囲気がある。
「行くぞ…!」
ヤツが突っ込んできた。
今、僕は負傷もあってスタミナはない。しかし、鷹野に話した通り“コレ”を当てるチャンスは一度だけだ。
「シッ!」
だからまずは体力をあまり使わない左ジャブで牽制して、相手の様子を見る。
「…もらった」
僕が左ジャブを放った瞬間、田神は僕の手首を素早く掴んだ。
次の瞬間……
(グルン!)
僕の体は一回転して地面に叩きつけられていた。
「が…は…!?」
「どうした?地面に少し倒しただけだぞ?」
田神がニヤリと笑い僕を見下ろす。
「ぐ…うぅ…!!」
僕はなんとか気合いで痛みに耐えて起き上がり距離をとる。あのままの体勢でいたら一方的にやられるだけだ。
でも距離をとっても痛みでその場にうずくまる。
「ぐ…合気道…いや、古武術か…?」
「そんな枠に捕われたモノじゃない。俺はただ“見て”、流れに逆らわず力を流しただけだ。」
「“見て”…?どういうことだ?」
「“脳”の情報処理能力を高め、“神経”の情報伝達速度を高めた。おかげで今はピストルの弾さえ見切ることができる。そして…」
(バァン!!)
「腕には人工筋肉を埋め込んだ。鉄腕ほどではないが、人間を殴り殺すことも容易にできる。」
田神が殴った壁の一部分が粉々になる。
「俺に勝てないことはわかっただろう?お前のいう“小太刀”とやらも俺には当たりはしない。」
(ザッ)
「……とっとと殺されろ。」
それから数分後……
「……まだ立つか」
「喜助くん…」
僕は地面に倒れていた。
僕が何をしようが避けられて地面に叩きつけられる。叩きつけられる度に酷使している体が悲鳴をあげる。
何度倒されただろう…体の痛みは無くなってきて、だんだん目が霞んできた…
「いい加減諦めたらどうだ?」
かろうじて立ち上がるが……言い返そうにも言葉を出す気力もない。
田神が僕の方に歩いてくる。
ヤバい…一歩も動けない…絶体絶命ってヤツだね…
「喜助くん!私のことはもういいから逃げて!!」
アヤコが研究員に取り押さえられながら泣き叫んでる。
「じっとしてれば楽に殺してやる。」
田神が僕の前に立って右手を握る。
「…死ね」
田神の右ストレートが僕の顔に向かってくる。
田神の右拳がスローで見える。
…ああ…冗談抜きでヤバいな…コレもらったら死ぬな…僕の負け…かな…
「喜助くん!!!」
アヤコの声がする…
そうだ…ここで負けられない!!
(スッ)
「…!?」
僕は田神の右拳を避ける、と同時に自分の両足がクロスするように右足を左側へ移動させる。そして両足はその場で、体を思い切り右回転に捻る。
(グルン!)
腕を曲げ肘を尖らせ、裏拳の要領で田神の顔に向けて放つ。
(バキッ!!)
「ぐぁ…あ…」
遠心力を味方につけた僕の肘が、田神の無防備な顎に直撃しエグい音を響かせる。
そう、コレが僕の小太刀…もう一つの切り札“回転肘打ち”だ。
(バン!)
(ドサッ)
田神が吹き飛び壁に叩きつけられ、うつぶせに倒れる。
「た、田神さん!!」
研究員たちが田神の所へ走り寄る。
「もう…限界…か…な…」
(ドサッ)
僕も無理したせいで、とうとう限界がきてその場に倒れ込む。
とりあえず…ギリギリ勝ったかな…
“回転肘打ち”。簡単に説明すれば、相手の前で一回転して振り向き様に肘をブチ当てる…そんな感じに思ってもらって構わない。
……僕は誰に説明してるんだろう?
まぁとにかく…もし田神が見えていたとしてもガードできる体勢じゃなかったし、顔面に直撃した……しばらく立てるワケがない。
「喜助…くん…」
顔を少し上げるとアヤコが僕の前に座っていた。研究員たちが田神の所へ行ったから解放されたようだ。
「私のために…こんなに傷だらけになって……ごめんなさい……」
「…謝ることは…ないよ…悪いのは…アイツらだしね…」
ヤバいな…まともに喋ることも難しくなってきた…
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ…」
うん、ここでヤンデレ発動するのはやめよう。怖いから。メチャメチャ怖いから。
……こんな状態でも自然にツッコミを入れちゃったよ。意外とダメージ少ないのかな?
「き、貴様ぁ!!」
研究員の一人が田神が起きないのを知ると、こちらに目を向けた。
「逃げ…て…この…ままじゃ…捕まる…」
「私一人でなんて逃げられない!喜助くんも一緒に!!」
「いい…から…一人で…逃げて…」
「ヤダ!!」
クソ!このままじゃ…!!
研究員たちが僕たちの所にやってくる、まさにその時…
(ドォォォン!!)
「ワハハハハ!悪い子はいねーがぁー!!」
壁を破壊し、意味のわからないことを叫びながら入ってきたのは一人の女性。見た目からすると…僕らと同世代だろうか?
「み、美雪…そんな乱暴にしたら…」
「いいなぁ、この人!気が合いそうだ!!」
「それよりも本当にここであってるのかい?」
「間違いないはずだ…ほら、あそこにいるだろう?」
その後ろから数人が入ってくる。順番に守屋先輩、サヤ、ミツキ、鷹野だった。
鷹野だけはボロボロで所々服が焦げてるけど……何があったんだ?
「み…みん…な…なん…で…」
「おーおー、かなりボロボロじゃねぇか!さて…ユイ、どうする?」
「……………才原くんに何しとんじゃコラァァァァァァァァァァァ!!」
謎の女性によって守屋先輩、戦闘モード!!
「ヒィィ!!」
研究員たちはビビる。何人かは腰を抜かしている。
「オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「ワハハハハハ!イッツ、ショータイム!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
研究員たちの断末魔が聞こえる…いつかのPCゲームを思い出した。あれはゲームだけど…今、目の前であのゲームと同じような光景が広がっています。
「ハハハ…凄い…な…」
あとは任せても大丈夫そうだ…ホッとしたら…眠気が…
「お、おい!喜助ぇ!!」
「しっかりするんだ!!」
サヤとミツキの声が聞こえるけど…
「テメェか!テメェが才原くんやったのか!?なんとか言えやコラァァァァァァァァ!!!」
「ワハハハハ!!私は天下無双だぁ!!!」
凄い声も聞こえるけど……今は寝させてもらおう……
僕はそこで意識を失った……
今更ですが…気付いたらなんかバトル展開になってました(苦笑)
まぁそれも今回で終わりです!
次は完全にコメディーっぽくなりますんで(笑)