第十九話 秀才と決死の覚悟
「さて…見栄は張ったがどうするか…」
俺はあれから才原とは別方向へと鉄腕を誘い込み、今現在はヤツから隠れているところだ。
あ、今回は俺こと、鷹野権之助の視点で話は進むからよろしく頼む。
(バガァァァン!)
「…見つかったか」
鉄腕が壁を破壊し現れた。
「…三十六計逃げるに如かず」
俺はとりあえず逃げる…が、当然鉄腕は追っかけてくる。
実は今のところ作戦はない。この研究所に使えそうな物があれば話は別だが…
(ブォン!)
「くっ…」
まさに間一髪、俺は鉄腕の右フックを転がって避けた。
「(とりあえず、また距離をとらなければ…)」
体勢を整え、鉄腕と距離をとるため再び逃げる。
こういう感じで、逃げる→見つかる→攻撃を避ける→逃げる→…が無限ループしている。
幸いヤツは攻撃速度は速いが、足はそれほど速くないようだ。今のところコレでやっていけている。
「どうにか振り切ったようだな…」
背後から追い掛けてくる気配はない。逃走成功だ。
「(だが…どうする?ヤツには銃は効かないし、手榴弾でもそれほどダメージは与えられなかった。)」
ここで今更だが俺の持っている武器を紹介しよう。
ハンドガン1丁、手榴弾2つ、ハンドガンの弾が10発…以上だ。
これらの武器は家の武器庫から仕入れたものだ。コレだけあれば足りると思ったが……“ヤツ”相手では難しそうだ。
「(考えろ…考えるんだ。ヤツに普通に武器を使っても勝ち目はない。この研究所にあるもので応用するしかない。武器も手持ちはハンドガンと手榴弾が2つ…その中で最も威力があるのは手榴弾だ。しかしヤツに対しては威力に欠けてしまう。どうにかして爆発力を上げられたら……)」
見つからないように歩いていると、俺はとある部屋を見つけた。
「……!!」
俺はその部屋の扉を開け、中に入る。暗く狭い部屋だ。だがその部屋の中に俺が思っているものがあった。
「これだ…!」
(バァン!)
「こっちだ、デカブツ。」
俺は自分から鉄腕を探しだし、見つけると同時にヤツにむけて発砲した。
するとヤツも気付いたようでこちらに向かってくる。
「(そうだ…こっちに来い。)」
俺はわざと鉄腕が見失わないような、かといって捕まらないような距離を保ちながらヤツをさっきの部屋に誘い込む。
「(よし、部屋に入ったな。さて……ここからが正念場だ。)」
室内にいるのは俺とヤツの二人だけ。
「俺を殺したいんだろう?……やれるものならやってみろ」
わざと挑発して、ヤツを暴れさせる。
(バフン!!)
俺がヤツの攻撃を避けると、俺の後ろにあった袋から白い煙が上がる。
「こっちだ。」
俺はまた別のところに逃げ、挑発する。
(バフン!)
さっきと同様にヤツが殴ったところから白い煙が上がる。
「今度はこっちだ。」
(バフン!)
「こっちにいるぞ。」
(バフン!)
「さっきから一発も当たってないが?」
(バフン!)
殴らせては避け、殴らせては避けの繰り返し。
言うのは簡単だが、ヤツの攻撃速度はかなり速い。避けるのにもかなり神経を使う。
「……そろそろか。」
白い煙が部屋中に広がってきた。
下準備は整った。俺はヤツの攻撃をさっきまでと同様に避けた。
だが……
「全く当たってな…」
俺が移動した先に、鉄腕の拳があった…。
(バキバキバキ!)
「がっ…」
(バン!)
ヤツの攻撃が直撃し、俺は数メートル程ぶっ飛ばされて壁に叩きつけられた。
「ぐっ…出口は…」
幸い出口方向にふき飛ばされたみたいだ。本来なら作戦に支障はない。だが…
「(肋骨は少なくとも2~3本は“イッた”な……壁に叩き付けられたときに足の方もやったみたいだ……)」
ダメージは大きく、とてもすぐには歩けそうにない。
「(俺が部屋に出て“あれ”をやるか、それともヤツがここまで来て俺にとどめをさすか、どちらが早いか……五分五分だな。)」
だがヤツはここで“必ず”食い止めなければならない。だから…作戦を実行する。
「デカブツ…俺の勝ちだ…いや、痛み分けってところか…」
俺は手榴弾のピンを2つ同時に引き抜く。
「“粉塵爆発”って知ってるか?知らなかったら教えてやる。」
部屋中に漂う白い煙……正体は可燃性の粉状の薬品だ。
「空間内において可燃性の粉塵が空気中に漂い、そしてそれがある程度の割合を超えて着火したとき…粉塵の燃焼が空気中で一気に広がり爆発が起こる。」
俺は手榴弾をヤツに向かって投げた。
「まさにこの空間で起こることだ。覚えておくといい……」
手榴弾は爆発する。その際に出る火がこの空間に爆発を引き起こす……作戦成功だ……
(バァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!)
“薬品貯蔵庫”と書かれた部屋は大きな爆発音をあげて、吹き飛んだ……