第十八話 敗北とリベンジ
「篠原彩子から手を引いてくれないか?」
「…どういうことだよ?」
「彼女は俺達の研究に必要な人材なんだ。そしてそれは全ての人類に救いをもたらす。……世界のため、人類のために、彼女を探すのはやめてくれないか?」
『おい、喜助!誰と話しているんだ!?』
「………サヤ、悪いけど電話切るよ。」
『えっ、ちょっと……』
(ピッ)
「………一つ聞きたい。アヤコはそれで納得しているのか?」
「納得?そんなもの関係ないだろう。研究に心なんていらないんだよ。」
「………」
「まぁ彼女も最初は嫌がっていたさ。しかし少し薬を与えてやればすぐに言うことになった。これも我らの研究の成果だよ。」
「………よーくわかった。」
「わかってくれたか。理解が早くて助かるよ。」
「よくわかったよ…僕の…やるべきことが…」
「そうだ。君のやるべきことはすぐにここから立ち去ること…」
「僕のやるべきこと…それはアヤコを連れて帰ることだ!!そのために…アヤコの場所を吐いてもらう!!」
(ダッ)
「……“鉄腕”、出てこい。」
(スッ)
(ガキィン)
「(…金属音!?)」
僕がミドルキックを蹴ろうとすると、その後ろから二メートル以上ある大男が現れ、腕でガードされた。そしてその腕は鉄で出来ていた。
「彼は第二次人体改造計画実験体三号、通称“鉄腕”だ。君がただ者ではないことは調べてある。君の攻撃パターンもね。さぁ…やれ、鉄腕。」
すると鉄腕と呼ばれたその男は僕に向かって拳を振り上げ…
「危なっ!!」
(ドォォォォン)
とっさに避けたが、僕が居た場所のコンクリートの道路は粉々に砕けていた。
「(パワーの差は明か…だったら一発で決めるしかない!!)」
(ダッ)
「シッ!!」
僕はジャンプしてヤツの首に右ハイキックを当てようとした。
(ガシッ)
「なっ…!?掴まれ…」
しかし僕は右足を掴まれ…
(バキバキバキッ)
「あああああああああああ!?」
…握り潰された。
「言っただろう、君の攻撃パターンは調べてあると。君は足技主体で戦う…つまり足さえ潰してしまえば、雑魚同然だ。」
「く、クソッ…」
「この場は生かしておいてやる。これに懲りたら手を引け。まだ邪魔するようなら…次は殺すぞ。」
「ま、待て…」
ヤバい…痛みで…目が…霞んで…
「行くぞ、鉄腕。」
「待…て…」
そこで僕の意識は途絶えた。
暗い…何も…見えない…どこを見ても…闇…闇…闇…
あれ…さっきまで…僕…戦って…どうなったんだっけ…
『負けたのさ』
何だ…
『あんなヤツ、オレなら瞬殺だぁ…』
お前…誰だ…どこに…いる…?
『ヒャハハハハハ!オレが誰かわからねぇってか!!』
お前…いったい…
『こいつぁおもしれぇ!何もわかってねぇのか!!』
何を…言っている…
『さぁな。自分で考えな!……今日テメェと話が出来たしツイてるかもなぁ!!』
待て…お前…
『せいぜい死なねぇようにな!ヒャハハハハハ!!』
待…て…
「はっ!」
「…起きたか。夢でも見たか?まぁその様子からして内容は良くなさそうだが。」
「鷹野?ここは…?」
「病院だ。お前ついこの前もこの病院に世話になったらしいな。病院好きなのか?」
「病院………アヤコ!!」
(ガタッ)
「ぐっ…」
「無理はするな。右足は粉砕骨折のようだ。しばらくは歩けないだろう。」
「………みんなは?」
「……そこで寝てる。」
鷹野が指差した所を見ると、サヤとミツキ、守屋先輩がソファの上で仲良く寄り添って寝ていた。しかし…
「アヤコは…捕まったままか。」
「…ああ。警察には言ったが…ヤツが今いる研究所のバックには国が絡んでいるらしくてな…全く取り合ってくれなかった。」
“ヤツ”…田神のことか…
「……なら、助けるしかないか」
僕は近くに置いてあった松葉杖を掴んで立ち上がった。
「ぐっ…」
やっぱり激痛が走る…
「おとなしくしてないと、一生まともに歩けなくなる可能性もあるぞ。」
「………そんなの知ったことじゃないよ。アヤコの…薬で無理矢理言うこときかされてる辛さに比べたら、こんなの屁でもない。」
「……コイツらは心配するぞ。」
そういって鷹野はソファで寝ているサヤたちを指差した。
「それは………ホントに申し訳なく思うよ。でも…アヤコは大切な友達だ。そのためなら僕は……命だってはってみせる…!」
「……そのケガで一人で勝てると思っているのか?」
「わからない…でも…僕は…」
「……二人なら勝てる。」
「………え?」
「向こうのデータは揃えた。俺が援護する。」
「なんでだ…?」
「夢があるじゃないか。それだけで俺が手伝う理由は十分だ。それに俺だってこの事実を知って放っておくのはあまりいい気分ではない。」
「……いいのか?」
「そのかわり……お前のその篠原を救うという夢、必ず叶えて見せろ。それが条件だ。……あと、レールガンの時の借りもチャラだ。」
「……一つ聞いていい?」
「……なんだ?」
「お前って…頭は良いけど、馬鹿なんだろ?」
「失礼なヤツだな……俺は夢を叶えるところを見たいだけだ。馬鹿じゃない。」
「それを馬鹿というんじゃないか?」
「…そうかもな。」
「………………プッ、ハハハハハ!!」
思わず僕は声をあげて笑った。鷹野は無表情だったが…少し笑っているようにも見えた。
「さて、女子が起きては面倒だ。今のうちに…」
「…行こうか!」
僕は病院服を着替え、鷹野と病院を抜け出した。
「場所はここから車で二時間ってところだな。」
「結構遠いんだね…」
「かなり人里離れた場所のようだ…周囲に民家などの建物はないな。」
「まぁ、あんなの造ってたらね…」
“鉄腕”と呼ばれた男…あんなのが街中にいればそれだけで大騒ぎだ。
「移動はどうする?バスを使う?」
「その場所にはバスは通ってない。もちろん電車もない。」
「じゃあ、どうやって…」
「……………来たか」
「え?」
僕がそう言うのとほぼ同時に…
(キキィィィィィ)
…猛スピードで車が僕らの前に止まった。
(バタッ)
「遅れてすいやせん!若ぁ!」
…なんということでしょう。黒いスーツを身に纏った数人の男たちが、車から下りて僕らに頭を下げているではありませんか(ビ●ォーア●ター風に)。
「………何これ?」
「俺の親父はヤクザの頭でな。コイツらは構成員ってヤツだ。」
「さぁ!若もそのお友達もお乗りください!!」
「早く乗れ。急ぐぞ。」
「まさか僕が前に協力したのって……ヤクザ間の抗争?」
もしそうなら…僕は今後ヤクザに追われる可能性が十分にある。
「……急ぐぞ。」
「おい!目をそらすなよ!!」
こんな時だが、泣きたくなってきた……
「……その体で戦えるのか?」
「え?」
移動中、唐突に鷹野が聞いてきた。
「お前が強いのは知っている。だが…お前は足技主体の戦闘スタイルだろう?折れた足をギプスで固めても、その足では満足に戦えないんじゃないのか?」
そう。田神や鷹野がいうように、僕の戦闘スタイルは足技主体…足を潰されてる今では蹴りは満足に打てないだろう。でも…
「…何をいまさら。僕にも勝機はあるよ。」
足技が“主体”なだけであって、全く他が使えないというわけではない。
「足は潰されても…“首斬り”包丁は、まだもう一本ある。」
この“もう一本”が…勝負を決める。
僕はそう確信していた…。
おそらくこれが2010年最後の更新です!
読んでくださってる皆様!今年一年お世話になりました!!
それと…中途半端になって、すみません…
来年もぜひ、よろしくお願いします!!!