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 ドアの向こうから閃光と爆炎が吹き上がり、衝撃波で窓ガラスが全て吹き飛ぶ。

 廊下の天井ボードが何枚もはがれ落下し床に飛び散り、剥き出しになった屋根裏を黒煙が見る見るうちに覆う。


「竜児さん!リュドミラさん!」


 実紅の指示通り床に伏せて爆発をしのいだ江間が、ボードの破片塗れに成りながらなんとか立ち上がり部屋に入る。

 内装は全て粉々に粉砕され、外壁や隣室を仕切るコンクリート壁が剥き出しに、天井もボードは全て剥がれ、アルミ製の梁が垂れさがっている。

 その梁に、かって山田だった肉片や内臓が引っ掛かり血を床に目掛け滴らせている。

 部屋の隅に、大きな黒い塊が置かれていた。

 煤にまみれたプレートキャリヤの背面には『広域捜査総局 機動特捜隊』のロゴ。

 こちらに背を向け座り込む実紅とリュドミラだった。

 鎧われていない後頭部や腕、尻のあたりは、衣服が燃え落ち血と破片にくまなく覆われ、焼けただれている。


 爆音と振動に慌てて七階まで駆け上がって来た御堂と部下たちは、まず廊下に響く江間の悲鳴と号泣を聞き、すっかり破壊された室内に飛び込むと動かなくなった実紅とリュドミラを前に跪いて泣き叫ぶ江間自身の姿を見た。

 彼女にそっと近づく御堂。

 振り向いた江間は。


「御堂警視、た、竜児さん、と、リュドミラさんが、子供たちを庇って・・・・・・」


 と、煤と涙と鼻水で汚れ切った顔を向ける。

 しかし、御堂はなぜか微笑んでいた。そして。


「あの二人やったら大丈夫やよ」

「え?」


 江間の背後で声が上がる。


「あっ熱っう。あのペド豚野郎、マジで自爆しやがった!」


 振り返るとリュドミラがふらりと立ち上がる。


「あーあー。あ、アカン、右耳、鼓膜破れてるわぁ」


 既に立ち上がっていた実紅は、右耳を叩きながら音が聞こえないことを確認していた。

 その後ろには煤で汚れてはいるもののほとんど無傷の少女二人が、自分たちを助けた二人を茫然と見つめている。

 あっけに取られ二人を眺める江間にリュドミラは。


「おいおいマイ・スィート・ハニー。ゾンビを見る様な目で見んなよ」


 と、二の腕に突き刺さった破片を引き抜きつつ言う。その跡の傷は見る見るうちに塞がってゆく。


「ごめんね、江間警備士長、説明する暇なかったから、驚かせてもうたわ」


 やっと、何が何だか理解し始めた江間はおずおずと言う。


「・・・・・・。お二人とも『求血族』だったんですね」

 

 かつて、恐怖と侮蔑を込め『吸血鬼』と呼ばれ、今では人権に配慮され『求血族』と呼ばれる人々。

 生物学的学名はHomo sapiens occultatum(ホモ・サピエンス・オクルタートゥム隠された人類。

 生れながらにしてある種の酵素が自身の体内で生成できない為、細胞の活動が制御できず、他者の血を飲まない限り半日で発症し数日で凄惨な死を迎えるという病を背負った種族。

 しかし、生き血さえ得られれば驚異的な再生力と免疫力を持ち、数百年も生きる不老不死の人々。

 コーカサス山脈の奥地から発し、迫害を逃れ数世紀掛けて世界に拡散した流浪の民。

 そんな種族の末裔が、実紅でありリュドミラだ。


 ガザ入れが続く中、一応大けがを負った実紅とリュドミラは社屋から出され、救急車の中で救急隊員から応急手当を受けていた。

 提供された輸血パックを加えながら、火傷で捲れた腕の皮膚を摘まみリュドミラは。


「あーあ、一昨日入れたとこだったんですよこのタツゥー。給料前だっつうのに、火傷よりこっちの方が痛いですよ」

「お金やったら、貸さへんよ」


 と、言われる前にそう宣言し、実紅も輸血パックの中身を啜る。


「二人とも、凄まじい恰好やなぁ、普通の人間やったらホンマ文字通り『危篤隊』やったところやで」

 

 と救急車の中を覗き込み御堂。


「すみません、警視。山田のガラ(身柄)確保できませんでした」


 と頭を下げる実紅だったが「あ痛たたた」と顔をしかませる。急速に再生しつつあるうなじの皮膚が引き攣った様だ。


「自分らにはゴメンやけど、ホンマに残念やわ。バックに誰が居るんか何が何でも歌わせたかったけど・・・・・・。まぁ、子供らを救出出来たからよしとしとこか」


 と自分の背後を振り返る。


 その視線の先には毛布やエマージェンシーブランケットで身を包み、救急車に乗り込んでゆく少女たちの列。中には車椅子やストレッチャーに乗る子も居る。


「山田以外の連中は?やっぱり闇バイト経由?」


 いい音を立て輸血パックを空にしたリュドミラが問う。


「正解、あそこに居ったんはただ子供らの世話をさせるために集めて来た人間で、商売は全部山田一人でやってたみたいやわ、端末とかは押収したけど、肝心のデータは外部のクラウドの中で、今頃金主が消去してる思う」


 と、御堂は肩をすくめる。


「じゃぁ、ガサの様子見てくるわ」と立ち去った御堂の代わりに、今度は江間が二人の前に立っていた。

 まだ髪の毛にボードの破片を載せたままで、表情は硬く硬く引き締まっている。


「あの、お二人にお願いがあります。私に射撃の指導をして下さい。お二人みたいに他の人の身を守りたいんです!」


 そして深々と頭を下げる。ボードの破片が幾つか落ちた。


「ええよ、その代り、私ら厳しいで」

「結構です、しごいてください」


 微笑みながら言う実紅に江間は空かさず答える。


「じゃぁ、まずレッスン料として、血、吸わせろよ。あんた美味そうだ」


 舌なめずりするリュドミラの後頭部を、かなり強めに実紅はしばく。

 軽快ないい音がした。 

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