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山田にはすでに人身売買罪での前科が有った。
『四連動大震災』で発生した震災孤児の養子縁組を行うNPOを装い、五歳から十四歳までの六十人以上の少女をチャイルド・マレスターに売り着け、自身も三人の少女を『所有』していたことが発覚し、摘発されたのは彼が四十歳の時。
十年の拘禁刑を言い渡され、二〇四十年に出所してすぐに何者からの資金提供を受け、今度は難民の少女を主な『商品』としたこの『Maison、Da、Bourgon』を立ち上げた。
近畿広域捜査局は一年前、山田の顧客の元から脱出に成功した少女の証言をもとに入管と合同で内偵捜査を開始、着実に証拠を積み重ね、江間が言うようについにこの時を迎えたのだ。
エレベーターは使わずに階段で七階を目指す。
各階ではすでに捜索が始まり『入管やぁ!』『広捜やぁ!ドア開けんかい!』の怒号や中国語やロシア語の喚き声、それに少女たちの悲鳴が階段室まで漏れだしてきている。
「江間警備士長、射撃の訓練はどれくらいのペースで?」
と、階段を駆け上がりつつ実紅。
「月に一度、府警さんの射撃場で」
そう答える江間。流石普段から鍛えている様で息は上がっていない。
「人間撃ったことは?」
とリュドミラ。やや間が有って。
「・・・・・・。ありません」
「相手が銃をこちらに向けていたらともかく撃つ。警告は無し、腕とかは狙おうと思わん事、お腹とか胸を狙って最低でも二発は撃ち込む」
実紅がそう告げると「ハイ!」との江間の返答。
目的の七階に到達する。
階段室から廊下に向かうドアは開け放たれており、その先に人影は無かった。
実紅が廊下に躍り出る。
通りに面した窓の反対側に並ぶドアは五つ。まず最初に階段に近いドアのノブを回すが動かない。施錠されている。
「ショットガン?」
とリュドミラ。
「あかん、中に子供が居るかも」
と、腰に下げたレスキュー用の斧のバール部分を鍵に近いドアと枠の間にねじり込み、力を加える。
ラッチボルトが破壊されドアが開き、リュドミラがバレルに付けたフラッシュライトを点灯させたHOWA7.62を構え飛び込み、実紅と江間が続く。
真っ暗な室内には六対の青や緑の瞳。強力なライトの明かりに一斉に顰められる。
「入管です!大丈夫、助けに来ました!」
呼びかけつつ手にしたライトで江間は人影を照らす。
金髪や銀髪、赤毛の少女たち。年頃は十歳前後か満たなさそうな子もいる。
衣装は全員黒いスリップに同色のオーバーニーストッキング。お互いに抱き合い寒さと恐怖に震えていた。
「『商品』か」
リュドミラが吐き捨てるように言いつつ、毛布を剥ぎ、ベッドの下を覗き込み、室内を検索する。
調度品はベッド、サイドテーブルが六つ。それだけ。
リュドミラの『クリア!』との宣言を聞き、何も無い事を確認すると銃口を少女たちに向けたまま実紅はロシア語で。
「警察よ、この中で何か飲み込まさせられたり、大事な穴やお尻の穴に何かを入れられたりしてる子は居ない?」
みな一様に首を横に振る。
「OK、じゃ今度はこっちに一人づつ来て、体を調べさせて」
ボディーチェック役は江間が引き受ける。大体、肌が透けるようなスリップ一枚だけだから目視だけで用は済む。
「終わった子からこの部屋を出て、階段で下に降りなさい。お巡りさんたちが助けてくれるから」
言われると一目散にドアを飛び出し階段を駆け下りてゆく。
最期の一人の後ろ姿を江間は見つめながら。
「・・・・・・。皆、暴行された跡が、ありました」
「ペド野郎、キンタマ吹っ飛ばしてやろうか」
リュドミラがそう呟く。
実紅は体を怒りに強張らせる江間の肩を優しく叩くと。
「隣の部屋にかかろか」




