1
大阪市港区九条。
『四連動大震災』前は松島新地と呼ばれた地域で、木造二階建ての古風な造りの『料亭』を名乗る風俗店が軒を連ねていたが、震度六強の激震と液状化、そして押し寄せた津波で壊滅し、権利上の問題や復興に対する優先順位の低さにより、しばらくの間は瓦礫の山と化していた。
近年、復興が為されていない地域に対し、海外や民間の資本を投入し復興を促進させる政策『プロジェクト・ダイダラ』の対象と成り、港湾施設が近い事から物流や海外からの人材を派遣する企業の拠点が置かれ始め、徐々に街としての体裁を取り戻し始めていた。
そんな、街の一角、七階建てPC造の真新しいビルの周囲を、自動小銃やショットガンを構え、頭にはフェイスガード付のヘルメットを載せ、胴体をプレートキャリで鎧われた三十人以上もの捜査員が取り囲んでいた。
シャッターが下ろされた正面玄関の前では、エンジンカッターを構えた捜査員を従え『ISA』のロゴ入りのレイドジャケットを着た女性が、インターフォンに向かい甲高い声で叫んでいる。
「大阪入管です!イミグレーション!入国管理法違反と難民認定法違反の容疑で逮捕状と捜索差押許可状が出ています!今すぐここを開けなさい!」
明らかにサイズの合わないヘルメットの下にはシルバーフレームの眼鏡。その奥には、普段は大人しげなのだが、今は緊張に表情をこわばらせた顔。
渾身の力を込めシャッターを叩き。
「大阪入管です!開けなさい!今すぐ開けないと、シャッターを切りますよ!」
今まで何度もガサ入れを経験し、合気道の有段者なのだが流石に今日は勝手が違うと見えた。
その彼女数人挟んだ後ろで、近畿広域捜査局刑事部機動特捜隊のリュドミラ・ジラトンスカヤ巡査長は、シャッターを叩き続ける女性入国警備官のヘルメットの下で揺れるポニーテールをなぜかにやにやしながら眺め。
「可愛いですね、あの眼鏡っ子。ねぇ分隊長、ガサ終わったら二人で襲っちゃいましょうか?」
分隊長と役職で呼ばれた竜児実紅巡査部長は、半ば本気でリュドミラのアナル目掛け膝頭を叩き込み、愛用の得物であるHOWA7.62自動小銃を抱えて悶絶する彼女を睨み。
「アホ!自分の方先に不同意性交でパクるで」
と、これも自分の愛銃であるベネリM3ショットガンを肩に担う。
金髪碧眼、前腕には和彫りの龍がのたくる元難民のロシア系女性捜査官と、その上司である濃い栗色の髪を持つ女性捜査官のドツキ漫才を横目にしつつ、プレートキャリアの上に『広域捜査総局』とプリントされたレイドジャケットを羽織った女性捜査官が歩み出る。
広域捜査局生活安全部保安課の御堂栞奈警視。
長身で痩躯、格闘になった際に容易に髪を掴まれない様、後頭部で団子型にまとめた黒髪、アイウエア型モニターの向こうには若干三白眼気味な二重の目、黒い瞳で一同を見渡し、軽くリップが塗られただけの薄い唇を開く。
「江間警備士長!代わるわ!」
そして、彼女の肩を叩き後ろに下がらせると。
「広捜やぁ!とっととシャッター上げんかい!ネタは上がっとるんやぁ!ジタバタすなぁ!アホンダラ!」
と、タクティカルブーツで思い切りシャッターを蹴り上げる。
しばらくすると、モーター音が鳴り響きシャッターが上がり始めた。
半分上がり切る前に御堂警視がサブマシンガンAPC9を構えつつ中に潜り込み、その後に部下が続き江間警備士長もホルスターからグロック19を抜きつつ、慌ててシャッターを潜る。
「やっぱ迫力がちがうわぁ」
と、薬室にショットシェルを送り込みつつ竜児。
「へへっ、やっぱり大阪のLE(ロー・エンフォーサー・法執行官・警察官)は格が違いますね」
そう同じくHOWA7.62の薬室に初弾を装填しつつリュドミラは返す。
シャッターを潜るとすでに開け放たれたガラス戸。
正面には『Maison、Da、Bourgon』との企業ロゴのステンシルと『タレント・モデル・人材派遣』との業態を表示したステンシル。
正面ロビーにはなぜか黒いジャージ姿の男女二人づつ。人種もは日本人か中国人、ロシア人とバラバラ。
「頭を手の後ろに!ゆっくり腹ばいに成れぇ!」
APC9で四人を狙いつつ御堂が吠える。
四人は大人しく従い、床に仰臥する。
江間はまず日本人らしき男の前にしゃがみ込み逮捕状を突きつけつつ。
「社長の山田紀夫さんは?彼に裁判所から逮捕状出ています。ここにいますか?」
捜査員からのボディーチェックを受けながら、男はただ首を横に振るだけで何も言わない。
「そんなはず無いでしょ?私たち入管と広域捜査局は、半年間、二十四時間ここを監視し、電話や携帯、ネットのやり取りも傍受していたんですよ。今、ここにいるのは解っています。どこにいますか!?」
四人とも沈黙したまま。
「らちアカンな、ガサ状は出てるんや。勝手に調べさせてもらうで」
と、御堂は自分の部下や入管職員に捜索するフロアーをてきぱき割り当てる。
「江間さんは七階をお願い、たぶん山田はそこの自分の部屋に居ると思う。機特の二人は彼女の援護頼むわ、あいつ、銃刀法違反のマエがあるから」
実紅は簡潔に「了解しました」と答えリュドミラは。
「ショートケーキの苺を貰えるんですね、Спасибо」
「ついにこの時が来ましたね」
と、江間は御堂を見つめ言う。
「ええ、あのクソ野郎の両手にワッパはめる時がね、今度こそペドフィリア人生に終止符をぶち込んだるわ」




