第8話:メタスラを狩れ!!!
「マジか……!」
私は右手で口を押さえ、後退りしながら呟いた。
まさか、こんなところでメタリックスライムに遭遇するなんて……!
メタリックスライム、通称メタスラはDランクのモンスターだ。その名の通り、メタリックなボディのスライムである。
メタスラはMSOの世界では非常に有名なモンスターだ。何故なら……経験値が美味しいから!!
メタスラを1体倒すと、なんと9000EXPもの経験値が手に入るのだ。
私とリスト、アラーテの3人で分配したとしても1人辺り3000EXPがもらえる計算になる。
前回のバトルでCランクモンスターのシルバータイガーを倒した際、獲得した経験値が230EXPだったことを考えると、いかにメタスラ狩りで得られる経験値が大きいか分かるだろう。
「ふう……だいたい型はマスター出来たんやない? なあアラーテ! 次は……」
「わああ! 静かにしてよっ!」
相も変わらず声が大きいコヤに私は猛ダッシュで駆け寄り、慌ててコヤの口を塞いだ。
勢い余ってほぼ抱きつくようになってしまったが、メタスラに逃げられないための処置ゆえに致し方ない。
「も……もごご……」
「メタスラがいるのに大声出しちゃ駄目だよ、逃げられちゃうじゃん! ……あ、そっか、コヤはMSO初心者だからその辺の事情が分かってないのか。ごめんコヤ、説明不足だったね」
「もごもご……」
「事情はちゃんと説明するから、取り敢えず静かにしてもらってもいいかな?」
コヤはぶんぶんと何度も首を縦に振った。私はコヤの口から手を離し、さらにゆっくりと体を離した。
あれ、なんかコヤの顔が赤いように見えるのは気のせい?
「……きゅ、急にどないしてん? 大胆すぎへん? いや、気持ちは嬉しいし大歓迎やけど、もう少しタイミングを考えてほしいっちゅうか、その……」
コヤは視線を逸らし、体をもじもじさせながらぶつぶつと呟いている。
ん? なんかさっきと様子違くない?
「2人とも、どうしたの?」
少し離れた場所にいたリストが声をかけてきた。
私が素早く唇に人差し指を当てると、リストは状況を察したようで、音を立てないようにそろりそろりと近づいてきた。
「メタスラ?」
「うん。奥に1体」
私がそう返した瞬間、リストの青い瞳がきらりと輝いたように見えた。
「本来このフィールドにメタスラは出現しないはずなんだけど……これも、謎の男が言ってた『データの書き換え』ってやつかな? いずれにしろ好都合だね」
「うん。ここで絶対にメタスラを狩ろう」
「ちょっと、さっきから何なん? ウチにもちゃんと事情を説明してほしいんやけど」
コヤが不機嫌そうに言った。先程より色は薄いものの、頬はまだ薄赤く染まっている。
「ごめんね、コヤ。今から説明するよ。近くにメタスラがいるから、なんとか倒したいね、ってアラーテと話をしてたんだよ」
「めたすら? 何なんそれ?」
「正式名称はメタリックスライム。倒すと沢山経験値がもらえるDランクモンスターだよ。僕たちはなるべく早く強くなる必要がある、って話をさっきしたでしょ? ここでメタスラを倒せれば、早く強くなることに直結するんだよ」
このフィールドに向かう途中、3人で軽く作戦会議をしていた。
共通認識として固まったのは、『絶対に死なないように細心の注意を払いながら、なるべく早く強くなって、1日でも早くゲームをクリアしてこの世界から脱出すること』だった。
少し前に、いつの間にかメッセージボックスに謎の男からのメッセージが届いていた。
曰く『各国の政府は非常事態宣言を発令した。それにより、政府主導の元、現在ログインしている全てのMSOプレイヤーの体は細心の医療態勢の元24時間体制で管理されることになった。生命は問題なく維持されているため、安心してもう1つの人生を謳歌してほしい』という内容だった。
謎の男の話を安易に信じてはいけないと思いつつ、一旦それを事実として仮定すると、リアルの体が栄養失調ですぐに息絶える、という最悪の結末は免れることになる。
一瞬喜びかけた私だが、冷静になると、喜んでる場合じゃないことに気付いた。
生命は維持されている、とは言いつつも、私を含め現在MSOに囚われている全ての人間が一種の昏睡状態に陥っているのは紛れもない事実だ。
そんな状態がずっと続くとして、体に良いわけがない。臓器や神経系に少しずつ昏睡状態の皺寄せがいくはずだ。いつかは限界が来て、命の灯が消えてしまうことは往々にしてあるだろう。
リミットは1年? 2年? それとも3年? ……分からない。しかし、うかうかしていられないのは確かだ。
故に、1日でも早くゲームをクリアしてこの世界から脱出しよう、と3人で決めたのだった。
「ああなるほど。ぎょうさん経験値がもらえれば、それだけレベルも早く上がるもんなぁ。ほなら早速倒しに行こうや!」
「待って待って! まだ話は終わってないよ!」
勇み足で歩き出したコヤをリストは慌てて引き留めた。
「どないしたん? メタスラを倒すんやろ?」
「勿論。ただ、重要な情報を頭に入れておく必要がある。メタスラを倒すのはすごく難しいんだよ。逃げ足が早いからね」
「逃げ足が早い?」
「うん。攻撃されてる、危険が迫ってる、と思ったらメタスラはすぐに逃げちゃうんだよ。そのせいで倒しきれないことがとても多い。だから、闇雲に突っ込むんじゃなくてしっかり作戦を立てないといけないんだよ」
「なるほど……つまり、戦わんと逃げる腰抜けってことやな? 意気地なしやなぁ」
リストの説明を聞いたコヤは呆れた口調で言った。
「そういうモンスターだからしょうがないよ」
「分かった。ならどうすればええん?」
「ノーマルストーンを使う。アイテムボックスを見てみて。デフォルトで2つ支給されてると思うから」
コヤはウィンドウを操作してアイテムボックスを確認し、「お、これか」と言った。
「ただの石ころやん。こんなんでメタスラを倒せるん? 説明欄には、モンスターに極小のダメージを与えるって書いてあるけど」
「メタスラを倒す上では、ダメージの量よりも攻撃回数が何よりも重要なんだよ。詳しい説明は省くけど、仕様上メタスラに攻撃を4回当てれば倒せる。そしてZを見ている限り、この仕様はデータリセット後も変わってない」
「なるほど。回数さえ稼げればいいから、遠くから投げられる石ころが重要ってわけやな」
「そういうこと。じゃあ僕が今考えた作戦を共有するよ。僕、アラーテ、コヤが3方向からメタスラに迫り、同時にノーマルストーンを投げて奇襲する。全部当たれば攻撃が3回当たることになるよね」
「せやな」
コヤは大きく頷きを返した。
「攻撃を察知したメタスラは100%逃げようとする。でも逃すわけにはいかない。通せんぼして、3人の内誰かが意地でも最後の一撃を当てて倒す。これでどうかな」
「うーん……ストーンを投げるまではええけど、最後がちょっと不安やあれへん? ほんまにあと一撃入れられるん?」
「そこは気合いだよ。この作戦で大丈夫?」
「まあええで。他にいい作戦は無さそうやし」
「ありがとう。アラーテは大丈夫?」
私は頷きを返した。そして、ウィンドウを操作してノーマルストーンを発現させた。
その後段取りを確認した後、私たちは3方向からそろそろとメタスラに忍び寄った。
話してる途中にメタスラが逃げたらどうしよう、と心配していたが、メタスラは絶賛リラックスモードらしく、草むらの上でぼーっとしているように見えた。
チャンスだ。私は音を立てないように、一歩、また一歩と距離を詰める。
その時。メタスラが突然ぴくっと体を震わせた後、よたよたと移動を始めた。
まずい! このままだと逃げられる!
リストに視線を向ける。リストは指を3本立てて私とコヤに見せた。3秒後に投石、の合図だ。
予定よりも距離は遠いが、やるしかない。
3……2……1……今っ!!!
「せいっ!」
「ふんっ!」
「おりゃっ!」
私、リスト、コヤはほぼ同時にノーマルストーンをぶん投げた。
3つのストーンは一直線にメタスラめがけて飛んでいき、全て命中した。
「きゅるわああっ!?」
メタスラは奇襲に気付き、叫びながらものすごい勢いで逃走を始めた。
逃げたいという気持ちに占有されて焦ったのか、その進行方向は私が待ち構える位置とほぼ一致していた。
「あと一撃っ……!! 入れさせろおおっ!!」
私は全速力でメタスラに接近し、メタスラが跳ねたタイミングに合わせるように中段蹴りを放った。
メタスラは空中。不可避。
当たる、と思った刹那。
「きゅるおわあああっ!!」
メタスラは叫んだかと思うと、なんと空中で無理矢理方向転換し、ぎりぎりで私の蹴りを回避した。
は!? 何その動き!? 物理法則ガン無視じゃん!
いや、ここはゲームの世界だから物理法則うんぬんを言うのは野暮かもしれないけど、その回避はさすがに反則だって!
「待ってよメタスラ!! あと一撃!! あと一撃だけ入れさせてよっ!!」
「きゅわあああっ!!!」
私の叫びなど通じるはずもなく、メタスラは脱兎の如く逃げ去っていく。
くそ、経験値を逃した……! と思ったその時。
「待たんかいごらあああああああ!!!!!!」
コヤのドスの効いた叫びがフィールドに轟いたと思った、その瞬間。
ひゅん、と何かが風を切って飛んでいき、逃げるメタスラの目の前に突き刺さった。
突き刺さっているのはコヤの剣だ。
……え、コヤの剣!?
MSOの世界で剣をぶん投げるとか、そんなこと出来るの!?
聞いたことないんだけど!?




