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剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる  作者: 五月雨前線


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第4話:ファイアフィスト

「……リスト……」


「ぐるおおおおおおおおおお!!!!!!」


 その時シルバータイガーがけたたましい咆哮をあげた。びりびり、と空気が震える。


 頬を、平手打ちされた。いつも温厚で優しいリストに。


 思えばこんなことをされるのは初めてだ。あのリストがそこまでするほど、私たちは追い詰められている。


 リストはそこまでしてまで、私の奮起を促してるんだ。


 勝つために。2人でシルバータイガーを倒して生き残るために。


 リストが覚悟を決めているのに、私だけ怖気付いて、どうする。


 やるしかない。


「……分かった。リストが攻撃を受け止めて。その隙に私が、絶対にシルバータイガーを倒すから」


 私の言葉にリストが反応しようとしたその時、シルバータイガーがものすごい勢いで突っ込んできた。

 私とリストは咄嗟に回避行動をとり、なんとか突進を回避する。

 

 くそっ、データリセット前と比べて私の動きが遅い!


 私は態勢を立て直しながら歯軋りをした。

 回避行動の素早さや移動速度は、ステータスの内の素早さに依存する。

 今はレベル2で圧倒的にステータスが低いため、以前のようにぎりぎりまで攻撃を引きつけて素早く回避、からの反撃、といった機敏な動きは実現出来そうにない。


「アラーテ! 僕が攻撃を受け止めて時間を稼ぐから、アラーテはその隙にさっきのレベルアップで獲得したスキルポイントをスキルに割り振ってくれ! スキル攻撃をフル活用しないと絶対に勝てない! 頼む!」


 リストは槍と盾を構え、声を張り上げた。


 本当に大丈夫なの、本当に攻撃を受け止められるの、という言葉をぐっと飲み込み、私は「了解!」と叫んだ。


 今はリストを信じるしかない。私はダッシュでシルバータイガーの側面へ回り込んだ。

 MSOの世界のバトルにおいて、モンスターにダメージを与える方法は4種類ある。


 ①通常攻撃:読んで字の如く、武器でダメージを与える攻撃。全てのジョブのプレイヤーは通常攻撃を放てる。


 ②魔法攻撃:MPを消費して魔法を繰り出し、ダメージを与える攻撃。魔法攻撃を放てるのは、基本的に【魔法】に分類される5つのジョブのどれかを授かったプレイヤーのみ(例外あり)。有限なMPを消費するため、出しどころを見定める必要がある。


 さっき私が放ったサンダーウェーブは魔法攻撃!


 ③スキル攻撃:SPを消費し、スキルに応じた技を繰り出す攻撃。スキルアタックを繰り出せるのは、基本的に【剣】に分類される5つのジョブのどれかを授かったプレイヤーのみ(例外あり)。有限なSPを消費するため、出しどころを見定める必要がある。


 さっきリストが放ったサンダースラッシュはスキル攻撃!


 ④アイテムによる攻撃。ダメージ付与や状態異常の付与、行動の束縛など、使用するアイテムによってダメージや効果は変わる。


 今から私が放とうとしているスキル攻撃は、各スキルにスキルポイントを割り振り、技を開眼させない限り使用出来ない。

 私は走りながら素早くウィンドウを操作し、スキルポイントを割り振る画面を表示させた。


「こっちへ来い! 僕が相手だ!」


 リストは叫び、槍と巨大な盾を突き合わせてがちゃがちゃと音を立てた。

 案の定、音に釣られてシルバータイガーはリストに狙いを定めたようだ。所詮Cランクモンスター、知能は低く設定されている。


 「急がなきゃ……あ、これか! 今の私のスキルは……『火拳』?」


 見慣れぬスキル名に意識が向いたその時、がきいいいん、という鈍い音が響き渡った。


「ぐっ……!!」


 リストは巨大な盾でなんとかシルバータイガーの攻撃を受け止めていた。ガード性能が高いのは、重戦士というジョブ故の特徴なのだろう。


 一方のシルバータイガーは次々に猛攻を仕掛け、リストを後ろに追いやっている。

 力の差は歴然。リストの頭上のHPバーが少しずつ、少しずつ減少している。


 急がなきゃ。私はウィンドウを操作し、2スキルポイントを『火拳』のスキルに割り振った。


 でれれーん、という音に続き、


【ファイアフィストLV1 を習得しました】


 というメッセージがウィンドウに表示された。


「ぐるおああああああああ!!!!!」


 シルバータイガーの咆哮が轟き、空気が揺れた。リストへの攻撃はより一層激しさを増している。


 今のリストはなんとか攻撃を受け止めている状況だ。いつ押し切られてもおかしくない。

 そしてリストは、私がシルバータイガーを倒してくれることを信じて、必死に耐えてるんだ。


 リストが頑張っている今、私が頑張らないでどうする!


「ふっ……!」


 私は短く息を吐き、全速力でシルバータイガーに駆け寄った。


 会得したファイアフィストなる技の説明は全く見ていない。

 見なくてもいい、と私は思った。どうせ武器を持っていない今の私には、殴る蹴るくらいしか出来ないからね!


「ぐるおああああああああ!!!」


「うりゃああああああああ!!!」


 シルバータイガーの咆哮、そしてリストの叫びが交差する中に、私は思い切り飛び込んだ。


 短く、鋭く、深く息を吸い込む。


 骨折しそうなほど強く右の拳を握り締め、振りかぶる。


 恐怖心はどこかへ消え去った。今の私の中にあるのは、闘争心、そしてリストを守りたいという本能だけ。


 いけ! 突っ込め! ぶん殴れ!


 戦え!


『ファイアフィスト!!!!!』


 絶叫し、私は渾身の右ストレートを繰り出した。


 刹那、拳は赤く輝く紅蓮の炎を纏い、シルバータイガーの胴にクリーンヒットした。どっ、という鈍く低い音が響く。


 私が放った渾身のスキル攻撃をまともに喰らったシルバータイガーは、「がああっ!?!?」という叫び声とともに後方に吹っ飛ばされた。


 いっ……てええええええ!!!!!


 私は拳に伝わる痛みに思わず顔を歪めた。

 先程リーフスライムをぶん殴った時は痛みを感じなかったが、今は痛い。めちゃくちゃ痛い。


 もう……たしかに殴る方も殴られる方も痛いけどさぁ!

 MSOの世界でそこまでリアルに再現する必要ないんじゃないかなぁ!


「アラーテ!」


 リストが私の元に駆け寄ってきた。


「リスト!」


「大丈夫!? ダメージはない!?」


「う、うん。大丈夫」


「よかった……」


 リストはほっと息を吐いた。

 そんなリストを見て私は一瞬気が緩みかけたが、すぐに首を振って緩みかけた気を元に戻す。


 まだバトルは終わってない。

 先程、私はリーフスライムでさえ一撃で倒せなかったのだ。

 いくらスキル攻撃を放ったとはいえ、今の私はレベル2。ステータスが極めて低い故に、倒しきれているわけがない。


「ぐるおおお……」


 案の定、シルバータイガーは起き上がり、私たちをじっと睨みつける。

 起き上がったシルバータイガーを見て、私は大きく息を呑んだ。


 やけど状態だ。

 今のシルバータイガーには、小さい炎のようなオブジェクトが無数に纏わりついている。


「リスト!」


「うん、間違いない! やけどだ! きっとアラーテのスキル攻撃がやけどを引き起こしたんだ! すごいよアラーテ!」


 リストは上擦った声でそう言ってくれた。

 すごい、と大好きな人に言われたことで、ますます私のテンションが上がった。


「よっしゃ、こい!」


 声高に叫び、私はファイティングポーズをとった。


 MSOの世界においては、状態異常という概念が存在する。やけどやまひ、毒や凶乱などが状態異常だ。


 目の前のシルバータイガーが負ったやけどは、継続的にダメージが入り、さらにモンスターの攻撃力とすばやさが落ちるという強力な状態異常だ。


 あれ……私が授かった11拳、もしかして強いんじゃない!?


「ぐるおあああああああああっ!!!」


 攻撃を喰らった恨みか、シルバータイガーは私に狙いを定めて突進してきた。

 やけど状態の効果で先ほどよりも動きが遅い。私はぎりぎりまで突進を引きつけ、なんとか回避した。


「喰らえっ!!」


 リストの叫び声、次いで、ごん、という音。


 シルバータイガーは煩わしそうにリストに視線を向けた。地面に石ころが転がっている。

 リストが石ころを投げたんだ、と私はすぐに理解した。

 

 アイテムによる攻撃は、ダメージを稼ぐというよりも副次的な効果に期待する意味合いの方が強い。

 今リストが投げた石ころは、設置した爆弾を起動したり、命中したモンスターの注意を引いて狙いを自分に向ける効果がある。



「ぐるおあああああああああっ!!!」


 案の定シルバータイガーは狙いを私からリストに変更し、突進する。

 戦いの最中のほんの一瞬、リストは私に目配せをした。

 その意味を私は一瞬で理解した。


 僕がまた攻撃を受け止めるから、もう一度ファイアフィストをぶちかませ、でしょ!


 了解!


 私は猛然とシルバータイガーに駆け寄った。

 リストが盾で攻撃を受け止めたその瞬間、私は瞬時に距離を詰め、再び拳を振りかぶった。


『ファイアフィスト!!!!!』


 炎をまとった拳が再び胴にクリーンヒットした。

 シルバータイガーは苦しげな悲鳴をあげ、ごろごろと地面を転がった。


 しかし、まだ消滅してない。


 くそっ! 


 何で! 何でまだ倒せない!


 いくら私がレベル2とはいえ、スキル攻撃を2回もぶちこんだのに! やけどで継続ダメージも与えているはずなのに!


 MSOのバトルにおいて、モンスターのHPゲージは表示されない。

 故にプレイヤーは経験則やデータ、バトルの流れを元にモンスターの残りHPを推測するしかないのだ。


 私の感覚ではとっくに倒しきってるのに! 早く倒れてよ! ムカつく!


「アラーテ! シルバータイガーは確実に消耗しているはずだ! 一気に畳み掛ける! ここで必ず倒すんだ!」


 血が昇りかけた私の頭を、リストの叫びが瞬時に冷静にさせた。


「分かった! いこう!」


 私は叫び返し、ダッシュでシルバータイガーとの距離を詰める。

 疲労を色濃く感じたが、無理矢理意識の外に追いやった。


 先程とは異なり、今度はリストも猛然とシルバータイガーに駆け寄った。今が勝機、と踏んだということか。


 私とリスト、2人に迫られてシルバータイガーは明らかに混乱しているように見える。

 結局シルバータイガーは私に狙いを定め、鋭い爪を振り回してきた。私は大きく横にジャンプして回避する。


「はっ!!!」


 気合い一閃、リストは思い切り槍を突いて攻撃した。

 タンクの役割を担うことが多い重戦士だが、攻撃が出来ないわけでは決してない。


 リストの突きが命中した瞬間、どどん、というこれまでと違う音が響き、シルバータイガーが苦しげに呻いた。


 一定確率で起きる、クリティカルヒットだ。


 チャンス! クリティカルヒットでシルバータイガーの体勢が崩れてる!

 正直もうめっちゃしんどいけど、踏ん張れ!

 ここで倒しきるしかない!


「ファイアフィ……って、え!?」


【SPが不足しています】


 目の前に現れた表示を見て私は驚きの声をあげた。


 くそっ! ここでSP切れかよ!


 いや、諦めるな! スキル攻撃を放てないなら通常攻撃を放て!


 倒せ! 今ここで、必ず倒すんだ!


「さっさとくたばれおらあああああああああっ!!!」


 怒りに満ちた叫び声を上げながら、私は渾身の回し蹴りを放った。


 蹴りが命中する。

 鈍い音。足が痛い。


「ぐおお…………」


 刹那、シルバータイガーは苦しげな声を漏らし、倒れ込み、瞬時に消滅した。


【シルバータイガー×1 を撃破 

 EXPとGがパーティーメンバー:リスト と均等に分配されます

 EXP:230 G:304 を獲得 

 アイテムドロップ:ワープクリスタル×1】


 ウィンドウを操作してリザルトを確認した私は、全身から力が抜けていくのを感じながら、倒れた。


「アラーテ!!」


 私が地面に激突することはなかった。リストが私を優しく支えてくれた。


「しっかりして!! 街にワープして逃げよう!!」


 極限まで集中し、力を振り絞って戦った私には、声を返す力も、態勢を立て直す力も残ってなかった。


 薄れゆく意識の中、最後に聞こえたのは、近くの街の名前を叫んでワープクリスタルを発動させたリストの声だった……。

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