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剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる  作者: 五月雨前線


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3/8

第3話:死

 ぼふっ、という鈍い音。


 私の右の拳がリーフスライムの柔らかな感触を感じたその瞬間、「きゅるわあっ!!!」という叫び声とともにリーフスライムは後方に吹っ飛んでいった。


 手応え的に、ダメージを与えたことは明白だった。

 やった、剣と魔法のMSOの世界で、正拳突きでモンスターを倒せた……という私の喜びは、起き上がるリーフスライムを見て一瞬で吹き飛んだ。


 一撃で倒せていない!? 最弱のリーフスライムを!? 嘘でしょ!?


 そこで私は、先程リストがレベル1になっていたことを思い出した。

 まだ自分のウィンドウを開いてステータスを確認していないが、恐らく私もレベル1になったと考えるべきだろう。そうか、だから一撃で倒せなかったんだ。


「きゅるうう……」


 リーフスライムは柔らかな体を小刻みに震わせている。突進が来る合図だ。私が迎撃の体勢をとったその瞬間、案の定リーフスライムはジャンプした後に突っ込んできた。


 最弱故に動きは単調。リーフスライムの突進はとっくに見切ってる。


「りゃあああああっっ!!!」


 私は叫び声とともに全力の後ろ回し蹴りを放った。蹴りはクリーンヒットし、鈍い音がした後にリーフスライムはその場に落下し、消滅した。


「……かはっ……! はあ……はあ……」


 リーフスライム撃破を確認した私は、その場に膝をついて息を吐いた。息が乱れている。緊張の糸が解け、全身でどっと疲労を感じる。


 その時、でれでれーん、という馴染みのあるBGMが聞こえた。

 レベルアップを知らせるBGMだ。


「アラーテ!」


 リストの声が聞こえた。視線を向ける。がちゃがちゃ、という音ともにリストは私に駆け寄って膝をつき、私の肩にそっと左手を置いた。


「アラーテ、大丈夫!? ダメージは負ってない!?」


「う、うん、大丈夫……」


 乱れた呼吸のまま私は言葉を返す。


「よかった……本当にありがとう、僕を助けてくれて。本当は僕がアラーテを守らなきゃいけないのに、逆に守られちゃった。……ごめん」


 リストは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。「え、そんな、謝らないでよ」と私は言葉を返す。少しずつ呼吸が整ってきた。


「今までお互いに助け合ってきたじゃん。それをさっきやっただけだよ」


「そっか……ありがとう、そう言ってくれて。アラーテは本当に優しいね。アラーテのそういうところ、好きだよ」


「……そんな、私は別に……」


 好き、がそういう好きじゃないとは分かっているものの、リストにはっきり言われるとついつい照れくさくなってしまう。

 込み上げてくる恥ずかしさを振り払うように私は首を振り、立ち上がった。よし、乱れていた息はすっかり元に戻っている。


「あ、そうだ、ステータス……」


 私は今のステータスを確認するべく、左手の人差し指を振ってウィンドウを開いた。


【LVアップ! LV1→LV2


 LV2/1000

 HP:105(+5)

 MP:0  (+0)

 SP:25 (+5) 


 物理攻撃力:15(+5)

 魔法攻撃力:11(+1)

 物理防御力:12(+2)

 魔法防御力:12(+2)

 素早さ  :13(+4)

 筋力   :15(+5)

 運    :11(+1)

 知力   :12(+2)


 スキルポイント2 を獲得しました

 スキルポイントを割り振りますか?

 はい/いいえ 】


「うわあ……」


 自分のステータスを確認し、私はがくっと肩を落とした。


 弱い。あまりにも弱い。


 ついさっきまで私のレベルは124だった。それが今ではレベル2になってる。データリセットが事実だということが分かり、私は深く溜め息をついた。


「アラーテ、大丈夫?」


「あ、うん、ちょっとショック受けちゃって……本当にデータがリセットされたんだなって」


「そうだよね……」


 リストは苦々しい表情を浮かべている。


 くそ……今までリストと一緒に何回モンスターと戦ってきたと思ってるの! さっきの謎の男め、経験値を返せ!


「レベルアップした? 僕はさっきレベルアップしたんだけど」


「うん、したよ」


「ちょっとウィンドウを見せてもらってもいい?」


 私は頷きを返した。リストは私のウィンドウを覗き込み、「なるほど……」と呟いた。


「他のステータスと比べて、物理攻撃力と筋力、素早さの伸びが良いね。やっぱりアラーテのジョブ、11拳は、格闘戦でモンスターを倒すことに長けたジョブなのかも。恐らく、通常攻撃やスキル攻撃で戦いを組み立てる、【剣】に分類されるジョブと同じ立ち回りになるんじゃないかな」


「うーん……」


 MSOの世界においては、全てのジョブが同じようにステータスが伸びる、というわけではなく、ジョブによってステータスの伸びが異なる。

 例えば勇者は物理攻撃力や筋力の伸びが良く、反対に魔法使いは魔法攻撃力や知力の伸びがいいことで知られている。


「まだ混乱してるよ。リストを守れたのは嬉しいけど、正直意味が分からない。だって、今まではずっと魔法でモンスターを倒してきたんだもん。正拳突きと後ろ回し蹴りでモンスターを倒せるなんて思ってなかった」


「それでも瞬時に倒せたんだから、やっぱりアラーテはすごいよ。何でそんなに……ああ、思い出した。たしかアラーテは、カラテとアイキドーのブラックベルトだったよね。どうりで動きが素早いわけだ」


「まあね……それよりも、これからどうすればいいと思う?」


 バトルの余韻が冷め、冷静になったところで私はリストに問いかけた。


「うーん……」


 リストは腕を組み、思考を巡らせている。今や重戦士になったリストが纏う防具は、勇者だった時と比べてなんだかゴツくて見慣れない。

 もっとも、重戦士はタンクの役割を担うことが非常に多いから、防具がゴツいのは当然と言えるけど。


「正直まだ状況は飲み込めていない。さっきの謎の男の話だって信じたくない。でも、ログアウト出来ないこと、僕とアラーテのデータがリセットされていてジョブが変わっていることから考えると、取り敢えず男の話は事実だと仮定して行動した方がいいのかもしれない」


「じゃあ、HPがゼロになったら、死んじゃうってのも本当ってこと……?」


「……分からないけど、事実だと仮定するならそういうことになるね」


 背筋に冷たいものを感じ、私は思わず右手で口を押さえた。


「おーい!!」


 その時見知らぬ声が聞こえ、私とリストは同時に声のする方へ視線を向けた。防具を身に纏った1人のプレイヤーが私たちの元へ駆け寄ってくるのが見える。

 あの防具の見た目からして、恐らく戦士のジョブを授かった男性プレイヤーだろう。


「はあ……はあ……よかった、やっと他のプレイヤーが見つかった……俺、もう訳が分からなくて……」


 男性は私たちの目の前で足を止めてそう言った。身長はリストより10センチ以上高く、やや面長の顔立ちは非常に整っている。

 もっとも、キャラクタークリエイトが可能なこの世界において、顔立ちが整っていないプレイヤーを探す方が難しいけどね。


「……はじめまして、僕はリスト。重戦士のジョブを授かった者です。そしてこちらはアラーテ。治療士のジョブを先程授かりました」


 え、私は治療士じゃないよ、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。恐らくリストは、謎のジョブである11拳の存在を秘匿することに決めたのだろう。


「丁寧に自己紹介ありがとう。俺はカマイだ。ついさっきまで魔導士だったのに、急に黒いウィンドウが現れて変な男が喋り出したと思ったら、経験値も何もかも全てリセットされていて、ジョブも戦士に変わってた。もう訳が分からん」


 男性、ではなくカマイは困ったような表情を浮かべた。


「僕たちと同じ状況だったわけですね。他にもプレイヤーを見かけましたか?」


「いや、ずっと1人で、ようやくアンタ達を見つけたんだよ……そ、そうだ! パーティー! 俺とパーティーを組まないか! HPがゼロになったら死ぬってさっき謎の男が言ってたよな! 俺は絶対に死にたくないんだ! 頼むよ!」


「あ、いや、それは……」


 リストは言葉を濁し、困ったような表情を浮かべた。当然の反応といえる。


 MSOの世界では、最大4人のプレイヤーでパーティーを組むことが出来る。

 4人でパーティーを組んだ場合、モンスターとバトルをする時は4人でバトルに臨めるわけで、リスクの分散や攻撃力の増加が見込めるため、一見するとパーティーを組むことにメリットしかないように見える。


 しかし、実際にはデメリットもある。パーティーを組むとお互いの位置情報やステータス、アイテムの所持状況やスキルツリーの構成が丸わかりになってしまうのだ。

 悪意を持ったプレイヤーがわざと他のプレイヤーとパーティーを組み、筒抜けの情報を活用して悪事を働く例をこれまで何百件と聞いたことがある。


 故にパーティーを組む際は、プレイヤーの性格や態度、プレイスタイルやステータスなどをしっかり見定めることが定跡となっている。

 しかし、目の前のカマイは初対面にも関わらずいきなりパーティーを組もうと言い出した。はっきり言って非常識!


「な、何だよその目は!」


 私とリストのそっけない態度が気に入らなかったのか、カマイは声を張り上げた。


「パーティーを組む際はしっかりプレイヤーを見定める必要があることは承知のはずです。申し訳ありませんが、いきなり貴方とパーティーを組むことは出来ません」


 リストは冷静な口調で言った。そういう言いにくいところをさらっと言えるあたり、リストは本当にすごいんだよなぁ。


「いやいやいや! それはそうだけどさ! 今は非常事態だろ! 取り敢えずパーティーを組んで、お互いの生存確率を上げた方が絶対いいって!」


「ですからそれは……」


「危ないっっ!!!」


 殺気を感じ、私は叫んだ。それと同時に勢いよくリストを突き飛ばした。

 先程と比べて殺気が濃く、力強かった。リストを突き飛ばさないと危ない、と本能が叫んだ故の行動だった。


「ぐるあああああああっっ!!!」


「うわあああああああっっ!!!」


 モンスターの叫び声、そしてカマイの悲鳴が轟いた。慌てて私は上体を起こす。銀色の巨大な虎がカマイに猛攻を仕掛けているのが見えた。


 Cランクモンスター【シルバータイガー】だ。奇襲を仕掛けてきたのだろう。データリセットを喰らった直後のプレイヤーが戦っていいモンスターではない。


「やめろおおおっ!! やめろおおおおおおおっ!!!!!」


 カマイは叫びながらなんとか盾で攻撃を捌こうとしていたが、シルバータイガーの攻撃の威力が高すぎて捌ききれていない。

 カマイの頭上に表示されているHPのバーがぐんぐん減少し、あっという間にレッドゾーンに突入した。あと少しでHPが尽きる合図だ。


「やめてっっ!!!!!」


 私が立ち上がり、絶叫したその瞬間。シルバータイガーの鋭利な爪がカマイの胴を切り裂いた。頭上のHPのバーが瞬時に消え失せる。


 カマイは全てを悟ったのか、私たちに憎悪の視線を向け、「お前たちのせいだ!!」と叫んだ。


「お前たちがすぐにパーティーを組んでくれなかったから! ふざけるな! ふざ」


 ぱしゅん、という淡い音とともに、カマイは消滅した。


 ……嫌だ。


 そんな、嘘だ。


 こんなのひどい。ひどすぎる。


 私は、カマイがMSOの世界で死に、さらに現実世界においても死んだことを悟った。散り際のカマイの表情がその事実を雄弁に物語っていた。


 驚愕、混乱、悲しみ。様々な感情がまるで洪水のように押し寄せてくる。

 リストに激しく肩を揺さぶられ、「アラーテ、しっかりして!」と叫ばれてなければ私の精神はすぐに崩壊していたかもしれない。


「リスト……」


「気を確かに持つんだ! 僕がタンクになって攻撃を受け止める! その隙にアラーテはシルバータイガーを倒してくれ!」


「そんな、経験値がリセットされた直後にシルバータイガーを倒すなんて……」


 無理、と言いかけたその瞬間。ぱちん、と乾いた音が響いた。痛みを感じるとともに、リストに頬を平手打ちされたのだと気付く。


「ふざけるな! ここでおとなしく殺されるつもりか! 僕は死にたくない! 大切なアラーテにも死んでほしくない! 今のステータスじゃシルバータイガーからは逃げられない! さっきアイテムボックスを見たけどワープアイテムは無かった! そして僕1人じゃシルバータイガーは倒せない! 一緒に戦って倒すしかないんだよっ!」


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