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第八話

タケルは、ベスとの対話の余韻をまだ胸の奥に残したまま、気がつけば自分が最初に召喚された石造りの部屋に立っていた。


どれほどの時間が経ったのだろう。

部屋に窓はなく、天井では相変わらず闇がゆっくりと渦を巻いている。

昼か夜かも判断できず、視界はただ、静かに沈んでいた。


その静けさを破ったのは、唐突な赤い光だった。


『ヤマトォォォ!!』


視界いっぱいに紅の炎が咲き、タケルは顔の前に張りついた火の玉を慌てて手で払う。


「うわっ……あつ……くない……?」


『当たり前でしょ。仲間に火傷させるわけないじゃない……って、何回言わせんのよ!

それよりさっ! アタイたち、Nランクだけであのルミナスに勝っちゃったのよ!!』


高揚した声は部屋の空気を一気に明るく染めた。


「みんなの頑張りが、ちゃんと――」


言い終わる前に、背中から衝撃が走った。


「タケル! やったね!! ワタシたち、勝っちゃったね!!」


勢いよく飛びついてきたミルラの体重に、タケルは前へつんのめりそうになりながら踏ん張る。

首に腕をまわしてじゃれついてくる温度が、そのまま嬉しさの形をしていた。


ミルラはタケルの肩口に顔をうずめたまま言う。


「それよりさ……フレアちゃん、また“おーばーこんばすしょん”使ったんでしょ? ミアちゃんが言ってたよ!」


「オーバー……コンバス……?」


フレアは球体の身体をくるりと回し、表情はわからないが、そっぽを向く仕草だけははっきりと伝わった。


『し、仕方ないじゃない! アタイ、守るの苦手なんだもんっ

それに……頑張って守っていれば皆んながなんとかしてくれるって思ってたんだ……』


タケルは背中のミルラを抱えたままフレアを見つめる。


「そのオーバー……なんとかって、そんなにすごいの?」


「すごいよ。だって……最後には“消えてなくなっちゃう”んだから」


ミルラの声は少し震えていた。


フレアは、そっと言葉を落とす。


『アタイの身体って、見た目以上に“炎のかたまり”なのよ。

それを全部、外に開放して……クリスタルの周りを火の海にしちゃうのよ。

そしたら、誰も近づいてこれないでしょ』


「……でも、長くは持たないじゃない。

ちっちゃくなって消えちゃうフレアちゃん、もう見たくないよ……」


『うぅ……わかってるけど……』


そっぽを向いたまま動かないフレア。

気丈に見せようとして、うまくいっていないのが痛いほど伝わってくる。


タケルはそっと歩み寄り、両腕でフレアを抱きしめた。


『!?』


「ありがとう、フレア。

きみがその時間を作ってくれたおかげで、僕は相手のクリスタルを壊すことができたんだ」


沈黙が落ちる。

それは、炎の揺らぎまで丸ごと包み込むような静かな沈黙だった。


『……アタイ褒められてる? 役に立てた??

アレ使うと怒られてばかりなんだけど、褒められてる……。




そうだよね……アタイ、がんばったよね。

………グスッ、グスッ』



「もうっ、タケル。ダメだよ。フレア泣かせたら消えちゃうでしょ!」


「ミルラもだよ」


「えっ!?」


「ミルラが僕を……前に進ませてくれたんだ。だから最後まで行けたんだよ」


「えへへ……ワタシ、すごい?」


「うん。ミルラも、ミアも、ノアも、フレアも。

みんな、本当にすごかったよ」


ふと周囲を見回す。


「あれ……そういえばミアとノアは?」


誰もいない石室に残るのは、タケルとミルラ、そしてフレアの赤い光だけ。

タケルの胸に、陣営戦の最初に見た幼い姉弟の姿が去来する。

あんな小さなふたりが最後まで果敢に立ち向かっていたのだと思うと、胸が熱くなる。


「あの二人ね……アンタ、勘違いしてると思うけど、私たちより年上よ」


その声に振り向くと、クロエが落ち着いた足取りで歩いてきていた。


「今ごろ、アナに甘いお菓子でももらって喜んでるんじゃないかしら。

……ちなみに、アンタが背負ってるミルラの方が、私たちより年下だから」


「え? うそ……?」


背が高く、戦場では頼もしく見えたミルラを勝手に年上だと思っていた。

けれど、自分の背中で小動物みたいにじゃれているこの温もりは、言われてみれば確かに――。


「そうだよ! だからね、このままおんぶしててもいいんだよ!」


「ダメよ。コイツだって疲れてるんだから降りなさい!」


「ワタシも疲れたもん!」


「ダメだって言ってるでしょ!」


背中で小さな押し問答が弾け、タケルは苦笑する。

その中で、ふと思いついた疑問をクロエに向けた。


「そういえばフレアが『よりによってルミナス』って言ってたけど、アビス陣営とルミナスって何か問題でもあるの?」


クロエはミルラを引き剥がそうとする手を止め、ミルラとフレアの方に少し視線を移す。二人も少し気まずそうな雰囲気を醸し出していた。


「あいつらって、純粋な人間種ってやつ?以外をあんまり認めてないのよね……。だからココみたいな色んな種が認めあって共存する事が認められないみたい」


「なるほどね、そういうことか……」


クリスタルを守っていた女性も、クロエが言っていた特徴に当てはまる。地球でも、ここでもそういう価値観の違いがあるものなんだな……少し寂しい気持ちになった。



場の空気を変えようと、石室の中を見渡した後でこれもまた気になっていた事をタケルは聞いてみることにした。


「この部屋にいたら陣営戦の様子ってわかんないよね。ただ待ってるだけっていうのも大変だったでしよ?」


クロエは部屋の隅に立つモノリスへ視線を移す。


「まぁ……見たり聞いたりはできない代わりに、あそこにメンバーの名前だけが並んで、リタイアした人から消えていくのよ」


「そうなんだ……それなら、心配かけたよね」


クロエの目が丸くなる。


「べ、別に心配なんてしてないんですけど!!」


そっぽを向いたその先で、フレアが縮こまった。


「……あ……」『……あ……』


「フレア。オバコン使ったんでしょ。ミアに聞いたわよっ。何回言えば――!」


火の玉が逃げ、クロエが追う。

その様子を眺めながら、タケルはぽつりと漏らす。


「……本当に、みんな違うタイプなのに……仲がいいんだね」


背中でミルラの腕にぎゅっと力がこもった。

彼女の声が耳の近くで響く。


「タケルも、もう仲間だよ」


思いがけない言葉にタケルは目を丸くし、じわりと頬が熱くなる。


そして、ゆっくり笑った。


「……ありがとう」


その笑みは、静かな石室の空気に柔らかく溶けていった。

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