第二話
「アナ、彼って私達のようにここに呼ばれるときになんの説明を受けてないみたいなのよ。
何かのトラブルかもしれないから、モノリスで確認できる?」
クロエが闇に包まれた一つ目――召喚主、アビス領の領主アナスタシアに声をかけた。
アナスタシアはその金色の瞳を瞬かせる。
『わ、わかりました。すぐにモノリスで確認してみますね』
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「ふ~ん……それで、スマホのゲームをしてる最中にこっちに飛ばされたってことなのね」
「うん。一瞬の出来事だったから、誰かにあったり説明をされたりとか無かったと……。」
「ま、アナに調べてもらったらすぐ分かるでしょ」
低く唸るような音とともに、空間が震えた。
アナスタシアの前に漆黒の石板が出現し、表面を金の光が走る。
そのまま光が文字へと変わり、次々とリストが浮かび上がる。
彼女は瞳を覆う闇から伸びたまつ毛の影を落としながら、視線だけでそれを操作していった。
横からその様子を見ていた少年が、思わず口にする。
「凄い……見ただけで動かせるんだ……」
『ひゃ……!? あ、ありがとうございます?』
「……アンタ、こんな状況でよくそんなこと呑気なこと言えるわね」
クロエが呆れたように肩をすくめた。
「で、コイツのレアリティは? せめてSR以上であってほしいけど……」
モノリスに視線を滑らせていたアナスタシアが、ある一点でぴたりと止まった。
金色の瞳が、少し揺れる。
『モノリスのメンバーリストで確認したところ変わった所はありませんでしたね……。
それから、彼のレアリティは……』
息を呑む一同。
拾い上げたスマホの動作を確認している少年。
『……えっとですね、その……なんといいますか……』
「アナスタシア様、もったいぶらず早く教えてほしいゲコ」
「そうだよ!ワタシも早く知りたいっ!!」
「カエルの人とウサ耳の人もどっかから召喚されたの?」
「アンタはちょっと黙ってて!それでレアリティは?」
なかなか結果を口にしないアナスタシアの態度に、しびれを切らしたカエル面の学者とウサ耳の女性もモノリスの近くに寄ってきた。
スマホの様子を確認していた少年も、今はその二人に混じってモノリスのそばに居るが、クロエに叱責されて「ほんっとイメージと違いすぎるだろう…」とぼやいている。
『……えっと、その……N、になりますね』
「はぁ!?ノーマルなの??」
「嘘だゲコ!」
「ワタシと同じだぁ!」
「まぁ、妥当だよね……」
一人と一匹がそんなはずは無いと憤る中、ウサ耳の女性が少年の手を取ってピョンピョン飛び跳ねているが、申し訳無さそうに当の本人は頭を垂れていた。
「虹色演出だったゲコ!高レア確定だったはずゲコよ!」
「そうよ!神に確認したほうがいいわよアナ!」
『えぇぇ……今回はタダで召喚させてもらえただけでも有り難いのに、そんな事をお伺いするのはちょっと憚れるというかなんと言うか……』
(僕って無料ガチャで排出されたのか……)
そんな空気の中、少年が小さく手を上げる。
「あの、たぶん僕の世界のガチャだと、そういう演出でも外れることあるんです。
……自分が外れだったのは、ちょっと申し訳――」
『そんなことはありません!』
大きな瞳が、真っ直ぐに彼を見た。
闇の縁に大粒の涙が溜まり、揺らめく。
『私の傍にいてくれる方に自分の事を、“外れ”なんて言ってほしくないです……』
「ご、ごめんアナ!そうよね……アビス陣営にそういうの関係ないものね」
「むぅ…少しこだわりすぎたゲコね。」
「そうだよ!皆仲良くがココののイイトコロなんだから」
少年はそんな一同の様子を呆気にとられた様子で見ていたが、此処に来る直前の自分の事を思い返して苦笑いした。
そして何処までもついて回る自分の価値の無さを思い心が静かに落ちていくのだった。
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「そっか…2人ともここに来る前は苦労してたんだ」
場の空気が少し和らぎ、ラズロが静かに笑う。
「吾輩の国では知識を求めることが禁忌だったゲコ。ここでは自由に学べて幸せゲコよ」
「ワタシもだよ!」とミルラが続ける。
「女の癖に狩りに出たりするのはダメって言われてて毎日つまんなかったんだ……。でもアナ様はダメって言わないから好きだし、クロエの歌も好きだよ!」
何故か二人の言葉に違和感を感じたが明確に言葉にできるようなものではなく、一旦その思いをしまいこむ。
少年はクロエの方をちらりと見た。
顔を赤らめた彼女は、そっぽを向いて言う。
「べ、別に今はもう好きに歌ってるからいいじゃない!」
「何も言ってないけど……」
「……それはそうとアンタ、元の世界に戻りたいとか思わないの?
私達と違って、イレギュラーな召喚かもしれないわけだし……」
少年は少し悩んだ風な態度を見せたが、直ぐにスッキリした表情になる。
「うーん……あっちには、あんまり良い思い出もないんだ。ここでやってく方が楽しそうだよ」
「軽いわね……。でもSRの私と違ってNランクだから苦労するかもね」
「SR様に養ってもらうから大丈夫」
「うわっ……ヒモ希望とか最低!」
「なになに?ヒモってあの紐の事??」
「吾輩も気になるゲコ。教えてほしいゲコよ」
笑い声が広がったとき、モノリスから光が弾けた。
『皆さん、緊急の陣営戦があるみたいです!』
「え?こないだあったばかりじゃない。だいたい次は一週間後くらいでしよ、開催されるの早くない??」
『今回はサプライズ的な開催のようです。しかも……Nランク限定の陣営戦です』
「おかしいゲコ。彼が来た途端とは、偶然にしてはできすぎゲコね」
カエル面の学者"ラズロ"が訝しげにするが、対照的にウサ耳の女性"ミルラ"はピョンピョン飛び跳ねて興奮していた。
「5人揃ったから出られるね!ね、アナ様!」
『……でも、この世界に来たばかりの方にいきなりの陣営戦は――』
どうやらその"陣営戦"とやらに少年も頭数として入っている様子。
少年はミルラの嬉しそうな姿を見ると、何のことか分からないが断るのをためらった。それが元の世界では空っぽだとしても必要とされているなら。
「僕なら大丈夫ですよ。ミルラ…さん、あとで簡単に説明してくれますか?」
「ミルラでいいよー!頑張ろうね!!」
『ありがとうございます……アビス陣営、初のNランク陣営戦――登録します!』
光が再び走り、モノリスの文字が変わる。
その光に照らされる少年の表情は、不安よりも、少しだけ期待に満ちていた。




