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第十話

アナスタシアが視線でモノリスを操作をすると、モノリスの面に揺れる光が生まれ、

やがてどこかの部屋の風景が鮮やかに映し出された。


白を基調とした壁。金装飾の縁取り。

整えられた調度品はどれも手入れが行き届き、静かな気品を湛えている。

その中心に、白と金の儀礼服を纏う若い女性が一人、まっすぐに立っていた。


「お久しぶりね、アナスタシア。」


『う、うん……久しぶりだね。セラ。』


涼やかな気配を帯びる “セラ” の瞳は、

モノリスの向こうを越え、こちら側にいる者たちまで見通すようだった。


「陣営戦の勝利、おめでとう。今回は私たちの完敗ですわ。」


『皆が力を合わせた結果だから……』


謙遜でも飾りでもない。

アナスタシアの声音は、戦果を仲間へ返すように自然と沈んでいた。


──ルナミス聖王国。


秩序を重んじ、神に寄り添う清廉な国。

"一時期に比べ"土地は豊かで、祈りは厚く、その安定がさらなる加護を呼ぶ。

呼び出される存在も幅広く、『神官』『騎士』から、

『天使』『聖騎士』『巫女』など、神の息を濃く帯びた者たちまで多岐に及ぶ。


けれど、その“秩序”の裏には、

異質を拒む純粋ゆえの厳しさがあった。

ゆえに『アビス領』の掲げる“理解と受容による秩序”は相容れず、

むしろ『イグニス帝国』の強者至上主義の方がまだ話が通りやすいほどだ。


そんな中で──

セラだけは、アナスタシアを個として嫌ってはいなかった。


その証拠は、さりげなく揺れる一つの装飾にあった。


『セラ……まだ、それ付けてくれてたんだね。』


「ええ。大切なもの、ですから。」


左耳に触れた指先が、青い小さな宝石を撫でる。

その仕草は、かつて共有した何かを静かに思い返しているようだった。


「今日は個人として、あなたに賛辞を送りたかっただけよ。

ただ……ルミナスとしても、そう何度も負けるつもりはありませんけれど。」


『うん。アビスだって、負けないよ。』


穏やかな笑みのまま、セラの視線がタケルへと流れる。


「あなたね。ベスから聞いた“例の方”は。」


そして、少しだけ姿勢を正すと──彼女は深く頭を下げた。


『え、セラちゃん!?』


アナスタシアが素で驚き、昔の呼び方がこぼれる。

セラが誰かに頭を下げる姿など、彼女は一度も見たことがなかった。


「秩序を重んじるルミナスにあるまじき侮蔑があったと聞きました。

……申し訳ありませんでした。」


「あ、いえ……。

きっと、それだけ勝利が欲しかったんだと思います。

でも……僕たちにも守らなきゃいけない信念がありますから。負けられなかったんです。」


タケルは、ただ仲間の想いに応えた。

それだけの話だった。


「……ベスがね。敗戦後なのに、次の機会を強く望んできていたの。

理由が気になっていたけれど……今ので理解しましたわ。」


クロエが “どういう意味よ!?” と目で抗議してくるが、

タケルはセラの蒼い瞳から目を背ける余裕すらなく、ただ固まっている。


「それじゃあ、次の陣営戦で。アナ。」


『うん。お互いに……尽力しようね。セラ。』


モノリスの光が静かに薄れ、部屋が再び石室の明るさに戻る。

タケルはその場に、ふっと力が抜けたように座り込んだ。


「……なんか、すごく疲れた。」


「ちょっと!どういうことなのよ!?」


クロエの詰問に、しばらく言葉も出なかったタケルは

ようやく口を開く。


「……クリスタルを守ってた神官に、色々……罵られたんだ。

まぁ、それだけだよ。」


その言い方に、クロエは何かを感じ取ったのだろう。

それ以上追及しなかった。


アナスタシアも同じだった。

ただ静かに話題を切り替える。


『陣営戦のアビス陣営の獲得恩沢は……500ですね。

それと “キウィタス・デイ” での購入時に恩恵があります。』


「“キウィタス・デイ”??」


『アタイたちが買い物に行く町よ。神が統治する街の名前なの。』


「キウィタスの恩恵はありがたいわね。

……でも恩沢500じゃ、召喚には届かないか。」


「え……そうなの?」


アナスタシアが画面を切り替えると、

タケルは思わず息を呑んだ。


『高レアリティ排出率アップ!!地球ガチャ 一回 3000恩沢』


「……え?

じゃあクロエや他の人たちって……こうやって呼び出されたの?」


「さぁ……中には本当に行方不明になってただけの人もいるでしょうけど。

私は確かにこのガチャで召喚されたわ。」


タケルは言葉なく画面を見つめるだけだった。


──初めて胸の奥で、現実が重みを増した。


本人たちは、自分の意思でここにいると言う。

タケル自身もその一人だ。


ラズロとミルラからここに来る前の話を聞いた時の違和感、それは呼び出す側に都合の良すぎる条件。

誰も元の世界に未練がない。


陣営戦に勝つための戦力として……。



けれど──

残された世界は?


家族は?

友人は?

心配している人は?


誘拐、失踪。拉致。

当人達はその世界に絶望していたとしても……

ニュースが流れ、誰かが泣いているかもしれない。

クロエの母親のように。




その想像が胸を締めつけ、

言葉は喉の奥で動かなくなった。


誰も気づかないまま解散となり、

静まり返った石室で、タケルの案内役を任されたアナスタシアと二人きりになる。


闇を宿した金の瞳が、そっとタケルを射抜いた。


『……わたしに、聞きたいことがあるのでしょう?』


タケルは、その目を真正面から受け止めることができなかった。

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