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さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜  作者: 夜空千咲
第1章 始まり〜文化祭編
5/30

5 私って誰?

 定期テスト最終日の昼。

 全科目のテストが終了した教室は、あちこちで悲鳴と歓声が入り混じっていた。


「……あーあ、終わった……完全に終わった……」

 机に突っ伏してうなだれているのは野木駿介。

 

「あんた、毎回のテストでそれ言ってる」

 新宮あまねが腕を組んでため息をついた。

「バスケの練習ばっかりしてるからよ。少しは勉強もしなさいって言ったでしょ?」

「だってさ、夜になると眠くなるんだもん」

「子供か!」


 そんな二人のやりとりに、周囲から笑いが起きる。

 

「はぁ、全くもう。さくらはどうだった?テスト」


あまねがさくらに声を掛けた。

さくらはう〜んと悩むような声を出し、「確率がマイナスになったけど大丈夫かな?」と言って笑いを誘う。


その隣で佐藤晴大がくすりと笑ったので、あまねとさくらがそちらを見た。

すると晴大は気まずそうに口をつぐむ。


「佐藤君はテストどうだった?」


尋ねるさくらの声に、晴大は少し考えてから答えた。

「……まぁ、できたと思う」

「おぉ〜!だってお前頭良いもんな!すんげえ!」

後ろからひょこっと顔を出して野木が言った。

「確かに佐藤君は賢いけど、それは勉強してるからだからね!あんたもちゃんと勉強しろ!」


あまねがビシッとツッコミを入れると、野木が肩をすくめた。その光景を見て、さくらはくすりと笑う。

「うちのクラス、バランスいいね。運動は野木くん、頭脳は佐藤くん、まとめ役は委員長」

「で、芸能は菊田さくら!」

 野木が冗談めかして言うと、教室に小さな笑いが広がった。

 その輪の中に自分の名前が混じるのが、さくらには少しくすぐったかった。


◆◆◆


 午後のホームルーム。

 黒板の前に立った新宮あまねが、手帳を片手に声を張る。


「それじゃあ、今年の文化祭の出し物を決めましょう!」


 数人が手を挙げ、意見が飛び交う。

「去年は喫茶店だったし、今年は違うのがいいよな」

「バンドやるってのは?」

「いや、機材が足りないよ」

 そんな中で、一人の男子が何気なく言った。

「演劇とかどう? さくらちゃんもいるし」


 一瞬で教室の空気が変わった。

 「それいいじゃん!」「本物の女優が主演とか、すごくね?」

 賛同の声があちこちから上がる。


「え、えっと……」

 戸惑うさくらに、視線が集まる。

 笑顔を浮かべるしかない。

「楽しそう、だね……」


「じゃあ決まりだな!」

 男子たちが勝手に盛り上がっていく。

 その様子を見て、新宮あまねが机を軽く叩いた。

「ちょっと待って。本人の意見を聞いてからにしましょう」


 静まる教室。

 あまねが柔らかく笑いながら、さくらに目を向けた。

「どう? やってみたい?」


 ——本当は、迷っていた。

 学校では普通の生徒でいたい。女優だからと、特別扱いはされたくなかった。けれど、みんなが期待してくれる。

 断れば空気が壊れてしまう。


 さくらは小さく息を吸って、笑顔を作った。

「うん……いいよ。やってみたい」


「やったー!」

 教室中が一気に沸いた。

 その中で、佐藤晴大だけが静かに彼女を見つめていた。

 拍手や歓声が響く中、彼の表情は動かない。


 ——彼は気づいていた。

 その笑顔の奥に、ほんの少しの無理が混じっていることを。


 交わることのない視線。

 それでも、晴大の胸の奥に小さな違和感が灯っていた。


◆◆◆


 帰り道、夕焼けが滲んでいた。

 さくらはカバンを抱えながら、静かに思う。


(私……また“菊田さくら”になっちゃった)


 教室での笑い声と拍手が、まだ耳の奥に残っている。

 誰も悪気があるわけじゃない。

 それでも、あの瞬間だけは——。


 自分が「ただのクラスメイト」でいられないことを、痛いほど感じていた。


〜小ネタ〜

あまねが菊田さくらを「さくら」呼びしてますね。

あまねは基本的に友達認定した時点から、下の名前で呼びます。ただし、男子は別です。ちょっと下の名前は気まずいという感覚があるんですかね。


〜4人の頭の良さについて〜

佐藤晴大→圧倒的トップ。常に定期テストは一位。そして模試でも全国1桁〜2桁の秀才。

新宮あまね→真面目にコツコツ勉強するタイプなので、成績優秀。定期テストや模試でも安定して校内5位以内をキープ。

菊田さくら→なぜこの学校に転入できたのか謎。知識問題は苦手だが、勘で解くと意外と当たるタイプ。

野木駿介→なぜこの学校に合格できたのか謎。授業中もよく寝てる。進級できるか、あまねに心配されている。

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