30 文化祭本番、いくぞーー!!!
――幕が、静かに上がった。
次の瞬間、体育館全体がすっと暗くなる。
ざわめきが止み、空気が一段階深く沈む。
一筋のスポットライトが、ゆっくりと舞台の一点を照らした。
そこには、古びた灰色の服を着た少女――さくらが、床に膝を抱えて座り込んでいた。
うつむき、息を潜めているはずなのに、その存在感は圧倒的だった。
光に照らされた瞬間、少女の輪郭だけが柔らかく浮かび上がり、その“輝き”に客席から小さな息を呑む音がいくつも漏れた。
(……よし)
舞台袖で、小さくガッツポーズをするあまねたち。
序盤の山場を、完璧に乗り切れた。
順調に舞台は進んでいき、いよいよあまねの登場シーンが来た。
リハーサルで何度もつまずいた、あの問題のシーン。
「あら……ちょっと、ここにまだ埃が残ってるじゃない」
あまねの綺麗な通る声が体育館に響く。
「す、すみません……!い、今すぐ掃除します……」
シンデレラ役のさくらが慌てて駆け寄ってくる。
そして――その瞬間。
さくらが近づいたタイミングを逃さず、あまねは足で蹴りつける“仕草”をした。
実際には触れていない。けれど、練習を重ねた二人のタイミングは完璧だ。
さくらはあまねを見たまま、自然な動作で後ろへ倒れ込む。
「お義姉さま……!」
その声に客席がわずかにざわめいた。
(よし、決まった!)
あまねはさくらを見下ろし、つんと顎を上げた。
「倒れてる暇があるなら、もっとちゃんと掃除しなさい?」
そう言ってくるりと方向転換し、堂々とした足取りで舞台袖へと下がる。
袖に入った瞬間、あまねはそっと息を吐いた。
そこへ野木が近づいてきて――
ニッと笑って親指を立てた。
あまねも、ふっと小さく笑い返す。
こうして舞台は順調に進んでいった。
そして、いよいよ物語の核となる魔法の場面。
魔法使い役の男子が杖を掲げ、声を張り上げる。
「ビビデバビデブー!」
セリフと同時に、照明が一瞬で真っ暗になった。
――三秒。
その短い闇の中で、さくらは着ていた服を一瞬で裏返す。
息を呑むほどの緊迫した暗転作業。
そして。
眩しいライトが舞台を照らす。
さくらは、
淡い水色のドレスを纏って立っていた。
客席から自然に拍手が起きる。
継ぎ目のない動作、魔法のような変身――驚きと感動が体育館に広がる。
次の場面転換。暗転。
わずか、十五秒。
その間に大道具係はカボチャの馬車を素早く舞台の中央へ押し込み、
体育館上部の通路に待機していた背景係が、一気に背景布を降ろし、固定する。
手際の良さは見事というほかない。
再び照明がつくと――
舞台には、彫刻のように美しい、白と青の城が現れた。
もちろん背景画だ。
だが、体育館後方から見たその完成度は、本物と見紛うほど。
「すご……」
「めちゃくちゃ綺麗……!」
客席から、抑えきれない声とともに大きな拍手が湧き起こった。
背景担当の晴大たちは、上の通路で互いに小さく頷きあう。
成功を噛みしめる小さな笑顔。
舞踏会、十二時の鐘、ガラスの靴。
全ての名シーンを乗り越え、舞台はついにラストへ。
王子とシンデレラが結ばれ、そのまま暗転。
――そして。
音楽と共に全体照明がつくと、2年2組の生徒たちが次々に舞台へ現れた。
あまねが先頭に立ち、中央へ歩み出る。
まっすぐに客席を見つめ、両脇の仲間と手を繋ぐ。
「あまね、いくよ!」
「うん!」
そして――
「ありがとうございました!!」
あまねの声が体育館に響き、続いて全員が揃って声を張り上げる。
「ありがとうございました!!」
深く、一礼。
客席からは大きな拍手が降り注いだ。
これにて第一章終わりです!
読んでくださった皆様、ありがとうございました!!
続きの第二章の投稿は、作者の諸事情でいつになるか未定です。申し訳ありません。内容は、佐藤晴大の勇気・菊田さくらの過去を中心に書きます。
第一章が終わったということで、少しだけ語ります。
まず、「さくらキャンバス!」の主人公は菊田さくらですが、途中から新宮あまねが主人公になってました。ですが、どうしても文化祭編では「普通の人」が頑張るシーンを書きたかったんです!!
そして根本的な話になりますが、物語の最初の掴みが弱いですよね。もっと最後まで読みたいと思えるような構成にすべきだったと反省。この物語を完結させて、次の物語を作るときは今回の反省も踏まえて書きたいと思います。
最後に、一度でも「さくらキャンバス!〜君と見つけた春の光〜」を読んでくださった方々に感謝申し上げます。
ありがとうございました!!




