29 本番、行くぞ!!
――とうとう、待ちに待った文化祭本番である。
2年2組の演劇は、三日間ある文化祭の初日。
そして、その日のプログラムの一番最初――まさにトップバッターだった。
時刻は朝の8時50分。
朝のホームルームも終わり、続々と観客が入場していた。体育館の空気はすでに熱を帯びている。
舞台袖には、2年2組の生徒たちがほぼ全員集まっていた。
キャストは落ち着かない様子で衣装の裾を触り、台詞を口の中で噛みしめている。
大道具係はせっせと木枠や布を搬入し、セットの最終調整を行っていた。
音響、照明、進行係も、それぞれの担当の機器を真剣な目で確認する。
緊張――そして、それに勝る「やってやる」という気概。
そんな空気が、舞台袖全体に満ちていた。
あまねは幕の隙間から、そっと体育館の中を覗いた。
最前列には一年生。
その後ろには二年生、三年生、そして保護者の姿。
ざわざわとした声は、これから始まる舞台への期待をはっきりと伝えてくる。
(……やっと、ここまで来た)
胸の奥がじんっと熱くなる。
だが――まだ泣くには早い。
あまねはゆっくりと顔を上げ、舞台袖の上方に視線を向けた。
体育館の上部には細い通路があり、その柵に背景用の巨大な模造紙を括りつけている美術担当の姿が見える。
その中に、晴大がいた。
紐を結びながら、ふいにこちらを見下ろした晴大と目が合った。
あまねはニッと笑う。
晴大も、同じようにニッと笑い返した。
ただそれだけで、不思議と胸の奥が少し軽くなる。
「始まるね。そろそろ呼ばれるよ」
背後から声がして振り向くと、さくらが衣装の裾を整えながら近づいてきていた。
緊張よりもむしろ、舞台に立つことへの覚悟と楽しみが混ざった、柔らかい表情だ。
「あまねちゃん、大丈夫?」
そうやって、ただ“隣に立つ”ように声をかけてくる。
あまねは小さく「うん」と頷いた。
そのタイミングで、担任がマイクを片手に舞台袖へ顔を出した。
「2年2組、準備して。最初に紹介入れるから」
――いよいよだ。
あまねは大きく息を吸い込み、一瞬だけ目を閉じた。
ぎゅっと拳を握る。
そして突然、空気を裂くように叫んだ。
「――2年2組!!」
それは、鼓舞でも号令でもなく、
“ここにいる全員の気持ちを一つにするための声”だった。
誰も驚かない。
みんな、この瞬間を待っていたからだ。
あまねは右腕を大きく掲げる。
「行くぞーー!!」
「「「オーーーッ!!!」」」
舞台袖に響く力強い声。
体育館の空気が震える。
さぁ――2年2組の劇が始まる。




